第17話 村の守り神
レッサーフェンリルに向かっていくジン。それを見たレッサーフェンリルは、ジンを敵と見定め、跳躍する。たった一度の跳躍で、レッサーフェンリルはジンの目の前に降り立つ。
「!」
「ガルル!」
レッサーフェンリルは、鋭い牙でジンを噛み千切ろうとする。ジンは剣で牙を弾くも、レッサーフェンリルは今度は前足を振り上げ、爪による攻撃を仕掛ける。牙同様、爪も鋭かった。ジンは、それも剣で弾く。
二度の攻撃をいなされたレッサーフェンリルは、一旦、ジンから距離を取る。
(・・・今度は何をする?)
すると、レッサーフェンリルは、凄まじい咆哮を上げる。何も知れない人間なら、ただ鳴いただけにしか思えないが、ジンは瞬時にレッサーフェンリルの正面から離れる。その直後、ジンの今までいた場所が、何か強い衝撃を受けたかのように大きく凹む。
(・・・フェンリルの咆哮か!レッサーでこの威力とは・・・!)
フェンリルの咆哮は、強力な衝撃波でもある。直撃すれば、石造りの建物でも粉々にしてしまうのだ。レッサーであるが故に、威力は低かったが、それでも直撃すれば、ジンは意識を失ってしまうだろう。
(逆行前の俺なら、回避など夢のまた夢だったな。・・・だが、今の俺なら・・・!)
ジンは、自身にかけていた抑制を解除すると、身体強化魔法を発動する。そして、レッサーフェンリルに向かって再度向攻撃を仕掛ける。
「!?」
ジンの動きに、レッサーフェンリルは驚愕する。先ほどまで視認できた動きが、視認できなかったのだ。
「そこ!」
「!」
ジンの剣が、首元を狙って振り下ろされる。間一髪、レッサーフェンリルは、身体を逸らせて回避するも、身体に少し、擦り傷が付けられる。
(野生の勘ってやつか?だが、まだまだ!)
ジンは、尚も攻撃を続ける。最初の数回は、何とかかわしていたレッサーフェンリルだったが、徐々にジンの剣はレッサーフェンリルの身体を捉えていき、ついにレッサーフェンリルの頭部に直撃する。
「ギャン!?」
思わぬ攻撃を受けたレッサーフェンリルは、悲鳴を上げるとその場に蹲る。一方、ジンの方は、レッサーフェンリルの頑丈さに舌を巻く。
(・・・見た目はウルフなのに、何て頑丈なんだ。伊達に神獣の幼体と言われてはいないな。この剣じゃ切れない。・・・どうやって倒す?)
斬り殺せないなら、叩き殺すべきか。だが、どのくらい時間がかかるだろうか。それなら、もっといい方法があるんじゃないのかと、ジンは考える。その間も、レッサーフェンリルに対する警戒は解かないでいた。
『・・・貴様・・・何故私を襲う・・・?』
「!?」
突然、どこからか声が聞こえ、ジンは周囲を見渡す。だが、ここには自分以外に人間は見当たらなかった。
「・・・どこから声が・・・!?」
『・・・私だ。・・・貴様の目の前の・・・。』
「!?」
目の前と聞き、ジンは驚愕する。目の前にいるのは、蹲ったレッサーフェンリルだけなのだ。
「・・・お前か、声の主は。・・・もしかして、高位の魔物が使えるとされる、【念話】か?」
『・・・詳しいな。・・・そうだ。私は【念話】を使って貴様と話している。』
(・・・フェンリルなら話せると聞いたことはあるが、レッサーの段階で話せる事例は僅かだったはず。まさか、この個体がそうだったとは・・・。)
「・・・いきなりなんで話をする?」
『いきなりは貴様の方だろう。何の前触れもなく、殺気を殺して向かって来たのだから。』
「あー・・・確かに、お前にとっては俺が災いか。悪かったな。」
ジンは、謝罪すると武器を地面に置く。だが、決して警戒は解かなかった。
「俺は、強くなるために修行している。だから、俺の力がどのくらいか知りたくて、ここに来たんだ。」
『・・・そのために、私は襲われたのか?・・・恐ろしい人間だ。』
「人間にとってみれば、お前の方が怖いんだけどな。お前の力なら、俺の村の人間を簡単に皆殺しにできるからな。」
『私はそんなことはしない。少なくとも、人間と争う気はない。』
「・・・でも、万が一って可能性もあるだろ。何かの理由があって、近くの村を襲うってことも・・・。」
『村?・・・貴様、あの村の人間か?』
「?俺の村を知ってるのか?」
『ああ。私と私の母は、大昔、あの村の人間に助けられたのだ。当時、生まれたばかりの私と、私を産んだばかりの母は、別のレッサーフェンリルに襲われそうになった。そこに、一人の人間の戦士が現れ、そいつを打ち倒したのだ。それ以来、助けてくれたあの男との約束で、陰ながらあの村を守っている。』
「え?俺の村に魔物が来ないのは、そんな理由があったのか?」
自分の知らない事実に、ジンは驚愕する。逆行前も今も、そんな話を聞いたことはないため、信じられなかったのだ。
『本当だ。あの村が魔物の縄張りのすぐ近くにあるのに魔物に襲われないのは、私と母が守っていたからだ。魔物に睨みを効かせたり、適度に魔物を狩って、異常発生しないように間引いたりしているのだ。だが、五十年ほど前に、私がレッサーフェンリルになったことで、母は引退してこの地を去り、今は私だけで守っている。』
(・・・そんなことがあったのか。俺の村は、昔は強い人間がいっぱいいたらしいから、助けたのはその人間の誰かだな。でも、魔物が襲ってこないことにそんな理由があるとはな。全然知らなかった。逆行前の知識だけを充てにしては駄目ってことだな。そういったことも、王都に行ったらちゃんと調べておかないとな。)
「・・・?じゃあ、お前は村を本当に襲う気はないのか?」
『だから、何の話だ?貴様のように、殺しに来るのなら話は別だが・・・理由もなく襲うような真似はしない。貴様と違ってな。』
「・・・。」
(・・・逆行前の村の人達が、こいつを襲うなんてことするわけがない。魔物と戦うことすらできないし、そもそも、こいつの存在自体知らなかったんだ。・・・だとすると・・・。)
レッサーフェンリルの話を聞き、ジンは嫌な予感がした。もしかしたら、自分はとんでもない勘違いをしていたのかもしれないと。
(将来村を襲うレッサーフェンリルは、こいつじゃなかった!別のレッサーフェンリルだ!こいつを殺して縄張りを乗っ取り、魔物達を嗾けたんだとしたら、あの悲劇にも納得がいく!俺は、何て馬鹿なんだ!)
「悪かった!お前が村の守り神だなんて知らなかった!許してくれ!」
ジンは、レッサーフェンリルに土下座をする。ジンの行動に、レッサーフェンリルは戸惑う。
『・・・腕試しで殺そうとしたと思えば、今度は謝罪か?・・・貴様は何がしたいのだ?』
「俺は、強くなるのが目的だ!それは事実だ!でも、自分の故郷に迷惑をかけてまでやりたいなんて思ってはいない!俺が悪かったんなら、謝る!」
『・・・いや、別に・・・大して効いてはなかった。・・・まさか、当たられるとは思わなかったから、驚いただけだ。』
「いや!村の恩人に酷いことしたんだ!俺にできることなら何でもする!だから・・・!」
『・・・なら、私に一撃食らわせた貴様の腕を見込んで頼みたいことがある。』
「・・・ああ。何でも言ってくれ。」
ジンは、レッサーフェンリルがどんな頼みをするのかと、緊張した面持ちでそれを待つ。
『この地を虎視眈々と狙っているレッサーフェンリルがいる。そいつを倒すのを手伝ってほしい。』




