64 虜囚
仕事始め。やる気は出ませんが頑張ります。
炎を上げる村を駆け抜け、広場にやってきた私が目にしたのは、たくさんの人が倒れている光景だった。
「知らない男の人たちが死んでる!みんなはどこ!?」
首を斬られて死んでいる男の人たちの中に大きな砂山があり、その脇に倒れているアルベルトさん、グレーテさん、フランツさんを見つけた。
慌てて駆け寄ってみると、三人の服は大きく切り裂かれ、血にまみれている。だが体には全く傷がなく、三人とも気を失っているだけのようだ。ホッとした私だったが、そのそばで倒れている人を見たとき、驚きのあまり言葉を失くしてしまった。
「カールさん・・・!?」
私は倒れている彼を抱き起した。かすかに息をしている。だがその姿はとてもカールさんとは思えないほど変わり果てていた。
肌は水気を失い、髪は色が抜け灰色になってしまっている。目もひどく落ち窪み、体に生気が全く感じられない。まるで全身の血を絞り出してしまったかのようだ。
彼の右手には、私の作った魔法剣が握られていたけれど、私が抱き起したときに剣が彼の手を離れて地面に転がった。剣の輝きは失われ、剣の柄頭にある虹色の石はくすんだ灰色に変わっていた。
「カールさん!!しっかりしてください!!カールさん!!」
私は何度も彼に呼び掛けた。彼はほんの少し目を開けて私を見たけれど、すぐにぐったりと崩れ落ちた。彼の呼吸はすでに止まり、心臓も動いていなかった。
「いや!!いやです!!カールさん!!カールさん、目を開けて!!」
私は何度も彼の体をゆすり、声を上げたが彼が目を開けることはなかった。私は彼が消えてしまうのが怖くて、彼の体を強く抱きしめた。彼の体から次第に温もりが失われていく。
私のせいだ。私が人間のことを知ろうなんて思ったせいで、彼を死なせてしまった。大好きな村も燃えてしまった。皆、みんな私のせいで!
私は自分の愚かさを悔いた。大好きな人を傷つけ死なせてしまった、自分の愚かさを。私の眼からとめどなく後悔の涙が零れ落ち、心が絶望の闇に押しつぶされる。
『泣かないの、おバカさん。しっかりなさい。』
その時、私を優しく叱りつける声が聞こえた気がした。
「ガブリエラ様・・・?」
そうだ。まだ諦めちゃだめだ。私は抱きしめていた彼の顔をじっと見つめた。死なせない。死なせはしない。
私はカサカサに乾いた彼の唇に、そっと自分の唇を重ね、少しずつ息を吹き込んでいった。息とともに私の魔力が彼の中に流れ込んでいく。
魔力が満ちるにつれ、彼の体に生気が蘇っていく。乾いていた肌が水気を取り戻し始めた。私は一度唇を離し、彼の顔を見つめた。
土気色だった頬に赤みがさしている。私は再び彼に口づけをした。私の持つ力が彼の中に流れ込んでいくのが分かる。彼の体がビクンと震え、心臓が再び鼓動を刻み始めた。
私がそっと唇を離すと彼が息を吹き返し、目を開けて私を見た。
「ドーラさん・・・。」
「よかった。カールさん、本当に・・・。」
私は言葉を続けることができなかった。体から力が抜け、私は彼にもたれかかるように崩れ落ちた。そしてそのまま深い眠りに落ちていった。
カールが目を覚ましたのはそれから二日後だった。
「カール様、目が覚めたんですね!よかった。本当によかった!」
顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくるグレーテに、事情を尋ねる。ここはノーザン村の宿。カールが滞在していたあの部屋だった。
カールはグレーテに村人の安否を尋ねた。ハウル村の村人たちは、ノーザンの知り合いや親戚の家にそれぞれ避難しているそうだ。多少のケガや火傷を負った者もいたが、命に別条のあるものはいないと聞いてほっと胸を撫でおろす。
「あの男たちをカール様が倒してくださったと聞いてます。本当にありがとうございました。」
何度も礼を言うグレーテに、カールは気になっていたことを尋ねた。
「ドーラさんが私を助けてくれたような気がしたんです。ドーラさんは今どこに?」
ドーラはこの宿の隣の部屋にいるそうだ。エマとマリーが付きっきりで看病を続けているが静かに眠り続けていて、まったく目を覚ます気配がないらしい。
「あたしらが気が付いたとき、素っ裸のあの子がカール様にもたれかかるようにして眠ってたんです。あたしらは男たちの外套を剥ぎ取って、あの子に着せました。しばらくしたらノーザンの巡察士を連れたペンターが村に戻ってきて、みんなを馬車に乗せてノーザンまで運んでくれたんですよ。」
カールは寝台を出て身支度を整えようと、グレーテが準備してくれた水桶を覗き込んで驚いた。髪と目の色が抜けドーラと同じ色に変わっていた。
「驚かれたでしょう。最初はそのせいで、あたしたちもカール様だと分からなかったくらいなんです。どこか体におかしなところはありませんか?」
おかしな所どころか、体に力が漲っているのがはっきりと分かる。今まで感じたことのないほどの力だ。
カールは身支度を終えると部屋を出た。隣の部屋を訪ねてみると、エマとマリーが彼を迎えてくれた。
「カールおにいちゃん、目が覚めたんだね。ドーラおねえちゃんはまだ寝てるよ。」
エマの明るい笑顔を見て、カールはやっと笑うことができた。
「マリー、エマ、体の具合はどうだ?」
「あたしは全然平気!お母さんもどこもケガしてないって!」
「あたしはあの連中にひどく殴られたはずなんですけど、気が付いたら全然ケガをしてなかったんです。」
マリーによるとエマはあの時の様子をほとんど覚えていないそうだ。
「おうちがすっごく燃えて怖かったのは覚えてるよ。グレーテおばあちゃんが斬られちゃうと思って、あたし思わず飛び出したの。そしたらゴーラがやってきてあの怖い人たちをやっつけ始めて・・・。それからあとはよくわかんない。」
カールはエマの頭を撫でた。薄茶色だったエマの髪も色が少し薄くなっている気がする。
「エマ、何か変わったところはないかい?」
「あのね、なんだか胸の奥にぐるぐるってするものがある感じがするの。あとこれ。色がなくなっちゃったんだ。」
エマは懐から涙の形をした石でできた首飾りを取り出して見せてくれた。くすんだ灰色をした石だが、もとはすべて虹色の光沢を放っていたらしい。
エマはそれを残念がっていたが、ドーラが目を覚ましたら、また新しいのを一緒に作るのだと笑った。彼は寝台の上で安らかな寝息を立てるドーラを見た。
彼女の顔の周りには、まだ咲いたばかりの小さな春の花が一杯置いてあった。エマが彼女のために集めておいているらしい。
花の中で眠る彼女はまるで春の女神のようだった。彼はドーラの頬に触れたい気持ちを堪え、グレーテとマリーに後のことを頼むと、部屋を出た。
簡単な食事を準備してもらいながら宿の主人に話を聞いてみると、先輩文官たちは仕事を終え、すでに王都に戻ったそうだ。
「随分、あなた様のことを心配していらっしゃいました。あなたにこれをお渡しするように言付かっています。」
宿の主人が渡してくれたのは、残った事務仕事の引継書と王からカールへ支給される賞与の通達書だった。
カールは食事を終えると宿の主人に礼を言い、巡察士のところに向かった。
巡察士のところにはフランツとアルベルト、そしてペンターとフラミィがいた。
皆はカールに何度も礼を言った。カールは皆の無事を喜んだ後、巡察士にあの襲撃犯たちのことを尋ねた。
「遺体はすべて回収しました。生き残っていた男は簡単に治療をした後、王都に運ぶよう指示がありましたので、そのようにいたしました。」
「あの男は魔導士だ。大丈夫だろうか?」
彼の問いかけに背後から応えたのは、落ち着きのある、懐かしい声だった。
「心配するな。俺たちが運んだからな。抜かりはない。」
「!! バルドン兄・・・兄上!」
振りむいた彼の前に立っていたのは、王国衛士隊の中隊長をしている次兄のバルドンだった。
「兄上がここにいらっしゃっているとは思いませんでした。」
「アーベル兄上から直接連絡を受けてな。お前の応援に駆け付けたんだ。だが間に合わなかったようで本当に申し訳ない。」
バルドンはカールやアルベルトたちにハウル村襲撃を防げなかったことを詫びた後、王都での事件について話してくれた。修道院の襲撃の四日後、ガブリエラが王城を抜け出し行方不明になったという。
「ガブリエラ様が?まさか!?」
いくら彼女が優れた魔導士だとは言っても、監視している近衛騎士や衛士の眼をすべてかいくぐって王城から脱出できるとは思えない。
「手引きをした者がいたんですね。」
「その通りだ。侍女や衛士、近衛騎士の中にも多数の内通者がいたことが分かっている。それもかなりの数な。おそらく最近のことではない。数年前から少しずつ潜り込んでいたようだ。彼らもガブリエラ様と前後するように姿を消した。」
「数年前といえば現王陛下が即位された頃・・・ではまさか、前王陛下の暗殺も?」
「ああ、王の交代に続き、バルシュ領の改易で人員の入れ替えが行われたから、その辺りからだろうと父上はお考えだ。前王の暗殺についてはまだ断定できないがな。だが、そのせいで一部の貴族の中には、襲撃犯の首謀者はガブリエラ様ではないかと言い出す者が現れ始めている。」
「そんなはずはありません。彼女は・・・!!」
「分かっているさ。後ろ暗い連中をあぶり出すために、父上が流した噂に引っかかった愚か者どもだ。もうすでに黒幕は内定済み。お前の捕らえてくれたあの男の証言でほぼ確定だろう。」
カールはバルドンをじっと見た。バルドンは黙って頷いて言った。
「西ゴルド皇帝と通じ、王位の簒奪を企んだ今回の事件の黒幕は、グラスプ伯爵だ。ガブリエラ様もおそらく奴の手中だろう。」
半ば予想していたとはいえ、カールはその言葉に衝撃を受けた。グラスプ領とバルシュ領は南北で領地を接し、ともに反王党派の中核をなす盟友だったはず。それがなぜ?
「それはグラスプ伯爵本人に聞いてみなくては分からないな。だが今はガブリエラ様の救出を急がないと。」
「彼女の行方は分かっているのですか?」
「お前の捕らえたあの男の証言でやっとわかった。身柄を確保しグラスプ領に運ぶ手筈のようだ。潜伏先はおそらく・・・。」
「ウェスタ村ですね。私も連れて行ってください、兄上。」
ウェスタ村は王都領の西の出口で、エルフの森に接する街道を抜ければ、その先はすぐにグラスプ領だ。
「お前が来てくれれば助かるが、体は大丈夫なのか?随分見た目も変わってしまっているようだが・・・。」
バルドンが彼の髪と目を見ながら言った。滅多なことでは動じないバルドンも、さすがに弟の姿の変わりように戸惑いを隠せないようだ。
「ご心配には及びません。お願いします。」
バルドンは彼の申し出を了承した。彼はアルベルトに自分が受け取るはずの賞与通達書を預け、ドーラや村人たちを守ってくれと頼んだ。
「カール様、ありがとうございます。ここには自警団もありますし、村の連中のことは心配ありません。お帰りをお待ちしております。」
「必ずガブリエラ様を連れて帰ります。」
カールは皆に別れを告げ、装備を整えるとすぐにバルドンと共に衛士隊の馬車に乗り、ウェスタ村を目指して出発した。
カールがバルドンと共にノーザン村を出発する三日前、王城を抜け出したガブリエラは、受け取った手紙の指示に従い、王都外れに待っていた馬車に乗り込んだ。
馬車の中で彼女を待っていたのは美しいレース地のドレスの上に黒いローブを纏い、装飾の施された半仮面をつけた女だった。彼女が女の真向かいの席に着くと、女は御者に扉を閉めさせた。
女は彼女をじっと見ると、妖艶な赤い唇の両端を吊り上げて微笑んだ。彼女は女から嫌な感じのする強い魔力を感じた。
「やっとお会いできて本当にうれしいですわ、ガブリエラ・バルシュ様。誰にも知らせず来てくださったようですね。指示をちゃんと守っていただいてありがとうございます。」
「ミカエラは、あの子は今どこにいるんです?」
「大人しくしていてくだされば、ちゃんと会わせて差し上げますわ。くれぐれもおかしなことを考えないでくださいましね。」
女はゾッとするような笑みを浮かべて言った。
「私も可愛い子供を切り刻むのは、忍びないですもの。」
ガブリエラは女の言葉に従わざる得なかった。仮面の女は彼女に魔封じの枷をつけさせると、薬を嗅がせて眠らせた。
悪夢に苦しめられたガブリエラがようやく目を覚ました時、彼女がいたのは窓のない部屋だった。部屋の中は真っ暗で何も見えない。様子を探ろうと《灯火》の魔法を使おうとしたが発動しなかった。
魔封じの枷は外されていたが、その代わりに首輪をつけられている。おそらく逃走防止用の首輪だろう。魔法が使えないのもこの首輪の効果だと思われた。
薬の影響か、魔力が枯渇した時のような激しい頭痛がする。王城を出たときに着ていた純白のローブは剥ぎ取られ、杖も奪われてしまったようだ。幸い服は着ていた。彼女は苦労して立ち上がり、そろそろと部屋の中を調べ始めた。
この部屋は大体10歩四方の正方形をした部屋のようだ。壁は冷たい石壁で窓も扉もない。部屋の高さは正確には分からないが、そんなに高くはないように思う。部屋のすぐ上から足音や人の話し声が僅かに聞こえるからだ。おそらくここ地下室なのだろうと彼女は思った。
部屋の壁に寄りかかり座っているとやがて天井の一部が上に開き、光が差し込んできた。梯子が降ろされ、上れという男の声が聞こえた。
彼女は言われたとおりに梯子を上った。上った先は小さな倉庫のような場所だった。やはりさっきの部屋は地下の隠し部屋のようだ。
倉庫の中には灰色の覆面で顔を隠した屈強な男が二人いた。二人は彼女を倉庫の外に連れ出した。倉庫の外は狭くて長い廊下だった。ここは廊下の端の部屋だ。廊下の両壁には一定の間隔で扉が付いている。
扉にはそれぞれ番号が振られており、扉の中からは人の動く気配と女の嬌声が聞こえる。建物全体に甘たるい香りが満ちていた。催淫効果のある薬草の香りに似ていると彼女は思った。思わず服の袖を口に当て、香りを出来るだけ吸い込まないようにした。
反対側の廊下の突き当りには格子の付いた丈夫な扉がある。あそこが外への出口だろう。男たちは倉庫のすぐ向かい側にある扉を開けた。部屋の中には粗末なテーブルと寝台、そして衝立の奥に備え付けの手洗い壺が置いてある。
男たちは彼女に手洗いを済ませるように言うと、部屋を出て行った。手洗いがあってちょっとホッとした。彼女は用を足しながら、多少なりともましな扱いを受けてよかったと思った。
その直後、これをましだと思える自分が可笑しくなり、思わず笑みをこぼした。数年前、侯爵令嬢時代の自分であれば絶対に許容できなかったはずだ。
だが今の彼女はそんなことにこだわるよりも、もっと大切なものがあることを知っている。自分の大切な人たちを守るため、ミカエラを救い、ここを脱出しなければならない。彼女は部屋の様子を慎重に観察した。
部屋には特に不審な点や脱出の手がかりになりそうなものは見つからなかった。仕方なく彼女がテーブルの脇にある小さな丸椅子に座っていると、男たちが彼女の食事を運んできた。黒パンを煮込んだ薄いスープだった。
《分析》の魔法を使おうとして、魔法が使えないことを思い出した。ちょっと躊躇したが、逆らうとミカエラがどうなるかわからないと思い、食事を口にした。
粗末な木のスプーンで口に含んだスープは、冷えているうえにほとんど味がなく、酷く不味い。だが黙ってすべて食べ終えた。脱出のために体力をつけておかなくてはと思ったからだ。
彼女が食べる様子をじっと見ていた男たちは、彼女が食べ終わると皿を片付け、部屋を出て行った。彼らと入れ替わりに入ってきたのは、あの仮面の女だった。
「お食事に満足いただけたようで光栄ですわ。まさかすべて召し上がりになるとは思いませんでした。」
「・・・私に何をさせるつもりですか。わざわざこんなところに連れてきたのは何か理由があるのでしょう?」
「ええ、あなたにお話を聞かせていただこうと思っていますの。おしゃべりはお好きかしら?」
女は彼女をからかうような調子で、そう言った。声の感じからガブリエラより10歳くらい年上ではないかと思う。仮面をしているからはっきりとはわからないが、なんとなく女の素顔は蠱惑的な美女なのではないかと思われた。
馬車に乗っていた時と同じローブを着ているが、ドレスが大きく胸の開いたデザインのものに変わっている。眠らされている間、少なくとも一日以上経っているのかもしれないと思った。
女は座っている彼女を見下ろしながら言った。
「あなたにお尋ねしたいのは、ドーラという娘のことですわ。随分、不思議な力を持っているらしいですわね。何者ですの?」
「・・・あの子はただのまじない師です。魔法の才能があったから、たまたま弟子にしただけですわ。それ以上のことは知りません。」
彼女の答えを聞いて、女は嬉しそうに唇を歪めた。
「やはり素直に答えていただけないですわね。妹さんの身が心配ではありませんの?」
「私は正直に話しています。それにそのような脅しを口にする前にまず、ミカエラが無事であることを確認させてくださいませ。」
女が片手を口に当ててコロコロと笑った。
「それもそうですわね。あなたのおっしゃる通りですわ。でも姉妹の対面にはもう少し時間が必要ですの。それまで私とじっくりお話いたしましょう。」
女がパチリと指を鳴らすと、先ほどの男たちが部屋に入ってきた。彼女はすぐに立ち上がり、部屋を出ようとしたが男たちに捕まってしまった。魔法さえ使えたらと思わずにはいられない。
男たちに腕をねじり上げられ、苦痛に思わず漏れそうになる声を堪え、彼女は女に問いかけた。
「あなたたちの手元に今、ミカエラはいない。そうなのですね?」
「『まだここにはいない』の間違いですわ。でも間もなく会わせて差し上げられます。妹様の悲鳴を聞いたら、さすがに素直に話していただけるかしら?」
「そんな口先だけの脅しに屈するものですか!」
「ふふふ、いい表情をなさいますね。では妹様がいらっしゃるまで、私の相手をしてくださいましね。」
「・・・私を拷問にでもかけるつもりですか?」
「それも楽しそうですわね。でも残念ながら今は時間も道具も足りませんの。だからこれを使わせていただきますわ。」
女はそう言って、彼女に自分の手をかざして見せた。彼女の指の爪はすべて鋭く尖り、その先には黒い液体が滴っていた。あれは毒!?
悍ましいものを見るように目を見開いた彼女を見て、女は楽しそうに言った。
「これをあなたのご家族に使った時にはちょっとやりすぎてしまって、結局壊してしまいましたの。でもおかげで色々楽しめましたわ。」
「!! あなたがお父様たちを!?許さない!!」
暴れるガブリエラの腕を男たちがねじり上げ、彼女を床に無理矢理跪かせた。怒りに燃えた目で見上げる彼女を見つめ、女は嬉しそうに目を細めた。
「短いお付き合いになると思いますけれど、ガブリエラ・バルシュ様。どうぞ私を存分に楽しませてくださいましね。」
種族:神竜
名前:ドーラ
職業:錬金術師
状態:仮死の眠り
所持金:6803D(王国銅貨43枚と王国銀貨21枚と王国金貨1枚とドワーフ銀貨27枚)
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