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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
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71 新しい村

知らない間にブックマークが40件越えていました。たくさんの方に読んでいただいて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

 夏の最初の月が始まった。さわやかな初夏の風がドルーア川の水面みなもを滑り、穏やかな流れをきらきらと輝かせる。


「ドーラおねえちゃーん!ごはんができたってー!」


 西ハウル村から渡し舟に乗ってきたエマが、手を振りながら私に呼び掛けてくる。私は作業の手を止めて額の汗をぬぐい「今行くねー!」と手を挙げて返事をした。


「お、もうそんな時間か。よし、俺たちも飯にしようや!」


「へい親方!待ってましたぜ!!」


 ペンターさんが一緒に働いていた徒弟さんたちに声をかけると、若い徒弟さんたちは一斉に歓声を上げた。私たちは皆で渡し舟に乗り、西ハウル村に戻る。


 火照った体に川風が気持ちいい。私もペンターさんたちみたいに服を脱いで涼みたいけれど、前にやろうとしてフラミィさんから怒られたのを思い出して止めた。


 渡し舟の船着き場についた私は、ペンターさんたちと別れ、エマと一緒にレンガで舗装された街道を横切り、アルベルトさんの家を目指す。街道には多くの人が行きかっていた。私とエマはそんな人に挨拶をしながら、どんどん歩いて行った。






 二人で新しく出来た建物の間を抜けていく。石畳が終わり、柔らかい夏草を踏みながら、水路脇の道を辿ってエマと歩く。水路の脇に咲いている初夏の花が揺れている。


 私たちの足音に驚いて、澄んだ水の中を泳いでいた魚がパチャンと音を立て、水草に隠れた。


 エマは午前中に学校で教わったことを私に一生懸命話してくれる。私はそれを聞き、時々質問をしながら、笑顔でうんうんと頷いた。


 以前より大きく立派になったアルベルトさんの家から、美味しそうな匂いが漂ってくる。今日のお昼ご飯は焼いた川魚と、ヤギの乳を使ったミルク煮みたいだ。


 私は玄関を開けてエマと一緒に「ただいま!」と言った。中ではすでにみんなが食事の準備を整えて、テーブルに座っていた。


 森から帰ってきたばかりのアルベルトさんとフランツさん、みんなの食事の準備をしてくれているマリーさんとグレーテさん。そして家妖精のシルキーさん。


「ああ、おかえり二人とも。さあ、早くお座り。」


 皆がそろったところで、私は自分の皿にある焼き魚の串を手に取り、香ばしい身を頬張った。甘い身の味が口いっぱいに広がる。美味しい!みんなも笑顔で美味しそうに食べている。ああ、本当に幸せだなあ。






 この一か月で、ハウル村はやっと元の穏やかな暮らしを取り戻しつつあった。

 

 ペンターさんたちが頑張ってくれたおかげで、村の人たちの家もすべて建てることができた。どの家も以前より大きく立派になっていて、みんなすごく喜んでいた。


 以前は川沿いの広場を中心に家が散らばるように建っていたけれど、今は各家が水路に面するように建てられている。そのお陰ですごく暮らしが便利になった。


 西側には広い農地と放牧地が広がり、その奥に森がある。今は小麦の刈り取りで村のおかみさんたちは大忙しだ。今年は例年にない大豊作の上に、私が考えなしに農地を広げまくったせいで物凄く大変らしい。

私がそのことを謝ったら「なんで謝る必要があるのさ。ありがとうよドーラ!」と逆にお礼を言われてしまった。


 雨が降る季節になる前に収穫しないと大変なことになるので、みんなすごく頑張っている。私も手伝いたいけれど、相変わらずの不器用ぶりで全く役に立たないので、新しい建物作りを手伝っている。


 だから刈り取った麦の運搬は私の代わりに土人形ゴーレムのゴーラが大活躍している。ゴーラは子供から大人にまですごく人気がある。


 皆が喜んでくれるのはすごくうれしいけれど、正直に言うとちょっとだけゴーラが羨ましいです。






 街道沿いの建物も順次出来上がっているところだ。一際目立つ大きな建物が、ガブリエラさんの家。以前広場だった場所をそのまま敷地に使い、何棟もの建物が立ち並んでいる。


 私はすごく立派な建物だとびっくりしてしまったのだけれど、貴族の屋敷としてはかなり質素なんだそうだ。建物は母屋と離れの他、研究工房、備蓄倉庫などがある。以前まえの工房にあった素材は建物と一緒に燃えてしまったので、彼女は今、素材集めを頑張っていた。


 この広い家にはガブリエラさんと、妹のミカエラさん、そして聖女教会司祭のテレサさんが一緒に暮らしている。


 テレサさんが一緒なのはミカエラさんのためだ。ミカエラさんは春の初めに恐ろしい体験をたくさんしたため、一時的に言葉が話せなくなっていた。


 その治療に当たっていたのがテレサさんだ。物心ついたときから聖女教の修道院で育ってきたミカエラさんにとって、司祭であるテレサさんはすごく安心できる相手だったのだ。


 献身的な介護の甲斐あって、ミカエラさんはエマたちと一緒に学校に通えるくらい回復してきている。言葉も少しずつ話せるようになってきた。でもまだ男の子達相手だと怖くてうまく話せないらしい。修道院にいたのはほとんどが女の子だったから、男の子が怖いのだそうだ。


 エマは同い年で、きれいな緑の髪をしたミカエラさんのことが一目で好きになり、会ってすぐに友達になった。今では二人とても仲良しで、私も時々一緒に遊んでいる。あのガブリエラさんの妹とは思えないほど、ミカエラさんは内気で可愛らしい女の子だ。顔立ちはそっくりだけど、雰囲気が真逆なのデス。






 ガブリエラさんの家の隣が村の集会所。村の子供たちが午前中勉強する学校もここで開かれている。ここは緊急時の避難所も兼ねているため、村人全員が数日間過ごせるだけの備蓄物を収めた倉庫や厨房も併設している。


 学校で子供たちに読み書きや計算を教えているのはガブリエラさんとテレサさん、そして建築術師のクルベさんだ。クルベさんは建築術師としての仕事がひと段落した後もハウル村に残った。


「東ハウル村の開発が始まったら、わしの仕事も増えるじゃろうからな。王都におってもすることもない年寄りじゃが、ここにはたくさんの生徒がおる。良かったらわしもこの村に置いておくれ。」


 クルベさんはそう言ってガブリエラさんに頼んだそうだ。今はカールさんの家に居候中だけれど、今作っているクルベさんの家が完成したら、王都の家を引き払ってここに越してくるみたい。


 ハウル村に頼もしい住民が増えたことを、ガブリエラさんはすごく喜んでいた。私もすごくうれしい。






 集会所を挟むように、ガブリエラさんの家の反対側に建てられているのがカールさんの家だ。カールさんの家もガブリエラさんほどではないけれど、かなり立派だ。


 カールさんの家にはカールさんとクルベさんの他に、リアさんという侍女さんが一緒に暮らしている。リアさんは元々カールさんの実家であるルッツ家に仕えていた使用人の一人で、今年11歳。


 赤茶色の髪に緑の目をした、とてもほっそりとした女の子だ。カールさん曰く、小さいころから一緒に育ったそうで、実の妹と言ってもいいくらいの関係らしい。けれどリアさん自身はそれをすごくきっぱりと否定していた。


「私はカール様をお仕えしたいと旦那様に申し出て、お許しをいただき、ここに参りました。カール様のために誠心誠意ご奉仕させていただきます。妹だなんて恐れ多いです!」


 彼女はテレサさん、ミカエラさんと一緒に王都からここまで旅をしてきた。その間、テレサさんと一緒にミカエラ様のお世話をしていたそうで、テレサさん、ミカエラさんの二人ととても仲がいい。


 リアさんは村の人たちともすぐに打ち解けたけれど、カールさんに対する村の人の態度には少し思うところがあるようで、よくカールさんに小言を言っている。


 カールさんはそれに困ったような顔をしながらも「リア、ここは王都とは違うのだ」と説明していた。貴族らしい振る舞いをするのって大変なんだなぁって、私は思った。


 あと、なぜかリアさん、私に対してだけちょっと壁があるというか、一歩引いているような感じがするときがある。多分気のせいだと思うけど。不思議です。







 他に完成した建物はフラミィさんとペンターさんの工房くらい。今は急ピッチで他の建物を作っている最中だ。


 私がサローマ領まで街道を伸ばした時に大量の材料が手に入ったので、それをペンターさんたちに使ってもらっている。


 一番時間と手間のかかる製材の工程を、私が魔法で一手に引き受けているから、とても助かったとペンターさんは言ってくれた。


 だけど一か月ほどでこれだけの建物を建てることが出来たのは、ペンターさんが知り合いの大工さんや職人さんたちに声をかけてくれたおかげだ。


 今、大勢の大工さんや職人さんたちが天幕で生活しながら、建物をどんどん作り続けてくれている。


「この村には仕事がたくさんあるからありがたいぜ。しかも材料の調達やらの面倒な仕事もしなくていい上に、手間賃の払いも格別と来てる。不満があるとすりゃあ、せっかくの金を使う場所がねえことだな。」


 私と一緒に外壁の仕上げをしてくれた職人さんはそう言って笑った。他の職人さんたちも、この村に『酒場』があればいいのに、というのをよく言っている。


 確かにこの国のお酒は美味しいからなあ。私も春の初めにねぐらの神殿で飲んだお酒の味を思い出して、口からよだれを零しそうになった。じゅるり。


 今度ガブリエラさんに『酒場』を作ってもらえるよう、お願いしてみよっと!






 ちなみにこれらの建物の土台と基礎は、私がクルベさんに教わりながら建築魔法で作った。


 クルベさんが言うには、土属性の魔石が大量にあれば、家一軒くらい魔法ですぐに建てられるようになるそうだ。ただそうすると、費用が全然引き合わないらしいけれど。


 時間と材料さえあれば、魔法で作るよりも人の手で作った方がかなり安上がりなのだそうだ。だから魔法で作るのは、人の手で作るのが難しい巨大な建造物に限られるのが一般的らしい。


 王都の巨大な建物群や街路、水路などは魔法で作られているのじゃよとクルベさんが教えてくれた。いつかエマたちと一緒に見に行けたらいいなと思った。






 建物も変わったけれど、春の間に変わったことは他にもある。まずは人の行き来が増えたことだ。


 王都からサローマ領まで川沿いに道が出来たことで、道を通る人たちが少しずつ増えている。そのほとんどは王国南部から王都に商品を運ぶ行商人さんたちだ。


 時には荷車や馬車を使っている人もいるけれど、大半の人は徒歩で移動していてハウル村で休憩をしていく。外壁沿いの街道脇に天幕を張って休んでいる人の姿を最近はよく見るようになった。


 サローマ領と王都を行き来するには、圧倒的に船を使う方が早いし安全だ。だけど川を上る船に乗るにはかなりの費用が掛かる。だからこれまで零細の商人さんたちが王都に来ることはほとんどなかったのだ。


 それが新しい街道が出来たことで事情が変わってきた。時間さえかければ、自分の足で商品を運べるようになったことで、人の行き来が少しずつ増えてきている。


 もちろん越境して物を売るには商業ギルドへの申請が必要だし、森を移動するときに魔獣に襲われる危険もある。それでも商人さんたちが移動するのは、そこにお金を稼ぐチャンスがあるかららしい。


 私も銀貨が大好きなので、彼らの気持ちは分かる。新たな可能性を求めて旅をする人間って、本当にすごいなって感心してしまった。






 変わったことの二つ目は、東ハウル村の造成が始まるのに伴って、村に渡し舟が出来たことだ。


 渡し舟を運航してくれているのはアクナスさんという、今年成人したばかりの男の人だ。彼はカールさんの知り合いのトマスさんという船頭さんの弟で、今年から家業である水運業を手伝うことになっていたらしい。


 カールさんが渡し舟の船頭を探しているという話をしたところ、アクナスさんを紹介してくれたのだ。彼は今、ガブリエラさんに雇われている。


 彼の乗る渡し舟は、建築術師のクルベさんが設計した。それをもとに私が材料を切り出し、ペンターさんの友達の船大工さんが組み上げてくれたのだ。


 渡し舟は平底の細長い形をしていて、一度に20人くらいを乗せることができる。アクナスさんはそれを使い、日に何度も川を渡してくれているのだ。本当にお疲れ様です!







 今、東ハウル村でも建物の建築が急ピッチで行われている。ガブリエラさんはここを『冒険者』という人たちが住めるようにしたいらしい。東の森で素材を集めてもらうのだそうだ。


 東ハウル村の造成をしたのは、私だ。最初に西側の村と同じくらいの広さになるように森を切り拓き、堤防と桟橋、土塁、門を作った。


 西側と違うのは外壁を南北だけでなく東側にも作り、東ハウル村をすっぽり囲うようにしたことだ。土塁の高さも西側よりやや高くしてある。


 門も西ハウル村が街道の出入り口である南北にあるのに対し、こちらは東側に一か所しか作っていない。もちろんこれはすべて魔獣を食い止めるためだ。


 私が今朝からやっていたのは土塁に石材を組み上げて丈夫な石壁にしていく作業で、ペンターさんたちはそれに合わせた門づくりをしてくれていた。


 材料の岩はたくさんあるし、もう加工して《収納》に入れてあるので、建築魔法を使えば多分明日中には外壁が完成するはずだ。


 ペンターさんたちの作っている門の方は、フラミィさんの作る金具の取り付けなどがあるため、多分もう少しかかる予定。外壁が完成したら、私もフラミィさんを手伝うことになっている。


 最近、この工事にかかりきりだったせいで、エマやカールさんと遊ぶ時間が減ってすごく寂しい。でも出来上がるまでもう少しの辛抱だ。どうせ暇だし、皆が寝てる間にも頑張ろうっと!






 なによりも春から夏までの間で一番変わったことは、エマに魔力が発現したことだ。


 なんでもエマは村が襲撃されたとき、すごい守りの魔法を使って皆を守ったそうだ。でもエマ自身はそのことを全く覚えていなかった。


 それ以来エマの髪の色が少し薄くなり、薄茶色が金色に近い色に変化した。それでガブリエラさんが調べてみると、エマが魔力を持っていることが分かったのだ。


 彼女の工房に呼ばれて、私はそのことを聞かされた。


「エマは全属性の魔力を持っていることが分かったわ。現在の魔力量は下級貴族くらいだけど、今後、体の成長に合わせて増えるかもしれないわね。」


 ガブリエラさんはそう説明してくれた。魔力の成長は生まれた時から始まり、成人する16歳くらいまで続くという。もちろん個人差があるので、多少は前後するそうだ。


 ただエマのように魔力が突然発現することは極めて稀で、しかも全属性の魔力が後天的に発現することなどありえないと彼女は言っていた。


「ガブリエラさんでも原因は分からないんですか?」


「・・・いくつかの仮説はあるわ。」





 原因として考えられるのは、私の影響ではないかということだった。


「まず単純にエマとあなたの接触が多かったからということが考えられるわね。でもそれなら村の他の子供にも魔力が発現する可能性があるということだわ。」


 ガブリエラさんは今後の結果を見てみなくては分からないけれど、その可能性は低いだろうと言った。


「次にエマが身につけていたというこの首飾りの効果があげられるわ。」


 そう言って彼女が取り出したのは、エマが私の涙の欠片を集めて作った首飾りだった。けれど虹色だった首飾りは、くすんだ灰色に変わってしまっている。


 きわめて純度の高い魔力を含んだこの首飾りを長期間身につけていたことで、エマに魔力が宿ったのではないかとガブリエラさんは言った。


「そんなことってありえるんですか?」


「私は聞いたことがないし、検証のしようもないわ。だってこんなに高純度の竜虹晶を大量に手に入れる方法なんて、この世界に存在しないもの。」


 そう言って彼女は私に意味ありげに笑いかけた。彼女は私の正体について気が付いている。私は笑って目を逸らした。


 その後、ガブリエラさんからエマの首飾りを返してもらった。あとで色を戻せないか、いろいろ試してみようと思う。私はまた彼女の話を聞いた。






「あと考えられるとすれば、エマがあなたに名前を付けたことね。」


「名前ですか?」


 彼女が言うには、名前というのは魔術においては非常に重要な意味を持つそうだ。


「太古の禁呪と呼ばれる魔術の中には、相手の名前を知ることで相手を完全に支配する魔法が存在したそうよ。」


 そんなものがあるんだ。魔法って怖いなー。んん、ちょっと待って?


 ということは、私はエマに支配されちゃうかもしれないってことか。・・・うーん、それも悪くないかも!


「禁呪はすでに存在しないから支配されることはないわ。でも名前を付けたことで、あなたとエマの魂に何らかのつながりが生まれた可能性は否定できないと思うの。」


 なるほど、私とエマは魂が結びついてるってことですね!それって最高じゃないですか!


 ん、なんでそんなジト目で私を見るんですか、ガブリエラさん?






「・・・あなたがそれでいいならいいけどね。エマの今後については私が見守っていきます。あなたにも手伝ってもらうわよ。」


「もちろんです!任せておいてください、ガブリエラ様!」


 張り切って返事をしたのに、彼女は顔を両手で覆って「とはーっ」と深いため息を吐いた後、空を仰いだ。なぜでしょうか?


 ともかく彼女がエマに正しい魔力の使い方を教えてくれることになった。


 上手く扱えないと体の成長に影響が出たり、最悪命を落としたりすることになるそうなので、私もこれまで以上に気を付けてエマを見守るつもりだ。


 よし、がんばるぞ!と私は気持ちを引き締めたのでした。






 そんなことが続いたある日のこと、私は夜にガブリエラさんの寝室を訪れた。最近疲れ気味の彼女を癒すためだ。


 彼女は急ごしらえの簡素な寝台に腰かけて私を待っていた。寝台に腰かけていたのは、他に家具がないからだ。家具や調度品については今後、カフマンさんを通じて王都の商会から購入することになっている。


 以前ペンターさんの作った家具を、とても気に入っていた彼女だったが、今ペンターさんは大忙しなので作るゆとりがないのだ。


 ペンターさんだけでなく、最近は皆、本当に忙しそうにしている。ハウル村の人たちは働き者だけれど、さすがにちょっと心配だなと、最近思っていたのだ。


「あなたもそう思っていたのね。私もそのことで頭を悩ませていたの。」


 彼女は疲れた様子でそう言った。


「人が足りないのよ。今のハウル村には、圧倒的に人が足りていないわ。」


「人ですか?おかみさんたちの中に赤ちゃんが出来てる人が何人かいますよ。どんどん赤ちゃんを産んでもらえば、村の人が増えますよね!」


「その赤ん坊が大人になるまでいったい何年かかると思ってるの、おバカさん。今、村に必要なのは働き手よ。」


 確かに働いてくれる人が増えれば、皆で仕事を分担できるから皆の生活も少し楽になるかも。さすがはガブリエラさんだ。






「働き手ってどうやって増やすんですか?」


「一応、カフマンを通じてあちこちの村に求人を出してもらっているわ。でもハウル村はまだ発展途上でしょう?なかなか人が集まらないみたいなの。」


 王都の職人さんたちは大概ギルドに所属しているので、地元を離れることはほとんどないそうだ。他の村でも職人さんは貴重な存在なので、滅多に他の村に移ることはない。ハウル村は生活に必要なものがまだまだ不足している。そんなところに来たがる人は、普通いない。


 ペンターさんやフラミィさん、それに船頭のアクナスさんは、本当に特殊な例なのだそうだ。


「農業に携わる人たちは自分の土地を離れることはないしね。そうなるとね、あとはこれから働き始める10歳前後の子供たちしか残っていないの。でも何の技能も経験もない子供では、現状を打開する力にはならない。それで困っているのよ。」


 子供たちは10歳くらいになると、徒弟や農夫見習いとして働き始める。ハウル村の子供たちもそうやって働いている子が多い。男の子は木こり、女の子は村のおかみさんになるのだ。


 ガブリエラさんは、今度王様に会ったときに人手不足のことを相談してきてくれないかと私に言い、手紙を預けてくれた。






「分かりました。王様に人を増やしてくださいって言えばいいんですね。」


「まあ端的に言えばそうね。そんなに単純なことではないんだけど・・・。」


 彼女はそう言って疲れたように笑い、私に「こっちへいらっしゃい」と言った。彼女は私を寝台に座らせると、隣に座ったまま私の頭と体を優しく撫で始めた。


「一体どうしたんですか、ガブリエラ様。とっても気持ちいいんですケド。」


「困ったときの神頼みってところかしら。『ドーラの前髪』に縋りたい気分なのよ。」


 彼女はそう言って私をひとしきり撫でた後、「疲れたからもう休むわね」と言った。私は彼女を《どこでもお風呂》の魔法で念入りに癒して、そっと寝台に寝かせてあげた。


「願いが叶うといいですね、ガブリエラ様。私にはそんな力ないですけど、一緒に祈ってあげますね。」


 私は安らかな寝息を立てる彼女の頬に自分の頬をすりすりしてみた。どうかガブリエラさんの願いが叶いますように。私はそう願ってから《転移》で自分の部屋に戻った。


 そのせいなのかどうかは分からないけれど、その後、彼女の願いは意外な形で叶えられることになるのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:錬金術師

   見習い建築術師


所持金:5163D(王国銅貨43枚と王国銀貨40枚と王国金貨1枚とドワーフ銀貨12枚)

    ← 金物修理の代金1320D

    ← 国王からの謝礼1280D

    → 行商人カフマンへ5480D出資中

この後、数話は村づくりの話が続き、その後でちょっとした事件が起きる予定です。よかったら続きを読んでいただけると嬉しいです。読んでくださった方、ありがとうございました。

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