第2話 戻ってきた男
「・・・あれ?」
ジンは、ベッドの上で目を覚ましていた。だが、何か様子がおかしいことにジンは気付いた。ここは、自分の家ではなかったからだ。
(・・・どこだ、ここ?・・・あれ?)
ジンは、自身の身体に違和感を覚える。やけに、身体が小さく感じる。
上体を起こしたジンは、周囲を見渡す。すると、窓に映る自分の姿を見、愕然とする。
(!?これは・・・子供の頃の・・・俺!?・・・どういうことだ・・・!?)
「おはよう!ジン!」
事態が呑み込めないジンだったが、その時、ドアを開け、少女が入ってきた。
「!?」
「あ、起きてたんだ。珍しいね。」
(・・・嘘だ・・・!・・・彼女は・・・!)
目の前の少女に、ジンはさらに驚愕する。彼女は、ジンの幼馴染、マリー・ハイトだったのだ。だが、彼女はジンが皆伝を受けた次の年に魔物の異常発生により故郷が襲撃され、ジンの目の前で死亡したのである。
(・・・何で・・・マリーが・・・!?・・・それに、彼女も子供の姿だ!どうなってるんだ・・・!?)
「早く起きないと、おばさんに怒られるよ。」
「!・・・ああ・・・分かった・・・。」
マリーはそう告げると、部屋を出て行く。ジンは、状況が整理できず、困惑したままであった。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかず、着替えると-着替えの場所は、記憶にある通りだった-部屋を出る。そして、そこでの光景に、再び困惑する。
「おはよう、ジン。」
「またマリーちゃんに起こしてもらったのか・・・。いい加減、一人で起きられるようにならないか。男だろう。」
そこには、マリー同様、異常発生で死んだはずのジンの両親がいた。ジンの母は、優しそうに微笑みかけ、父は困った表情を見せ、椅子に座っていた。
「・・・父さん・・・母さん・・・。」
ジンの目に、涙が浮かぶ。突然、息子が泣き出したことに、両親は困惑する。
「ど・・・どうしたの、ジン?」
「そ・・・そんなに厳しく言った覚えはないぞ!?」
「・・・ごめん・・・目にゴミが・・・入っただけ・・・。」
ジンはそう言うと、涙を拭うのだった。
「・・・どうやら、俺は過去に戻って来てしまったみたいだな。」
目覚めてから数日、ジンは自身の身に起こったことを冷静に考えていた。そして、自分が過去に戻ったのだと結論付けた。
(どうして過去に?しかも、俺が八歳の頃に戻ったんだ?・・・意味が分からない。神の御業か・・・それとも悪魔の悪戯か・・・。)
原因は分からないが、自分がこうして過去に戻ったことは事実である。それは、覆しようのないことだった。
理解不能の事態に戸惑いを覚えるも、ジンは悲観してはいなかった。
(・・・もしや、これはチャンスじゃないか?今の俺は、まだ十歳にも満たない子供だ。今から鍛えていけば、逆行前より強くなれるはずだ!前の時間で修行を始めたのは、十五になってからだったからな。俺みたいな凡人なら、早い方がいいに決まっている。それに、修行に関しても、【超人法】がある。こいつは、凡人が強くなるためのもの。俺みたいな人間にはもってこいだ。おまけにあれは、子供からでも適用できるよう考えたんだ。今の俺にはもってこいだ!しかも、俺には将来、どんなことが起こるかも知っている。これを駆使すれば・・・!)
逆行前にはなかった多くの要素が、今の自分にはある。彼の、燃え尽きていた夢への情熱が、再び燃え上がろうとしていた。
(・・・今度こそ、英雄になってやる!そして、失ったものを取り戻す!)
「ジン!」
ジンは、そう決意すると、早速行動に移そうとするのだが、不意に声をかけられ、声のした方を向く。そこには、自身の幼馴染のマリーがいた。
「・・・マリー。どうした?」
「ジン。今日は、森で薬草採りに行くんでしょ?」
「・・・ああ・・・そうだった・・・。」
ジンは、今日はマリーと薬草採取に行くことを思い出した。
薬草は、この村唯一の収入源であり、大人から子供まで、多くの人間が駆り出されていた。今日は、自分達も手伝いに行く日だったのだ。
「・・・今日は、休みってわけには・・・。」
「駄目。こないだもそうだったじゃない。」
「・・・分かったよ。」
ジンは、渋々マリーと共に、薬草採取に行くのだった。