第44話 未来の英雄との邂逅
若干加筆修正しました。
(・・・あれは・・・槍使いか。)
気配のした方に向かったジンの目に、手に槍を持つ一人の少女の姿が映った。彼女は、見た目はジンと同い年くらいで、長めの金髪をなびかせ、大きな木の前に立っていた。身なりも綺麗でしっかりしていて、知らない人間が見ても、身分の高い人間であることが窺えた。
(貴族の令嬢かな?それにしても、俺と同い年くらいに見えるのに、ここで修行しているなんて・・・。彼女も未来の英雄か?)
「・・・はっ!」
少女は、手にした槍を振り回すと、木に何度も穂先で突いたり切ったりした。その動きは、ジンが見ても見事に思えるほど洗練されていて、彼女が相当修練を積んでいたことが窺えた。
(見事な槍捌きだ。俺と同い年くらいなのに、剣より難しい槍であれだけ動けるなんて・・・凄いな。実力的には上位弟子より強い。俺でも勝てるかどうか。・・・でも、何者なんだろう?この時期に、この場所で修行している槍使いの女性の英雄なんていたかな?)
少女のことが気になったジンは、彼女に近付こうとする。すると、彼女はジンに気付いたのか、慌ててジンの方を向く。
「!誰だ!?」
少女は、整った顔立ちをしており、幼さが残っていたものの、どこか凛々しさを感じる美少女だった。突然現れたジンに警戒する表情を見せていたものの、その美しさは損なわれていなかった。男子なら、彼女の顔に思わず見惚れてしまったであろう。だが、ジンは彼女の修行を妨げてしまったと思い、そんな気など起こらなかった。
「あ、失礼。ここで修行していた人間です。まさか、他の修行者に会えるとは思っていなかったもので、気になって来たんです。邪魔をしたならすみません。」
ジンは、少女を驚かせたことを詫びる。それを聞いた少女は、構えていた槍を下した。
「・・・私の方こそ、すまない。気が立っていたようだ。」
少女は、どこか男のような口調でジンに詫びる。ジンは、少女の口調に少々驚くも、表情には出さず話を続ける。
「いいえ、そんなことはありません。・・・でも、ここで修行するなんて、かなりの腕前なんですね。魔物もいる危ない場所なのに。」
「魔物と言っても、出てくるのは精々兵卒級の魔物ばかりだ。恐れることはない。」
(兵卒級?魔物の脅威度のことか?この国でそんな名称は使われていない。他国から来た人間か?)
魔物には、その強さに応じて脅威度が付けられている。この国では、下級、準中級、中級、準上級、上級、特級、最上級の名称で呼ばれており、下級から順に脅威度が上がる。つまり、強くなっていく。グレーウルフやダッシュボアは下級、ブラックウルフは準中級に区分されている。だが、彼女の言った脅威度の名称は、クレス王国では使われていないものだった。
(確か、その名称を使っているのは、バーン帝国のはずだ。じゃあ、彼女は帝国の貴族なのか?)
「・・・失礼ですが、あなたはどこから来た人ですか?脅威度の名称とその身なりから見て、クレス王国の人間ではなさそうですね。」
彼女の正体が気になったジンは、彼女がどこから来たのか尋ねた。おおよそバーン帝国の人間だとは察してはいたが。
「鋭いな、君は。私は、バーン帝国の人間だ。」
「バーン帝国・・・。」
バーン帝国とは、クレス王国の隣国で、大陸一の国土と軍事力を持つ大国である。その軍事力は、帝国以外の国を合わせたとしても敵わないほどだと言われている。逆行前も大陸一の大国として君臨していたが、魔族の大侵攻によって大きな被害を受け、最終的には小国に成り下がってしまったのだ。
(やっぱりバーン帝国の人間だったか。まさか、隣国から修行しに来るとは。まあ、この場所が修行にいいのは他国も知っているからな。来てもおかしくないか。でも、何でわざわざここに?)
「そんな大国の人間が、どうしてこんな所で修行を?帝国にもいい修行場はあると思うんですが?」
「それは・・・私は・・・家では色々複雑で・・・修行できる場所がなかったんだ。だから、隣国まで行って修行する必要があるんだ。」
(後継者争いか。あの国らしいな。しかし、俺とそんなに歳の変わらない子供でさえ気を張らないといけないとは・・・貴族は大変だな。)
バーン帝国は、実力主義の国である。基本、長兄が家督を継ぐクレス王国と違い、バーン帝国では武門の家なら武芸に、学問の家なら頭脳に、魔法の家なら魔法に秀でた者が家督を継ぐことになっている。そのため、家族同士で競い合うことは日常茶飯事で、それが過激になって、相手への妨害すら行われることもある。これは、皇族であっても例外ではなかった。この競争社会が、軍事大国としてバーン帝国が大陸一となった理由であり、同時に魔族の侵攻に対応できず、戦後、急激に弱体化した原因でもあった。
「大変なんですね。自由に修行もできないなんて。」
「ああ。・・・だが、これはチャンスでもある。ここで実力を付け、必ず兄達に一泡吹かせてみせるつまりだ。雷槍さえ習得できれば・・・。」
「!雷槍?」
「あ!・・・何でもない。忘れてくれ。」
少女は、慌てて口を噤む。だが、ジンは彼女の言った【雷槍】に反応した。
(・・・雷槍。それは、バーン帝国の名門、ランサー家の秘伝の技のはず。・・・なら、彼女は・・・!)
少女の発言、そして、槍使いという点から、ジンは彼女の正体を導き出していた。彼女は間違いなく、未来の英雄だった。それも、ジンの知り合いの一人であった。
(・・・間違いない。彼女はバーン帝国の未来の槍将軍、フィディアル・ランサーだ。まさか、ここで修行していたなんて。)
バーン帝国は、分野で特に秀でた者には将軍の称号を与えている。そして、その人物の秀でたものの名を冠している。剣術が優れているなら剣将軍、魔法が優れているなら魔将軍といった感じである。この少女、フィディアル・ランサーは、逆行前は帝国一の槍術使いとして、槍将軍の称号を与えられていたのだ。
(・・・しかし、五体満足の彼女を見るのは初めてだな。逆行前は、一瞬、男だと思ったほどだったが、今の彼女はどこから見ても、女にしか見えないな。)
逆行前の自身の記憶の彼女と、今の彼女を姿を見比べ、あまりの違いに驚くジン。だが、それも当然のことである。ジンは、逆行前のこの時期の彼女を知らないのだから。




