禾
記憶は積み重なってしまうから
過去は過ぎ去ってしまうから
時間は止まってくれないから
私達の歩幅は違うから
時が経てば遠く離れてしまう
あなた達を忘れたくないのに時が私を鈍らせる
ならば、思い残せばいいのだろうか?
それはダメだ。
あなた達を縛る鎖になる
なら、私は綴ろうと思う。
思いを残すのではなく、種に変えて蒔こう
そして、あなた達の章の日を和えていこう
私はふさわしくないかもしれない
私が綴るには足りないだろう
だけど、私が残す種に恵みを与えてほしい
それは穂になる
1ツノ日禾、稲になる
聞いてくれ
みんなで集まって飲み明かしたかった
祝われるのではなく、肩をならべてみたかった
意外と飲めるんだ。あいつみたいに酔ったりしない
沢山飲む機会があるんだ
お前もついに、お前は早かったな、なんて笑いながら祝ってやろう
時には涙流すだろう。そしたら笑ってやるんだ
なんで泣いているんだと
もしかしたら私が泣くかもしれない、そしたら笑ってくれ
なんで泣いているんだと
それまで涙はとっておくよ
私より涙を流している人がいるんだ
私の涙は悲しむためじゃない
嬉し涙なんだ
だけど、みんなが立ち上がれたら少しだけ座らしてくれ
もしかしたら悲しい涙が流れるかもしれない
そしたら笑ってくれ
なんで泣いているんだと
聞いてくれ
ちゃんと話してこれなかったな
だけどあなたが小さいころから知っていたよ
どう接したらいいのかわからなくてね
それでも私はあなたを好きでいたよ
なんであの時なんて、しなかった後悔がこんなに辛いものとはおもわなかったよ
次はあなたの好きな事を教えてくれないか
聞いてくれ
娘が沢山話せるようになったんだ
あなたの名前も言えるんだ
きっと恥ずかしがるけど沢山話してくれるよ
あの時は緊張してあまりさわれなかっただろ
ちゃんと抱き締めてあげれなかっただろう
抱き締めてあげてほしい
一緒に手を繋いで走り回っておいで
沢山遊んであげてほしい
そしたら娘は沢山話してくれる
そしたらまた手を繋いでほしい
今は小さな小さな手だけど、あなたより大きくなるよ
それでも手を繋いでほしいな
また一緒に遊ぼうって
聞いてくれ
娘が立って歩くんだ
まだ会っていなかったけどあなたに向かっていくよ
沢山笑うんだ
一緒に笑ってくれ
楽しくなってもっと笑うんだ
そしたら抱き締めてほしい
きっと喜んでくれる
もっと笑ってね
私は伝えるんだ
私にはとても頼りになるあなたがいたことを
私は伝えるんだ
私にはとても元気で活発なあなたがいたことを
上手く伝えられないかもしれない
そしたら何度も伝えるよ
私の自慢だからね
これからは
あなた達の分も生きよう
なんて月並みの言葉は言わない
あなた達はそんなこと思うかい?
私も思わない
背負わせる必要はないだろ?
たがら私はあなた達に恥ずかしくないように生きよう
そして沢山自慢するんだ
私の思い出を
だけどね
あなた達がいたらもっと自慢できるんだよ
会いに行くのは長くなるかもしれないけど許してほしい
沢山のお土産をもっていくからね
もしかしたら私以外の人が先に行くかもしれない
そしたら一緒にまっていてほしい
それまではゆっくり休んでくれ
おやすみなさい