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第45話 槍将軍フィディアル・ランサーの人生

 逆行前、剣聖兄妹に同行して帝国を訪れていたジンは、当時の将軍達と顔を合わせる機会があった。その中でも、フィディアルの姿が一番目に付いた。当時の彼女は、顔には大きな傷跡があり、左目には眼帯を付け、髪の毛も短く刈り上げていたため、言われなければ女性だと気付けない風貌をしていた。おまけに左腕がなかった。他の将軍達は、傷があったとしても、そこまで痛々しさを感じなかったのを見ても、彼女の姿は異質だった。


 「・・・将軍、その怪我は、名誉の負傷ですか?」


 気になったジンは、フィディアルが一人の時、彼女の怪我について尋ねた。だが、返ってきた言葉は意外なものだった。


 「・・・いや、未熟ゆえの負傷だ。・・・修行時代、旅団級の魔物に襲われて、死にかけた。・・・幸い、命こそ助かったが、左腕と左目は、その時にな・・・。」

 「・・・ですが、高級なポーションがあれば、治せるはず。あるいは、高位のヒーラーなら・・・。」

 「・・・当時の私に、そんなものに頼る力はなかった。・・・今は、戒めだと思って治していない。」

 「・・・。」


 この時、ジンは彼女の言葉の意味を理解できなかった。だが、後に帝国の内情を調べた結果、彼女が何故あんなことを口走ったのか理解した。

 彼女の家門、ランサー家は、代々槍将軍を輩出してきた名門だった。それを可能としていたのが、雷属性の力を槍に宿しての槍術、雷槍だった。ランサー家にのみ代々伝えられる秘伝の技で、この雷槍を駆使して戦うその姿から、ランサー家は別名、雷神の異名をとっていた。

 だが、十数代前から雷槍を会得できた人間に恵まれず、ライバルの家門であるジャベリン家やハルバー家に槍将軍の座を奪われていた。名門ランサー家の名は、地に落ちていたのだ。

 フィディアルの父親は、そんなランサー家を復興すべく、自身の子供から槍将軍を輩出することに執念を燃やしていた。彼は、自分の息子達に過度ともいえるプレッシャーを与え、競わせていた。だが、息子達には武芸の才能はなく、どんなに努力しても雷槍を会得することはおろか、達人と言えるほどの戦士にもなれなかった。

 そんな中、フィディアルが誕生した。父親は、生まれたのが娘と聞いて落胆し、フィディアルには何の期待もせず、放任していた。だが、彼女が十歳の時、その認識は一転することとなる。フィディアルに武芸の才能があることが判明したのだ。

 ある日、気紛れに兄達は彼女に槍を握らせ、指南役と稽古させた。単なる暇潰しに過ぎなかったが、それは一転する。なんと、フィディアルは、指南役の騎士を打ち倒したのだ。初めての手合わせで。今まで槍を持ったこともなく、兄達の修行を遠くから見ていただけだったにも関わらず、彼女は見様見真似でランサー家の槍術を習得していたのだ。

 今まで彼女に興味を抱いていなかった父親は、これに歓喜し、彼女も後継者候補に含めることを決めた。だが、これに彼女の兄達は大いに不満を抱いた。考えてみれば当然である。彼らは彼女より幼い頃から血の滲むような努力を続けていたというのに、一向に評価されず、今まで満足に槍を握ったこともなかった幼い妹が評価されているのだから。

 そんな彼女に対し、兄達は様々な妨害を行った。妹が鍛錬しようとしても、訓練場はおろか、帝国内の修行に使えそうな場所すら使えないよう手を回した。そればかりか、彼女の修行用の道具すら壊したり隠したりした。

 兄達の行いに、フィディアルは父親に止めるよう抗議したが、父親は一切取り合わなかった。父親は、これを乗り越えてこそ次期当主に、ひいては槍将軍になれると言い放った。父親は、ただただ強い後継者を、槍将軍になれる子供を生み出すことしか考えていなかったのだ。だからこそ、兄達が妨害をしたとしても、いい試練になるとしか思っていなかったのだ。

 兄達から妨害され、父親も当てにならなかった彼女は、他国に修行に行くことで自分を磨くことを決めた。さすがの兄達も、他国まで行けば手が出せないと踏んだのだ。それを決めた彼女は、バレないように密かに屋敷を抜け出した。そして、他国を転々として修行に明け暮れた。だが、その最中、自分より遥かに強い魔物と戦い、重傷を負ってしまった。彼女のあの凄惨な姿は、そのせいだった。幸運だったのは、たまたま近くにいた修行者に助けられたことで、一命は取り留めたことだった。だが、片腕と片目を失ったハンデは大きく、満足に動けるようになるまでかなりの月日が必要だった。

 結局、彼女が帝国に戻ったのは、それから十年以上経ってからだった。既に、家督は長男が継いでいて、彼女の出る幕はないと言われたが、彼女は彼らの前で披露した。ランサー家の秘儀、雷槍を。彼女はなんと、独学で雷槍を会得していたのだ。彼女自身の才能もあるだろうが、それ以上に這い上がってやろうという彼女の努力と執念の賜物だった。

 雷槍を会得した者が、ランサー家の当主となる。こうなっては、兄達は何も言えなかった。彼女は当主の手に入れることができたのだ。

 その後、当主となった彼女は兄達はおろか、父親すら追放し、ランサー家の実権を完全に掌握した。使用人達も、劣等感の塊で、自分より劣っていると見なした人間に高圧的な兄達や父親を嫌っていたため、誰も反対する者はいなかった。寧ろ、率先して彼女に協力した。そして、わずか一か月足らずでランサー家を建て直し、槍将軍の称号も手に入れた。どん底に叩き落された彼女は、文字通り這い上がり、栄光を掴んだのだ。

 ちなみに、追放された父親と兄達は、恨みを持つ者達に拉致され、消息不明となったという。この件に彼女が関与しているかは不明だが、彼女がその話を聞いた際、どこか納得したような、それでいて悲しそうな表情になったという。


 「・・・ほかの将軍達と雰囲気が違うのはそういうことだったのか。・・・凄い人だ。いや、そんな言葉で言い表せる人じゃないな。彼女は本物の英雄だ。」


 帝国の内情を調査していたジンは、帝国の実態を知り、心象は最悪となっていた。調査前、彼は帝国が大陸一の国であり、強い人間を身分に問わず取り入れる公明正大な国だと思っていた。だが、実際は、互いを高めるために競い合うことより、蹴落とす方に力を入れている場合が多いということを知り、帝国に英雄はいないと思い始めていた。あの時会った将軍達も、経歴を知れば知るほど、尊敬に値しない者ばかりということが分かり、ジンは失望していた。だからこそ、彼女の存在は、ジンに帝国にも英雄がいたという希望になった。

 だが、彼女の栄光も長くは続かなかった。魔族の大侵攻が勃発したのだ。

 魔族が真っ先に侵攻したのは、大陸最大の国土を持つ帝国だった。彼女は他の将軍達と共に軍を率いて魔族軍と対峙した。だが、結果は帝国軍の惨敗だった。帝国軍の兵士は、他国の兵士と比べれば精強だったが、魔族軍は雑兵であっても中級の魔物と同等かそれ以上の強さを持っていた。正面から戦った帝国軍は、今までにない大きな損害を被った。

 この非常事態に、彼女は他の将軍達と連携を取って戦うことを考えたが、どの将軍も協力しようとしなかった。彼らは、自分の実力のみを信じる者達ばかりで、協力し合うという考え自体なかった。それどころか、他の将軍より手柄を立て、優位になることばかり考え、独断で戦いを挑んで無駄に犠牲を出したり、あまつさえ他者の足を引っ張る者さえいた。もっとも、そんな将軍達は、部隊長クラスの魔族に弄ばれて無様に殺されることとなったのだが。

 そんな状況で満足に戦えるはずもなく、帝国軍は一か月どころか一週間も経たないうちに壊滅、魔族によって帝国は蹂躙されて崩壊することとなった。

 彼女は、一人でも兵士を逃がそうと殿を自分だけが務め、壮絶な最期を遂げた。他の将軍達が無様な最期を遂げたのに対し、彼女の最期は、英雄と言えるものだった。ジンがそれを知ったのは、生き残った兵士の一人に偶然出会い、聞き出せたからだった。ジンは、彼女の死を聞いて嘆くと同時に、帝国に英雄は彼女しかいなかったと憤るのだった。

ちなみに帝国における魔物の脅威度は、兵卒級、分隊級、大隊級、旅団級、師団級、軍団級、総軍級となっています。

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