現状
記憶がハッキリして、周囲の会話から分かったことはいくつかある。
この国の名前はサルビア王国。母様はこの国の正妃アナスタシア。私が第一子ということ。ただ、父親である国王には側妃が二人いて、それぞれに既に子がいること。
それでもって、この世界が――魔法と剣が存在する、王道な異世界ファンタジー的な世界ということ。
いや、本当にびっくりだよね。だって、メイドさんがライトって言ったら部屋に明かりが灯ったのだから。
母様に抱かれて城内を散歩したときも、剣を持った騎士がいたからなぁ。いつの時代!?ってなりました。にしても正妃の第一子か……。側妃の子とはいえ兄がいるらしいので、順当にいけばそちらが王位を継ぐだろうか。正直言って物語のような血みどろ王位継承はお断りしたいです。
なにせ異世界。生まれ変わってしまった以上、謳歌したいよね。
「アナ、アナスタシア。見てくれ、シャナがこっち見たぞ」
「ええ、そうですね。ジェイド様」
「ああ、かっわいいなぁ……アナとそっくりだ。ほーら、父様だぞー」
でっれでれした声に、現実逃避気味に情報を思い出していた意識を戻す。
穴が空くのでは無いかと言うくらい、じっくりこちらを見る美青年は、どうやら私の父親らしい。
金髪碧眼。それでもってイケメン。正統派王子みたいな容姿だ。王様だけど。ますます今世の私の将来に期待します。
まあ、その見るからに、イケメンな王様、私の目から見る限りかなり親馬鹿なんだけどね。
それにしても、これは今のうちからお父様お母様呼び慣れてないとマズいヤツだ。
「あぁ……ようやく我が子を見れたというのに、城を離れないといけないなんて……」
「あら。私と二人は不満かしら?」
「まさか。ただ、せっかくの我が子と一緒にいられる時間が長いに越したことは無いだろう?」
「えぇ、そうね。……ごめんなさいねシャナ。しばらく一緒にいられないの。世話係がいるから問題はないと思うけれど……」
生後数ヶ月の赤ちゃん放置でお仕事かぁ……。国王と王妃だと考えたらそれも仕方ないんだろうな。父親の姿なんてまともに拝む姿少なかったのに……。
「マリアが怪しい動きをしていると聞いた……あまり離れたくはないんだが」
「マリア様が?」
マリア、と名前を聞いてなんとなく思い浮かぶイメージは聖女のような人なのだけど、二人の様子からして良い人ではないのだろう。
「仕事に連れて行く方が危険だからね」
「大丈夫ですわ、マリア様とてこの国の側妃ではないですか」
「……そうだな」
ほうほう。マリアさんというのは側妃という立場と……。それってあれだよね。所詮愛人的な。
んんん……見るからにお父様、お母様のこと愛してるーって感じなんだけど、それでなんで愛人までいるかな……。この様子だと父様は良い感情を持ってなさそう……? 政治的問題で仕方なく、とか……? 子どもが荒んでなければ良いけど。
それにしても、仕事が危険とは。国王の仕事は守られての内政がイメージだったのだけど。聞いている限りは戦争中といった様子でも無いし。
もっと話を聞いていたいが、眠くなってきた。
赤ん坊になってからというもの、すぐ寝てしまう。ああ、せっかく今世の両親が来ているのに。すごく、ねむ、い……。