おにぎり~最後の遺産
「なろうラジオ大賞2」参加作品です
「おにぎり」と聞くと今は亡き祖母を思い出す。子供の時分、お腹を空かせると時折作ってくれたものだ。
両親共働きでわたしたち兄弟姉妹の面倒を見てくれた祖母。その祖母が作ってくれたのが「味噌味の青菜漬けおにぎり」
青菜漬けというのは野沢菜漬けのような緑の濃い葉物野菜で辛味少々強めの漬物菜だ。実際には同じ芥子菜を使うがその土地風土により風味が違う。
晩秋から収穫され冬の寒い時期の漬物なので冬の記憶が鮮明に残っているのだろう。
記憶のわたしはまだまだ小さく味覚も未発達で大人の味というものは理解の外にあるものだった。
まだ当時は集落で共同の味噌小屋(味噌作り用の設備の整った小屋)があり、わたしの家でも祖母が中心になり自家製味噌を作っていたものだ。
その自家製の味噌と自家製の青菜漬けで作られた、今から考えればとてつもない贅沢な品物をわたしは顔を顰めながら頬張るのだった。
◇
あれから数十年、息子夫婦が孫を連れて泊まりに来る。
わたしも歳を取り、妻と共に何時お迎えが来てもおかしくない状態になった。
あの時の祖母のように、わたしは子や孫になにか与えられたのか、何を残せたのか自問せざるを得ない。
長男は家を出て他家の跡取りとなり、次男は仕事を求めて東京へと移り住む。娘も近くに住むとは言っても車で1時間。改築した家も広いだけでもう夫婦二人だけには広すぎる。
いくらかの財産など今の世の中にはないも同然。妻と考えたのは祖母と同じく『思い出』と『家庭の味』を残そうと思う。この息子夫婦のお泊りは丁度いい機会となるだろう。
放蕩息子の次男がたまたま見つけたと送ってきたのは『フキ味噌(ふきのとうを刻み練り込んだ味噌)』。春に芽吹くフキノトウをこの冬の時期に味わえるというのだ。
記憶を頼りに青菜漬けおにぎりを妻と作る。長男には年寄りの冷や水と揶揄われ、嫁には私がやりますと止められる。わたしも若いころから料理をし、妻に強請られる料理もある。大人しくしていなさい、と押しとめる。
味噌だけだと全体に塗れないので醤油とミリンで少しのばす。青菜が無いので野沢菜で代用。中の具は次男が送ってきた『フキ味噌』で。子供には解らなくても何時か祖父母の思い出となればいい。
老夫婦と若夫婦家族7人で頬張る『味噌味野沢菜巻き』これが子孫に残す
『最後の遺産』
「でだ。どれが本当の最後の遺産なんだ?」
「あらあらまあまあ(笑)」
何処までもボケるか、香月!!
写真の料理
『味噌味野沢菜巻き』
『ふわトロオムライス』
『焼肉丼定食』
『豚肉の生姜焼き』
『チャーハン』
『庄内芋煮定食(豚汁定食とも)』
『もつ煮込み』
『香月亭焼きそば』
『ナポリタソ』
2020年12月20日、後書きの料理名追加
『ナポリタソ』『香月亭焼きそば』の写真追加