92 冒険者ギルド
ブックマーク70件いただきました。本当にありがとうございます。
ドルーア山での新年の神事が終わって村に戻ってみると、エマは一人で素材を集めに行ってしまっていて、家にいなかった。私は心配ですぐに追いかけようとしたんだけど、マリーさんに「ガブリエラ様に言われたこと忘れたのかい!?」ってものすごく怒られてしまった。
私が一緒だと魔獣が一切出現しなくなるので、エマの修行の邪魔になる。だから森での採集には絶対に同行しないようにときつく言われているのだ。
私は常時エマに《警告》の魔法をかけているので、エマの身に危険が迫ればそれを知ることができる。とはいってもすぐに場所を特定できるわけではないし、もし手遅れになったらと思うと心配で仕方がない。
確かにエマの魔力は上がっているし、カールさんとテレサさんから身のこなしについても教わっているから、森に出る大概の魔獣には負けたりしない。それでもいつどんな事故が起こらないとも限らない。
エマがもし大けがをしたら。もし死んでしまったら。そう考えるだけで、私は心の中がぐちゃぐちゃになってしまうほど混乱してしまうのだ。
これはアルベルトさんとグレーテさんが亡くなってしまってから、特にそう思うようになった。アルベルトさんは2年前の冬に、突然倒れてそのまま帰らぬ人となった。その直後、グレーテさんも後を追うように亡くなった。
私は人間が簡単に死んでしまうということを知っていた。だけど、自分の大切な人が死んでしまうということがどういうことかを、この時まで全く理解していなかったのだ。
今まで当たり前にあると思っていた幸せが突然失われる恐怖。そしてそれを二度と取り戻すことができないという事実。私はエマと一緒に声を上げて泣きながら、それを嫌というほど思い知らされた。
私は不死の存在だ。これまでも多くの死を目の当たりにしてきた。私にとって死とはただ目の前を通り過ぎていくものだった。生き物は生まれ死んでいく。それは季節の巡りのように当たり前だと思っていた。
だけれど大切な家族二人の死は、私に耐えがたいほどの痛みを齎した。嘆き悲しむ私にテレサさんは「死んでいった人に恥じぬ生き方をすることが私たちの務めなのですよ」と言った。私はエマやマリーさん、フランツさんたちと一緒に、アルベルトさんとグレーテさんのことを語り合った。
自分と同じ痛みを持つ人がいる。そしてその人たちと一緒にこれから生きていけるということが、私の悲しみを癒してくれた。悲しみは消えない。でもそれを乗り越えて生きるということを、みんなから教えてもらったように思った。
いつかはフランツさん、マリーさん、そしてエマも死んでしまう。私はその時、どうなってしまうのだろう。それはまだ分からない。その日が来るのが恐ろしくて仕方がない。でも今、私には、精一杯生きている皆と共にいられる時間を、大切にすることくらいしかできない。
これが人を愛するということなのだろうか。私は目の前で笑うみんなの姿を目にしっかりと焼き付けながら、そう考えていた。
お昼ご飯の後、エマが倒したという梟熊を回収しに行くことにした。エマはまだ《集団転移》の呪文を使えないので、二人で歩いていくことにした。
森の奥に続く小道を抜け、泉を通り過ぎてさらに奥へと入っていく。エマが一人でこんなところまで来られるようになったことに驚いてしまった。エマは時折止まって道を確かめながら、私を案内してくれた。
「カルメリアの林!こんなところがあったなんて!」
「ね、すごいでしょ、ドーラお姉ちゃん!」
得意そうに笑うエマをぎゅっと抱きしめてから林の奥に進んでいくと、強い血の匂いが漂ってきた。
「あ、ちょっと食べられちゃってる!」
エマはそう言うと小走りに駆け出した。確かに倒れている魔獣の死骸には森の獣に食べられた跡があった。
「この足跡、森林狼の群れかな?」
魔獣の周囲を見ながら私がそう言うと、エマはがっかりしたように答えた。
「そうだねー。派手に血を出しちゃったからなー。あー、失敗しちゃった。」
私は「毛皮はそんなに傷んでないから大丈夫だよ」とエマを慰め、梟熊を丸ごと自分の《収納》内に収めた。
「こんな大きいものでも簡単に《収納》出来ちゃうんだから、やっぱりドーラお姉ちゃんはすごいね!」
エマに褒められてしまった。えへへ。その後すぐに私たちは《集団転移》の魔法で、東ハウル村の冒険者ギルドに移動した。
突然通りに出現したことで驚かせてしまった冒険者さんに「ごめんなさい」と謝ってから、私たちはギルドの中に入った。
「おう、ドーラとエマじゃねーか。また素材の買取か?それとも魔獣の肉の引き取りに来てくれたのか?」
私たちが扉をくぐるとすぐにこのギルド、王国冒険者ギルド東ハウル村支部長のマヴァールさんが笑顔で声をかけてきた。
「こんにちはマヴァールさん。エマが梟熊をやっつけたので、素材を買い取ってもらおうと思いまして。」
「ほう、梟熊を一人でか。大したもんだ。じゃあいつもみたく裏に回ってくれ。」
私たちはマヴァールさんと一緒にギルドの裏にある魔獣の素材買取所へ移動する。ここでは素材の査定と買い取りの他、解体代行などもやってくれるのだ。私は《収納》から梟熊を取り出し、買取所の職員さんにそれを見せた。
「少し食われた跡があるね。だが毛皮の痛みは少ない。魔石がないから解体手数料を差し引いて28Dってところかな。」
査定をしてくれるギルド職員さんがエマと私にそう言った。エマがそれで構わないと言ったので、職員さんは銅貨28枚をその場で渡してくれた。マヴァールさんはエマの倒した梟熊の大きさにすごく感心していた。
「ドーラさん、こいつの分も含めて、いつもの肉の引き取りもお願いできるかい?」
「もちろんいいですよ。じゃあ隣にいますからしばらくしたら戻りますね。」
解体が終わったら呼びに行くと職員さんが言ってくれたので、私とエマはギルドの隣にある酒場『熊と踊り子亭』で待つことにした。
昼下がりの酒場の中は、早めに仕事を切り上げた冒険者さんたちが何組か、丸テーブルに座って談笑していた。私たちはその間を通り抜け、ジーナさんのいるカウンターの方に近づいて行った。
「ドーラ、それにエマも。よく来たね。何か飲んでいくかい?」
ジーナさんは冬に生まれたばかりの娘さんをあやしながら、私たちに尋ねる。赤ちゃんの頭には小さくて丸い熊の耳がちょこんとついていた。
「こんにちはジーナさん!ドーラお姉ちゃん、私が注文するね!」
エマはそう言うと蜂蜜茶を二つ注文し、銅貨2枚をカウンターに置いた。ジーナさんが厨房に注文を伝えると、奥から熊人族のハンクさんがのっそりと顔をのぞかせ、私たちに向ってひょっと手を上げて、また厨房の奥に姿を隠した。
私たちがジーナさんと近況を話し合っていると、給仕係の娘さんが蜂蜜茶を運んできてくれた。これはリモーネグラスという酸味の強い香草を漬け込んだ蜂蜜をお湯で溶いたものだ。甘酸っぱい香りがして美味しいし、とても体が温まる。
本当はこの蜂蜜、蒸留酒に混ぜて飲むのだ。でもエマにはまだ早し、蒸留酒はものすごく高価だからね。
「ドーラ様、こちらにいらしていたんですね!先程、ギルド長に聞いてとんできました!」
そう言って酒場の入り口に姿を見せたのは、エルフ族の戦士ロウレアナさんだった。本当に急いで来たらしく、ちょっと息が上がっている。彼女はエマにちょっと会釈してから、私の隣に座りエールを注文した。
「・・・ロウレアナ様・・・速すぎです!」
彼女の後ろから現れたのは白い法服を着て長柄の戦槌を持った小柄な修道女さん。必死に彼女を追いかけてきたらしく、ゼエゼエと荒い息を吐いている。彼女は息が落ち着くと、眦を釣り上げてロウレアナさんに抗議した。
「もう!依頼の報告や素材の買取を全部放り出して急に駆け出すから、お姉様が困っていらっしゃいましたよ!」
「あらハーレ、ごめんなさい。ドーラ様が帰っていらっしゃたと聞いて居ても立っても居られなくなってしまったの。あなたもエールでいいかしら?」
ハーレさんは聖女教の修道女で、テレサさんの妹弟子に当たる人だ。東ハウル村に出来た教会で、テレサさんの身の回りの世話をするためにやってきた女性の一人なのだが、お祈りをするより戦槌で魔獣をぶん殴る方が得意という『挌闘僧』と呼ばれる聖職者さんらしい。
ちなみに彼女の口癖は『力こそ正義』です。
ロウレアナさんはハーレさんの返事を聞く前にエールをもう一つ注文する。ハーレさんは何か言いたそうな顔をしていたけれど、大きなため息をついただけで何も言わず、エールを運んできた給仕の娘さんにさらに4つのエールを注文した。
「代金は全部ロウレアナ様に請求してください。」
「ちょ、ちょっとハーレ!」
抗議するロウレアナさんを無視して、ハーレさんはエールを一気に飲み干すと「お姉様たちもいらっしゃいますから、テーブルに移動しましょう」と言って立ち上がった。
私たちが自分の飲み物を持って近くのテーブルに移動して間もなく、酒場に聖女教司祭のテレサさん、ファ族の戦士ディルグリムくん、そして彼らの冒険仲間のガレスさんが姿を見せた。
「ドーラさんお帰りなさい。エマさん、聞きましたよ。たった一人で大きな梟熊を倒したそうですね。まだ9歳なのにすごいです。」
長身のテレサさんとほとんど変わらないほど背が伸びたディルグリムくんが、満面の笑顔でエマを褒めた。エマは頭を撫でられて、嬉しそうに微笑んだ。
柔和な雰囲気とは裏腹に、彼の体にはしなやかな筋肉が盛り上がり、きびきびとした身のこなしは野生動物のような鋭さがある。今年で16歳になった彼は、4年前に初めて出会った時とは見違えるほど逞しくなっていた。
「ガブリエラ様とドーラさんの愛弟子ですものね。もう中級魔導士くらいの力があるんじゃないかしら?」
21歳になったテレサさんが落ち着いた笑顔をエマに向けながらそう言った。
「うむ、だが冒険者としてはまだまだだな。素材の扱いがなってねえ。これからもっと勉強しないとな。」
ガレスさんの言葉にエマが「はい!頑張ります!」と元気よく返事する。ガレスさんはちょっと照れたように目を背け「今度、俺が教えてやるよ」とぶっきらぼうに呟いた。
みんながテーブルにつくと、注文したエールが運ばれてきた。ハーレさんが「今日はロウレアナ様がご馳走してくださるそうです」と言いながら、それをみんなに配る。
「まあ、ありがとうございます。では依頼報告の件は不問にいたしますね。あなたに神のお恵みがありますように。」
ロウレアナさんが何か言う前にテレサさんがそう言って酒杯を上げると、みんなはそれに自分の酒杯を打ち合わせ「ご馳走様、ロウレアナに乾杯!」と行ってエールに口を付けた。
ロウレアナさんは目を白黒させながら「ホント人間って油断も隙も無いわね」と言い、それを聞いてみんなが笑った。
ロウレアナさんとテレサさん、ハーレさん、ディルグリムくん、そしてガレスさんの5人は冒険者仲間として、様々な依頼をこなしている。もっともガレスさんは荷物の運搬と素材の回収指導、テレサさんはディルグリムくんとハーレさんの監督役なので、実質は3人パーティだ。
しかし採集や討伐の依頼達成率は非常に高く、ハウル村の冒険者ギルドでも一目置かれる存在となっている。最初はディルグリムくんの呪いを制御するための修行として、魔獣と戦う冒険者となった彼等だが、今やハウル村支部を代表する冒険者集団の一つに数えられるほどだ。
私たちが森の奥にあるらしい『迷宮』のことについてガレスさんから話を聞いていると、ギルド職員さんが肉の引き取りの準備ができたと呼びに来てくれた。エマと私は皆に「またね」と言ってからギルドに戻る。ギルド裏の解体場には、すごい量の魔獣の肉が積み上げられていた。
「冬の終わりにドーラさんが出かけるって言っていなくなったろう?あのあたりからずっと貯まったままなのさ。」
ギルド職員さんは申し訳なさそうに私にそう言った。私は内心のうれしさを隠しつつ「構いませんよ。ちゃんと私が処理しますから!」と胸を張った。
大量の肉を一度に《領域》に取り込み《収納》する。魔獣の素材は生活の様々なところで役立っているが、肉は基本厄介者だ。人間は食べることができないし、迂闊に捨てればそれを目当てに他の魔獣が集まってきてしまう。魔獣の肉には魔素が含まれているからか、強い魔獣の肉ほど腐りにくい。最悪死霊に取り付かれ、動死体になることもあるのだ。
人里離れた秘境や森の奥地であれば放置しても問題ないのだろうが、村の近くでそんなことしたら大変だ。村が大きくなり生活圏の拡大したハウル村近郊ではこうやって魔獣の死骸を回収する必要があるのだ。
回収した死骸は焼却して処分するのが一般的だけれど、それには当然燃料代がかかる。それに魔獣の肉は人間には有害な魔素という魔力の素が含まれているので、大量に燃やすと周囲の人に害が出ることもある。
だからどのギルドでも魔獣の死骸の処理には頭を悩ませている。そこで私の出番というわけだ。
引き取り手がない魔獣の肉も、私にとっては美味しいおやつだ。一応表向きは『魔術の鍛錬のために炎の魔法で焼却している』ということになっているけれど、本当はこっそり竜の姿に戻って食べている。量が少なくて食事には物足らないけれど、ちょっとしたおやつとしてはすごくありがたいのだ。
ちなみに『迷宮』と呼ばれる場所では、迷宮が魔獣を『食べる』そうなので、放置しても問題ないそうだ。ただやりすぎると『迷宮暴走』が起きるらしいけど。迷宮も魔獣の一種なのかしら。どんな味がするのかちょっとだけ興味があります。
魔獣の肉の引き取りを終えた私とエマは、手をつないで西ハウル村へ戻ることにした。《集団転移》で戻ってもいいのだけれど、エマも私も一緒におしゃべりしたかったので、渡し舟で帰ろうということになった。
船着き場に移動すると、きれいに整備された桟橋の近くに、以前はなかった大量の倉庫群が見える。桟橋にもたくさんの大型の舟が停泊して、物資の積み下ろしをする人たちで賑わっていた。
私たちは大型馬車を運搬する平底の渡し舟を眺めながら、いつも利用している屋根付きのゴンドラに乗り込んだ。このゴンドラの渡し舟はハウル村の住人なら無料で利用できる。住民以外だと片道一人1D必要らしい。
最近は住民以外の人も増えてきたから、渡し舟を取り仕切っているアクナスさんはますます儲かっているんじゃないかな。きれいになったゴンドラを見ながら、エマとそんな話をした。
西ハウル村の船着き場でゴンドラを降りて街道へ向かう。すると正面に見えるガラスをふんだんに使った立派な建物から、派手な服を着た男の人が出てきて、私たちに近づいてきた。
「ドーラさん、戻ってきていらっしゃったんですね。エマさん、こんにちは。今から帰宅されるところですか?」
カフマンさんの言葉遣いを聞いて、エマがくすくす笑う。
「カフマンお兄ちゃんがその言葉遣いしてるの、やっぱりなんだか慣れないね。」
「そう言うなよエマ。俺だって努力してんだからさ。お貴族様たちとのお付き合いには、どうしても必要でございますからね、ハイ。」
気取った表情で片目をつぶるカフマンさんを見て、私たちは笑ってしまった。カフマン商会はこの数年で急成長を遂げた。ハウル村を中心に王都からサローマ領、そしてエルフの里及び西方の国王直轄地にまで商圏を広げている。
最近はガブリエラさんの紹介で貴族相手の商売もしているらしく、そのために貴族風の言葉遣いを練習中なのだ。
「カールとガブリエラ様が教えてくれるから、ほんと助かってるぜ。誠に感謝の言葉もございません。」
「混ざってる!混ざってるよ!」
エマがお腹を抱えて笑うのを見て、カフマンさんは「混ぜてんだよ!どうだ?上達いたしましたでしょう?」と得意そうな顔をした。
そうやって笑っていたら、お店の方からカフマンさんに「会頭、そろそろ出発のお時間です」と声が掛かった。
「もうすぐ日暮れなのに、今からお出かけですか?」
「ええ、ちょっと急ぎの商談があるんです。ガブリエラ様直々のね。それでは行ってまいります、ドーラさん。じゃあな、勉強頑張れよ、エマ!」
私に向って優雅にお辞儀をし、エマの髪をくしゃくしゃとかき回してから、カフマンさんはお店の前に準備された立派な馬車に乗り込んで行ってしまった。私たちは手を振って、それを見送った。
カフマンさんと別れて私たちはゆっくりとおしゃべりしながら北門に向った。北門の周りには多くの屋台や露店が並ぶ市場が作られている。行商人さんに雑じって、炭や手作りの雑貨を売っている村のおかみさんに挨拶をしながら、私たちは北門の衛士隊詰所にやってきた。
「ドーラさん、おかえりなさい。エマちゃん、また大きくなったな!カール様なら奥で仕事をしていらっしゃるぞ。」
顔見知りの衛士さんが私たちを詰所の奥に案内してくれた。執務室に入ると、机を寄せ合って書類と向き合っている文官さんの向こうで、カールさんが笑って私たちを迎えてくれた。
「おかえりなさいドーラさん、エマも来てくれたのか。」
「もうすぐ終わりの時間じゃないかと思ったので、来ちゃいました。ダメでしたか?」
「そんなことはありません、とてもうれしいです。よし、じゃあ今日はここまでにしよう。」
カールさんのその言葉で、文官さんたちが一斉にふうっと大きなため息を吐いた。
「皆さん、お疲れさまでした。よかったらこれどうぞ。」
私は服の前にある大きなポケットから陶器の瓶を取り出し、文官さんたちに配った。これは私が作った疲労回復薬だ。
「いつもありがとうございます、ドーラさん。」
薬を受け取って嬉しそうに帰っていく文官さんたちを見送ってから、衛士さんたちの敬礼を受け、私とカールさんとエマの三人も詰所を後にした。外に出ると、空にはきれいな夕焼けが広がっていた。
北門の閉門を告げる鐘が鳴り響く。帰り支度に忙しそうな行商人さんたちの間を抜け、三人で並んで歩く。エマを真ん中に挟んで私がエマの右手、カールさんが左手を握っている。夕日が照らすレンガ畳の上に、三人の影が長く伸びた。
私たちは互いに今日あったことを話しながら、ゆっくりゆっくり歩いて行った。
今年で21歳になったカールさんは、初めて会った時と比べてなんというか、迫力が増した気がする。でもエマや私に向ける優しい眼差しはまったく変わっていない。私はそれがすごく嬉しかった。
やがて街道から農地へ向かう水路の脇道のところに着いた。ここでカールさんと別れる。
「カールお兄ちゃん、またね!」
「カールさん、また明日。」
「ええドーラさん、エマ、また明日。」
その場に立って私たちを見送ってくれるカールさんに手を振りながら、私たちは脇道へと入った。見上げた空にはすでに一番星が光っている。あちこちの家からは、夕飯を作っている美味しそうな匂いが漂ってきていた。
私はエマと明日のことを話しながら、家路を急ぐ。明日もこんな風にいい日でありますように。エマの手の温もりを感じながら、私は胸の中でそっとそう呟いた。
種族:神竜
名前:ドーラ
職業:上級錬金術師
中級建築術師
読んでくださった方、本当にありがとうございました。最近、仕事が忙しくて更新が遅れてしまいました。書きたいのに書けないから、ちょっと辛いです。