第32話 武器職人ガンツ・ストーン
「ここが、ガンツさんの店だよ。」
レオンに連れられ、ジンはガンツの店の前に来ていた。店は、有名な職人の店とは思えないほど小さく、普通の店と同じくらいの大きさだった。
(・・・有名な店ともなれば、普通の店より遥かに大きいはずだ。でも、彼の店はそれと同じくらいか少し大きい程度だな。・・・まあ、金ではなく、自分の選んだ相手のためにしか武器を作らないんならそうなるか。)
「彼は、礼儀に厳しい人だ。くれぐれも気を付けるように。」
「・・・分かりました。」
「・・・ガンツさん、私です。レオンです。」
扉をノックし、レオンはジンを伴って店に入る。
「・・・!」
店内に入ったジンは、その光景に目を疑う。ガンツの店の中には、彼が作ったであろう武器が数点置かれているだけで、他には何もなく、店員の姿さえなかった。そして、作業場があるであろう奥から金属を叩く音が聞こえてくるだけだった。
(・・・剣が三本、槍が二本、か。思っていたより少ないな。種類もだ。普通の武器屋なら、十数本はあるし、色々な種類の武器が置いてあった。おまけに誰もいない。普通なら、店員が対応するはずだ。)
外観はおろか、内部まで思っていたのと違うガンツの店の雰囲気に、ジンは戸惑う。そんなジンを尻目に、レオンは店の奥の方に声をかける。
「ガンツさん、レオンです。今大丈夫ですか?」
すると、しばらくして奥の方から声が返ってくる。
「・・・レオンか。・・・ちょっと待ってろ。今手が離せん。」
「構いません。待ちますから。」
「・・・。」
そのやり取りがあった後は、声が返ってくることはなかった。
「・・・ジン。少し時間がかかると思うから、その間この店の武器を見ておくといい。手に取ってみてもいい。」
「いいんですか?」
「傷付けたりしなければ大丈夫だよ。」
「・・・はい。」
レオンに言われ、ジンは置かれている剣を一振り手に取る。
(・・・これは!凄い!師匠からもらった剣の比じゃない!いや、逆行前に使っていた俺の剣より遥かにいい出来だ!)
ジンは、他の武器も手に取ってみる。どれもこれもいい出来で、それだけでガンツの技量を知ることができた。
十分くらいが経過し、店の奥から一人のドワーフが現れる。
「すまんな。丁度いい鉄が手に入ってな。試しに打っていたところだった。」
「構いません。事前に何の話もしていませんでしたし。」
「・・・師匠。この人が・・・。」
「そう。この人が、ガンツ・ストーン氏だ。ガンツさん。この子はジン。私の新しい弟子です。」
「は・・・初めまして!ジン・ブリッツです!」
ジンは、緊張しながらも挨拶をする。
「・・・ガンツだ。レオン、今回は何の用だ?」
「剣聖祭に使う剣を頼みに来ました。」
「・・・そうか。もうそんな時期か。分かった。剣は、いつものでいいんだな?」
「はい。いつもの通りのオーダーでお願いします。・・・それと、これはあくまでガンツさん次第なのですが、彼の武器も作ってはもらえないでしょうか?」
レオンは、自身の依頼を伝えると、ジンの武器の作製も依頼する。これは、あくまで任意であるが。
「・・・この小僧のか?・・・わしに頼むということは、お前さんの眼鏡に叶う弟子なのか?」
「ええ。この歳でレッサーフェンリルや大勢の盗賊と戦えるだけの強さがあります。」
「・・・なるほどな。まあ、そうでもないとお前さんがわざわざ連れてくるはずがないな。・・・。」
レオンの話を聞いたガンツは、ジンを凝視する。まるで自身の内を見通さんとするようなその圧に、ジンは思わず身体を強張らせる。
(・・・武器を作るに値する人間かどうか見ているのか?・・・俺は・・・何て言われるんだ?)
しばらくガンツは、ジンを見つめていたものの、徐々にその表情は強張っていく。
「・・・小僧。・・・お前、幾つだ?」
「・・・え?・・・十二歳・・・です・・・。」
「・・・。」
唐突に歳を聞かれ、ジンは戸惑うも自分の年齢を言う。すると、ガンツの表情は更に険しいものに変わる。
(・・・どうしたんだ?・・・まさか、駄目とか・・・?)
ガンツの次に発せられるであろう言葉に内心ビクビクするジン。だが、ガンツから出た言葉は、ジンの想像していたものとは違っていた。
「・・・いいだろう。お前のために武器を作ってやる。」
「・・・え?」
「ガンツさん。それでは・・・。」
「ああ、作ってやる。で、小僧。どんな武器が欲しい?」
「・・・あの・・・俺に武器を?・・・本当に?」
「ああそうだ。いいからどんな武器が欲しいか言え。」
「・・・。」
武器を作ると言うガンツの言葉に、ジンは感動した。あのガンツが、自分の武器を作ってくれると言ってくれたのだから。
「・・・ええと・・・剣です。大剣ではなく、このショートソードみたいな。」
ジンは、自分の剣をガンツに見せる。ガンツはそれをマジマジと見ると、紙に何かを書いていく。
「・・・種類は片手剣、長さはショートだな。・・・すまんが小僧、ちと身体を触らせてくれ。」
「・・・はい。」
ガンツは、今度はジンの身体を触り出す。腕や肩を重点的に触ると、フムフムといった様子でまたしても紙に書き出す。
「・・・小僧。確か、レッサーフェンリルと戦ったそうだな?だったら、そいつの牙か爪でも持ってないか?あれば使ってやるが?」
「あ、あります。師匠、奴の牙を。」
「これです。」
レオンはジンの倒したレッサーフェンリルの牙をガンツに手渡す。
「・・・こいつはいい牙だ。レッサーフェンリルの牙はよく見てきたが、こんなにいいのは滅多にないぞ。相当強いレッサーフェンリルだったんじゃないのか?」
「は・・・はい。かなり強かったです。だから、俺一人ではなく、仲間と協力して倒しました。」
「なるほど。いいだろう。こいつを使っていい武器を仕上げてやる。楽しみにしていろ。」
「は・・・はい!ありがとうございます!」
ジンは、まるで無邪気な子供のように喜び、深々と頭を下げるのだった。・・・いや、まだ子供であったが。




