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サルビア王記  作者: 柚ノ木 静加
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経緯

 多少言葉遣いを少年らしいものにと注意することにして、名を受け入れた後、続けられた言葉に視線を動かす。


「それでは、ダリアくん。よろしければ領都まで付き合っていただいても? ……少々、お時間をいただくことにもなりますが」


 視線の先にあるのは先ほど狩ったフォレストウルフ。私が来る前に何体か倒されていたのか、十は超える死体は、商人からすると良い素材だろう。


「手伝います」

「ありがとうございます。今、積荷を動かしますね」

「ああ、いえ――――。許可をいただけるのであれば、僕が受け持ちましょう。アイテムボックスがありますので」

「ああ、先ほど回復薬を出したのはアイテムボックスでしたか。助かります、お願いしても?」

「はい」


 アイテムボックスはスキルとして稀少だ。魔道具としてアイテムボックスは存在するが、それもまた高級品として扱われている。

 ケイム商会の会頭ともなれば、稀少なアイテムボックスは持っていそうだけど……。

 収納、と脳内で呟いて周辺のウルフの死体と、逃げる途中に落ちたのだろう商品だろうものを索敵範囲の限り仕舞う。


「ありがとうございます、私のアイテムボックスは、今手元にありませんので……本当に、助かりました」


 安堵の息を吐いて見せた彼が嘘ついているようには見えないが、それでも不審に思うのは無理もない。


「手元にない? そもそも、こんな夜更けに移動すること自体が危険なことです。ケイム商会の会頭ともなれば、知らないはずはないと思いますが」

「ええ、仰るとおりでございます。実は……」


 顔を歪めた彼が話してくれたのは、ほんの数時間前のこと。行商の関係で領都に向かうため、冒険者ギルドに護衛を頼んでいた。そして、ウォードさん以外にも商会の見習いが一人。

 今回は見習いの適性を最終確認するため、ウォードさんはご自身の身分を伏せた上、領都までの手配を全て見習いに任せたそうだ。

 抜き打ちと称して若い見習い、しかもウォードさんの顔を知らない人には最終テストとしてたまにやるそうだ。

 それで、見習いが冒険者ギルドに依頼して、二つのパーティーに護衛を頼んだ。とはいっても、片方はウォードさんの仕込みで信頼出来る冒険者らしい。

領都までの前半の行程は問題無く終わったが、数時間前に問題が起きた。

 日が暮れるから野営をしようというウォードさんの信頼するパーティーと、もう少しで街なのだから、夜遅くになったとしても街に辿り着こうと二つのパーティーが揉めたらしい。

 最終決定は見習いだ。そして、見習いは後者を選んだ。

 その結果、フォレストウルフの群に出くわし――あろうことか、劣勢を把握した夜間の旅程を強行した冒険者は、もう一方のパーティーを後ろから攻撃し、囮にして逃げ出したそうだ。

 しかも、見習いももう一台の馬車に乗って、そのパーティーと共に行ってしまったらしい。アイテムボックスはその馬車に入っていたそうだ。

なるほど、それが索敵したとき先行していた人たちなのだろう。聞いた感じ、馬もあわせれば生命反応の数は合っている。


「その攻撃で、こちらの馬も足をやられましたし……」

「すまない、ウォードさん、俺たちがついていながら……」


 申し訳なさそうに会話に入ってきたのは、厳つい顔をした青年だ。なるほど、改めて見るといかにも冒険者らしい……というか、下手したら盗賊らしい顔立ちだ。いや、人は見かけで判断してはいけないのだけど。


「いえいえ、私もこんな危険に巻き込んでしまってすまない。足しにはならないだろうが、逃げ出したパーティー分も君たちの報酬に上乗せさせてくれ」

「ああ、いや、俺たちは普段通りでかまわない。その報酬はそこの坊主に頼む。ありがとな、坊主、おかげで助かったぜ」

「いや、たまたま通りすがりだっただけです。それに、生憎冒険者ギルドに加入はまだですから。ありがたい話だが報酬は自分が狩ったフォレストウルフだけでかまいません。……色々と入り用になるでしょうし」


 彼と、彼の仲間だろう他三人も、防具も武器もボロボロだ。全て新調するべきだろう。


「それより、その腕でギルドに加入してないのか? ああ、年齢制限に引っかかるのか」


 冒険者ギルド。前世の物語として良く存在したそれは、今世では年齢制限がある。六歳から加入できるが、今世で成人となる十二歳までの子どもは、同じく冒険者ギルドの推薦が必要、という点だ。

 そもそも、今世貴族の令嬢、冒険者ギルドとは無縁……といいつつ、まあ秘密の鍛錬を始めてから、そのうち登録しようと思っていたけど。

 だって蒼月が持ってくる魔獣の素材とか、アイテムボックスの肥やしになってるし。

 しかも冒険者カードは身分証の代わりになるとのことで、自分の将来がどうなるかわからない以上念の為盛っておきたいところだ。


「なら、俺たちが推薦しよう」

「いいんですか?」

「ああ。アンタ見たいな手練れを放っておくのはギルドに取っても損失だろう。俺はシン、Bランク冒険者パーティー、『狼の牙』のリーダーだ。……まあ、その狼の腹の中になりそうだったんだがな」


 苦笑を浮かべる彼の手に、手を重ねながらこちらも苦笑を浮かべる。


「あそこに居るのはうちのパーティーで、エイン、キィ爺、セシリアだ」

「エインだ、よろしく。助けてくれてありがとう」

「キィシェンだ、気軽に爺でかまわない。感謝するぞ」

「セシリアです。本当に、助かりました」


 名を呼ばれたのに気づいたのか、こちらに寄ってきて挨拶をしてくれたのは、弓を持った美形のエインさんに、魔法使いらしい恰好の年嵩なキィシェンさん。そして、おっとりした風貌ながら、メイスと盾を持ったセシリアさんだ。

 エインさんの耳が尖っているので、おそらくはエルフの種族だろう。


「ダリアです、よろしく」


 気づかれないようにそれとなく見て、一先ず挨拶を終わらせる。


「危険手当ということで、狼の牙のみなさんには報酬を二倍。防具、武具も使用していたものの金額を負担しましょう。ダリアくんにも冒険者登録後、同じだけの額と、回復薬代金の支払いを。これは依頼主決定ということで」

「あはは……ウォードさんが言うならありがたく。確かに俺たちも防具と武具には困っていたんだ」

「好意となれば、ありがたく」


 今の自分は貴族令嬢ではない。となれば、これ以上の辞退は逆に怪しまれるだろうと受け入れる。まあ、ある程度自分で自由になるお金が欲しかったので、いいか。

 前向きに考えることにして、報酬の話を受け入れた。


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