勘定方
奉行所の蔵へ運び込まれる年貢を数えている。米俵を載せた荷車は京の枡目のごとき街路をどこまでも真っ直ぐ伸びていて、今日は家に帰れそうにない。同心たちは多忙なふりをしていて、わたしの眼の届かないところでは児戯のようなことをしてはしゃいでいる。
「三万七七七七俵――三万七七八三俵――三万七七八九俵――」
もともと米俵を数えるだけの仕事なので難しいことはないが、数で押されてうんざりする。米俵はまだ当分尽きそうにない。ひとつの荷車に下段から三つ、二つ、一つと積み重ねて、六つ。模範的な積み方とされている。わたしは模範であることへの追及を怠ることはあってはならないと思っている。だが、自分の同心も躾できないようでは、この気負いも空である。
蔵はなかなかいっぱいにならない。蔵のなかに何があるのか、わたしは知らない。管轄ではないのだ。ただ、ときどき「御用改めである」と叫ぶ声がして、ザバアっと波でもかぶるような音がした後、カリカリと炊かずに米を食べる音がする。
「三万九九三三俵――三万九九三九俵――三万九九四五俵――」
蔵のなかで何が起きているかはわたしには関係ない。わたしの管轄でないことを心配するのはいらぬ世話である。そんな余計なことを考えるくらいなら空を見上げるほうがよい。その日は快晴で夏の青みが強く色づいた雲の影絵がまぶたの裏に残っている。わたしは六つずつ通り過ぎる俵を数える作業を同心たちに任せて、空を見ている。そのうち、袖を誰かが引いたので目を落とすと、同心たちが左手の指を四本、右手の指を二本立てて、分からなくなってしまったと泣いている。ああ、こいつらは六つずつ数えることもできないのだなと妙に冷めた気になり、もうすぐ四万俵になるはずだった米俵が六つずつ、一台の荷車に載ったまま、米蔵の奥へと消えていくのを数えず眺める。と、そのとき、
「御用改めである! ゴ! ヨ! ウ! ア! ラ! タ! メ!」
と、蔵のなかの誰かさんが怒鳴った。わたしはなんだかいろいろなものが馬鹿らしくなってしまい、持ち場を離れると、そのまま奉行所を出て、牛に曳かれた米俵のどこまでも続く列を横切り、最初に見かけた横道にそれると、小さな狛犬を戸口に飾る町を抜けて、居酒屋に入った。
「オヤジ、酒だ」
「へい、与力さま」
ちょっと後ろを見ると、小上がりの衝立に白と浅葱のだんだら羽織がかけてあり、そのあたりからがさつで汗まみれの男たちの会話がきこえてきた。わたしに関係ないことだが、いかんせん声が大きいのできく気がなくとも、内容はおおよそ分かってしまう。どうやら局長がいなくなり、京じゅうを探しているらしく、あと探していない場所は奉行所だけなのだそうだ。
わたしは冷たい酒をひと口飲み、首をふる。
わたしには関係のない話だ。管轄が違う。
明日、辞表を出すつもりだ。