第62話 剣聖祭
今後の展開のため、終盤を修正します。
強化修行から二ヵ月が経過した。ジン達は、剣聖祭開催の一週間前に修行を終え、王都に帰還した。
「では、残り一週間は、ゆっくり身体を休めましょう。特に、代表になった二人は、しっかり休んでくっださい。」
剣聖祭の日になるまで、ジンは代表に選んだ弟子達に休息を命じた。その期間も修行に充てるべきだという弟子達に対し、ジンは休息も大切であると説き、自身もその間は身体を休めることにしたため、弟子もそれに従った。
「・・・ジン。本当に一週間、何もしないつもりなのか?」
フィアは、部屋で本を読んでいるジンに尋ねる。今まで凄まじい修行をしてきたというのに、残りの一週間を休息に充てるジンの意図が読めなかったのだ。
「ああ。休むのも大事だ。それに、軽い運動くらいならやってもいいと言ったから、怠けることはない。」
「・・・だが、それで他の流派の弟子に勝てるのか?彼らはとんでもなく強いんだろう?」
落ち着いているジンとは対照的に、フィアは不安を覚えていた。以前、レオンや弟子達の話から他流派の方が強いと聞いていたからだ。だからこそ、もっと修行をすべきだと彼女は思っていた。
「フィア。前も言ったが、短期間で強くなる方法なんてない。地道にコツコツと積み重ねていくしかない。いたずらに厳しくしても、寧ろ逆効果だ。」
「・・・だが、君はいつもキツイ修行を・・・。」
「あれは、ちゃんと俺の今の実力と身体に合わせているものだ。俺だって最初からあんな無茶苦茶な修行はしていない。フィアや先輩達に同じようなことはさせていないだろう。」
「・・・そうだが・・・。」
「大丈夫だ。先輩達は元からしっかりしている。きっかけさえ与えれば、俺がいなくても大丈夫だ。」
「・・・。」
ジンの言葉に納得できなかったものの、フィアはそれ以上何も言えなかった。修行に関して、素人の彼女に言えることはなかった。
そして、あっという間に一週間が経過した。
「これは・・・凄いな!」
剣聖祭当日。ジンはフィアを伴って王都の大通りを歩いていた。フィアは、普段より活気付いた王都の光景に驚いていた。いつも賑やかな王都クレスティアだが、この日はさらに賑やかだった。道端には露店がたくさん立ち並び、老若男女問わず多くの人々が行き交っていた。
「言っただろう。クレス王国一の祭りだって。帝国じゃ、これほどの祭りはなかったのか?」
「規模の大きな祭りはある。だが、これほど賑やかではなかった。帝国の公の祭りは、厳かなものだ。」
「やっぱり、お国柄が出るんだな。そこは、武芸の国といった感じだな。」
「そうだな。・・・!あれは何だ?」
フィアは、露店の一つを指差す。
「ああ。あれか。あれは、焼き菓子だ。小麦粉と砂糖を混ぜて作る菓子だ。」
「なるほど。・・・あっちは?」
「ああ、あれは・・・。」
見たことのないものに興味を示し、フィアはジンに次々と質問する。ジンは、これに答えていく。どれもジンが知っているものだったが、フィアにとっては知らないものばかりだったようで、次から次にジンに質問する。
「面白いな!そうだ、ジン。何か買ってもいいだろうか?」
「いいけど、金はあるのか?」
「問題ない。それに、そこまで高いものはなさそうだ。」
そう言うと、フィアは焼き菓子を売っている露店に行き、焼き菓子を二人分買うと、ジンの許に戻った。
「ジン。君の分だ。」
「・・・いいのか?俺の分まで出して?」
「構わない。君には色々世話になっているからな。」
「・・・なら、遠慮なくもらっておこう。ありがとう。」
ジンは、フィアからもらった焼き菓子を食べる。香ばしくも甘い味が、口一杯に広がっていく。
(・・・懐かしいな。逆行前はよく食べたっけ。)
「甘い!それに美味しい!帝国のパティシエにも引けを取らないな!」
フィアは、焼き菓子の味を気に入った様子で、顔を綻ばせていた。何も知らなければ、彼女が貴族、しかも、武門の一族とは思わないだろう。今の彼女は、年相応の少女に見えた。
(・・・まあ、仕方ないな。まだ十二歳なんだからな。お菓子に夢中になるのも当然か。)
「この菓子もいいが、他にも美味しそうなものがいっぱいあるな。それに、遊戯も。」
「なら、次は菓子じゃなくて、別のものでも・・・。」
「おやおや、誰かと思えば、ハート流の雑魚弟子じゃないか。」
そんな時、誰かがジンに声をかけてきた。声の主が誰かは分からなかったが、明らかにジンを馬鹿にしていた。
(・・・誰だ?)
ジンとフィアは、声のした方を向く。そこには、ブドーと同い年くらいの剣士が三人いた。その表情から、明らかにジンを馬鹿にしていることが見て取れた。剣士達の服装を見たジンは、相手が誰かは分からないまでも、どこの所属か分かった。
(・・・スペード流の弟子か。服装からして、コモンクラスの弟子だな。)
「・・・あなたは?」
「おいおい、俺を知らないのか?さては、最近入門した奴だな。」
「・・・ああ、そうだ。」
「ははは!よりにもよって、ハート流に入門するとはな!お前、貧乏なんだろ?そうでなきゃ、わざわざ最弱のハート流なんかに入門するわけないよな?」
「当たり前のこと言ってやるなよ!可哀そうだろ?ははは!」
スペード流の剣士達は、おかしそうに笑う。ジンばかりか、ハート流も侮辱するように。
「・・・君達、失礼だろ。何の理由があってそんなことを言う?」
そんな剣士達の態度に、ジンの隣にいるフィアは不快な気分になり、思わず抗議する。
「ん?お嬢ちゃん、王都の人間じゃないのかい?なら知らなくて当然か。こいつの流派、ハート流は、偉大なる剣聖ツルギの面汚しの流派なんだ。俺達、スペード流に毎年負け続けている・・・いや、俺達だけじゃない。他の流派にも負けっ放しの最弱流派なんだ。で、貧乏人しか入ることができない、落ちこぼれ専門の流派だ。そんな奴と一緒にいたら、お嬢ちゃんもいいことないぞ。」
剣士は、フィアにハート流に対する暴言の理由を説明する。だが、それは説明というより、ハート流を貶めるだけのものだった。
フィアは、世話になっているハート流を貶され、思わず殴り掛かろうとする。だが、ジンはそれを制する。
「ジン!何故止める!?悔しくないのか!?」
「・・・こんな奴ら相手に怒るだけ無駄だ。言わせておけばいい。」
「・・・何だと!?こいつ!ハート流のくせに生意気な!」
「キール!やっちまおうぜ!」
「そうだそうだ!お前の強さを見せてやれば、すぐに泣いて謝るさ!」
(・・・キール。・・・!思い出したぞ!このキールって奴、俺が入門した年のスペード流の剣武会代表だ!)
剣士の一人が口走った名前に、ジンは目の前の剣士が何者なのか思い出すのだった。




