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サルビア王記  作者: 柚ノ木 静加
12/21

領都に向けて


「それにしても、あのパーティー……『暁』だったか? どっからどこまで企んでたのかねぇ……」


 ぽつりと呟かれたエインさんの言葉に、シンさん達の表情が厳しくなる。ウォードさんも、どこか苦々しそうな顔つきだ。


「それは、どういう……?」

「いや、さっき君に回復薬を貰ってハッキリしたんだけど、多分食事に遅効性の痺れ薬かなにか飲まされてたな、と」

「え」


 ぐ、ぱ、と手を握るエインさんの、あっけらかんとした言葉に思わず声が漏れる。


「まあ、そうでも考えんと、老いぼれとはいえわしが後ろから魔法直撃など、まずありえんからのう」

「ウォードさんとこの見習い坊主も、真っ先にアイテムボックスとか、高価なものが入った馬車に陣取ってたし、共犯ですかね」

「計画的犯行、というやつですか……。アイツは見習いとして失格でしたが、さらに罪人の称号が増えるやもしれませんね。……やれやれ、地方の見習い養成担当にも目を養って貰わなければ」


 キィさんとシンさんの言葉に、呆れた様子のウォードさんが息を吐く。


「まあまあ、街へ着けば一網打尽に出来ますし、お仕置きはそれからですね」


 おっとりと笑みを浮かべて声をかけたセシリアさんが一番怖い。お仕置き、と言いながらメイス握り直しましたよこの人。


「……一先ず、どうしますか? 野営するにせよ、移動するにせよ、この場は相応しくありませんが」

「ああ、そうだな。こうなってしまった以上、アイツらを捕縛するためにも早急に領都に向かう方が良いのだが……」

「そうですね。万が一を想定して逃げ出さないとも限りませんし、馬にも回復薬を与えて治療……といきたいのですが、どなたか回復薬はお持ちですか?」


 そういえば馬の足もやられたんだったか。


「ああ、まだ持ってますのでどうぞ」

「ありがとうございます、ダリアくん」


 回復薬を取り出して差し出せば、ウォードさんが受け取って馬へと与えにいった。


『蒼月、話は聞こえている?』

『無論だ、主』


 声に出さず、直接頭に響く声に息を吐く。

 ここ数年で最も進歩したのがこのテレパシーの距離だ。触れていなければ使えなかったそれは、多少離れていても問題なく使えるようになった。


『先行して逃げた人たちの様子を見てきてくれる?』

『だが、主の護衛が』


 嫌そうな蒼月の声に、周りに気づかれないよう苦笑を零す。そういえば、用意してくれた回復薬も大量だった。意外に彼は過保護というか、心配性というか。


『近場にこれ以上魔獣が居ないのは索敵でわかっているよ。ここにいる人も悪い人たちでは無さそうだしね』

『――了承した。捕らえれば良いか?』

『いや、一先ずは監視だけで良いよ。もし、人に危害を加えそうであれば捕らえて』

『御意』


 索敵から蒼月の気配が遠ざかっていくことを確認して、改めて意識を別の方に向ける。

 こちらに向かう前、使おうとした能力だ。

 ――ユニークスキル、検索

 ぶぉん、と目の前に表示されるのは、半透明のボードだ。とはいっても、自分以外にみることは出来ないもの。

 ――検索、ここから領都正門までの道のり、及び到着時間。使用、馬車。

 思考と同時に、目の前のボードに映し出されるのはここから領都までの地図と到着予想時間だ。

 うん、まあ、ぶっちゃけ前世で見ていた検索機能からのマップ機能ってところだ。

 どういう原理かは知らないが、たとえば回復薬:作り方、なんて思考をすればボードに必要材料と手順が出てくるような、非戦闘能力スキルとはいえ、使い方次第でとてつもない効力を発揮するチートスキル。それが検索だ。

 よし、これなら三十分ほどで領都につく。深夜の二時頃。抜け出したのがバレることはないだろう。


「はぁー……すっげぇなこれ。氷魔法は久々に見る」

「見事に洗練されておるのぉ」

「面白い形状をしているね」


 検索スキルを解除して見れば、冒険者の男性陣が地面にしゃがみ込んで何かを見ていた。

 何を、と覗き込んで、あ、と声を漏らす。その中心にあったのが無造作に突き立てた蒼月印の氷の刀だったが故に。


「おう、ダリアこれすっげぇな」

「魔法適性があるようじゃのう」

「文献で読んだだけだけど、極東の剣だろう、この形状」

「あー……まあ、魔法は嗜む程度に少々。というか、修行中ってところですが」


 うん、嘘ではない。蒼月と契約している影響で、彼が得意とする風と水、それから氷の魔法適正に加えて、回復と補助系、生活魔法もそれなりに使える。と言っても、他の人と比べたことないから蒼月の基準からいってそれなりなんだけど。

 氷の刀も蒼月に作って貰ったのは、まだまだ未熟であの一瞬で綺麗に生成する自信が無かったからだ。

 今なら時間をかければ作れるので、嘘はない。蒼月の魔力が抜けるまで氷が溶けることはないけれど、彼がどれだけ魔力を込めたのかわからないので、早々にアイテムボックスへ投げ入れる。


「フォレストウルフ五体を瞬殺する剣術に、これほど切れ味の鋭い氷魔法……それに稀少なアイテムボックスはスキルだな? はぁー……どんだけ規格外なんだお前」

「道理でなにも持たずにこの森にいたのねぇ。あ、でも舐められるから、武器ぐらいはちゃんと持っていた方がいいわよ」

「腕の良い鍛冶師が領都にいる。良ければ紹介しよう」

「ふむ。魔法の本でおすすめを見繕ってやろうかのう」


口々に声をかけてくれる彼等の助言や提案は魅力的だ。

っていうか、蒼月基準にしかなってなかったけど、やっぱり今の私規格外なんだ……。生きる術を教えて欲しいとは言ったけど、蒼月の基準はちゃんと人間基準なのかが怪しいところだ。いや、こうして役に立っているから良いけれど。


「さて、皆さん馬車に乗ってください」

「あ、良ければ隣に乗っても? あまり乗る機会が無かったもので」

「ええ、もちろん。狼の牙の皆様も後ろへ。今は急ぎますから」


 ウォードさんのお言葉に甘えて御者をする彼の隣へと座る。


「……ご信頼いただけるのなら、積荷も一時預かりましょうか。その分馬が早く走れます」

「よろしいので?」

「はい」

「では、お願いします。あぁ、少々お待ちを」


 手を伸ばしたウォードさんが、ダリアの飾りを拾い上げる。


「よければ貰ってください」

「え?」

「これは個人的な私からの感謝と言うことで。あまり高級品ではありませんが、良い品なのは保障します」


 差し出されたダリアの銀細工は、宝石などが使われているわけでもない。銀も混ざり物があるのだろう。けれど、確かに良い品、丁寧な品だ。


「――ありがとう、ございます」

「そちらの品なのですが、領都の店で提示してくれたら私に通してもらうように話をしておきますので。何かあればお声かけください」

「……いいのですか。身元もなにもわかったものではないでしょう、僕は」

「我々を見捨てず助けてくれるような方が、悪人とは思いませんよ」


 からりと笑う彼にこちらも笑みを返して、アイテムボックスに積荷を収納する。それから、銀のブローチを胸元へ付けた。


「なぁなぁ、ダリアくんはどこ出身? どこにいくつもりだったんだ? っていうかこんな森で何をしてたんだ?」

「エインこら、聞きすぎだ」

「黙秘します、と言いたいところだけど……、僕も領都に向かってたんです。ただ、今日は寝付けなくて鍛錬をしていただけで。出自はまあ、ワケアリと思ってくだされば結構です」


 好奇心旺盛らしいエインさんに、ほどほどに答える。隠せば隠すほど聞かれそうだし。

 領都住みではあるが、“ダリア”として顔を知られていない以上、今から行くのだとしていた方が都合も良い。


「冒険者ギルドでは、犯罪歴さえなければ広く受け入れているわ。偽名でも登録出来るくらいよ。とは言っても、冒険者としてその名前が有名になってしまったら本名なんて名乗れないでしょうけど……」

「なるほど、良いこと聞きました。ならダリアで登録します」

「って、名前も偽名かよ!」

「ははっ、さっきウォードさんにつけてもらったんですよ。気に入ってるんで、もうそれが僕の名前です」


 馬車の荷台から顔を出すシンさんに笑みを返せば、まぁ、いいけどよ、と思いの外あっさりと話を切り上げられた。


「冒険者ギルドに入ろうとするヤツで、ワケアリは珍しくねぇよ」

「助けられたからという理由だけでワケアリを推薦しても良いんですか?」

「バーカ、冒険者にワケアリがいるのは珍しくねぇよ。それに、冒険者は命あっての物種だ。それだけ、じゃねぇ。それほどの理由がありゃ上等だ」

「ぅわっ」


 後ろから帽子ごと頭を撫でられて慌てて帽子を押さえる。


「さて、到着まですることもないしの。わしらはこの子に二つ名なんぞ付けてみるかの」

「いいなそれ! 有名冒険者となると二つ名がつくんだぜ!」

「え、なんですかそれ、すごいいらない」


 二つ名とか、こう、黒歴史を抉るような言葉に首を横に振るが、後ろで狼の牙が盛り上がり出す。


「冒険者にとって二つ名は憧れだよ? 俺ならなんと付けてあげようか」

「氷華の剣士なんてどうかしら」

「まだ氷魔法だけと決まったわけないだろう?」

「強そうな名前にしようぜ!」


 ガタゴトガトンと荷馬車が揺れる。

 似つかわしくない笑い声を乗せて、夜の森を抜けていく。

 領都につくまでの僅かな時間。明るい声は、響いていた。



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