名刀五月雨
新撰組に宿を包囲された。
白と浅葱の羽織の下に鎖帷子を着こみ、鉢がねと鎖頭巾をかぶった男たちが篝火を焚いて、蟻の這い出る隙もなく夜闇を払っている。
まともに戦って勝ち目のあるものではないので、わたしは寺町三条で親より借りた金で買い求めた奈良打ちの刀を何本も畳に突き刺し、彼らが部屋に飛び込むのを待つことにした。具足切りができるほどの刀ではないが、一度くらいはぐっさりやってくれるだろう。一度斬ったら、それは捨てて、すぐ別の刀を引っこ抜いて、戦う。侍らしく戦って死ぬのだ。
そう思って、一本抜いて、畳に突き刺すと、名刀が十二単の、見目麗しい、やんごとなき姫君に姿を変えた。姫はわたしに深々と頭を下げる。
「わたしはあなたさまのものでございます」
これはもしやと思い、他の刀をざくざく畳に刺すと、次々と美姫に変ずる。うらぶれた宿のひと部屋、それも新撰組に包囲された部屋はたちまち源氏物語の挿絵のごとき有様。その姫たちがみな言うのだ。
「わたしはあなたさまのものでございます」
姫たちがかしずく中心にわたしはいた。気分は光源氏か、在原業平である。侍らしく死ぬことが馬鹿らしくなった。
「わたしを抱いてくださいまし」
姫たちはその十二枚の衣を脱ぎ散らかし、衣が森の朽ち葉のように厚く柔らかく折り敷かれる。衣に焚き込んだ香の甘いにおいが部屋に満たされ、豊満で抜けたように白い裸体の数々に取り巻かれたわたしはもう分別がなくなり、姫のひとりの乳房を鷲づかみにした
「痛い!」
激痛に思わず手をはなす。手のひらを見ると、うっすら赤い線ができていて、血が滲んだかと思ったら、ぱくりと裂けて、熟れ過ぎて腐った果物に似た、どろっとした血の塊がボトリと落ちた。そこで姫たちの本性を思い出した。
「抱いてくださいまし」
そう言いながら姫たちがわたしに飛びかかる。




