婚約破棄されたので、代理出産で子供を育てます ~代理母は妹です~
「貴方と婚約破棄する」
言われた瞬間、意味が分からなかった。
「もう一度言うわ、貴方と婚約破棄します」
おたつくこっちを尻目に念を押すように言われた。
「それじゃあさ、二度と顔を見せないでよね」
そう言って席を立つ彼女。
わざわざ両親挨拶の場で謂うこともあるまいに。
集まった全員がざわつく中、彼女は後ろを振り返らずに立ち去っていった。
その後のやりとりはかなり揉めた。
しかし、彼女側からは謝罪はなく、その両親からは返って「貴様みたいな下らない男に嫁にやらなくて良かった!」と言われる始末。
しかし、それ以上に落ち込んだのはうちの両親だった。
何せ、ようやく決まった縁組。ここまでかかった費用は百万は下らない。
それが彼女の一言であっさりパァ。
後で裁判になるぞ、と父は薄ら笑いで、しかし、余りの怒りを目に宿しながら言った。
それよりも母親の落胆は激しかった。
ようやく孫が抱けると喜び、彼女にも気を使っていた。結構、贈り物もしてたようだ。
それが、全部パァ。
これからどうするのか……。
家族全員で話し合わねばならなかった。
「もういっそ、代理出産でも良いんじゃない?」
母親が言った。
思わず目を見開いた。
「あー、それでも良いんじゃない?」
ここまで口を開かなかった妹もそれに同意した。
「兄貴もさ、この際結婚を諦めてさ、子供だけでも良いんじゃない?」
とんでもない事を言いやがるなこいつは。
しかし、それに一理ある。
次、こんな事になったら時間と金の無駄である。
それに、またドタキャン咬まされないという保証もない。
父親は渋ったが、この後に及べば仕方ない。
俺たちは代理出産の道を選択する事になったのだ。
そうして代理出産の事を調べだしたのだが、最大の問題がドナーの問題だった。
誰かの母体を借りねばならないのである。
「…………へ?」
視線が妹に集まった。
「ちょっとちょっとちょっとちょっと無理無理無理。
だって、あたし嫁入り前だよ!!?」
「でも、あんたも男の一人も連れて来ないじゃない」
そう、妹も独身であった。
おまけに男日照りのベテラン。恋人の噂一つしたことがない。
人から美人と言われる割には全く彼氏を連れてこない。その事は両親の悩みの種である。
「だからって、無理に決まって「いや、無理じゃないだろ。母さんも年だし、こんな無理をさせたら天国に旅立っちまうかもしれんし」
父親が意外な援護射撃。鬼畜だな。
かといって、悠長にドナー探ししていても仕方がない。
「……兄貴、あたしの子供もちゃんと面倒みてよね」
妹かじろっと睨みながら渋々了承する。
って、お前もそれで済ませる気かい。
かくして議論は決し、今後の方針が定まるのであった。
かくして、無事に妹は出産した。
正真正銘、俺の子供である。
卵子は流石に提供を受けた。しかし、俺の子供には変わりない。
「おー、産まれたのか」
「ほんと、良かった良かった」
子供の寝顔を見て、両親も安堵と喜びの笑みを漏らす。
「いや、こんなに産むのが大変とは……」
妹もぼやいていたが、子供を抱く姿は母親そのものである。
さて、これで一安心ーー
「じゃないよね?」
妹が邪悪で小悪魔な笑みを浮かべる。
「今度はあたしの子供の番なんだからね?」
そうだった……。妹の子供がまだだった。
「おー、早くも二人目かー」
「あらあら、忙しくなるわねー」
早速盛り上がらないで頂きたいな両親よ。
「さて、これからもよろしくお願いするわね『おとうさん』」
……今の、俺に言った言葉?
「そうに決まってるじゃない?
ね、お父さん」
今度は親父に言った言葉。
何か、重大な責任を持ってしまったが仕方ない。
これからも家族の為に頑張るか。
おわり