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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
90/188

87 新たな魔道具

いつもより長くなってしまいました。

 秋が深まってきた。ハウル村の人たちは、相変わらず冬支度のために忙しい日々を過ごしている。


 西ハウル村では農作業や行商に勤しむ人たちで、東ハウル村では秋にしか採取できない素材を求める冒険者さんたちで、それぞれ賑わっていた。


 私はそんな人たちの間を行ったり来たりしながら、お手伝いできる仕事を見つけてやらせてもらうという日々を過ごしていた。


「いやー、ドーラさんが来てくれて本当に助かったよ。またよろしく頼むぜ!」


「いつでも呼んでくださいね!」


 私はペンターさんのために東ハウル村で材料を加工する仕事を終えて、お昼ご飯を食べるために西ハウル村に戻った。







「なるほどドーラ様はいつもこうやって、村の中を見て回っていらっしゃるのですね。」


 今朝からずっと私の側で私のお手伝いの様子を観察していたエルフのロウレアナさんが、私にそう言った。最初は人間たちとの暮らしに戸惑うことの多かった彼女だけれど、最近では村の人たちともすっかり打ち解けている。


「私には決まった仕事がないので、皆の仕事を手伝わせてもらっているんです。」


「ドーラ様のような方が、なぜ村人に交じって仕事をしていらっしゃるのかが、未だによく分からないのですが・・・。」


「村で暮らすんだから、みんなと一緒に働くのは当たり前でしょ?それに働くの楽しいですから。皆が喜んでくれると嬉しいですし。」


 私がそう言うと、彼女はちょっと不思議そうな顔をした。






「エルフさんたちだって毎日働いてご飯を食べているんでしょう?」


「それはそうですが、私たちは基本的に森の恵みで生活していましたから。それに食べ物を得るために自分の手を動かすことはほとんどありませんでした。」


 エルフさんたちは風や水の精霊の力で食べ物を得るそうだ。魚を捕まえるのも、木の実やキノコを探すのも、精霊に助けてもらっていたらしい。


 それに妖精の恵みが溢れるエルフの森の中では、毎日食事をする必要もないので、その生活は非常にのんびりとしたものだったそうだ。だから人間たちが毎日夜明けとともに起きて、日が暮れるまで働くのを見て、最初はとても驚いたと彼女は言っていた。


 その辺は私たち竜の暮らしにちょっと近いかもしれないと思う。私も昔は一度狩りをしたら、しばらくは何にもしないで寝ているか、仲間の竜や妖精たちと遊んでいるかしていた。お互いに長命種族だから、生活のリズムが似ているのかも?







「ここには妖精の恵みがありませんから毎日食事を摂っていますけどね。それにしても人間の食欲と料理の多彩さには本当に驚かされています。」


「あー、それ分かりますよ。人間の料理って本当にたくさん種類があってすごいですよね!」


「私も最近は塩辛い味付けにも少し慣れてきました。ドーラ様は何でもよく召し上がっていらっしゃいますよね?」


「私、辛いのも苦いのも平気ですよ。甘いものも大好きですし。」


 私にはあんまり好き嫌いがない。大概のものを美味しく食べることができる。他の生き物にとっては害があるようなものを食べても全然問題ない。むしろ飛竜の猛毒の尾なんかは、ちょっとした珍味で好物なくらいだ。


 そのせいか料理の味付けはあまり得意ではない。というか全然できないらしい。らしいというのは私は美味しいと思うのに、他の人たちは食べられない場合が多いからだ。


 以前、マリーさんたちに料理を教わったこともあったけれど、私の作った料理の味は「当たり外れが大きすぎる」らしくかなり評判が悪い。だから料理に関しては、家妖精のシルキーさんにすべてお任せしている状態だ。


 料理の味付けについては諦めている。私はそれ以外の部分で頑張るからいいんだ。うん。






「せっかく村にいるんだし、ロウレアナさんも何か仕事をしてみたらいいんじゃないですか?」


「そうですね。フルタリス様は以前、人間の国で冒険者をしていたとお聞きしています。私も冒険者の仕事をしてみたいです。」


「ああ、それならテレサさんがディルグリムくんと一緒に冒険者として修行してますよ。相談に行ってみたらどうでしょう?」


 彼女はその話にかなり興味を惹かれたようだった。彼女はエルフ族の戦士としてかなりの力があるらしいので、きっと冒険者として活躍できるんじゃないかな。


 私も冒険者には憧れるけれど、魔獣と戦えないという弱点があるからなー。






 舟着き場で渡し舟の船頭アクナスさんにお礼を言って舟を降りる。最近、ハウル村の渡し舟は屋根付きの『ゴンドラ』という舟に変わった。


 アクナスさん曰く「儲かって仕方がない」というくらい儲かっているらしく、そのお金でこの新しいゴンドラを購入したそうだ。揺れが少ない上に、屋根があるので雨の日にも濡れずに済むと冒険者の人たちにも好評のようだ。


 ちなみにアクナスさんは、商人のカフマンさんと手を組んで、舟の中でちょっとした小物や軽食を販売する商売も手掛ける様になった。今後はガブリエラさんから船着き場周辺の利用権を借り受ける算段をしているそうだ。


 ハウル村の船着き場にも大きな船が着くようになっているし、今後の儲けに期待してのことらしい。私も銀貨大好きだからお金儲けしたい気持ちはよく分かる。


 ただ村の人の出入りを管理するカールさんの仕事は忙しくなるので、それがちょっとだけ心配なのだけれど。






 船着き場から街道を横切って村に向かっていると、遠くの方から学校を終わってこちらにやってくる子供たちの姿が見えた。


「ドーラおねえちゃーん!」


「エマ!みんなー!」


 私は子供たちに向かって走っていった。街道で子供たちに囲まれた私は、皆と一緒に家まで帰ることにした。皆で歌を歌いながら、水路沿いの道を通り過ぎる。


 ロウレアナさんも子供たちに囲まれていた。ちょっと戸惑った顔をしているけれど、決して嫌そうな感じではない。エルフ族は子供が少ないそうなので、きっとあまり慣れていないんだろう。


 家が見えた辺りで、子供たちの一人が話しかけてきた。






「ねえねえ、ドーラおねえちゃん!」


「なあに?」


「ドーラおねえちゃんって、お空が飛べるって本当?」


 私は思わずその場に立ち止まった。強張った笑顔でその子に尋ねる。


「ド、ドウシテ、ソンナコトヲ・・・?」


「ロウレアナおねえちゃんが言ってたよ。ドーラおねえちゃんはすごいって!なんでも出来るんだって!」


 私は思わずロウレアナさんを睨んでしまった。彼女は慌てて無言で首を振る。どうやら私の正体について話したわけではないようだ。ふう、よかった。






「いくらドーラねえちゃんだって、空は飛べねえだろ!」


「えー、でも出来そうじゃない?おねえちゃんの魔法はすごいもん!」


 口々に言いあう子供たち。どうやら私の魔法のことを皆で話していただけみたいだ。そんな時、エマが私を見ながら言った。


「もし、お空を飛べたらすごく素敵ね!私も飛んでみたいな!」


 にっこりと笑うエマの顔は最高に可愛い。今すぐにでも竜に戻り、エマを乗っけて空を飛びたい衝動にかられる。いやいや落ち着いて、私!


「空を飛べる魔法ってあるのかなー?」


「えー魔法だと、俺たち飛べないじゃん!」


 そうやってワイワイと話しているうちに農道の合流地点に着いた。子供たちは手を振りながら、それぞれの家へと帰っていく。午後からは家の仕事を手伝うのだ。


 私はエマ、ロウレアナさんと一緒に家へ向かって歩きながら、空を飛ぶ魔法についてガブリエラさんに聞いてみようと思った。






「空を飛ぶ魔法?ありますわよ。」


 午後、魔力の鍛錬が終わった後、ガブリエラさんに空を飛ぶ魔法のことについて質問したら、彼女はそう答えてくれた。でもすごく嫌そうな顔をしている。


「なんでそんなに嫌そうな顔してるんですか、ガブリエラ様。」


「空飛ぶ魔法って危険な上に実用性が全くないの。だから実質、禁呪扱いなのよ。」


 彼女によると空を飛ぶ魔法は主に二つ種類があるそうだ。一つは風属性の浮遊魔法で、もう一つは使い手がいないと言われている伝説の重力魔法らしい。


 風魔法っていうのは何となく分かる。私も空を飛ぶときは魔力を込めた翼で風を捕まえて飛んでいるからだ。でももう一つの魔法が分からない。


「『重力』って何なんですか?」


「それ、聞かれると思ったのよ。説明するのが物凄く大変だから簡単に言うけど、物体が物を引き付ける力のことね。」


「?? さっぱり意味が分かりません。」






 彼女はその後もいろいろ説明してくれたけど、さっぱり理解できなかった。結論から言うと、重力という力はありとあらゆるものに存在しているのに、解明されていない謎の力ということらしいというのが分かった。


「謎の力なのに、それを操る魔法があるって面白いですね!」


「まあ、それを言ったら空間魔法も似たようなものだけれどね。ただ空間魔法は無属性魔法を究めれば身につけられることが分かっているわ。使い手も多くはないけれど存在する。ただ重力魔法は使い手が存在しないの。」


 かつては使いこなす者がいたという記録だけが残っているそうだ。どうやら土属性か闇属性を究めた者が身につけられるということだけは分かっているらしい。


「ただ属性魔法を究めるってすごく大変よ。それこそ一人の人間が人生のすべてをそのことだけに費やして、到達できるかどうかっていう話なの。もし人間よりもうんと長命で無限の魔力を持っているような存在がいれば、いつかは実現できるかもしれないけどね。」


 ガブリエラさんが私の方を探るような目で見ながらそう言った。うん、確かに私なら可能かもしれない。でも私ではその仕組みを理解できないと思う。いや100年とか200年とか時間をかければ可能かも知れないけど、明日エマと遊ぶには間に合わないからね。そんなことやる気はないです。


「未知の力を自在に扱うことが実現化できるならすごいことよね。もしそれができたら大きな建物、例えば城とかを空に浮かべることだって・・・。」


 彼女は自分でそう言った途端、ハッとしたように口を噤み、考え込んだ。


「?? どうかしたんですか、ガブリエラ様?」


「いいえ、何でもないわ。とにかく重力魔法で飛ぶっていうのはあくまで理論上可能っていうだけってことね。」


 すごく難しい話だったけれど、とにかく重力魔法はダメだってことは、分かったよ!






「じゃあ、風属性の方なら出来そうですね。」


「まあね。ただ制御がかなり難しい上に、事故が多くって。空飛ぶ魔獣を馴致テイムして騎乗する方がよほどマシだと思うわ。」


 魔獣馴致師テイマーと呼ばれる特殊な技能を持つ人たちは、空飛ぶ騎獣も扱うことができるそうだ。ただ人を乗せられるほどの飛行魔獣を捕えるのは、命がけなんだとか。


「しかも乗ってる最中に暴れでもしたら、それこそ一巻の終わりでしょ。」


「風魔法で空を飛ぶのは、それ以上に危険ってことなんですか?」


「まあ、危険というか・・・。見てみるのが早いわね。私が出来る範囲でよければ教えてあげるわ。」


 そう言って彼女は私を研究室の外、屋敷の中庭に連れ出した。ついでだからと、魔法の練習をしているエマとミカエラちゃんも一緒に連れていくことになった。






「じゃあ、見ててね。」


 ガブリエラさんは杖を構え、呪文を詠唱し始めた。


「世界を吹き渡る大いなる風よ。その力強きかいなをもって、我が身を大地の軛から解き放て。《浮遊フロート》」


 ガブリエラさんの体がふわりと浮き上がり、エマの目の高さくらいまで上がった。ガブリエラさんは必死の表情で杖を握りしめている。


「すごいです、お姉様!」


「ガブリエラおねえちゃん、すっごーい!!」


「浮いてますよ、ガブリエラ様!!」


 私たちがそう言っている間に彼女の体は少しずつ上昇していった。でも私の頭を少し超えたところでバランスを崩して、急に体が逆さまになった。


 彼女のローブとスカートが盛大にめくれてしまった。彼女はそれを抑えようとして、手を杖から放してしまい、一気に地面へ落下した。






「危ない!!」


 私は咄嗟に飛び出して彼女を捕まえた。頭から落ちそうになる彼女を間一髪支えることができたものの、逆さまのまま捕まえてしまったので、ちょうど彼女の白いお尻が目の前にある状態になってしまった。


 それを見たエマとミカエラちゃんが顔を赤くし両手で目を押さえる。私は何とか彼女を横抱きにすると、そっと地面に降ろした。ガブリエラさんは顔を真っ赤にして荒い息をしていたが、しばらくすると落ち着いて、気まずそうにしながら私たちに魔法の説明をしてくれた。


「こほん。今のが風属性の浮遊魔法、《浮遊》よ。もう一つ《飛行フライ》っていう魔法があるけど、私は使ったことがないわ。・・・理由は言わなくても分かるでしょう?」


 エマとミカエラちゃんが赤い顔をしてうんうんと頷く。彼女が言うにはこの魔法、バランスをとるのが物凄く難しいらしい。


「魔力を全身にうまい具合に行き渡らせることができればいいらしいのだけど、私は闇属性だからこの風の魔法は苦手なのよね。」


 なるほど属性の問題もあるのか。でも私なら出来る気がする。私は「ちょっと試してみますね」と言って、呪文を詠唱してみた。






 《浮遊》の魔法が発動したと思った瞬間、私の体は撃ち出された矢のように地面から飛び上がり、あっという間に雲の上まで上昇する。


 あんまりすごい勢いで飛び出したせいで、着ていた服がすべて脱げてしまった。私は慌てて魔力を調整し上昇を止める。真っ裸のまま上空に浮かんで周りを見ると、秋晴れの空の下、私のねぐらだった山が遥か眼下にあった。


 どうしようこれ。とりあえず止まったけど、降り方が分からない。降りる方法も聞いておけばよかった。仕方がないので、私は《転移》を使ってガブリエラさんの家の中庭に戻った。


「ドーラ、無事だったのね!!・・・って、なんて格好をしてるの、このおバカ!!」


「いや、だって、服が脱げちゃったんですよ。」


 エマとミカエラちゃんが屋敷の周りに落ちていた私の服や下着を拾ってきてくれた。私が飛び上がった後、上空から舞い落ちてきたらしい。二人は裸の私を見て、けらけらと笑った。






 その後、何回か練習して私は《浮遊》と《飛行》の魔法を自在に扱えるようになった。私が地上に降りると、エマが駆け寄ってきて私に抱き着いた。


「ドーラおねえちゃん、すごーい!!」


「・・・あなた、やけに飛ぶのが上手いわね。」


「本当にそうですね、お姉様。まるで昔から空を飛んでたみたいに自由自在に飛んでました。ドーラおねえちゃん、あんなに高く飛んで怖くないの?」


 ガブリエラさんとミカエラちゃんに言われて、思わずぎくりとしてしまう。


「イ、イヤー、スゴクキモチ、ヨカッタデスヨ!」

 

 私が冷や汗をかきながらそう言ってごまかすと、ガブリエラさんは大きなため息を吐きながら「まあ、あなたならそうでしょうね」とだけ言った。






 エマとミカエラちゃんも《浮遊》と《飛行》の魔法を練習したのだけれど、二人ともほとんど呪文が発動しなかった。


 特にミカエラちゃんは数回練習しただけで魔力切れを起こしてしまい、横になって休んでしまう有様だった。


「二人ともこの魔法を使うにはまだ修行が必要みたいね。特にミカエラにとっては苦手な属性の魔法だし、魔力の消費が大きかったはずよ。」


 ミカエラちゃんはガブリエラさんと同じ強い闇属性の魔力を持っている。だから闇の魔法はすごく得意だけれどその分、他の属性の魔法は魔力の消費が大きくなってしまうのだそうだ。


 二人はとても残念がっていた。そんな二人にガブリエラさんは言った。


「《浮遊》も《飛行》も、失敗すれば命に係わる魔法よ。だから軽々しく使おうなんて思っちゃダメ。ドーラは・・・あの子は特別なの。」


 二人は私の方を見て神妙な顔をして頷いた。ガブリエラさんは「よろしい」と言った後、言葉を続けた。


「練習するときは必ず私たちのいる場所ですること。いいわね?」


「はーい!」「はい、分かりました、お姉様!」


 確かにエマが落っこちて怪我でもしたら大変だ。私も気を付けようと思った。






 そうだ。魔法がダメなら魔法具はどうだろう。空を飛ぶ魔道具ってないのかな?

 

「それもあるけど・・・。」


 ガブリエラさんがまたすごく嫌そうな顔をする。


「なんかまた大変な道具なんですか?」


 彼女は肩を竦めながら答えてくれた。


「そうねぇ、大変っていうか、役立たずの魔道具の代名詞と言われているわ。『空飛ぶホウキ』よ。」


「ホウキって部屋を掃除するときに使う、あのホウキですよね。なんでホウキが空飛ぶ魔道具なんですか?」


「それについてはいろいろ諸説があるわ。身近にあって魔力が宿りやすいからとか、たまたま最初に作った人がそばにあったホウキを使ったからとか。とんでもない言い伝えでは、異界から来た賢者が『魔法少女の乗り物はホウキだろ!』って言ったから、なんていうのもあるわね。」


 彼女は呆れ顔でそう言った。






「魔法少女?なんで女の子限定なんですか?」


「知らないわよ。そういう伝説が在るってこと。まあ、とにかく空を飛ぶ魔道具っていえば『空飛ぶホウキ』っていうのが定番なの。」


 聞けば特殊な素材で作ったホウキに《浮遊》と《飛行》の魔法陣を刻み込めば完成するらしい。


「ただ、空飛ぶホウキが一般的な乗り物になっていないことから考えればわかるでしょ?使った素材に見合った効果が出ないからよ。」


 この魔道具の素材は入手困難なものが多い上に、消費魔力がとんでもなく大きいらしい。それなのに飛ぶ速さは、人間が歩くのよりほんの少し早い程度なのだとか。自由に空を駆け回るという感じの道具ではないのだそうだ。


「苦労して作った割に、あまりにも役に立たないから、錬金術師たちは実りのない仕事のことを『空飛ぶホウキ』って呼ぶくらいなのよ。」


 それは確かにダメそうだ。でもホウキに乗って空を飛ぶエマ・・・うん、可愛いかもしれない。魔法少女をホウキに乗せようとした賢者さんの気持ちがちょっとだけ分かった気がする。


 それにあんまり速さが出ないなら、むしろ安全かもしれないし、ちょっとした遊びとして使う分には逆にいいかも?


 私は嫌がるガブリエラさんから空飛ぶホウキの作り方を教えてもらい、早速作ってみることにした。






 まずは材料集めから。ホウキの材料に使うのは風属性の木であるヘーゼルの古木の芯材と、暴風弧テンペストフォックスの毛だ。


 後は魔法陣を書くためのインクの材料。風属性の出来るだけ強力な魔石と菜種油、蜜蝋、ヒュアツィンテの花の球根、鷲獅子グリフォンの風切羽、そして風属性の魔力中和液。魔獣の素材を手に入れるのが大変そうだけど、まあ何とかなるでしょう。多分。


 夜中、家をこっそり抜け出した私は、竜の姿に戻って材料を探しに行った。


 ヘーゼルの古木は森の中ですぐに見つかった。人の姿になって根ごと引き抜き、《領域創造》で芯材だけを取り出して《収納》にしまう。


 ヒュアツィンテの花や蜂の巣も森の中で見つけることができた。菜種油は村で作っているからすぐに手に入る。魔獣以外の材料はこれでよし。次は暴風狐だ。


 ガブリエラさんによると暴風狐は深い山奥に住んでいて、滅多に見つからないそうだ。ただ私には心当たりがあった。私は《転移》を使って、妖精郷の入り口のある東の海上に向かった。


妖精騎士エルフィンナイト、聞きたいことがあるんだけどー!」


 大声で呼びかけると空中に妖精の輪が開き、妖精騎士が現れた。


「あらドーラちゃん。あの時以来ね。聞きたいことってなあに?」


 私は彼女に暴風狐のいる場所を知らないかと聞いてみた。







「うーん、風の妖精たちなら何か知っているかもね。」


 彼女はそう言うと風の妖精たちを呼んできてくれた。いたずら好きの彼らに話をするのは大変だったけれど、お土産の蜂蜜酒エルフさんからもらったおさけを渡すと快く協力を申し出てくれた。


「暴風狐の毛を引っこ抜いてくればいいの?なにそれ、すごく楽しそう!」


「このくらいほしいんだけど。集めてきてくれる?」


「お安い御用さ。誰が一番たくさん集められるか競争しよう!」


 風の妖精たちは妖精の輪に次々と飛び込んでいった。彼らは妖精郷内にある妖精の輪をくぐり、暴風狐の住処に向かったのだ。






 妖精郷内には世界中の自然の豊かな場所に通じている妖精の輪が無数にある。サローマ領の蘇った森にあるのもその一つだ。


 暴風狐は人の住まない山奥に住んでいるって聞いたから、きっと妖精の輪が開けるくらい自然が豊かなんじゃないかと思ったんだよね。思った通りでよかった。


 妖精騎士と空中でおしゃべりしていたら、程なく妖精たちが抱えきれないほどの毛を集めて戻ってきてくれた。一本一本の毛が麦の穂くらいある。どうやら暴風狐は物凄く大きい狐のようだ。


「眠ってるのを起こさないようにどのくらい集められるか、皆で競争したんだよ!すっごくドキドキして面白かった!」


 風の妖精たちは大喜びで私に教えてくれた。私は皆にお礼を言い別れると、ねぐらの山の上空に《転移》した。






 次は鷲獅子だ。彼らの住処は知っている。ここからかなり西側、野生の馬がたくさんいる平原の側の高い岩山の洞穴にたくさん住んでいるのだ。


 これは素材図鑑に書いてあった。鷲獅子は馬が大好物で、時折平原に飛来してきては馬を襲って食べているらしい。また発情期にはオスの鷲獅子が雌馬と交尾することもあるそうだ。そうやって生まれた子供は鷲馬ヒポグリフと呼ばれると図鑑に書いてあった。


 私は竜の姿に戻ると、西の平原を目指して飛んだ。すぐに目的地に辿り着く。はるか下に鷲獅子たちの住処の岩山が見えた。魔力で気配を探ると、洞穴の中にたくさんいるのが分かる。


 彼らは鳥なので真夜中の今は眠っているはず。私は気づかれるギリギリの辺りまで近づくと本当に小さく《竜の咆哮ドラゴンロア》を放った。


 私の《咆哮》に驚いた鷲獅子たちが、一斉に巣の洞穴から飛び出してきた。私は一気に急降下すると、大きめのオスを口で捕らえた。


 羽を傷つけないように、気を付けて止めを刺す。甘い血が口に溢れ、思わずよだれが出そうになるのを必死に堪えた。本当はそのまま飲み込みたいところだけど、素材のために今は我慢だ。


 人の気配がない場所を探して地上に降り、人間の姿になって風切羽を手に入れた。やったね!


 もちろんその後で、鷲獅子は美味しくいただいた。ちょっと小さめだけど、鳥部分と獣部分で食感が微妙に違うのが楽しい。ごちそうさまでした。






 残りは風属性の魔石だけれど、これが一番大変だ。魔獣を狩るのはまあいいとして、魔石を回収するのが大変そう。何しろ私が魔石に触れると、体内に吸収してしまうからだ。


 この辺りで一番強力な風属性の魔獣といえば、空飛ぶトカゲこと飛竜だ。私はねぐらの山の上空に再び戻って、飛竜を探した。


 竜の姿で雲の上から探していると、はるか下を飛ぶ飛竜を見つけた。よし、あれにしよう。私は飛竜に襲い掛かり、空中で止めを刺した。


 そのまま噛み砕いてしまいたい衝動を堪えて、飛竜を口に咥えたまま、人気のない場所まで移動した。


 素材図鑑で読んだ飛竜の魔石の位置に気を付けながら、飛竜の首に鋭い爪を入れる。飛竜の鱗を切り裂き、魔石を露出させるのだ。うっかり触らないように、慎重に慎重に・・・。


 あれ、図鑑で読んだ場所、首の付け根に魔石がないぞ?どうして?


 不思議に思って私が爪を深く入れた瞬間、首の骨に隠れていた小さな魔石に爪の先が触れてしまった。たちまち私の体内に吸収される魔石。失敗だ。


 これかなり難しい。私は残った飛竜を丸ごとバリバリと食べて、次の獲物を探しに行った。






 結局それから3匹飛竜を捕まえ、通算4匹目にしてようやく魔石を露出させることができた。私は《人化の法》で人の姿になり、魔法を使った。


「《土人形ゴーレム創造》!」


 地面がもこもこ動いて、たちまち私そっくりの姿をした土人形が出来上がった。私は人形を動かして飛竜の体から魔石を取り出させる。


 土人形は私と同じくらい不器用なので、すごく大変だったけど何とか取り出すことに成功した。私は魔石を《収納》から取り出した布で包み、そっと手に取った。ふふふ、直接触れなければ吸収しないのだ。これで魔石も手に入った!


 土人形を土に戻し、残った飛竜を食べ終わった後、私は《転移》で自分の部屋に戻った。






 翌朝、私はペンターさんに頼んで、ヘーゼルの芯材をホウキの柄の形に加工してもらった。


「こんなにいい材料で、ホウキの柄を作るなんて、変わったことするなあ。」


 不思議がるペンターさんにお願いして、普通のホウキよりも少し太めに加工してもらった。もちろんエマたちが乗った時、お尻が痛くならないようにするためだ。


 座る部分の形も出来るだけ安定感が出るようにしてもらう。ホウキとして使うにはかなり使いにくいだろうけど、これは乗り物だからね。


 それが終わると、今度は他の材料を準備して加工していく。まずは暴風狐の毛を丁寧に束ね、長さを切りそろえていく。


 昼の光で見ると暴風狐の毛は金色に輝いていて、とてもきれいだ。作業をしてくれるのはもちろん家妖精のシルキーさんだ。


「これでよろしいでしょうか?」


「完璧だよ!さすがはシルキーさん!」


「お褒めにあずかり光栄です。」


 彼女のおかげで、すごくいい感じのホウキが出来上がった。次は魔法陣を刻むための魔法のインクづくり。






 風属性の魔力中和液に、飛竜の魔石と長さをそろえるために切り落とした暴風狐の毛の余りを入れ、魔力を流しながら混ぜていく。


 蜜蝋やヒュアツィンテの球根の搾り汁、菜種油も加えていく。計量や材料の処理をする工程はすべてシルキーさんにお任せだ。


 それが終わるとやっと私の出番。《領域創造》で作った《領域》内に、風の魔力を流しながら材料を混ぜ合わせる。程なく紫色の光を帯びた魔力のインクができた。


 インクと鷲獅子の風切羽で作ったペン(もちろん作ったのはシルキーさんだ)を使い、《自動書記》の魔法でホウキに魔法陣を書いていく。書き込むのは《浮遊》と《飛行》の二つの魔法陣。そして万が一、乗っているエマが落ちた時にけがをしないように、乗り手にも《浮遊》の魔法がかかるようにしておく。


 これならホウキから落っこちたとしても、けがをすることはないはずだ。最後に《魔方陣構築》の魔法で、インクをホウキに焼き付けて完成。無事に空飛ぶホウキが出来上がった。


「よし、ガブリエラさんたちに見せに行こう!」


 私は出来上がったばかりのホウキを《収納》にしまい込むと、ガブリエラさんの家に向かった。






「見てください!空飛ぶホウキができましたよ!」


「もう出来たの?すっごーい!!」


「とってもきれいですね!」


「お昼過ぎても姿を見せないと思ったら、それを作っていたのね。」


 魔力の鍛錬と魔法の練習をしていた皆にホウキを見せた。ガブリエラさんはホウキを手に取り、魔法陣を丁寧に観察していた。


「うん、魔法陣には問題なさそうね。ところで乗ってみたの?」


「いいえ、実はまだなんです。ここで乗ってみようと思って。」


「あたし、飛ぶところが見たい!」


「わ、私も見たいです!」


 私たちは中庭に移動して、空飛ぶホウキを使ってみることにした。まずは私がホウキに魔力を込めて跨ってみた。


「なるほど、座るところが広く作ってあるのね。これなら乗りやすそうだわ。」


 私が乗っている様子を見て、ガブリエラさんが感心したように呟いた。私は跨って乗ったけれど、横向きに座ることも出来るようになっている。






「じゃあ行きますね!《ホウキよ、浮かべ!》」


 私が起動呪文コマンドワードを叫ぶと、ホウキがすうっと宙に浮いた。見ている皆が、おおっと歓声を上げる。


「乗り心地はどうかしら?」


「悪くないですね。でも座り方を工夫しないと落っこちそうです。」


 私はお尻の位置を色々変えながら、ちょうどよい姿勢を探す。ちょっとお尻が痛いかも。クッションをつけたほうがいいかもしれない。ガブリエラさんは私の感想を紙に書き留めてくれていた。


「じゃあ、飛んでみますね。《ホウキよ、空を飛べ!》」


 《飛行》の魔法が発動し、ホウキが空を飛び始めた。私は中庭をくるくる回ったり、屋根の辺りまで上昇してまた降りたりを繰り返した。


「最後にホウキから落ちてみますね。」


 私はホウキから手を放した。体がホウキを離れ、地面に向かって落ちていく。エマとミカエラちゃんが小さく悲鳴を上げた。


 私の体は地面からエマの背の高さくらいの所で止まった。うん、ちゃんと乗り手にも《浮遊》の魔法がかかってるみたい。ホウキはひとりでに私の所に帰ってきた。私が地面に降りると魔法の効果が切れた。成功だ!






「問題なく動くみたいね。それに私が知っているホウキより、性能がいいみたいだわ。」


 ガブリエラさんがすごく興味を惹かれた様子でホウキを見つめていた。


「ドーラおねえちゃん、あたし乗ってみたい!」


「私も乗ってみたいです。いいですか、お姉様?」


 ガブリエラさんがクッションを持ってきてホウキに括り付けてくれた。これならお尻が痛くないはずだ。


 準備ができたところで、エマとミカエラちゃんに、一人ずつホウキに乗ってもらった。最初は二人ともホウキに恐々掴まっていたけれど、しばらくすると慣れて自由に飛べるようになった。


 ホウキに乗って空を飛ぶエマはものすごく可愛かった。私は《飛行》の魔法を使って、エマと一緒に空を飛んだ。エマと一緒に飛べる日が来るなんて!ああ、苦労してホウキを作ってよかった!


 意外なことにエマよりもミカエラちゃんの方が乗るのが上手くて、旋回や急停止なども上手にこなしていた。






「すっごく楽しかったね、ミカエラちゃん!」


「うん、そうだね、エマちゃん!!」


 二人とも大興奮で手を取り合っている。最後にガブリエラさんも乗った。彼女はホウキに横向きに座った。ごく低い位置をしばらく飛んだあと、彼女は「これは悪くないわね」と言った。


 皆で話し合いをして、空飛ぶホウキはガブリエラさんの手元に置いておくことになった。彼女がホウキを研究したいと言ったからだ。


 このホウキの魔力消費はやはりかなり大きくて、ガブリエラさんが魔力切れ寸前まで魔力を充填して何とか、半日飛び回れるくらいの状態だった。彼女はそれを改良したいらしい。


 しばらく後、村の中をホウキに乗って移動するガブリエラさんの姿が話題になった。その評判は行商人さんたちを通じて、王都やサローマ領まで広まった。


 そのせいでハウル村にはますます多くの人が訪れるようになり、カールさんはますます忙しくなってしまったのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:錬金術師

   かけだし建築術師

   見習い給仕


所持金:68363D(王国銅貨43枚と王国銀貨140枚と王国金貨36枚とドワーフ銀貨32枚)

    ← 薬の売り上げ 400D

    ← 香草茶の売り上げ 120D

    ← 金物修理の代金 80D

    ← 国王からの謝礼 480D

読んでくださった方、ありがとうございました。

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