第41話 拳神の秘密
拳神。本名はナックル・グラー。逆行前、何の武器も持たず、その肉体のみで戦い、多くの敵を倒した英雄の一人である。魔王討伐隊の一員でもあり、ジンと面識があった人物でもある。
彼は、鋼の肉体と呼ばれるほど頑丈な身体の持ち主であり、その身体は、どんな切れ味のいい剣であろうと、鋭い槍であろうと、決して傷付けることができなかった。そして、その肉体から繰り出される拳法の数々は、頑丈な鎧を纏おうと、まるで意味をなさず、易々と貫いた。
最後の脅威、魔王との戦いでも大いに活躍し、魔王に手傷を負わせ、勇者を守るためにその身を盾にするという壮絶な最期を遂げた。ジンの脳裏にも、彼の偉大な姿は刻まれていた。ジンが真の英雄と認めている者の一人である。
ジンは、彼と話す機会が何度もあった。そこでジンは、彼の強さの秘密を聞いた。てっきり断られると思っていたジンだったが、彼は快く教えてくれた。
最初、ジンは彼が、天賦の才があるからこそ、ここまで強くなったのだと思っていた。だが、実際は違った。彼がここまでの強さを得られたのには、意外な理由があった。
「俺がここまで強くなった理由か?当然、日々の鍛錬!・・・と言いたいところだが、それだけじゃない。・・・実はな、俺の故郷で採れるある植物のおかげでもある。」
「ある植物?」
「プロテス草と言ってな、俺の故郷ではどこにでも生えている珍しくない草だ。だが、生長が早く、植えれば大抵の場所では生育できる生命力の強い草でな、食料の乏しい故郷では、日常的に食われている。パンよりこいつの方が食われているくらいだ。何せ、俺の故郷の村は、貧しいからな。だから、俺も出稼ぎのために冒険者になったんだ。」
「・・・その草を食べると、身体が丈夫になるんですか?」
「ああ。俺の故郷の人間は、ガキから年寄りまで、怪我どころか病気にかかる人間もほとんどいない。それだけ凄い草だ。だから、俺が拳神だなんて呼ばれたのは、まさにその草のおかげだ。」
「・・・なるほど。」
その時、ジンはまだ半信半疑だった。そんなありふれたものが秘訣など、英雄を天才の集まりとばかり考えていたジンには信じられなかったのだ。だが、彼が嘘を吐くような人間ではないことも分かっていたため、もしかしたら本当なのかとも思っていた。
そのため、魔王との戦いが終わった後、ジンはプロテス草を調べてみることにした。だが、個人では調べるのが難しいと判断し、ジンは国の研究機関に協力を依頼した。世間では大英雄と思われていたジンの頼みだったことで、研究機関はそれを快く了承してくれた。その結果、この草を日常的に摂取した場合、病に対する抵抗力が付き、肉体強度も若干増すということが判明した。ナックルの言葉は正しかったのだ。もっとも、大量に摂取しようと、少量しか摂取しなくても、効果はそこまで変わらないことも判明した。ただ食べれば強くなれる魔法の草なのではなかったのだ。
更に研究が進み、効果が現れるには、長期に亘って摂取する必要があることが判明した。短期間で大量に摂取しても無意味だったのだ。そして、摂取後三十分以内に鍛錬を行うことで、更に効果が増すことが判明した。もちろん、これも長期間行わなければならない。ナックルがあそこまで強くなれたのは、日常的にこれを食し、尚且つ鍛えてきたことが理由だったのだ。
プロテス草の価値-肉体が強くなることより、病気に強くなることに一番価値が見出された-が判明した後、彼の村ではプロテス草の栽培が一大産業となり、一気に豊かになった。そして、それを判明させたジンも、相応の収入を得ることができた。もっとも、ジンは、この草の効能がもっと早く分かっていれば、英雄達はもっと強くなり、大勢の英雄が生き残ることができたのではないかと思い、悔しい思いをすることになったが。
「やっぱり、師匠の力は凄い。これを簡単に手に入れられたんだから。」
ジンは、大きな荷物を抱えて廊下を歩いていた。ジンの思った通り、レオンの許に来た荷物は、ジンの頼んだものの一つ、プロテス草だった。
(まあ、頼んだものの中で一番手に入れられやすいものだったからな。まずは、こいつで身体の強化を補助しよう。)
「?ジン。その大きな荷物は何なんだ?」
そこに、門下生の一人が声をかけてきた。中位弟子の一人のようだが、ジンは彼の名前は知らなかった。上位弟子の顔と名前は全て覚えていたため、彼が中位弟子以下の門下生であることは確かだった。
「修行に使う大切なものです。」
「修行に?修行用の機材か?」
「いいえ、草です。」
「・・・草?」
予想外のジンの言葉に、門下生は思わず聞き返す。
「はい。草です。でも、ただの草ではありません。身体にいい草です。これを毎日食べ続けると、病気にかかりにくくなりますし、身体も強くなります。」
「へー・・・。・・・!まさか、その草を食べるのか?」
「はい。そうだ。試してみますか?」
「・・・いや、いい。・・・じゃ、じゃあな。俺は、まだ慣れる鍛錬をやってるからな。」
身体にいいとはいえ、草を食べるように言われた門下生は、もっともらしい言い訳をすると、そそくさとその場を後にする。残されたジンは、早速準備をすべく、厨房へと向かうのだった。
「・・・さて。」
厨房に到着したジンは、荷物を開ける。想像の通り、そこには大量のプロテス草が詰まっていた。
「・・・これを料理して食べる。さて、どんな料理がいいかな?」
ジンは、自分の記憶にある料理を思い浮かべる。そして、一つの料理にした。
「・・・野菜炒めにしよう。これなら、誰でも美味しく食べられるはずだ。」
ジンは、野菜とプロテス草を一緒に炒める。そして、見るからに美味しそうな野菜炒めを作った。
「・・・見た目はよし。・・・さて、味の方はどうかな?」
ジンは一口、野菜炒めを食べてみる。口一杯に、野菜の甘みとプロテス草の苦味が広がる。
(・・・苦いな。けど、魔物の心臓と比べたら、大したことはないな。これなら、道場の皆でも食べられそうだ。)
「?ジン。何してるんだ?」
野菜炒めの味を確かめているジンの許に、匂いに釣られたのか、門下生の一人が厨房に顔を出した。彼の名前もジンは知らなかったため、中位弟子以下の門下生だと理解した。
「今日から食べることになるプロテス草を使った料理です。」
「プロテス草?聞いたことないな?」
「まあ、食べてみてください。美味しいですよ。」
ジンは、門下生に野菜炒めを試食させる。門下生は、一口野菜炒めを口に入れる。すると、物凄く苦しそうな顔をする。
「・・・なんだよこれ・・・?・・・苦過ぎだろ・・・!」
「そんなことありません。これより苦いもの、俺は食べたことがありますから。」
「・・・まさか、こいつを俺達食べるのか?」
「はい。そもそもこれは、毎日食べないと効果がありません。でも、効果は保証します。食べ続ければ、丈夫な身体を・・・。」
「・・・悪いけど、これを食べるのはお前だけにしてくれないか?マズ過ぎる・・・。」
「え?」
そう言い残すと、門下生は厨房から逃げるように出て行く。ジンは、何がいけなかったのか分からないと言った様子で、唖然とするのだった。
結局、門下生達の猛反対を受け、これを食べるのは、ジンと興味を持ったレオンだけということになった。ジンは、どうして皆嫌がるのか理解できなかった。




