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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
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65 救出

戦闘シーンを書かないようにしようと思って書き始めたはずなのに、戦闘シーンが多くなって、なぜこうなったのかと思っています。だいたいテレサのせいです。たぶん。

 ドルーア修道院襲撃事件から9日後、聖女教会司祭のテレサと少女リアは、ミカエラ誘拐犯の足跡を追い、王都領西端にあるウェスタ村へと辿り着いていた。


 あの襲撃の直後、二人は王都北門に向かった。まだ夜明け前だったので北門は閉じられていたが、リアが不思議な符丁で門の脇にある通用扉を叩くと、衛士が中に通してくれた。


 衛士は二人の姿を見ても軽く頷いただけで特に何も言わなかった。リアは衛士から古い外套を二枚借り、片方をテレサに渡すと法服の上から被るように言った。テレサが準備をする間、リアは衛士に何事か伝えているようだった。


 二人は再び通用扉を通って北門の外に出た。リアはテレサに言った。


「あの男たちは王都を迂回して、森を抜けたと思われます。後を追いましょう。」


 二人は再び修道院への道を引き返した。途中、リアは雪の上に残った僅かな痕跡を探し出し、それを頼りに襲撃犯の追跡を始めた。リアの言う通り、王都の西側に広がる森へ襲撃犯たちは向かったようだ。


「この森の奥はエルフたちが支配しています。ですから男たちは外延部を通って行ったはずです。子どもを連れての移動なら時間がかかるはず。きっと追いつけます。」


 リアの先導で二人は森を抜ける。その日の夕方ごろ、リアの予想通り、森の中で野営をしている襲撃犯たちを見つけた。


 彼らは油断なく周囲を警戒しているようだった。襲撃犯の中に、人狼ワーウルフの少年の姿が見えない。テレサは嫌な予感がした。


 彼らの燃やしている小さな焚火のすぐそばに、緑の髪をした幼い少女がいた。手を体の前で縛られ、目隠しと猿轡をつけられて、地面の上に敷いた外套の上に転がされている。あの少女がミカエラに違いない。


 





「幼子になんと惨いことを!!すぐに助けましょう!」


 血気に逸るテレサをリアが押しとどめる。


「奴らに気付かれてミカエラ様を人質に取られでもしたら、こちらは手の出しようがなくなります。すぐにミカエラ様の命を取られることはないようです。ここは機会を伺いましょう。」


 納得いかないテレサだったが反論のしようもない。仕方なく距離をとって男たちの様子を探ることにした。リアの分けてくれた携帯糧食(固く焼いたビスケット)を齧りながら男たちが眠りに就くのを待つ。


 男たちは交代で見張りを立てるようだった。見張りは二人ずつ。剣を持った男と腰に短杖ワンドを下げた男だ。二人は火を絶やさないように気を付けながら、ダイス遊びをしているようだった。リアが懐から奇妙な形の短刀を取り出した。


「私が見張りを無力化します。テレサ様はミカエラ様の救出をお願いします。」


 テレサは頷いた。リアが先行し、テレサはそのあとに続く。二人はそろそろと男たちの死角から接近する。だがその時、テレサの魔力感知の力が、僅かな魔力の波動を感じ取った。






「リア!止まって!!」


 ハッとしてリアが立ち止まった瞬間、男が短杖を構えて立ち上がった。男はじっと森の奥を睨んでいる。二人は影に潜み、じっと息を詰めた。


 男たちが立ち上がり、森の中に足を踏み入れた。それに驚いたのか、木の上からバサバサっと鳥の羽音が聞こえた。


「ちっ、鳥か。脅かしやがって。せっかく流れが来てたのによ。」


「仕切り直しだな。まあ、がっかりすんなって。さあ、続きをやろう。」


 男たちは再びダイス遊びを始めた。リアとテレサはそろそろと後退した。


「テレサ様ありがとうございます。あの短杖の男、《索敵》の魔法を使っていたのですね。危ないところでした。」


 リアはテレサに礼を言った。あの男たちは随分この手の仕事に慣れているようだ。その後も彼らは隙を見せることはなく、夜明けとともに出発していった。






 二人は結局ミカエラ救出の機会を見つけられないまま、男たちのあとを追うことになった。男たちは徹底して街道を避け、森の中を移動し続けた。かなりの警戒ぶりだ。


 途中リアの持っていた携帯糧食が尽きてしまい、二人は芽吹き始めたばかりの野草や薬草で飢えをしのぎつつ追跡を続けた。男たちは西へ西へと移動している。


「リア、あの男たちの目的地が分かりますか?」


 日頃から鍛錬を続けているとはいえ、目的地のはっきりしない追跡行はやはり負担が大きい。テレサの問いかけにリアはあごに手を当てて考えた後、答えた。


「最終的な目的地は王都領西の街道を抜けた先にあるグラスプ領だと思われます。今回の一連の事件の首謀者です。ですがその前に仲間と合流するのではないかと思います。」


「合流されてしまったら、救出の機会がますます無くなってしまうのではありませんか?」


「・・・これは私の予測でしかないのですが、ウェスタ村には彼らの拠点となる施設があるのではないかと思うのです。ミカエラ様の体力を考えても、彼らは一度そこで補給なり休息なりを行う可能性が高いと思います。」


 怪訝そうな顔をするテレサに、リアはそう思う根拠を説明した。






「テレサ様を襲撃した者たちとミカエラ様を攫った者たちは別動隊のようですし、他にも複数の工作部隊や実行部隊がある可能性があります。それらの情報を総括して共有するための場所が必要ではないかと思うんです。」


「素晴らしい見識ですね。私もそう思います。それで救出の策は?」


 リアは「旦那様の受け売りですから・・・」とちょっと照れた表情をした後、説明を続けた。


「あの誘拐犯たちを見ても分かるように、彼らは優れた技能と連携力を持つプロ集団です。ですが逆に言えば自分たちの仲間以外との個々のつながりは薄いのではないかと思います。分野の違う不特定多数の人間が出入りする拠点であれば、私にも侵入する機会があるのではないかと思うんです。」


 言われてみれば確かにその通りだ。街中であれば《索敵》の魔法も効果がなくなる。ここまで見てきたがリアは潜入や尾行の技能がかなり高い。彼女ならば侵入できる可能性も高いように思えた。


 二人はミカエラ救出の機会を伺いつつ、男たちの拠点を見つけ出すことにした。






 そして今、彼女たちは男たちがミカエラを連れて入っていった建物の側にいる。ここはウェスタ村の倉庫街の裏通り。いかがわしい酒場や宿屋、娼館が立ち並ぶ一角だ。


 その中でも比較的大きな娼館が奴らのアジトらしい。娼館は3階建て。1階の表入口が酒場になっている。男たちは夕闇に乗じてつい先ほど、ミカエラを連れて裏口から入っていった。


「では作戦通り潜入を開始します。私は2階から侵入しますので、テレサ様は1階から入ってください。できれば騒ぎを起こして彼らの眼を引き付けていただけると助かります。無理そうならいいですけどね。ミカエラ様を救出したら合図を送りますので、撤退をお願いします。」


「分かりました・・・でもリア、本当にこんな格好をしなくてはならないのですか?」


 テレサが耳まで真っ赤にしながら泣きそうな顔で、自分の着ている衣装を摘まみ上げた。彼女が着ているのは、下着が完全に透けてしまうほど薄い生地の衣装だ。


 全体的に丈が短いうえ、体に密着している。しかもご丁寧に横が大きく開いたデザインになっているので、彼女の鍛え上げられた美しい体が丸見えになっていた。


 おまけにただでさえ少ない布地をリアが裂いて、顔の下半分を覆うベールにしてしまったので、背中は剥き出しなのだ。


 これは先程、リアがあの酒場に出勤途中と思われる女から奪ったものだ。女はリアが気絶させて空き倉庫に転がしてある。


 リアは女の持っていた道具袋を探り、入っていた衣装と化粧道具、アクセサリーを使ってテレサを変装させた。化粧をしたテレサは、妖艶でエキゾチックな美女だった。とても聖職者には見えない。






「必要なことなんです。テレサ様がうんと目立ってくださった方が私は助かりますから。」


「でも、こんな衣装、私に似合ってません。すぐにばれてしまうのではありませんか?私、筋肉だらけでちっともきれいじゃないですし・・・。」


 衣装袋に入っていたきわどいデザインの下着を手で覆い隠しながら、彼女は体を小さくする。気絶させた女がテレサよりもだいぶ小柄だったせいで、下着もいろいろ不味いことになっているのだ。


「よくお似合いですよ。完璧です。堂々としていてください。絶対にばれませんから。」


 リアが指で示した酒場には同じような衣装を着た女たちが客を伴って、始終出入りしている。夜陰に乗じてあの中に紛れたら確かにばれないかも知れない。


「一刻の猶予もありません。では始めますね。」


 まだ躊躇しているテレサを置いて、リアはあっという間に建物の壁に取り付き、するすると屋根に上っていった。リアはそのまま屋根づたいに娼館へ移動すると、下の路地に隠れているテレサに向って一度親指を立てた後、窓を開けて建物の中に侵入していった。


 覚悟を決めるしかなさそうだ。テレサは安ピカ物のアクセサリーに紛れ込ませた銀の聖印を掴むと祈りをささげた。


 歴代の聖女様、私をお守りください!あとお師匠様、いろいろお許しください!!


 彼女は戦いに赴く時のように背筋を伸ばし、娼館の入り口にある酒場に向かって足を踏み出した。






「そこの女!ちょっと待ちな!」


 酒場の明かりが届く通りに出た途端、道行く男が彼女に声をかけてきた。彼女はビクッとして歩みを止めた。


 やはりばれてしまったかと軽く身構えて振り返る。中年のその男は、随分くたびれているが王国衛士隊の制服を着ていた。一見しただけで分かるほど、かなり酒に酔っている。


「な、何か御用ですか?」


「御用ですか!?こりゃあ傑作だ!お前に声かける理由なんて一つしかないだろう!俺が一緒に店に入ってやるよ!」


 男は慣れた様子で彼女の手を握り体を寄せてきた。剥き出しの背中を撫でられて思わず体が震える。


「おいおい早く席に案内してくれよ?酔いがさめちまうだろう!」


 よくわからないが、一緒に店に入ってくれるようだ。彼女は男と共に入り口をくぐり中に入った。むせかえるような甘い香水の香りと煙草の匂いで思わず息を止めてしまう。


 店の正面にはカウンターがあり、右手に小さな低い舞台、左手には衝立で仕切られたいくつかの席がある。衝立の中には安っぽい敷物とクッション、それに小さな座卓が置いてあった。


 店内は薄い衣装の女たちと客の男たちで満員だった。怪しい桃色の照明が薄暗く灯されているだけなので、彼女のことなど誰も気に留めない。リアの言ったとおりだった。






 男は彼女の手を引いて、空いている席に勝手に座り込んだ。通りすがりにちらりと他の衝立の中をのぞくと、男女が密着して顔を寄せ合い、くすくす笑っているのが見えた。


 ドキリとして慌てて目を逸らす。男はテーブルに銅貨を投げ出し言った。


「いつものを頼むぜ。」


「いつもの?ですか?」


 彼女が男に聞き返すと、男は大笑いして彼女に言った。


「ああん、お前、新しく入った娘か?そうか、王都から呼ばれてきたんだろう。カウンターにファスタが来たって言ってくれ。早く頼むぜ、かわいこちゃん!」


 ファスタは彼女の手をぺろりと舐めて言った。ぞわっとして思わず手を引っ込めた彼女を見て彼は「初心でいいねえ」と下卑た表情をした。


 彼女は銅貨を受け取り、カウンターに向かった。中の女にファスタの言葉を伝えると、黙って黒エールの入った酒杯ジョッキを二つ手渡し、銅貨を2枚テレサに返してくれた。


「あのこれは?」


「それがあんたの取り分さ。どんどんサービスしてたらふく飲ませな。今は稼ぎ時だからね。何しろ騎士や衛士がいっぱい来てるんだから!」


 その言葉が気になって女に聞き返そうとしたが、女は別の注文を受けて奥に入ってしまった。騎士や衛士がこの町に集まっているというのはかなりきな臭い情報だ。テレサは気を引き締めた。






 衝立に戻ると、ファスタはテレサを隣に座らせて乾杯した。一気にエールを呷り、酒臭い大きなげっぷを一つして、テレサに酒を勧めてくる。


「さあ、お前も飲め。それとも俺が口移しで飲ませてやろうか?ん?」


 ファスタが彼女の顔に口を寄せてくる。仕方なく酒杯に口をつけたものの、飲みなれない苦みとあまりの酒精の強さで一口含んだだけでむせてしまった。彼女の国のエールはもっと甘くて酒精の弱いものが一般的なのだ。


「おいおい酒も飲めねーのか?本当に慣れてねーんだな。よし、俺が手取り足取り教えてやるからな!」


 むせた彼女の体をさすっていたファスタの手が、彼女の胸に伸びる。


「い、いや!!」


 反射的に持っていた重い酒杯をファスタの頭に振り下ろしてしまった。慌てた彼女が見たときには、彼は幸せそうな顔をしてクッションの上で伸びてしまっていた。彼女は飲みかけの酒杯をそっとテーブルに置き、衝立から外に出た。






 彼女の姿を見たカウンターの女が、声をかけてきた。


「ファスタはどうしたんだい?もう、お代わりかい?」


「い、いえ、あの、眠っちゃったみたいで・・・。」


「なんだ、またかい。本当にしょうがないね。どうせよそで引っ掛けてきたんだろう。おい、あんたら!」


 女が奥に声をかけると、屈強な男が二人出てきて、衝立の奥からファスタを引っ張り出し、店の外に放り出した。


「せっかくだけど、また次の客を探してきておくれ。」


 女にそう言われてテレサが戸惑っていると「おい別嬪さん!空いてるなら俺たちの相手をしてくれよ!」と声がかかった。見れば小舞台の周りの席にいる商人風の集団の一人が彼女に手招きをしている。


 近寄ってみるとクッションの上では半裸の男女が抱き合っていた。それに驚いた彼女は後ずさり、転びそうになって思わず、低い舞台に飛び乗ってしまった。






「おお、いいぞ!踊りを見せてくれ!」


 舞台の周りにいた客からやんやの声が上がる。店中の眼が彼女に集まった。どうしよう。踊りなんか、演武の舞しかやったことないのに!


 歓声で後に引けなくなった彼女は、神に捧げる演武の舞を踊った。彼女の動きに合わせて、楽師が軽妙な曲を奏で、客が手拍子を始める。


 目まぐるしく回転しながら武闘の型と祈りを交互に繰り返す美しい舞姿に観客は釘付けだ。彼女が大きく足を上げるたび、男たちから大喝采が上がった。


 最後の型の後、彼女が一礼すると、観客から銅貨が舞台の上に雨のように投げ込まれた。舞台の袖にいた小男がそれを拾い集めていく。


 彼女は笑顔を引きつらせながら、心の中でリアに呼び掛けた。リアまだなの!?もういろいろと限界よ!!


 楽師が観客からのアンコールに応えて、また演奏を始める。テレサは泣きそうになるのを堪えながら、再び舞台の上で舞い始めた。











 


 テレサが酔客たちから大歓声を浴びている頃、建物の3階を探索し終えたリアは、2階へ続く階段を慎重に降りていた。


 この建物は中央部分に階段が作られていて、そこから廊下が伸びる構造になっているようだった。3階はどの部屋にも鍵がかけられていて人気がなかった。どうやら誰かの居住スペースになっているようだった。


 2階はいくつの部屋があり、薄衣を纏った女を連れた男が数組、部屋を出入りしている。そして一番廊下の奥の部屋の前には、あの誘拐犯のメンバー2人が見張りをしていた。


 分かりやすくて助かる。彼女は壁を蹴ると、音もなく天井に張り付いて、男たちの頭上まで移動した。しばらく息を潜め男たちの様子を伺う。


「随分、酒場が盛り上がってるじゃねーか!!畜生、俺も酒飲みに行きたいぜ。」


「ぼやくなよ。あのガキを引き渡すまではお預けだな。」


「依頼主のあの女はまだなのか?もうここまで連れてきたんだし、いいだろうがよ!!」


「あの女は一階であのガキの姉貴とお楽しみ中だとよ。お前、様子を見てきたらどうだ?」


「うへえ、えげつねーなあの女。姉貴ってあの『背徳の薔薇』だろ?いい女なのにもったいねえなあ。」


 どうやらガブリエラ様もこのアジトにいるらしい。旦那様の読み通りだが、どうやら彼女は相手の首魁の手中にあるようだ。まずはミカエラ様を救出し、応援を呼ばなくては。リアはそう思い、じっと機会を伺った。






 再び階下から大喝采が上がった。一階では何事か催しが行われているらしい。まさかテレサが喝采を浴びているとは夢にも思わない彼女は、催しを行っている誰かに心の中で感謝した。


「何やってんだろうな?俺ちょっと見てきていいか?」


「ボスにバレたら殺されっぞ、お前。」


「ボスは女としけ込んでる最中だろ。ちょっとぐらい分かりゃしねえって。ついでに酒ももらってきてやるからよ。」


「しょうがねえな。早く戻ってこいよ。」


 男が一人、一階に降りて行った。リアはその機を逃さなかった。残った男の正面に音もなく飛び降りると、持っていた短刀で心臓を正確に一突きした。


「な、なん・・・!!」


 先が細く根元が太い愛用の短刀の柄を思い切り捻ると、男は声を上げることもなくそのまま絶命した。男の体を壁にそっと押しつけて寝かせる。






 部屋の鍵は掛かっていた。殺した男の体を探ると鍵が見つかった。仕掛けを警戒して調べたが普通の鍵のようだ。彼女は扉を開けた。


 殺した男の体を引きずって部屋に隠す。重いのでかなり苦労したが、血がちょうどよい潤滑油になってくれた。


 部屋の中は粗末なテーブルと寝台、それに備え付けの手洗い壺があるだけの部屋だった。奥に一つだけ窓がある。寝台の上には目隠しと猿轡をされ、後ろ手に縛られたミカエラが寝かされていた。


 彼女はミカエラの目隠しをとる。きれいな緑の瞳が男の死体を見て大きく開かれる。ミカエラはそのまま気を失った。可哀そうだが脱出が成功するまではこのままのほうがいいかもしれない。


 彼女は窓を開けると、扉の陰に隠れてもう一人の男が帰ってくるのを待った。上手く部屋に入ってきてくれるといいのだが。






 やがて一階から足音が聞こえてきた。


「おい、すげえぞ!新しく入った踊り子が、色っぺえのなんのって・・・。」


 そこまで言ったところで男は急に立ち止まり、懐から笛を取り出し思い切り吹いた。鋭い音が娼館中に響き渡る。建物内が蜂の巣をつついたようになった。


 失敗だ。さすがはプロ。迂闊に扉に踏み込んで来なかったし、仲間に知らせる判断が早い。リアは素早く扉を閉めると、奪った鍵を使って内側から鍵を閉めた。


 男が扉を破ろうとしている音を聞きながら、気絶したミカエラを抱え上げると、窓から一気に飛び降りた。


「うぐっ!!」


 足と腕、それに背中が酷く痛むがそんなことを気にしている場合じゃない。すぐに逃げようとしたが、娼館の周りにはすでに剣や短杖を構えた男に取り囲まれ、逃げ場がなかった。本当に相手の反応が早くて嫌になる。


 リアは気絶したミカエラを左肩に担いだまま、短刀を構えた。







 剣を持った男たちを見てパニックになった客や女たちが続々と娼館を飛び出してくる。それを横目に見ながらリアと対峙する男が怒りに目をぎらつかせながら叫んだ。


「バカなネズミめ!楽に死ねると思うなよ!捕らえ・・・ぐはあ!!」


 だが男は言葉の途中で後ろから強い衝撃を受けたようにのけぞり、その場に倒れた。


「我が敵を撃て!!《聖女の鉄槌》!!」


 女たちに紛れて建物を出てきたテレサが、銀の聖印を掴んで聖句を唱える。彼女の神聖魔法によって男たちが次々となぎ倒された。包囲が崩れ、素早く走り込んだテレサとリアが合流し、建物を背にして男たちと対峙した。


 憎々しげに二人を見つめる男たちを、冷静に睨み返しながらリアが呟いた。






「テレサ様、神聖魔法も使えたんですね。」


「・・・どういう意味です?私を一体何だと思っていたんですか?」


「いえ、てっきり格闘僧モンクなのかと・・・。」


「冗談を言うゆとりがあるなら大丈夫ですね。あなたはミカエラを守っていてください。」


 テレサは二人を背中に庇うように一歩前に踏み出し半身に構える。リアは、別に冗談のつもりはなかったんだけどと思いながら、ミカエラを壁際に降ろして二本の短刀を両手に構えた。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:錬金術師

状態:仮死の眠り


所持金:6803D(王国銅貨43枚と王国銀貨21枚と王国金貨1枚とドワーフ銀貨27枚)

    → 行商人カフマンへ5480D出資中

読んでくださった方、ありがとうございました。

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