第42話 自由日の修行
王都付近の森を、ジンは一人走っていた。普段なら道場で修行をしているはずの時間だが、ジンは王都の外に出ていた。今日は自由日だからである。
通常、ハート流の門下生は、レオンの許可があるか特別な理由のない限りは道場から出ることを許されておらず、厳しいルールの下で生活し、修行に明け暮れている。だが、一週間に一日だけ、道場を出ることが許される自由日と呼ばれる日がある。この日は基本的に自由行動が認められ、町に出て遊んだり、修行に関係ないものを買ったり、成人していれば飲酒したりすることができる。さすがに異性との交際は禁止されているが。
大抵の門下生は、息抜きのために遊びに行くことが多い。だが、ジンはこの日を利用して、新しい修行を行うべく、王都の外に出ていたのだ。
王都クレスティアは、都会というイメージがある一方で、近辺には広大な森や険しい山などがあり、そこは修行に適した場所なのである。王都に剣聖の道場があるのもそれが理由である。もっとも、同時にその場所は過酷であり、魔物もよく出没するため、実際に修行する者は実力者に限られる。入門したての子供が立ち入る場所ではないのである。だが、ジンにとって更なる強さを得るためには、この地に足を踏み入れる必要があった。
(【超人法】第二段階の修行を行うのに適した場所がある。今日はそこで修行だ。・・・む!)
走りながらジンは、目の前に魔物がいるのを確認する。魔物は、村でも戦ったことがあるウルフ種の魔物だった。その毛色から、グレーウルフであることが分かった。
(・・・無理に相手しなくてもいいけど、奴はそうじゃないだろう。・・・倒すか。)
ジンは、一瞬でグレーウルフに近付くと、首を刎ねて仕留めた。グレーウルフが倒れると同時に、ジンはその場を立ち去っていた。もし、この場を見ていた人間がいたとしたら、グレーウルフが突然首を刎ねられて死んだ風にしか見えなかっただろう。それから何回かジンは魔物と遭遇するも、グレーウルフと同じような末路を辿った。既にジンは、この地で修行を行えるほどのレベルに達していたのだった。
「・・・よし、着いたぞ。」
しばらくして、ジンは目的地に到着した。そこには、見上げるほど高い切り立った崖と大きな滝があった。水の落ちる音が周囲に響き渡り、離れていても聞こえるほどうるさかった。
「【クレスの滝】。逆行前に何度も来たことがあるが、いつ見ても壮観だな。」
【クレスの滝】。建国王クレスがまだ無名の頃、修行の場として使っていたとされる由緒正しき滝である。クレスはこの地で後にクレス王国の建国することとなる仲間達と共に修行に明け暮れた。そして、最終的にクレスは、この巨大な滝を斬撃で切り裂いたとされている。
今回、ジンがここに来たのは、建国王クレスにあやかるためではなく、【超人法】第二段階の修行を行うためである。
「ここなら、【マナの呼吸】でマナを大量に取り込むことができる。・・・そして、あの滝。あれが第二段階の修行に一番必要なものだ。」
ジンは、服を脱ぐと滝に向かっていく。滝に近付くにつれ、滝の音は大きくなっていき、水飛沫も飛んできた。滝の目前まで来た時には、ジンの全身はずぶ濡れになっていた。
「・・・。」
間近で滝を見るジン。遠くからでも迫力があった滝だが、ここまで近付くと迫力より恐怖を覚えた。
「・・・いくぞ。」
ジンは、意を決して滝に飛び込む。全身が激流に晒され、凄まじい痛みと衝撃がジンに伝わる。
(ぐっ!想像以上だ・・・!だが、これでいい・・・!)
【超人法】第二段階。それは、肉体をただひたすらに鍛え上げ、身体強化がなくもと素手で岩を砕き、鎧を着なくても剣を弾くほどの強靭な身体を手に入れることである。そこまで聞けば、第一段階と変わらないように感じるが、実際は違う。第一段階の目的は、あくまで本格的な修行を行うための身体作りにすぎない。負荷も身体の動きを抑制する程度でしかない。だが、この第二段階の修行は、肉体に物理的な負荷を与え続けることで強化するというとんでもない修行なのである。そのため、全身に絶えず苦痛と衝撃を与え続ける滝に打たれるという行為が修行に適しているのだ。
(最初は慣れることが重要だ・・・!滝行から始めよう・・・!)
ジンは、滝の真ん中ほどまで行くと、そこでジッと立ち尽くす。そして、滝から流れ落ちる大量の水を浴び続けるのだった。




