ダリアの花
「綺麗……」
赤白黄色、色とりどりのバラが咲き誇る庭園に、素直な感想を漏らせば後ろを付き従うメイサが顔を綻ばす。
「お嬢様に褒めていただけるとは、きっと庭師も喜びますわ」
「あ、あれは部屋に飾っているバラ?」
「はい、花は小さいですが、香りは一番良いと評判ですので」
「私も良い香りだと思う」
屋敷の庭園で散策なんて優雅な午後を過ごしているのは、メイサに天気の良いのだから昼寝だけではなく庭園の散策もどうかと誘われたからだ。
確かに最近ギルドに顔を出しすぎていて、昼寝の言い訳が多くなっていた自覚はあったので、二つ返事で了承して外に出てきた。
蒼月が出掛けている以上、下手に依頼を受けていなかったから予定が空いていて助かった。
メイサに心配をかけるわけにも行かないし、屋敷の中にも協力者が欲しいところだ。
「あちらには新しく花を植えたのだそうですよ。是非見てやってください」
「本当?」
これだけ広大な庭園、前世だと植物館並の場所なのに見れる人間が限られているのが勿体ない。
自分で歩けないくらい幼いときはメイサが抱き上げて良く連れてきてくれたが、自分で動けるようになってからというもの、足が遠のいていたことを少し反省。
「おや、お嬢様」
「こんにちは。メイサに新しい花があるって聞いて来たの。見せてもらうだけだから、そのままで良いよ」
手入れ中だったらしい。慌てて立ち上がろうとする庭師のおじいさんを制して、足を進めた。
こういうとき、自分が令嬢なのだと改めて実感する。慣れたつもりなのにまだ違和感だ。
「それはそれは、植えたかいがあったというものですな。お嬢様が気に入っていただければいいのですが」
「綺麗な花はどれも好きよ」
基本植物はどれも綺麗なものだろうし、何が植えられていても目の保養になるだろう。
「一体どんな花――――」
問いかけて、視界に入ったそれに言葉を止める。
大きな花だ。数多くの花びらは一枚一枚が活き活きとしていて、何処か威厳すら感じられる。
「――ダリア」
奇しくも、私の名として使われている大輪の花。
見事なそれに、言葉を奪われる。
「おや、ご存じでしたか」
「うん」
手を拭きながらやってきた庭師に頷く。
「きれい」
鮮やかなオレンジ色の花びらで日の光を浴び、堂々と咲き誇る大輪は、美しい。
「お気に召しましたか」
「とても」
「この花は手入れに少々気を遣うのです」
「気を遣うって、どうやるの?」
「大きな一輪の花を育てるならば、剪定……一つだけがしっかり育つようにして、花の重みで倒れないように支柱で支えてやります」
「支柱で……」
確かに、よく見れば茎に沿うように棒が立っているのが見える。
支えられて、大きく咲く花。……なるほど、名付けられたダリアの名前は思っていた以上に私の境遇に沿ったもののようだ。
蒼月や兄様たちの手を借りて、支えられて、今があるのだから。
「……私、この花が一番好きだな」
「では、お部屋に一等良い出来の花を後でお持ちしますね」
「ううん、見たくなったらまた来るから、このままでいいの」
メイサの申し出に、大きな花にそっと触れて首を振る。
「綺麗な花を植えてくれてありがとう」
「こちらこそ、これ以上のないお言葉をありがとうございます」




