第16話 レッサーフェンリル
「じゃあ、ジンは王都に行くの?」
「ああ。三日後にレオンさんと一緒に王都に行く。そこで、強い人達に囲まれて修行するんだ。」
レオンに弟子となることを認められたジンは、三日後に王都に行くことが決まった。何故三日後なのかというと、ジンが準備にそれだけかかるからと言ったからである。それまでの間、レオンは村に留まり、子供達に剣の稽古を付けることにした。今、レオンはジンとマリー以外の子供達の訓練を見ている最中だった。
「そっか。そこで修行すれば、ジンの夢が叶うんだね。」
「まだだよ。そこで修行して終わりじゃない。そこから更に強くならないと、英雄になれないよ。」
「そうなんだ。でもジンなら絶対にもっと強くなれるよ。私、応援してるね。」
「ありがとう。じゃあ、俺はちょっと出かけてくるよ。王都に行く用意をしないと。」
そう言うと、ジンは森へと向かおうとする。
「え?どうして森に行くの?用意なら、家に・・・。」
「・・・この村を出る前に、倒しておきたい魔物がいるんだ。本当なら、その魔物を倒して、自分の力に自信を付けてから村を出るつもりだったんだ。」
「・・・強いの?」
「・・・ああ。ブラックウルフなんて比べ物にならないほどにな。」
ジンの予定では、その魔物と戦うのは、十五歳になってからにするつもりだった。それだけ強力な魔物なのだ。唯一の救いは、その魔物は自分の縄張りから基本出てこないという点である。ただ、村が滅んだ異常発生の時は例外だったが。
だが、レオンとの手合わせで、自分の力に自信を付けたジンは、このタイミングで戦うことを決めたのだ。一応、皆伝してからでもいいと考えたが、その魔物の危険性から、早い方がいいと思い、今にしたのだ。
(異常発生にはまだ時間はあるはず。でも、今回のように、本来より出来事が早まる可能性もある。それに、俺の記憶通りに起こったとしても、あいつがいないだけで相当被害が減るはずだ。村が滅んだ最大の原因は、奴だったからな。)
「・・・そう。気を付けてね。」
「止めないのか?」
「ジンなら大丈夫だって信じてるから。」
「!」
マリーは、なんでもないようにジンは勝つ言う。それを聞いたジンの表情が一瞬崩れるも、すぐに平静を装う。
「・・・ありがとう。・・・じゃあ、村の人達にはうまく言っておいてくれ。」
「分かった。頑張ってね。」
ジンは、マリーの応援を背に、森へと向かうのだった。
ジンの住む村の周囲にある森。奥地に行けば行くほど、強い魔物が棲息する。
だが、その魔物が棲むのは、森の一番奥。年配の村人が、神の住む場所と呼んでいる所である。
(・・・ここだな。俺の記憶の通りなら。)
そこは、木が生えておらず、開けた場所だった。そこに、大人十人分くらいの大きな岩があった。
その岩の上に、巨大な狼型の魔物が眠っていた。狼型の魔物は、ジンが今まで倒してきたどのウルフより巨大であった。その体毛も、穢れ一つない銀色で、太陽の光でさらに輝いていた。
(・・・いた!・・・見つけたぞ!レッサーフェンリル!)
レッサーフェンリル。魔物の中でも最強と呼ばれるフェンリルの若い個体である。若いといっても、最低でも百年は生きているが。
大人のフェンリルは、国一つ滅ぼしかねない力を秘めており、もし出現すれば、複数の国が手を組み、精鋭の騎士団や軍隊を総動員して挑まなければならないほど危険な魔物である。さすがに、子供のレッサーフェンリルにそこまでの力はない。だが、それでも村どころか大きな町を滅ぼせる力を持つため、討伐隊が組織される強力な魔物に違いはない。
ただ、フェンリル全般に言えることだが、縄張りさえ侵さなければ基本的に無害な魔物であり、一部の地域では神獣として扱われてもいる。この村も、昔はそうだったようだが、今では単に危険だから近寄るなと言われているだけだった。
(俺の記憶が確かなら、こいつはまだ百五十年ほどしか生きていないはずだ。レッサーフェンリルは、歳を重ねれば重ねるほど強くなる。二百年を過ぎれば国を挙げた大規模な討伐隊が組織されるほどで、三百年を過ぎれば成体のフェンリルになるという。腕を試すにしても、倒すにしても、絶好の機会だ。)
ジンは、剣を手に、気配を殺してレッサーフェンリルに近付いていく。すると、今まで眠っていた様子だったレッサーフェンリルは、目を開けると、ジンの方を向き、威嚇する。
「・・・さすがに不意打ちは無理か。まあ、分かってはいたが。」
ジンは、気配を消しながらの移動から一転、正面からレッサーフェンリルに向かって走っていくのだった。




