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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
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74 逃避行 後編

週末仕事のため、しばらくは更新間隔が空くかもです。

 日が暮れたばかりの暗い森の中を走り続けるジーナ。そんな彼女を突然、昼間のように明るい光が照らし出した。


「現れ照らせ《絶えざる光》」


 急に眩い光に照らされて目の前が真っ白になる。その光の中に、僅かに人影が見えた。相手が誰かなどは全く分からない。しかし彼女は声の限りに叫んだ。


「ハンクを助けて!まだ奥にいるの!!」


 その声と同時に彼女の横を、疾風のごとき素早さで誰かが駆け抜けて行った。


「ジーナ!生きてたのか!!」


 光の向こうから驚いたように声が上がった。その場に崩れ落ちるように倒れた彼女の側にやってきたのは、さっき森を抜けていったはずのマヴァールだった。






「ハンクが!ハンクがあたしを逃がしてくれて・・・!」


 彼女は言葉を続けられなくなり、顔を両手で覆い、声を上げて泣き始めた。マヴァールは剣を掴むと森の奥へ向かって駆け出そうと立ち上がった。


「お待ちなさい。あなたが行っても死体が一つ増えるだけです。ここで彼女を守っていなさい。」


 そのマヴァールを落ち着いた女の声が押しとどめた。マヴァールは語気を荒げ、それに反論する。


「この奥には水幽鬼ウォーターレイスの大群がいるんだぞ!俺も行って加勢しねえと・・・!」


 マヴァールの怒りなどをまるでそよ風と言わんばかりに、女の声が彼の言葉を遮った。


「あの程度の魔獣に後れを取るようなカール様ではありません。テレサ様、ケガ人がいるようです。あなたも行っていただけますか?」


 あまりにもきっぱりとしたその言い様に、ジーナは思わず顔を上げて、その女を見た。






「雪の女神様・・・!」


 まばゆい光の中に立っていたのは、純白のローブを纏い、長い杖を持った女性だった。


 女性の髪は一点の曇りもない新雪のように白く光り輝いていた。長く白いまつ毛に縁取られた緑の瞳、瑞々しく赤い唇。とても人間とは思えない程、神秘的で美しい女性が、まっすぐに背を伸ばし、ジーナを静かに見下ろしていた。


 女性の後ろから白い法服を纏った女司祭が歩み出て、彼女に向って一つ頷くと、すぐに森の奥に向って駆けていった。


「待って、あたしも連れて行って!」


 ジーナは立ち上がろうとして、足首がひどく痛むことに気が付いた。必死に逃げるうちに、足首を痛めてしまったようだ。だがそんなことに構っている場合ではない。彼女は飛ぶように遠ざかっていく女司祭の背中を必死に追いかけた。


 彼女を守るように、マヴァールと白いローブの女性が続く。やがて彼らは惨劇の舞台となった、森の中の広場へと足を踏み入れた。






「何だありゃ!?一体、どうなってやがる!?」


 マヴァールは信じられない光景を目にした。広場をぐるりと取り囲んでいた黄色い光が、ほとんど消え去っていたのだ。しかも彼の見ている前で、残っている光も次々と消えていく。


 魔法の武器があれば滅ぼせるとはいえ、あれだけの数の水幽鬼をこの短時間ですべて倒すなんて、人間業ではありえない。不定形の水幽鬼を一刀で消滅させるには、核を正確に捕らえる必要がある。この暗闇の中で、それをやってのけるあのカールとかいう男の技量に、マヴァールは戦慄せずにはいられなかった。


 だが白いローブを纏った女、ガブリエラは彼の驚きなど全く無視して、目の前にしゃがみこんでいるテレサに後ろから近づいた。テレサの隣には、けばけばしい服を着た金髪の女が青ざめた顔で、一心に地面に横たわる大きな体へ呼び掛けている。


 近づこうとする彼女を、テレサが鋭い声で留めた。


「ガブリエラ様、お近づきになりませぬよう。ご覧にならないほうがよろしいです。」


「・・・助かりそうですか?」


「五分五分ですね。生きているのが不思議なくらいの状態です。すぐに詠唱に入ります。ジーナさんとおっしゃいましたね。あなたは彼の名前を呼んであげていてください。」


 テレサはその場に跪き、胸に下げた銀の聖印を両手で捧げ持ちながら詠唱を始めた。







「あまねく世界を照らす聖女の光よ。悪しきものよりもたらされた傷を癒し、彼の者の痛みを取り去る恵みとなれ。苦しみに安らぎを。喪失に再生を。嘆きに福音を。世界を守護する聖女と精霊の御名において、彼の者の苦しみを、喪失を、嘆きを打ち払い給え。彼の者の救済を願う祈りによりて、大いなる癒しの力を我が手に宿し給え。《快蘇の祈り》」


 詠唱によってテレサの両手に温かく白い光が宿る。彼女は両手をそっとハンクの体に添えた。


 水幽鬼の消化液によって、原型を留めないほど焼け爛れていたハンクの体にその光が浸透していく。彼の焼け爛れた組織が、光の粒子によって再構成され、みるみる元に戻っていった。


 それを見たマヴァールは腰を抜かしそうになるほど驚いた。こんな回復魔法を扱えるなんて、彼の知っている聖職者の中には一人だっていない。水幽鬼を瞬時に屠ったあの男といい、この女司祭といい、なんでこんなちっぽけな村に、こんな力を持った連中がいるんだ?


 彼は自分の手が震えていることに気づき、愛用の片手剣をぎゅっと両手で握りしめた。






 ジーナはテレサに言われた通り、ハンクの名を呼び続けていた。その声に応えるかのように、ハンクが目を開けた。


「・・・ジーナ、よかった。」


 彼は呟くようにそう言うと、またすぐに気を失ってしまった。慌ててハンクの体を揺さぶるジーナを、青ざめた顔のテレサが止めた。


「《快蘇の祈り》によって傷や毒は取り去りましたが、体力は回復していません。しばらくはそっと・・・。」


 そこまで言ったところで彼女は「失礼!」と言って、近くの茂みに飛び込んだ。茂みの奥から激しく嘔吐する音が聞こえる。やがておぼつかない足取りで、頭を押さえながら彼女は戻ってきた。ガブリエラが懐から素焼きの小瓶を取り出し、彼女に手渡す。


「テレサ様、お使いください。」


「ありがとうございます。あなたに神の恵みがありますように。」


 テレサは聖句を唱え、手渡された小瓶の中身を口に含んだ。上級魔力回復薬が効果を表し、魔力切れによる激しい頭痛と胸のむかつきが軽くなる。たった一回で自分の全神聖力を使い切ってしまうほどの大魔法だったが、成功させることができて本当によかったと彼女はほっと息をついた。






 水幽鬼を倒し終わったカールが戻ってきた。息一つ切らすどころか、水幽鬼の消化液すら浴びた様子がないのを見て、マヴァールは剣士としての自信を喪失しそうになった。

 

 本当はあらかじめガブリエラがカールに対して、《雨除け》をはじめとする防御魔法をかけておいたからなのだが、その時のマヴァールは冷静さを欠いていたため、そこに思い至らなかったのだ。


「魔石を放置すると危険だ。今のうちに回収できるものだけでも回収してしまおう。あと遺体が何体かある。村の男たちに協力を仰ぎ、村に連れ帰って・・・。」


「カール様!ガブリエラ様!ご無事ですかい!?」


 カールがそこまで言ったところで、村の方からたいまつを持った男たちがこちらにやってくるのが見えた。全員で協力して魔石と遺体の回収作業を行うことになった。ただ困ったのは気を失ったハンクだ。道具を使わず彼の巨体を運び出すことは難しい。するとガブリエラが、男たちを率いていたフランツに言った。


「ドーラを呼んできて頂戴。」


「ガブリエラ様!・・・よろしいのですか?」


 カールがマヴァールたちをちらりと見ながら、ガブリエラに尋ねた。


「構いません。大丈夫です。」


 男たちは布に包んだ惨たらしい遺体を持って村に戻っていく。ジーナはハンクに寄り添うように座り、毛深い彼の手を握っていた。


 なんでハンクを放って男たちは帰ってしまったのか。マヴァールは訳が分からず、ガブリエラの整った横顔を見つめていた。






「ガブリエラ様ー!お呼びですかー!」


 しばらくして村の方からやってきた娘を見て、マヴァールは言葉を失くした。ハンクを運ぶというからてっきり六足牛でも連れてくるのかと思っていたのだ。だが娘の姿を魔法の明かりではっきり見たときには、さらに驚かされた。


 こんなにきれいな娘、今まで見たことがない。


 しかも娘の様子は明らかに異質だった。暗い森の中をたいまつすら持たず、まるで歩きなれた小道を行くかのような足取りでぴょんぴょんと駆けてくる。娘は明るい声で白いローブの女、ガブリエラに話しかけてきた。


「私、お留守番だって言われたから、家で待ってたんですよ。急に呼ばれてびっくりしました。重いものを運ぶ仕事ですか?」


「ええ、そこに倒れている人を私の家まで運んで頂戴。休ませてあげたいから、マリーたちに手伝ってもらってね。」


「分かりました。任せてください!」


 ハンクを運ぶ?この娘が?マヴァールは訳が分からない。15、6歳くらいの普通の体格をしたこの娘が、どうやってハンクの巨体を運ぶというのか。






「あ!はじめまして!私はハウル村の錬金術師、ドーラです。どうぞお見知りおきください。」


 ドーラはマヴァールとジーナに丁寧な言葉で挨拶し、ぺこりと頭を下げた。思わず二人もそれにつられて頭を下げる。


 彼女の名乗りを聞いてやっと納得がいった。なるほど錬金術師か。魔法か魔道具を使って運ぶつもりなんだな。だがそれにしては杖すら持っていないようだが、一体どうやって・・・?


 マヴァールがそんなことを考えている目の前で、ドーラはハンクの体をひょいっと持ち上げ背中に担ぐと「じゃあ私、先に行ってますね!」といって、走って行ってしまった。


 ジーナとマヴァールはあごが落ちるかと思うほど、口を開けてその光景を見つめた。だが直後、ジーナが我に返り「待っておくれ、あたしも行くよ!」と言って、ドーラを追いかけて行ってしまった。


「私たちも戻りましょう。そこのあなた、事情をお聞きしたいので村の集会場に来ていただきます。」


 そう言うとガブリエラは森の出口に向かって歩き出す。剣士カールと司祭テレサもそれに続いて歩きだした。マヴァールはしばらく放心していたが、闇の中に取り残されていることに気が付いて、慌てて彼らを追いかけて村へと向かった。






 ハンクをガブリエラの家の離れに休ませた後、ジーナはカールに連れられて、村の集会場に足を踏み入れた。


 真新しい木の匂いのする集会場は、ちっぽけな村のそれとは思えないほど、立派な作りをしている。彼女は促されるままに、テーブルについた。


 今ここにいるのはガブリエラ、カール、テレサの三人と、マヴァールとジーナの合計5人だった。彼女が席に着くと、侍女服を着た少女が飲み物の入った器を持ってきて全員に配った。中身は温めたヤギの乳のようだ。どうやらこの奥に厨房があるらしいと、ジーナは思った。


わたくしが国王陛下から任されているこの村で騒ぎを起こした理由を説明していただけるかしら?」


 ガブリエラがそう切り出した。マヴァールとジーナはそれぞれの立場から事情を説明した。その場にいる者たちは様々な反応をしながら、その話をじっと聞いていた。






「事情は分かりました。マヴァールさんは、ジーナさんを依頼主のもとへ連れて帰ると、こうおっしゃるのですね?」


 ガブリエラがマヴァールに問いかけた。彼は男爵である彼女に対して、緊張を隠しながらゆっくりと答えた。


「おっしゃる通りです。それが俺・・私の受けた依頼ですから。」


「私はそれを認めるわけには参りません。彼女とハンクさんは私に賠償の義務を負っていますから。」


「賠償?」


「ええ、先ほどハンクさんを癒した際、私がテレサ様に差し上げた上級魔法回復薬の弁済をしていただかなくてはなりません。特別に1000Dでよろしくてよ。」


 にっこりと笑いながらそういうガブリエラの言葉を聞いて、たちまちジーナの顔が青ざめる。マヴァールは抗議の声を上げた。







「1000D!?そんな無茶な!」


 だがガブリエラはあくまで冷静にそれに返答する。


「あの回復薬の調合にはかなりの量の魔石と希少な素材が使われています。あなたも冒険者ならそれくらいお判りでしょう?」


「もちろんそれは分かっています。ですがあれは別にジーナが使ってくれと頼んだわけでは・・・。」


「その通りです。私の判断で使いました。それが何か?」


 貴族が平民に対して口にする言葉は絶対だ。彼女がジーナに弁済させると言った以上、それに異を唱えることはできない。だがマヴァールはさらに食い下がった。






「・・・分かりました。ではジーナとハンクをどうするつもりですか。奴隷に堕として仕えさせるとでも?」


「それはお二人次第ですわね。きちんと弁済していただけるのであれば、方法については問いません。」


「男爵様のおっしゃることは分かりました。ですがこの女が盗んだ金1万Dはどうなります?」


 マヴァールはガブリエラの目をまっすぐに見て尋ねた。先程から自分の運命を思って震えていたジーナが抗議の声を上げた。


「!! あたしは盗んでないって何度も言ってるじゃないか!」


「それは俺じゃなくて、依頼主に言ってくれ。・・・男爵様、弁済の義務云々とおっしゃるなら、まずそのことをはっきりさせてもらわないと困ります。」


 彼はガブリエラを問い詰める。それに対して冷たい笑顔でガブリエラは答えた。







「ではこうしましょう。」


 彼女は懐から皮袋を取り出しテーブルの上に置いた。そして彼の目の前で、袋の中から出した銀貨を積み重ねて見せた。


「ここに1万Dあります。これを受け取りなさい。」


 余った銀貨を懐にしまってから、彼女が言った。マヴァールは彼女にその理由を尋ねた。


「男爵様がこの女の代わりに金を工面してくださるんですか。一体なぜ・・・?」


「勘違いしないでくださいませ。それはあなたに託したものです。それを使ってあなたには仕事をしてもらいます。」


「・・・はあ?一体どういうことですか?」


 あまりの展開に思わず素の調子で問い返してしまう。彼女は氷のように冷たい笑顔で、ジーナとマヴァールを見つめながら言った。






「あなたにはそのジーベックとかいう者の代わりを務めてもらいます。それはそのための資金です。」


 その言葉に、マヴァールが青筋を立てながら吐き捨てるように言った。


「俺に依頼主を裏切れって言うのか?随分なめられたもんだな。」


 だがガブリエラは見下すように笑いながらそれに答えた。


「ふふふ、あなたはもっと賢い男だと思っていましたが・・・。よろしいですわ。説明して差し上げます。」






「私があなたの話を聞いた時点で、あなたもあなたの依頼主も、もうすでに命脈が尽きているんです。勘違いなさっていらっしゃるようですけれどマヴァールさん、これはね、最初から交渉などではないのです。」


 マヴァールは突然の宣告に、彼女が何を言っているのか、一瞬分からなくなった。


「あなたやあなたの依頼主の命を奪うことなど、私には造作もないこと。・・・私の家名をご存じないかしら?」


「・・・バルシュ!!じゃあまさか、あんた『背徳の・・・!?」


 マヴァールは、領民に対して悪逆の限りを尽くしたという貴族の噂を思い出した。彼の青ざめた顔を心底楽しそうに見て、意味ありげに唇を歪めた後、彼女は言った。






「あなたに命じます。この資金を使ってジーベックを破滅させなさい。そしてウェスタの裏社会を手中に収めるのです。例えばそうですね・・・この1万Dをジーベックが隠し持っていて、それをあなたが発見したということにしましょうか。」


「そんなバカなこと、信じる奴がいるわけが・・・。」


「例えば、と言ったでしょう。別に信じるものがいなくてもいいのですよ。ジーベックを非難する材料になればそれで十分。聞けばジーベックはあまり人心を得ていないようですから。その金を上手く使って、あなたは仲間を集めなさい。」


 証拠をでっちあげて、俺にクーデターを起こさせるつもりか!慄く彼に、彼女はさらに言った。


「何ならジーベックが王国衛士隊に通じていたという噂でも流せばいいですわ。そして今はその後ろ盾を失っているとも。その証拠となるものなら、私が簡単に用意できます。」


 貴族の悪辣さを見せつけられ、彼は胸が悪くなった。なんだこの女は。どうしたらこんな悪どいことをスラスラと話せるんだ。






「ジーベックを破滅させたら、彼の身柄は私の手の者に引き渡してくださいませ。彼の知っている情報を欲しがる者は、大勢いるはずですから。私が上手に利用させていただきますわ。」


「・・・あんた、一体何が目的なんだ?俺たちをつぶすのが目的じゃないのか?」


 震える声で言った彼の言葉に、失望のため息をつきながら、彼女は答えた。


「あらまあ、ここまで話して分からないなんて、他の相手を探した方がいいのかしら?」


 マヴァールの背中に怖気が走る。彼女は役に立たない家畜を見るような目で、彼に言った。


「最初に言いましたわよね?あなたにはジーベックの代わりを務めてもらいますと。私が欲しいのは、私の手足となって歓楽街を牛耳る駒です。あなたはせいぜい頑張って美味しい果実をたっぷり育ててくださいませ。」


 彼女は彼の恐れを楽しむかのように、魅惑的な笑みを見せた。






「私はそれをじっくりと絞らせていただきます。せっかく美味しい実をつける木を潰してしまうなんて、愚か者のすることですわ。たった1万Dでそれが手に入るんですもの。こんなに素敵なことってないでしょう?」


「・・・俺がその話を断ったらどうするつもりだ?金を持ち逃げするかもしれんぞ?」


「そうなれば残念ですけど、あなたの歓楽街まちでたくさんの血が流れることになりますわね。その中にはあなたの大切な方もいらっしゃるのではないかしら?」


「外道め!俺たちを何だと思ってやがる!」


 激昂する彼に対して、ガブリエラは平然と言い切った。






「何って、ただの平民でしょう?私を外道と思うなら、あなたが頑張ってあの歓楽街まちを私から守って御覧なさい。」


歓楽街まちを守る?俺が?」


「そうです。歓楽街に秩序と安定があり、それが私にとって価値を生むなら、私は余計な手出しはしません。ジーベックのような愚か者がのさばっていては、私にとっては害にしかならない。だからあなたに命じているのです。」


 マヴァールは彼女の言葉の意味をじっと考え、やがてゆっくりと返事をした。


「・・・俺に選択の余地はねえようだな。分かった。依頼を引き受けよう。」


「賢い選択をしていただいてうれしく思いますわ。」


 マヴァールは金を持って集会所を出ていった。そしてその後すぐに馬に乗ると、ガブリエラから逃れるかのように夜道を駆け、ノーザン村へと向かったのだった。










 マヴァールの消えた集会所で、テレサがガブリエラに言った。


「お見事でしたガブリエラ様。ジーナさんとハンクさんを守ったばかりでなく、歓楽街の人々の生活まで守るとは。」


「え!?」


 その言葉に、ガブリエラに対して震えあがっていたジーナが、弾かれたように顔を上げた。テレサがジーナに優しく諭すように言った。


「ガブリエラ様は、ジーベックという男を排除することで人々を守ろうとしたのですよ。あんな恐ろしい演技までされて、本当に驚きました。」


 ガブリエラはその言葉にちょっと恥ずかしそうな表情をして答えた。


「半分くらいは本気でしたから、あながち演技というわけではないのですよ。私の目的のために彼を使うつもりですし。」


 その言葉にカールが苦笑いをこぼす。






「私も途中まで騙されるところでした。テレサ殿が目配せしてくださったので、ガブリエラ様の嘘に気づけましたが・・・。」


 ジーナ以外の皆が、顔を赤らめるカールを見て笑顔になった。テレサはガブリエラに話の続きをした。


「この村の住民を増やすという計画ですね。ウェスタ村は西部地方への玄関口。現在の王国西部の混乱を考えたら、ウェスタに難民が押し寄せてくる可能性が高いですもの。」


「え、それじゃあ、男爵様は・・・!?」


 驚いたように声を上げたジーナに、テレサとガブリエラは優しく微笑みかけた。






「ガブリエラ様は、これから王都領に逃れてくる難民を救済するためにあの男を使うつもりなのですよ。1万Dもそのための資金なのですよね?」


 ガブリエラは無言で頷き、ジーナに言った。


「今この村では、働き手を探しているのです。ジーナ。ハンクと共に私のために働いてくれませんか?」


 ジーナはその問いかけに答えることができなかった。あふれるうれし涙で声が詰まってしまったからだ。


 彼女は無言のまま何度も何度も頷いた。ジーナとハンク。二人の逃避行はついに本当の終わりを迎えたのだった。




種族:神竜

名前:ドーラ

職業:錬金術師

   見習い建築術師


所持金:5163D(王国銅貨43枚と王国銀貨40枚と王国金貨1枚とドワーフ銀貨12枚)

    → 行商人カフマンへ5480D出資中


読んでくださった方、ありがとうございました。

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