第5話 ジンと村の子供達
「・・・九・・・十・・・!・・・もう駄目・・・!」
「くそ・・・あと五回で・・・二十回・・・なのに・・・!」
「無理しなくていいぞ。無理だと思ったら、やめていいからな。」
村の子供達が、各々腕立て伏せやスクワット、腹筋をしていた。そんな子供達から離れた所で、軽々と腕立て伏せをするジンの姿があった。
ジンが、【超人法】による修行を始めてから、半年が経過した。以前はヒイヒイ言っていた筋力トレーニングも、今では腕立て伏せ、スクワット共に、百回くらいできるようになり、ランニングも10kmまでなら息切れすることなくこなせるようになっていた。現在、ジンは、これを一日のノルマとして、毎日やるように心がけていた。
そんなジンに興味を持ったのか、村の子供達も、ジンの真似をして、トレーニングをするようになっていった。さすがにジンのノルマほどやれはしなかったが。大人達も、いい運動になるからと推奨したことで、今では村の子供達にとっても日課となっていた。ジンも、率先的にその訓練に関わり、先生のようなことをしていた。
「・・・はあ!・・・もう駄目・・・!」
「マリーも無理しなくていいぞ。それだけできれば、上出来だ。」
「・・・そうかな?」
「・・・よし、皆。今日はここまでだ。これから剣の練習をするぞ。」
「よーし!今日は負けないぞ!」
自身のノルマをこなしたジンは、子供達に剣を練習をすることを告げる。すると、疲れてダウンしていた子供達は、嬉しそうに立ち上げると、木刀を手にしてジンの側に集合する。
「じゃあ、一斉にかかってこい!勝てたらこれ、あげるよ。」
ジンは、ポケットから飴玉を取り出すと、子供達の前に見せる。
「負けないぞ!」
子供達は、一斉にジンに挑む。だが、ジンは簡単に子供達の木刀を弾いていく。子供達は、ジンの攻撃に耐えられず、木刀を落としてしまう。ちなみに、剣を落としたら負けである。
「うわ!」
「ひえ!」
「駄目か!」
「ジン強すぎ!」
次々と、子供達は脱落していく。そんな中、唯一ジンの攻撃で木刀を落とさなかった子供がいた。マリーである。マリーは、何回かジンの攻撃を受け止め反撃するも、ジンには易々と防がれ、再度攻撃を受けてしまう。それが何回か続くも、やがて限界が来て、ついに木刀を落としてしまう。
「・・・マリー。また強くなったな。」
「・・・そんなことないよ。結局、ジンに当たられなかったし・・・。」
「そんなことない。マリーは、いい師匠に教えてもらえばもっと上手くなるはずだ。」
「そう・・・かな・・・?」
「ああ!」
ジンは、マリーに対して高評価を下す。マリーは、半信半疑ながらも、ジンに褒められたことで、嬉しそうになる。
(・・・そういえば、村が滅びた時も、マリーは村人の中で一番戦えていたな。でも、何の訓練もしていなかったせいで、結局生き残ることができなかったんだった。・・・もし、ちゃんと鍛えていたのなら、俺なんかより強い剣士になれたかもしれないな。)
ジンは、逆行前の自身の記憶と照らし合わせ、マリーには才能があると感じていた。
(彼女次第だが、今からしっかり鍛えれば、あの悲劇を生き残ることが可能かもしれない。・・・いや、生き残るんじゃない。防ぐこともできるかも。・・・まあ、この訓練自体、その時に対する備えみたいなものなんだけどな。)
ジンが、子供達の訓練の指導を行っているのには、ちゃんと意味がある。未来に起こる魔物の襲撃から、村を守れるようにするためである。あの時、ジンは村を守るために善戦したが、自身の実力不足で救うことができなかったのだ。だが、ジンは、自身の実力不足だけが原因ではないことも気付いていた。
(いくら強くても、一人で相手できる数には限度がある。俺が仮に強くても、あれだけの数の魔物を相手にしていたら、村人を守ることなんてできない。倒すので精一杯だ。少しでも戦力がいる。ここにいる子供達が、昔の俺と同じかそれ以上に強くなれば、あの悲劇を防ぐことができるはずだ。)
子供達が、訓練に興味を持ってくれたことは、ジンはとって嬉しい誤算だった。本来なら、何かしら興味を持ってもらう流れを作るつもりだったからだ。だが、今の子供達は、率先して訓練を行っている。手間が省けたことに、ジンは内心喜んでいた。
(おかげで俺は、別のことができる。今やっている方法とは別の身体作りをするとしよう。)
ジンは、また別の修行を行うことを決めると、頭の中でプランを立て始める。そんなことを知らない子供達は、各々好きな風に訓練をし出す。とはいっても、大半が素振りやチャンバラだったが。
そんな中、マリーだけが、ジンの側に来た。
「・・・ジン。難しい顔してどうしたの?」
「!ああ、マリー。これから新しいトレーニングをしようと思って、考えているんだ。」
「新しいって・・・ジン、こんなに強いのに?」
「そんなの、毎日トレーニングしているからだよ。俺は、ただの凡人だ。だから、強くなるために、色々しないと駄目なんだ。・・・そうじゃないと、英雄にはなれないから。」
「英雄・・・ジンの夢だよね。」
「ああ。本に書いてある英雄達も、小さい頃から努力していたんだ。なら、俺もそうしないと。」
「・・・そうだね。ジンの夢だもんね。英雄。」
英雄という言葉に、マリーはジンの行動を子供ながらも察する。ジンは、夢を叶えるために、今から頑張っているのだと。
マリーは、ジンの夢の数少ない理解者でもあった。逆行前も、ジンの夢物語のような夢を馬鹿にせず、応援してくれていたのだ。だが、最期はジンの目の前で魔物に殺されてしまうのだ。最期の瞬間まで、ジンが英雄になると信じて。
(・・・俺は、結局英雄にはなれなかった・・・。マリーの想いを裏切ってしまった・・・。でも、今度こそ・・・!)
あの時の苦い経験と悲劇を繰り返すまいと、ジンは心に誓うのだった。




