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紙風船
長持ちの一番下に紙風船があったので、ふくらましてみると、局長そっくりになった。
しばらく手のひらでポーンポーンと打っていたが、外に出たときに風にさらわれて、空を飛んでいく。
すると道場のほうから血相変えた副長がやってきて、飛んでいった紙風船を追いかける。
わたしは笑いながら副長にあれは紙風船だと言うが、睨まれた。
「もう一度よく見ろ」
空を見上げると、丸っこかった局長そっくりの風船が局長そのものになり、空をどんどん上がっていく。二条方面へと流れていく副長に幹部隊士たちが続く。局長はどんどん小さくなり、青い空に打たれた黒い点となり、やがて消え去り、その存在はわたしの脳裏に焼きつけられた記憶のなかだけのものになった。
わたしは局長が入っていた長持ちのそばに座ると、これがわたしを殺したのだと悔し涙を流しながら手で殴り、脇差を首に押しつけると、一気に引き切り、血の道を全て断った。




