第11話 村長からの呼び出し
「・・・ジン。何故、お前を呼んだのか・・・分かるか?」
ジンが、ブラックウルフを仕留めた翌日。ジンは、村長の家に呼ばれていた。今、この場には村長とジンしかいない。
「・・・分かりません。」
「・・・ブラックウルフの単独討伐だ。」
「あれなら、心臓は頂いているので、全部村に・・・。」
「取り分のことで呼んだのではない。・・・まあ、それもあるが・・・。」
(・・・なら、何で呼んだんだ?)
ジンは、自分が呼ばれた理由が分からなかった。だが、その理由は、すぐ分かった。
「・・・お前は、どうやってそこまで強くなった?」
(・・・何だ・・・そんなことか。)
あまりに簡単なことだったことで、ジンは拍子抜けする。
「お前には、才能がある。それは分かる。だが、いかに才能があるとはいえ、その歳でブラックウルフを倒すなど、できるはずがない。あれは、一匹で村が滅びかねん魔物なのだ。」
人間に強者弱者がいるように、魔物にも、当然強弱がある。ジンが倒していたグレーウルフやダッシュボアは、魔物の中では最弱の部類に入る。ストロン一人では勝てなくても、村の大人達が十人ほど集まり、武器を持って立ち向かえば、一匹は倒せる。
だが、ブラックウルフはそうではない。仮に、ストロンと村の大人達が全員で挑んだとしても、殺されてしまう。それだけ強い魔物なのだ。もっとも、それでも魔物の中では、弱い部類に入るのだが。
「お前の才能は、日々の狩で十分分かった。・・・だが、魔物となると、そうはいかん。・・・いったい、どうやってそれほどの力を手に入れた?」
「・・・。」
(・・・【超人法】のことを教えるのは、別に構わない。あれは、凡人が強くなるための方法だ。俺でなくても、変な使われ方さえしなければ、誰が使おうと大歓迎だ。・・・ただ、そうなると色々面倒なことになるな・・・)
ジンは、自分が強くなったことより、どうしてその方法を知っているのか説明することの方が面倒だと思った。まさか、未来から戻ってきたなど、誰も信じないだろう。
「・・・森で薬草を採っていた時、埋まっている本を見つけたからです。」
「埋まっている本?」
ジンは、薬草採取の際、強くなる方法の書かれた本を見つけ、これを読んで強くなったことにすることにした。
「・・・では、その本の通りにやったことで、強くなることができたのか?」
「はい。」
「ふむ・・・。」
村長は、ジンの言い分を聞き、考え込む。
(・・・今でこそ、この村は薬草採取で細々と生計を立てるだけの小さな村だが、わしが生まれる以前は、それなりに腕の立つ戦士を輩出したこともある。ジンが見つけた本とは、その戦士が残した修行法を書き記したものだろうか?)
「・・・その本、わしに見せてはくれんか?」
「いいですよ。」
(・・・全部ではないが、何かの役に立つと思って【超人法】を書き記しておいたんだ。・・・紙が新しいのが難点だが、まあ、それは書き写したと言えば、納得させられるか。)
「でも、原本はボロボロで・・・俺が模写したのでいいですか?」
「模写?そんなこともできたのか!?」
「は・・・はい。・・・でも、見たのを丸写ししただけですから、正確かどうかは分かりませんけど・・・。」
「それで構わぬ。わしに、見せてくれんかな?」
「はい。」
「・・・これが、その写しか。」
「はい。」
「・・・見せてもらうぞ。」
ジンの書いた【超人法】の一部が書かれた本を受け取った村長は、それを見る。
(・・・これは・・・見たことのない修行法だ。・・・そもそも、【超人法】など、聞いたことがない。・・・一体、誰がこんな修行法を・・・?・・・だが・・・これは凄い。これが実践できれば、村の者でも魔物と戦うことができる・・・。)
「・・・著者については分からんか?」
「ごめんなさい・・・表紙はボロボロで、誰が書いていたか・・・。題名も、ようやく読めたものを書いただけなので、本当にこれかは・・・。」
「なら、原本を見せてはくれんか?多少、ボロボロでも構わん。」
「・・・ごめんなさい。原本も、模写した後で朽ちてしまって・・・もう読める状態ではなくて・・・捨ててしまいました。」
ジンは、原本を見せてほしいと言われた際の言い訳を、すまなさそうに言う。それを聞いた村長が、愕然とする。
「・・・原本はもうない・・・か。・・・惜しいな。ここに書かれてる修行法・・・よくできているというのに・・・。」
「分かるんですか?」
「わしも、若い頃武術を学んでいた。これの凄さは分かる。これがあれば、村の者でもグレーウルフ一匹くらいなら、一人でも倒せるようになる。それだけ凄いものだ。」
(グレーウルフ一匹なんて・・・もっと強くなれるのに。まあ、あれだけ読んだだけじゃ、分からないか。)
ジンは、村長が評価してくれることに関しては嬉しく思うも、村長が【超人法】を少々過小評価していることに関しては、おかしく思うのだった。
ストック分がなくなりましたので、今後は不定期になります。ご容赦ください。