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一杯のコーヒー
佞臣とその息子を斬り殺す相談が古ぼけた社でなされる。小さな灯のなかで歪な影を顔にこびりつかせた浪士たちは故郷の訛りをそのままにしゃべるが、みな違う藩の出身で何を言っているのか分からない。
最初のうちは我慢して議論し、なんとか共通の言葉や響きを見つけて、意思の疎通を図ったが、そのうちいらいらしだして、なぜ自分の言っていることが分からないのかと怒鳴り出し、殴り出し、最後は猿のような叫びをあげて斬り結んだ。その音は遠く新撰組の屯所まで届いていた。
新撰組隊士たちがお互い相討ち果てた浪士たちを見つけているころ、佞臣とその息子は遊郭で異人の居住区から取り寄せた不思議な飲み物を遊女に見せびらかしていた。遊女のひとりがそれをねだり、ひと口すすると、オエッとうめいて、裲襠を汚す……。




