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第15話 努力の成果

 「・・・。」

 「・・・ジンの奴、どうしたんだ?構えはしっかりしたけど、動かないぞ?」

 「諦めたのか?」


 大人達は、ジンが諦めたものだと考えたが、対峙するレオンは、違うと分かっていた。


 (・・・隙が無い。・・・何があったんだ?さっきまでとは別人だ・・・!・・・それに、この気迫・・・!まるで、ベテランの剣士のようだ・・・!)


 あまりの変わりっぷりに、レオンは困惑する。それと同時に、ジンから放たれる気が、尋常ならざるものであることも感じた。


 「・・・行きます。」


 ジンは、レオンに突きを繰り出す。それは、何の変哲もないただの突きだったが、その突きは、子供のものとは思えないほど速かったのだ。


 「!」


 レオンは、それをいなすも、その表情には焦りが見て取れた。

 間髪入れず、ジンはレオンに攻撃を続ける。レオンはそれをいなすものの、余裕をもっていなしていた先ほどまでとは違い、際どそうにいなしていた。


 (・・・これは・・・本当に子供の動きか!?まるで、上位弟子と稽古しているみたいだ・・・!)


 レオンは、ジンの攻撃の鋭さに舌を巻く。どこ攻撃も、実戦なら相手に致命傷を与えられる場所なのだ。それを的確に、そして素早く攻撃しているのだ。まだ十二歳の子供が。レオンでなくても驚くだろう。

 だが、そこはさすがは剣聖と呼ばれる男。普通の人間なら、何度も打たれているところを、掠りもしないのだから。


 (・・・やっぱり師匠は強い・・・!このまま戦っても、一本も取れないどころか、掠りさえしないだろう・・・!・・・なら・・・!)


 ジンは、攻撃を中断すると、一旦距離を取る。レオンは、ジンが引いたことに、若干安堵するも、警戒を解くことなく構える。


 「・・・!」

 (・・・くるか・・・!)


 ジンの攻撃を感知し、防御の体勢を取るレオン。だが、ジンの攻撃は、意外なものだった。なんと、ジンは、離れた場所で剣を振り下ろしたのだ。


 「!」


 次の瞬間、レオンの木刀に強い衝撃が走る。レオンの身体が、後ろに下がる。


 「何だ!?何が起きたんだ!?」

 「レオンさんが何かに押されたような気がするぞ?」


 何が起こったのか、周りの人間は理解できなかったが、レオンだけは理解できた。


 (・・・斬撃を飛ばした!?・・・こんな子供が・・・剣術の奥義の一つを・・・!?)


 飛ぶ斬撃。剣圧だけで離れた場所にいる相手を切る、剣術の奥義と言える技である。どの剣術の流派も、この奥義を応用した秘伝があるくらいである。この飛ぶ斬撃自体は、ただの飛ぶ斬撃であるが、それをこんな子供が使うなど、普通はあり得ないことなのだ。その動揺が、隙を作った。


 「!」

 「!しまっ!」


 動揺し、防御の体勢が崩れたレオンに、ジンが一気に肉薄し、レオンの喉元に木刀を突き付ける。


 「・・・一本です。」

 「・・・そうだね。・・・私の負けた。」


 レオンは、ジンに自身の敗北を告げる。ジンは、木刀を収めると、深々とレオンに礼をする。


 「ありがとうございます!」

 「・・・ありがとうございます。・・・ジン君。君は、森で見つけた本を基に独学で強くなったそうだけど・・・本当に、本だけなのかい?」

 「はい。」

 「・・・。」


 レオンは、ジンの凄まじさを感じ、驚愕する。自分の門下生の中でも、これほどの動きができるのは、何年も修行した上位弟子だけなのだ。おまけに飛ぶ斬撃を使うとなれば、皆伝者くらいなのである。それだけ難しいことを、本を読んだだけの、まだ十二歳の子供がこの強さに達しているなど、信じられないことだった。


 「・・・あの・・・俺の腕はどうでしたか?」

 「・・・!あ・・・ああ。君の腕前はよく分かった。・・・正直に言おう。君ほどの腕を持つ同年代の子供は見たことがないよ。それどころか、私の弟子にだっていない。今の一番弟子より確実に強いね。」

 「!そうですか!」


 レオンの言葉に、ジンは喜ぶ。この時期の弟子の情報は、噂程度でしか知らないが、皆凄腕の剣士だと言われている。おまけに一番弟子は、逆行前の自分と同時期に弟子入りした天才兄妹がいなければ、レオンの跡を継いで剣聖になっていたとまで言われるほどの人物だったという。そんな彼より強いと言われたことは、逆行前に落ちこぼれと蔑まれていたジンにとって、何より嬉しいことだった。

 同時に、レオンから一本を取れたことも、ジンは嬉しかった。皆伝試験以外でジンがレオンから一本取ったことはなかった。その試験も、レオンが明らかに手加減していたことが見て取れた。今回は、あくまで力を見るだけの手合わせで、レオンも油断していたとはいえ、師匠を出し抜いて一本を取れたことは大きかった。逆行前の自分なら、出し抜いて一本どころか触れることすら叶わなかっただろう。


 「・・・あの、レオンさん。ジンの弟子入りは・・・どうなりますか?」


 ジンの父が、困惑しているレオンに尋ねる。


 「!・・・そうですね。弟子として申し分ありません。・・・いえ、是非とも彼を弟子にください。」

 「!それじゃあ・・・!」

 「彼のことを、私に任せてください。必ず、彼を立派な剣士に育ててみせます。」

 「ありがとうございます!」

 「ジン君。これからよろしくね。」

 「・・・はい!よろしくお願いします!」


 師匠に弟子入りを認められたジンは、無邪気な笑顔を見せるのだった。

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