コント『スナイパー』
ゲラゲラコンテスト3応募作
場所:あるビルの屋上
ツッコミ:スナイパー(A)
ボケ:作業着の男(B)
(スナイパーがビルの屋上でライフルを構え、標的の人物を狙っている)
A:(心の声)この引き金を引けば終りだ。奴は倒れる。そして俺は組織から報酬を受け取り、この稼業から足を洗う。これが最後の大仕事だ。しかし遅い…。いつもなら、奴が仕事を終えて現れる時間…。
(そこへ作業着の男が入って来る。)
B:お仕事中すいませーん。
A:だ、誰?
B:いつもわが社の製品を使用いただきありがとうございます。
A:製品?
B:はい。CMX-17です。
A:CM…、このライフル!?
B:はい、メンテナンスにお伺いしました。
A:このタイミングで!?俺、今、一世一代の大仕事してんだけど。
B:嫌だな、ライフルのメンテなんて僕にとっても、1週間に1度の大仕事ですよ。
A:軽いだろ!言ってて何も思わないのか!あのな、何か勘違いしてるよ。このライフルは、俺が組織から借りてんだよ。
B:はい、だから、その組織にうちが貸してるんです。
A:え?リース品なの、これ!?
B:ですので、1年に1度の定期メンテナンスに来たんです。
A:そんなのいらないよ、俺が毎日メンテナンスしてるよ、こいつは。
B:素人さんの手入れでは、ちょっと危ないんで。
A:俺、素人の扱いなの!?なめてんのか、俺がどんだけ修羅場くぐってると思ってんだ。12年この仕事やってんだぞ、俺は。
B:ふふっ、自分はこの仕事、13年やってます。
A:鼻で笑ってんじゃねえよ!緊迫感が違うだろ、メンテナンスの仕事とは!
B:俺も人生かけてこの仕事してるんですけどー。
A:…すまん。
B:ちょっと困りますねー、渡辺進一さん。
A:な、なんで、本名を?
B:組織の方に聞きましたよー。
A:い、いつだよ?
B:キャバクラで接待した時に。
A:やべえなうちの組織!個人情報ガバガバじゃねえか。
B:あ、アジトにも行きましたよ。
A:マジで!?俺、12年間一度も行ったことないぞ。
B:俺、顔パスっすよ、13年やってるんで。
A:ムカつくな、おい!なんのマウントだ。
B:あの幹部の人達は凄い雰囲気ですよね、やっぱり。
A:そりゃ只者じゃねえよ、プロの集まりだからな。
B:只者じゃないっすよねー、だって、皆、仕事中にウーロンハイ飲んでますもんね。
A:そんなことしてんの!?俺、そんな奴らの命令聞いてんの?
B:言いたくないですが、渡辺さんの会社、ブラック企業ですよ。
A:それは最初から知ってるよ!ライフル持たせてホワイトはねえわ。
B:渡辺さん、もっと真面目な仕事すればいいのに、PTA会長お抱えのスナイパーとか。
A:そんな殺伐としたPTA会長いねえよ。
B:あの、なんでスナイパーなんかなっちゃったんですか?
A:うるせえな、金がいるんだよ。
B:わかりますよ、俺、同世代だから。全部、リーマンショックのせいですよね?
A:それは、あるよ!たしかにあるよ!でもな、それだけじゃな…
B:妹さんの学費ですよね。
A:なんで知ってる?それは組織にも言ってないぞ。
B:そりゃライフルみたいなあぶねえ代物扱ってんだ、何でも調べてますよ(口調変わる)。ちなみにあなたの今日の標的は戸塚太一。あそこの研究所の研究員でありながら(前方の建物を指さす)、ある細菌を研究所から盗み出そうとしている。ね?何でも知ってるでしょ?
A:なるほど、軽薄なふりしてても俺らと同じ人種だな。
B:だから、信頼してメンテナンスは任せてください。
A:ああ、早くしてくれよな、大仕事ひかえてんだ。
B:すぐ終わらせますよ。そうだ、あの、待ってる間マカロン食います?(マカロンをポケットから出す)
A:やっぱなめてんだろ、お前!
B:あ、渡辺さん!奴が出てきましたよ!
A:え?本当だ!戸塚だ!
B:おかしい、予定より15分早い!
A:え?え?15分。
B:戸塚、今日は上司から少し残業を命じられてたはずなんだけど。
A:分単位で行動把握してるの?
B:はい、戸塚、護身用にうちの拳銃使ってるから、さっきメンテナンスしてきました!
A:ずっと思ってたんだけどさ、メンテナンス係、力持ちすぎじゃね!
B:はは、そりゃ13年やってますんで。
A:笑えねえわ!
B:早く、渡辺さん!戸塚、行っちゃう!はい撃って、パンッ!て。早く撃って、パンッ!て。
A:うるせえな!ノリが軽いよ!
B:あ、行っちゃいますよ!
SE:(銃声)
A:うわ!仕留めそこなった。
B:渡辺、ポンコツだな。
A:お前のせいだろ!俺、クビだよ!来週までに妹の学費払わないといけないのにどうしてくれるんだ?
B:あ、そういえば、知り合いのPTA会長がスナイパー探してましたよ。
A:紹介して―。