第4話 効果抜群
「・・・やっぱり、森の中を歩くのが、一番鍛錬になるな。」
ジンが、【超人法】を実践してから一週間。最初こそ、魔力も体力も簡単に尽き、周りの人間から病気ではないかと心配されていたが、現在では、軽い運動くらいなら問題なくこなせるようになっていた。
今日は、いつも薬草採取を行う森を歩いていた。森は、道が整備されていないため、ただ歩くだけでも子供にはいい運動になる。おまけに、ジンは別の修行を同時に行っていた。
「・・・【マナの呼吸】の効果は抜群だな。さすがは、森の民エルフの呼吸法だ。」
今、ジンは、人間がいつも行っている呼吸とは別の呼吸をしていた。それが、【マナの呼吸】と呼ばれるものだった。
この呼吸は、森の民と呼ばれるエルフ族の呼吸法で、草木が自然に放出する魔力-魔術師達はマナと呼んでいる-を自身に取り込むことができるのだ。これにより、エルフは他の種族に比べて、高い魔力量を誇るのだ。
当然のことだが、この呼吸は、自然の多い場所でしか意味をなさない。自然の少ない人間の町などでは、ただの呼吸と同じになってしまう。だから、エルフは町を嫌い、ほとんど人前に姿を見せることはないのだ。
(この呼吸を、生まれた時から森の中の里でやっていれば、それは魔力も増えるよな。以前の俺も、試しにやってみて効果があると分かってはいたが、子供だとこんなに効果があるとはな。)
ジンは、自身の体内の魔力が徐々にだが増幅していく感覚を感じていた。その感覚に、ジンは内心ガッツポーズをしていた。
(魔力が多ければ、色々使い道がある。それに、将来的に魔法も視野に入れられるな。・・・今はまだ、身体が幼いから、許容量は少ないが・・・これから成長していけばいい。今、一番重要なのは、身体を鍛えることなんだからな。)
「・・・さて、折角ここまで来たんだから、薬草でも採って・・・。・・・?」
その時、獣道の先の方を、兎が通りかかる。
「・・・丁度いい。まだ一週間だが、どれくらい強くなったか確かめてみるか。」
ジンは、護身用に持ち歩いているナイフを抜くと、身体にかけていた魔力を解除し、兎に向かって駆け出す。ジンは、一瞬で兎の目の前に躍り出ていた。
「!?」
ジンは、自身のスピードに驚愕しつつも、ナイフで兎の首元を切りつける。兎は、首元を切られ、夥しい血を流しながら息絶えた。
「・・・マジか?・・・まだ一週間だぞ?・・・しかも、俺には才能なんて何もない、凡人だっていうのに・・・?」
子供とは思えないほどの強さに、ジンは困惑する。【超人法】の効果は、ジンの想像を絶するほどだった。
「・・・いける!この調子で頑張っていけば、俺は足手まといになんてならない・・・!」
驚異的な成長に、ジンは、驚きもするが、同時に自信も持つ。すると、その時、ジンの目の前に、また兎が出てきた。
「・・・そういえば、修行だけじゃ駄目だったな。いいもの食べないと、な!」
「・・・お前が?こんなに兎を?・・・信じられん・・・?」
村に戻ったジンは、狩った兎を森の入り口を見張っている村人に見せる。それを見た村人は、あり得ないものを見たような顔をしていた。
「本当だよ。全部、俺が狩ったんだ。」
「・・・一羽なら分かるが、五羽も狩るなんておかしいだろう。」
「でも、俺以外森に入ってないよ。」
「・・・確かに。・・・なあ、まさか、遠くまで入ったんじゃ・・・?」
「入ってないよ。ちゃんと、言われた所までしか入ってないよ。そうでないと、危険な動物に襲われるし、魔物だっているもん。そんなの怖くて行けないし、無事に戻ってこれないよ。」
「・・・そう・・・だな・・・。」
まだ十歳にも満たないジンが、兎を五羽も仕留めるなど難しい。村人は、不審に思いながらも、それ以上追及することはなかった。
「・・・じゃあ、この兎は、獲った俺のものだね。」
「・・・ああ・・・。」
この村では、動物を狩れば、狩った人間が所有権を主張できる。だから、この兎は、ジンのものとなるのだ。
だが、この村は、食べるものに困っていないとはいえ、そこまで裕福というわけではない。収入源も薬草くらいしかないのだ。そのため、村にもある程度還元することが求められているのだ。だから、暗黙の了解で、獲物の半分は、村の取り分とすることになっていた。
とはいっても、さすがに子供の取り分を大人が取るというのは、何だか大人げなくて、村人はそう言うのは気が引けた。
「じゃあ、獲った兎のうち、三羽は村の人達にあげる。俺は、二羽でいいから。」
「え?」
ジンの提案に、村人は面食らう。まさか、子供のジンが、そんなことに気を遣うなどとは思わなかったのだ。
「・・・いいのか?お前が三羽でもいいんだぞ?」
「いいよ。どうせ、また獲りに行けばいいから。」
「!?」
ジンの言葉に、村人は困惑する。
「じゃあ、またね、おじさん。」
そう言うと、ジンは兎を三羽置いて、残り二羽を持って家に帰るのだった。
残された村人は、唖然とした様子でジンを見送るのだった。




