第43話 第二段階の修行の秘密
「・・・うう!・・・死ぬかと思った!」
ジンは岸にしがみ付いてぐったりとしていた。ジンの想像以上に【クレスの滝】は過酷だった。三分もしないうちに、ジンは限界を感じたため、這う這うの体で滝から逃げ出したのだ。もし、あと一分、いや、十秒でも留まっていたなら、ジンは死んでいたであろう。それほどギリギリの状態だったのだ。
「目標は十分くらいだったのに・・・三分ももたなかったな。第一段階で鍛えてもこのざまとは・・・。・・・いや、鍛えていたからこそ生きていたと言うべきか。そうでなければ、岸まで辿り着くどころか、滝から出られないで死んでいたな。・・・そもそも、一分も持たなかっただろうな。」
ジンはやっとのことで陸に上がると、身体を温めるためにあらかじめて用意しておいた焚火のそばまで行く。そして、そこで横になった。体力には自信があったはずだが、それがたった三分でほとんどなくなっていた。
「鋼の肉体を手に入れるには程遠いな。・・・まあ、そんな簡単に手に入れば苦労はないな。あの拳神も、長い間修行して手に入れたんだ。俺みたいな凡人がアッサリ手に入れられるわけないな。・・・もう・・・駄目だ。・・・少し・・・休もう・・・。」
ジンは、少し休むつもりで目を閉じるも、消耗し切っていたため、すぐに眠りに就いてしまうのだった。
「・・・ん。」
太陽が真上に登った頃、ジンは目を覚ました。身体を起こし、体力がどれだけ回復しているか確認した。
(・・・少し休むつもりが、寝ていたみたいだな。・・・太陽の位置から見て、二時間くらいか。相当疲れていたんだな。・・・でも、おかげで体力はかなり回復したな。よし、飯を食べたら次の修行を始めるとしよう。ここに来る前に丁度いい場所を見つけたからな。)
体力の回復を確認したジンは、用意した昼食を食べることにした。パンに茹でたプロテス草とハムを挟んだ簡単なサンドイッチである。
「・・・うまい!こんなにうまいのに、何故不評なんだろうな?ケンド先輩までいらないなんて言うし。」
昼食を摂ったジンは、別の修行を行うべく、目的地へと移動するのだった。
数分後、ジンは目的の場所へと到着した。そこには、ジンの身長より遥かに大きな岩が一つあった。
「滝に行く最中にこいつを見つけられたのは本当に幸運だった。この修行には、とにかく堅くて丈夫なものが必要だったからな。」
ジンは、大岩の前に立つと、目を閉じて意識を集中する。
「・・・いくぞ!」
なんと、ジンは大岩を素手で殴った。身体強化を使わないで。ジンの手に、凄まじい激痛が走った。ある意味、滝行の時以上のものであった。
「ぐっ!・・・かなり痛いが・・・滝行に比べれば・・・!」
激痛に顔を顰めるジン。だが、痛いのは手だけであったのもあり、ジンはそのまま大岩を殴り続ける。当然、身体強化は使わない。さらには蹴りまで大岩にくらわせた。それにより、足も手同様に激痛が走ることとなった。数回しただけで、ジンの手足は傷付き、血が滲んでいた。
どうしてこんな自傷行為を行うのか。これも【超人法】第二段階の修行の一環だった。つまりは手足に傷付くほどの負荷をかけることで、手足を強化しようというのである。
当然、ただ傷付けるだけでは駄目である。この修行には、怪我をしても治す手段が必要になる。傷付いた肉体は治る際、今度は傷付かないようにと強くなる。そこをさらに傷付けて治すことで、さらに強くなる。それを繰り返すことにより、手足は強靭になるのである。だが、いくら強くなるからといって、こんな無茶苦茶なことをやる人間はまずいないだろう。怪我を治す手段を用意していたとしても、あまりに心身の負担が高いのだ。だが、こんな無茶苦茶なことをやっていた人間をジンは知っていた。
(本当に身体を徹底的に痛め付けるものだな・・・。ナックルはこんな無茶苦茶なこと小さな頃からしていたのか・・・。英雄になれる人間は違うな。)
ナックルが自分を鍛えるために行っていた修行を基に、第二段階の修行法は作られていた。ナックルの修行は、自分で身体を意図的に傷付けたり痛め付けたりして、それで傷付いた身体を今度は治癒して自己強化するということを繰り返すという過酷なものだった。そうやって彼は、鋼の肉体を手に入れたのだ。その凄まじさは、修行内容を聞いた者が誰しも引くくらいであった。ジンもその一人である。
さすがにそれをそのまま使うことはできないとジンは判断し、普通の人間でもできるレベルに落とし込んだのが、第二段階の修行である。だが、それでも第一段階の修行を行っているのが前提だが。
そんな第一段階の修行をして強化していたジンでさえ苦痛を覚えるほどのこの修行に、ジンはナックルの凄さを改めて感じていた。
どれほどの時間が経過したか。ジンの手足は、血のせいで真っ赤に染まっていた。だが、ジンはそれでも大岩を殴るのをやめなかった。ただ無心に殴り続けているうちに、痛み感じなくなっていたのだ。それだけジンは、岩を殴ることに集中していたのだ。
(・・・?)
岩を殴り続けていたジンは、何かの気配を感じ、手を止めた。
(・・・魔物の気配・・・じゃないな。これは、人間の気配だ。・・・俺と同じ修行者か?)
この地は、実力のある人間が修行に訪れることがある。ジンは、その類の人間だと思った。
(・・・気になるな。どんな人間か見てみるか。)
気配を感じた場所に行こうとしたジンだが、その瞬間、手足に激痛が走った。
「いってー!」
あまりの激痛に、ジンはその場に倒れ込んだ。痛みの原因をジンはすぐに把握した。
(・・・修行に集中していて痛みを忘れていたのが、集中力が切れたせいで痛みが戻ったのか・・・!・・・まずは、傷を治さないとな・・・!)
ジンは、持ってきていた荷物から液体入りの瓶を取り出し、中の液体を飲み干した。ジンの傷が、見る見るうちに塞がっていった。怪我を治すために用意していた手段が、この回復ポーションである。一般的な回復薬は、自然治癒力を促進して治りを早くするだけだが、回復ポーションは飲むだけで瞬時に外傷を治してしまうのだ。高価なものとなれば、外傷はおろか、骨折や臓器の損傷、部位欠損すらも治してしまう高性能な薬なのである。当然、回復薬に比べて値は張るが、今のジンは、村の人達から出してもらった支度金と、アレンからもらった報酬があり、購入することができたのだ。
(さすがにポーションはよく効くな。安い薬だと、結構時間がかかるからな。村の人達とアレンに感謝しないとな。)
傷が治ったのを確認したジンは、立ち上がると気配のした方に向かうのだった。




