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サルビア王記  作者: 柚ノ木 静加
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新人冒険者



「あら、ダリアくん。今日はどうしたのかしら?」

「ミレイさん、こんにちは」


 ダリア、と名前を呼ばれて視線を向ければ、ミレイさんがカウンター越しにこちらに手を振っていた。

 二度目に訪れた冒険者ギルドは相変わらず人の出入りが多く、少しばかり居心地の悪かったこちらとしてはありがたく彼女へ近寄る。


「今日は依頼を受けに来たのかしら?」

「そんなところですかね。といっても、今日は下見程度です」


 何せ今は蒼月が近くにいない。

 王都の現状を探るため出て行った蒼月は、屋敷に結界を何重にも張って、私やユリウスおじ様にも結界を張っていってくれた。

 ちょっとやそっとの事では傷つけられないだろうが、さすがに一人で依頼を受ける勇気はまだなかった。


「ちなみに、冒険者登録したあとのセオリーってあります?」

「そうねえ、新人向けにギルドが推奨してるのは、薬草採取や迷い猫捜索とかかしら。でも、ダリアくんのランク向けではないわね」

「ああ、あまり新人向けの依頼を取るわけにもいかないですからね」


 あくまで子どものお使い程度の内容は、本当の新人――やむを得ない事情があって冒険者登録した幼い子ども向けのものなのだろう。

 肉体年齢としては同じところだが、蒼月仕込みの戦闘力がある自分がそういう依頼を取るのはマズいだろうと頷けば、パッとミレイさんの顔が輝く。


「そうなの! こちらのこと、わかってくれて助かるわ」

「ははは」

「適正通りに依頼を受けてもらいたいのに、自分の力を過信した冒険者がもっと上の依頼を、とか、逆に力量はあるのに簡単だからと低ランクの依頼を荒らしたり、困ることも多いの」


 もう、と思い出したのか憤慨するミレイさんに、苦笑を零す。どうやら相当苦労しているらしい。


「正直臨時収入があったので今はお金に困ってなくて。本当にどんな依頼があるかの確認だったんですよね」

「ほーう。なら良いところに来たな、お前」

「あら、マスター!」

「ギルマス?」


 聞こえた声に振り返れば、なぜか泥と汗に塗れたロレンツさんが笑みを浮かべていた。

 うん、汗臭い。


「ちょっと、ギルドマスター! その汗で近寄らないでください。せめて誰か魔法使いにクリーン使って貰ってから入ってください」

「おいおい、ひでぇな」

「ミレイさんの気持ちはわかりますけどね……ほら」


 す、と指を動かして清潔魔法を使えば、泥と汗が僅かな光を纏って消える。


「お。お前クリーンも使えるのか! 助かった! ありがとな!」

「一人旅でしたから必要に駆られて覚えました」

「ああ、ありがとうございますダリアくん。ソロの方は覚えている方も多いですが、ギルドマスターは覚える気ゼロでしたので。職員の使えるものが強制的にかけてるんです」

「お役に立てたのなら良かったです」


 つい口をついた嘘だったけど、そういうパターンは多いらしい。

 怪しまれないようなら良かった。


「それで、ちょうど良いって僕になにか?」

「ああ、今うちのSランク冒険者が帰ってきてよ。たまには新人稽古付けろってギルドの鍛錬場に押し込んでんだ。俺も久しぶりに良い運動させてもらったし、こんな機会は早々ねえぜ?」

「Sランク……」

「アズさん帰ってきてるんですか!?」


 ミレイさんが声を上げる。どうやら有名な人らしい。


「ああ、さっきな。シンたちもさっき向かってたぜ? 見るだけでも勉強になる。行ってくれば良い」

「なるほど。ミレイさん、鍛錬場はどこに?」

「ギルドの裏手です。そこの扉から行けますよ」

「わかりました。ありがとうございます、行ってきます」


 他人の戦闘を見ることはそうない。鍛錬も蒼月相手ばかりだし、見ておくのは良い機会か。

 令嬢からしてみれば戦闘経験なんて程遠いんだろうけど、私は先がどうなるかわからないしなぁ。手に職ならぬ物理的に生きる術は積極的に身につけておきたいところだ。



   *   *   *



ミレイ視点


「逸材ですね」

「そうだな」


 足取り軽く出ていった少年は、帽子と色眼鏡で顔こそ隠している物の、体格や輪郭から幼さは隠せない。

 まだ十にも満たないだろう子どもがフォレストウルフを複数相手取ったと報告を受けたときは驚いたものだ。

 だが、信頼の厚い狼の牙の証言とギルドの上客であるケイム商会の会頭の証言となればそれが事実だと疑う必要は無い。

 とはいえ実際来た少年が本当に少年だったことに、表情にこそ出さなかったが動揺したのは確かだ。

 しかも先ほどの清潔魔法。

 冒険者としてはパーティーに一人は使い手が必要なほど必須な魔法。生活魔法に括られるそれは使えるものは多い。けれど、彼は。


「媒体無しの無詠唱か」

「生活魔法と言えど、早々いませんね。しかも、あの年齢で」


 生活魔法として幅広く使えるのは確かで、ソロの冒険者が使うことも多い。けれど、それは冒険者になって、先輩に教えてもらって、杖と詠唱を使いようやくといったものだ。

 冒険者になる前から、使える彼は、一体……。


「と。冒険者に詮索は無用ですね。ギルドマスター、アズさんが帰ってきているのは本当ですか?」

「ああ。アイツなら、あの子をどう評価するもんか」


 数少ないSランク冒険者のアズさんは、高ランクの依頼を受けるために領都に留まる期間は短い。

 楽しそうに笑うギルドマスターの思惑はさておき、彼がどう評価されるのか気になるのも事実。

 とはいえまだ幼い子どもに、あまり無茶はして欲しくないというのも本心だ。


「ダリアくん、何事もなければ良いんだけど」


 新人冒険者の彼の無事を、そっと祈った。




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