悪名
不逞浪士たちは出入りの商人に化けて新撰組の屯所に潜り込み、見事あの白と浅葱のだんだら羽織を盗み出すことに成功する。これを着て、市内で悪さをすれば、新撰組の評判は地に落ちるだろう。
早速、だんだら羽織を着て、小さな屋台で自然薯の汁と麦飯をかっ食らう。
「おい、オヤジ。金は払わんぞ」
「ええ。分かってますよ。これでもう七度目です。今月はもう勘弁してくださいよ」
オヤジの覚悟を決めた言葉が気に食わず、屋台をひっくり返す。どうせ、悪評は新撰組になすりつけられるのだ。
だが、オヤジはこれだから新撰組は、とブツブツいいながら、転がった自然薯を集める。
そこでもう少し大きな悪事をすることにした。材木問屋の大きな構えに意気揚々と乗り込んで、一万両を借りにいく。もちろん、返すつもりはない。訴えは新撰組に行く。
「おい、番頭。主人を出せ!」
すると、番頭は慣れた様子で主人を呼びに行く。
あらわれたのは白い髷をした頭をペコペコ下げる老人である。
「あの、このあいだも三百両借りていきましたよね? あの返済はどうなってるんでしょう? まあ、どうせ返すおつもりはないのでしょう? そうだと思ってました。災害と思ってあきらめてますよ。ところで、一万両欲しいとのことですが、まあ、百両なら御用立ていたしましょう」
どうもこの主人は言われた額の百分の一を出すことが双方の暗黙の了解のごとき態度を取る。
浪士たちは百両の大金を懐に出ていくが、どうも納得がいかない。
「こうなったら人を斬ろう。それが一番だ」
「誰を斬ったものか?」
「構うな。どうせ文句は新撰組に行く」
そう言い、しんこ細工の荷を天秤棒にふった老人を見つけ、その老人にわざとぶつかって、貴様、新撰組にぶつかるとはいい度胸だと抜き様に一太刀浴びせて、首がころりと落ちる。
これで市中の人びとも驚くだろうと思うが、人ひとり斬られたというのに往来は何も騒がず、春ののどかな大気の下、それぞれがそれぞれの生業に精を出すような暮らしは途切れることを知らない。ただ、老人が斬られたそばの家の女中が迷惑そうに家の前の血だまりにひしゃくの水を念入りにばらまいて、血を薄める。
「おい、おれたちは人を斬ったのだぞ! 何か言うことはないのか!?」
だが、誰も気にしない。
「あいつらは普段どんなことをしているのだ?」
浪士たちはさっぱり分からぬと首をふる。
羽織は脱ぎ捨て、どぶに捨ててしまった。