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サルビア王記  作者: 柚ノ木 静加
17/21

Sランク冒険者



「うわ、凄い熱気だ」


 冒険者ギルドの鍛錬場。初めて足を踏み入れたそこは、闘技場のような作りをしていた。

 すり鉢状の観客席に、中央に広い空間。

 その中央にいるのは赤髪の剣士と赤褐色の髪色をした大剣使い。片方はシンさんだ。

 となればその向かいの赤髪の剣士が受付で行ってたアズさんというSランク冒険者だろう。

 赤髪に翡翠のように綺麗な瞳。それに、整った容姿。これはさぞ女性ファンが多いだろうと観客席を見てみたら、案の定女性冒険者の割合が多い。

 顔が良くて腕が立つ冒険者なんて、実在したんだ、とちょっとした感動を覚える。

 歳の頃は若く、二十程度だろうか。なんて観察していれば、声を上げてシンさんが彼に斬りかかっていく。

 シャリン、と金属の触れ合う音がして、大剣は細身の剣一本で容易く軌道を逸らされた。


「おお」


 思わず声が漏れる。

 重いはずの大剣を軽々振るうシンさんの攻撃は、あと一歩のところで彼に触れることなく避けられた。

 だが、それ以上に凄いのは。


「――一歩も動いてない」

「気づいた? ダリアくん」

「うわっ、エインさん」


 気づかなかった気配に慌てて振り向けば、笑みを浮かべたエインさんがこちらを見ていた。


「いや、ダリアくんが来たの見えてね」


 ほら、と指さされた先に、他のメンバーが揃っていた。こちらに気づいたように手を振ってくれるセシリアさんたちに手を振り返して、鍛錬場に視線を戻す。


「あの人がアズさんですか?」

「ああ。うちを拠点に活動するSランク冒険者だ。ちなみにアズさんはもう両手で数えるのもばからしいくらいやり合ってるんだ。ほら、周辺の死屍累々がそれ」

「それは、すごいですね」


 死屍累々と評されたのは、鍛錬場の端っこで文字通り倒れ伏している冒険者だ。ざっと二十人は超えるだろう。


「そろそろシンも負けるだろ」

「うぉっ!?」


 言葉通りにシンさんが宙を舞う。

 見えたのは、細身の剣が大剣に絡んだ一瞬。剣を絡んで巻き上げた。単純だが、あのシンさんごと吹き飛ばすとはどれほどの腕力か。


「ダリアくんもやってくれば?」

「いや、僕は別に」


 あれほどの腕前の人間に勝てると思っていないし、見学だけで充分だ、と辞退しようとしたところで、ダリア! と大声が聞こえる。


「お前も巻き添えだ! 吹っ飛ばされろ!」


 吹っ飛んだ体を起こしつつ、大声でこちらに声をかけてくるシンさんに、視線がこちらに集まる。


「この状態で逃げるなんて、出来ないだろうなぁ」

「……見学のつもりだったのに」


 関係ないと逃げ出しても良いが、この大勢に見られた状態で逃げ出すのは後々何かしらの影響が出そうだ。

 というか、既に負けた連中が、巻き込みたいと言わんばかりにギラギラ視線を送ってくる。ついでに冒険者のお姉様方はまだ戦いが見たいのか、そっちはそっちで圧が強い。自分が戦えば良いのにと思わなくもないが、それはそれなのだろう。

 蒼月の結界は悪意のあるものにしか対応しないようにしてもらったし、鍛錬で悪意はないだろうから、結界魔法が発動することもないか。


「仕方ない」


 蒼月以外の人と戦うのも良い訓練になるだろう。切り替えて鍛錬場の中央へと足を向ける。


「頑張って」

「まあ、ほどほどにやめてきます」


 歩きながら集中して、パキパキと手元で音が鳴る。彼等の元に辿り着くまでには、蒼月のより強度はないだろうけど、しっかりした氷の刀が出来上がった。


「魔法使いが剣で戦うのか?」

「魔法剣士というやつじゃないか? 珍しい」

「まだガキじゃないか」


 ざわめく周囲の声を聞きつつ、ようやく下りるとシンさんがやってくる。


「よ、負けっぷり見とくぜ!」

「僕今日見学のつもりだったのに」

「わりいわりい、でも良い経験になるからよ!」


 全く悪いと思っていないシンさんにため息を吐いて、向かいに立つ青年に向き直る。


「ダリアだ。よろしく」

「……アズだ。新入りか?」

「俺らが保証人になって最近冒険者入りしたんすよ。実力は保障するぜ!」

「お前らがか……」


 緑の瞳が眇められる。その視線を居心地悪く思いながらも、氷の刀剣を構える。


「まあいい、来い」

「では」


 言われるがまま踏み込んで一撃。逸らすまでも無く受け止められて、チッと舌を打つ。わかってはいたけど力では敵わない。

 なら……ッ!

速さを武器に打ち込むが、何度打っても決定打にはならない。一歩、せめて一歩動かしたいけれど……!


「すげえ、見たかあの速さ」

「アズさん相手に、あれほど長い時間打つのかよ……」

「あの人興味無くなったらすぐ投げ飛ばすのに」


 外野のざわめきは聞こえない。

 ここまで来たら意地だ。蒼月に鍛えられておいて、一撃もなにも出来ないのはちょっと、腹が立つ。

 フェイントを入れて滑り抜ける。はっと反応したアズさんより、速く――――


「ッ」


 視界に違和感。サングラスが飛ばされたのだと理解して、跳ね上がった帽子を押さえて距離を取る。

 帽子、に髪は入ったまま。よし、セーフ。深く被れば顔は見えないだろう。せめてサングラスを回収したい、と思ったところで、アズさんがこちらを見ているのが見えた。


「――――なぜ」


 何処か呆然とした様子で、緑の瞳が丸くなっている。

 顔を見られたのだろうか。

 でも、見られたところでただの冒険者が私の顔を知るはずもない。普段は色替えの魔法も使っている。

 シャリーナ・ベルセリウスを知る人間はこの場にいないはずだ。バレるはずはない。

 今の隙に……!


「ふっ」


 身体強化を足に集中させ飛び込む。


「なっ」


 さっきまで身体強化を使ってなかったのは、使わずにどれだけ出来るか知りたかったのと――こうして、油断させるため!

 驚いたようなアズさんの表情に、してやったりと思いながら刀を振るおうとして――


「っつ……!」


 右手が痺れる。視界が回り、腹に重力を感じる。

 刀を弾き飛ばされ放り投げられたのだと気づいたのは、氷の刀が地面で砕け散ってからだ。

 ぱちり、と目を瞬かせて状況を把握する。どうやら投げられたと同時に一回転して抱えられたらしい。

 腹に回された腕一本で支えられているせいで、お腹への圧が強いが、それでも加減されたのか痛みはさほど感じない。


「あ、りがとうございます……?」

「筋は良い。……ダリアとか言ったな。姓は」

「ただのダリアですけど……」


 降ろしてもらいつつ、どことなく圧の強いアズさんに思わず敬語になりながら応える。


「出身は? 親は誰だ?」

「……冒険者の過去を聞くのはマナー違反では?」

「チッ……そうだったな」


 盛大に舌打ちしたぞこの人。

 そっと距離を取り、サングラスを回収して素早くかける。これがないとこの恰好ではちょっと落ち着かない。


「手合わせ、ありがとうございました」


 一撃も入れられなかったのは残念だが、さすがSランクというところ。

 とはいえ意図のわからない質問ばかりされて少々怖い。早々に撤収しよう。


「やるじゃねえかダリア!」

「どーも。結局吹っ飛ばされたけど。っていうか僕見学の予定だったのに」

「はっはっは! そいつぁ悪ぃ!」


 全く悪いと思って無い様子のシンさんに背を叩かれて蹈鞴を踏む。


「それよりダリア、お前この辺きたばかりだろ? 暇なら街の案内してやるよ!」

「あ、それは嬉しいかも」

「だろ? おーい! ダリア連れて買い出し行こうぜ!」


 大声でセシリアさんたちに手を振るシンさんに、セシリアさん達もこちらに近寄ってくる。


「あらあら、ダリアくん連れて買い物は嬉しいけど、怪我はない? 大丈夫?」

「派手に吹っ飛ばされただけで、アズさんがキャッチしてくれたから大丈夫」

「怪我がないなら重畳だ。彼を相手に良く戦ったな」

「初手で投げ飛ばされるかと思ったのに」


 心配してくれるセシリアさんと健闘を称えてくれるキィさんはともかく、エインさんが何気にひどい。


「まあ、結局投げ飛ばされたのは確かだけど」

「巻き込んだ詫びに美味いモン奢ってやるよ」

「シンの美味い物って肉系でしょう? ダリアくんは甘い物の方が良いかしら?」

「美味しければなんでも大歓迎」


 普段が普段なので、屋台系か民衆食堂が恋しいところ。さすがに屋敷で出るご飯を食欲無い、とかで抜けばメイサたちが心配しそうなのでちょっとしか食べられないだろうけど。


「食い倒れ行こうぜ!」


 いやだからちょっとしか食べれない……あ、アイテムボックスに入れておけばいつでも食べれるか。よし、そうしよう。


「ご馳走様です、シンさん!」

「めちゃくちゃ食う気だな?」

「僕領都名物の串焼き食べたいなー」

「俺ビックボアの串焼きがいいなー」

「エイン、お前は自分で払えよ!」


 便乗するエインさんに笑いながら、狼の牙とその場を後にする。

 緑の瞳がジッと見ていたことに、気づかないまま。



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