秘密
盗人が新選組局長の愛刀、長曾祢虎徹をまんまと盗み出す。刀の目利きができる故買屋に虎徹を持ち込むが、故買屋はムッとして、虎徹を盗人に返す。
「これは虎徹じゃない。源清麿の作刀だ」
「そんなはずはない。新選組でも一番見張りが固いところに置いてあったんだ。虎徹だよ」
「あんた、おれに目利きの指南ができるのか? 清麿としてなら引き取るが、虎徹ということでは引き取れない。もっと馬鹿な故買屋に持ち込め」
盗人は虎徹を持ち出し、どうも自分はだまされたらしいと思い始める。そうなると、この偽の刀は盗人の恥である。目につくのも嫌だし、これでつくった銭を見るのも嫌なので、酒に酔って、とある屋敷の中庭に忍び込み、穴を掘り、刀を埋めてしまった。
その後、新選組は盗人を捕まえて、五寸釘と蝋燭で拷問にかけた。盗人は虎徹を盗んではいない、自分が盗んだのは源清麿だと叫んだ。酔っぱらっていたから、どこに埋めたのかは分からない。すると、責め役は他にそのことを知っているものがいるかとたずねる。盗人が故買屋の名前を上げると、盗人の首がころりと落ちた。
それから数刻後、故買屋の家からギャーッと断末魔の悲鳴が響き、薩摩藩邸の中庭には鋼色の刃紋がある小さな芽がすくすく育とうとしていた。




