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洛中洛外図屏風

 見事な天守につけられた丹塗りの廻縁まわりぶちに立ち、金色のすやり霞がかかった京を見下ろす。細川邸の庭、内裏の丹塗りの殿、名刹の数々が見え、紙すきが濡れた紙を壁に貼りつけ、床几に駒をのせた店屋、弦を売る狗神人が路地を歩いているのが見える。山鉾のカマキリよりも高い位置で、見下ろす京はまさに支配者の景色である。

 金色の京にふと見慣れぬものがあらわれる。白と浅葱の羽織を着た侍だ。派手過ぎる色使いが場違いではあるが、すぐにすやり霞の金箔に隠れたので、すぐに忘れた。

 音羽の滝の下で女たちが盥を頭に乗せて水を受けている。ところが、先ほどの趣味の悪い侍が三匹に増えて、女たちを蹴散らした。なんと無粋な連中だろうとみていると、浅葱侍たちはそこに罪人らしいものを引き据え、打ち首にし、筧より落ち続ける音羽の水で刀身の血を洗い落としている。

 清水の境内での打ち首そのものが穢れであるのに延命長寿で名高い水で血を洗い落とすとは、と驚き呆れる。松永弾正だって東大寺を焼くときはもっと品があったであろう。

 だが、わたしはさらに戸惑わされる。白と浅葱の侍たちがどんどん数を増やし、道という道を練り歩き、商人たちから金銭を巻き上げた。犬が自分の尾を噛みつこうとしてぐるぐるまわるような動きを見せたかと思うと、ついには本願寺に居を構え、その境内で打ち首切腹拷問をやりたい放題にする。油小路では卑劣な不意打ちで人を殺め、ズタズタに切り刻み、何を考えたのか、その肉片の山を真夏に一週間、放置した。

「誰ぞ、あの浅葱侍を討つものはいないのかッ」

 わたしは悔しさに涙を流し、手すりを扇子で激しく打つ。扇子は折れて飛び、金の霞に消えていった。

 そのとき、ききなれない笛の音がして、鳥羽と伏見のほうから南蛮服に赤熊しゃぐまをかぶった侍たちがあらわれ、鉄砲で浅葱侍を撃ち始めた。浅葱侍は京じゅうで負かされて、東国へと落ち延びていく。

 あっぱれなことにわたしは手を打って喜び、赤熊侍たちに出してやる感状を書き始める。全ての感状を書き終えたころにはミカドが赤熊侍によって、東京なる不遜な名の小京都へと連れ去られようとしているところだった。

「ああ、何をしているッ。誰ぞ赤熊侍どもを討つものはいないのかッ」

 わたしは悔しさに涙を流し、青銅の擬宝珠ぎぼしを扇子がなかったので手で激しく打つ。手首は折れて飛び、金の霞に消えていった。

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