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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
65/188

62 手がかり

お出かけしたら、書く時間が遅くなってしまいました。でもアイスは美味しかったです。

 冬が終わる二日前、ほとんど不眠不休で荷車を走らせた聖女教司祭のテレサは、ようやくドルアメデス王都に辿り着いた。


 彼女を襲った何者かがガブリエラの妹を狙っている。一刻も早く王都北のドルーア修道院へ向かわなくてはならない。


 だが彼女のそんな思いとは裏腹に、王都は新年を迎えるための準備でごった返していた。入場するための南門には身分証の確認を待つ人々の長蛇の列ができている。


 焦る気持ちで六足牛の手綱を握る彼女に、周囲の人々ののんきな会話が聞こえてきた。







「この行列も本当毎年だよなあ。一年の終わりの風物詩っていうか。」


「そうだなあ。新しい年が待ち遠しいぜ。王都に入ったらいつもの店で一杯やろうや。」


「だがやけに今年は身分証の確認に時間がかかってねえか。いつもはもう少し早いだろう?」


「なんでも、行幸に出ていらした王様が、今朝ちょうど王都の川港についたところらしいぜ。」


「なるほど、衛士隊がそっちの警備に回されてるから、時間がかかってんのか。でもこの時期に行幸なんて珍しいな。なんかあったのかねえ。」


「王家が魔石をかき集めてるって噂もあるし、でかい戦とかなきゃあいいんだがなあ。」


「戦なんて、王都に住む俺たちには関係ねえよ。そんなことより俺は、早く暖かい料理にありつきたいぜ。」


 その言葉にそれもそうだと笑う人々。寒さでかじかむ体を小さくしながら、彼らは遅々として進まない列をじっと待ち続けた。







 王の急な行幸があり、王家が魔石を集めている。これは見過ごせない情報だ。


 魔石は魔道具や魔法薬の作成に欠かせないが、魔法の武器防具を作成する際にも大量に消費される。あとは儀式魔法の触媒だ。いずれにしても王家主導で何か大きな動きがあったことは間違いない。


 ガブリエラの妹が狙われているのも、王家がらみのいざこざが原因かもしれない。彼女を襲撃してきた男たちは依頼主を『この国の王となる方』と言っていた。


 この場合、依頼主の可能性は二つしかない。現在の皇太子か、王位を狙う簒奪者かだ。この国の内情に疎い彼女にはどちらが犯人とも判別がつかない。


 だがどちらにせよ、現在の王に不満を持つ勢力なのは間違いない。もし大規模な内乱となれば、多くの無辜の民の血が流されることになる。


 彼女の胸に不安が広がっていく。ガブリエラの妹の身を案じ、彼女はより一層焦る気持ちを募らせた。



 



 ようやく王都に入城できたときには、すでに昼を大分過ぎてしまっていた。王都は明後日行われる春の祝祭の準備で、人が溢れかえっている。


 あまりの人込みで荷車と六足牛を連れていたのでは、ほとんど身動きが取れない。苦労して宿を見つけ、牛と荷車を預けた時にはすでに、閉門を知らせる鐘が鳴り響いた後だった。


 宿の主人に理由わけを話して荷車と牛を引き取ってもらい、翌朝夜明けとともに彼女は徒歩で王都の北門に向かった。


 まだ薄暗い中、すでにあちこちの家から煮炊きをする匂いが漂ってくる。道のあちこちで行商や市場に向かう人々とすれ違った。


 彼女の国では朝食を屋台でとる人々が多いが、この国ではほとんど見かけない。まだ自国にいるとき、彼女は一度だけ猫人族ケットシーたちの屋台で朝粥を食べたことがあった。


 香辛料スパイスのたっぷり入った粥は少し辛いが、体を温める効果がありとても美味しい。レンガで舗装された道の脇に残る雪を見て、彼女はあの温かい粥がとても恋しくなった。






 木と白い壁で出来た家が続く美しい街並みを抜け、北門に辿り着く。だが彼女はそこで足止めを喰らってしまった。


「現在、国王陛下が神事のために聖なる山へ入山されていますので、北門は封鎖中です。」


「そんな!!緊急事態なんです!どうしても修道院に行かなくてはならないんです!」


 彼女は衛士に食い下がったが、衛士は困ったように「規則ですから」と繰り返すばかり。それを見かねた年かさの衛士が彼女に言ってくれた。


「司祭様、そんなにお急ぎでしたら、私が修道院に言付を届けますよ。」


 彼女は迷った挙句、親切な衛士に手紙を託すことにした。詳細は書かなかったが、修道院長に警戒するように知らせる。






「確かにお預かりしました。次の鐘が鳴って、この持ち場の交代時間が来たらすぐに出発しますから。」


「でもそれでは、今日中には戻ってこられないのではありませんか?」


 修道院までは徒歩で半日以上かかる。雪の積もった道を今日中に往復するのは難しいはずだ。


「修道院の納屋にでも泊めてもらって、明日戻ることにしますよ。院長様とは顔見知りなんです。心配なさらないでください。明日、国王陛下が戻られたら、門の閉鎖も解かれますから。」


 彼女は恐縮して衛士に何度も礼を言った。彼は仕事ですから気にしないで下さいと言って笑い、懐から木で出来た聖女教の聖印を取り出した。


「窮するものに手を差し伸べ共に支えあうべし。聖女様の教えにある通りです。」


 彼はこの国では珍しい聖女教徒だった。それで困った彼女を助けようと思ったらしい。彼女は祈りをささげる彼に、祝福の聖句を唱えた。






 国王が戻ったのは、翌日の夕刻を過ぎてからだったため、彼女はまた北門を通ることができなかった。


 親切な衛士はちゃんと彼女の手紙を届けてくれた。戻ってきた彼から、院長が戸締りを厳重にし簡易結界を張る準備をしていると聞いて少しだけ安心する。だが不安は消えない。


 彼女はまた仕方なく宿に戻った。今日は春の初日。朝から王都を挙げての祝祭が行われている。通りのあちこちで吟遊詩人たちが歌い語り、人々がそれに聞き入っている。


 雪のどけられた広場では陽気な曲に合わせて、若い男女が手を取って踊っていた。まじない師たちは春を祝う花火を次々と打ち上げ、子供たちが歓声を上げる。


 すでに日が落ち、夜の闇が迫っているにも関わらず、魔法の明かりで照らされた王都は春を祝う人々の笑い声で溢れていた。


 初めて目にする異国の祝祭は物珍しいものばかり。だが彼女は、胸の奥に湧き上がる不吉な予感を振り払えないでいた。修道院の人々がどうか無事でありますようにと祈りながら、彼女は宿への道を急いだ。






 翌朝、まだ祭りの余韻の残る早朝の王都を抜け、彼女は北門へ向かった。この先はドルーア山の山裾に至る荒野が続いている。


 一応道は整備されているが、きっとまだ雪で覆われているだろう。そう予想していた彼女は、よい意味で裏切られた。


「国王陛下が新年の神事のために往復なさいましたからね。衛士隊総出で、山へ続く道を雪かきをしたんですよ。」


 人の好さそうな若い衛士が、彼女の身分証を確認しながらそう教えてくれた。


「でも修道院への道はまだ雪が残っているはずです。気を付けて行ってくださいね。」


 彼女は衛士に礼を言い北門を出た。周囲に人気がないことを確認した彼女は、法衣のスカートの飾り紐を解き、少したくし上げる。


 足を出すのはちょっと抵抗があるが、今はゆっくりと歩いているゆとりがない。シスターベールも脱ぎ、道具袋にしまうと、長い黒髪を法服の飾り紐で束ねた。


 聖女様お許しくださいと心の中で祈りを捧げ、彼女は雪道を全力で駆け出した。






 昼を少し過ぎた頃、ようやく修道院へ続く道へと辿り着いた。雪が残る道の上にまだ新しい複数の足跡が残っている。大きさや歩幅を見ると、おそらく全員男だ。彼女は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


 荒い息を吐きながら、彼女は必死に足を動かした。突然、前方から爆発音とともに炎が吹き上がるのが見えた。魔導士の使う《火球》の魔法だ!


 焦る彼女の耳にさらに三度、爆音が届く。小さな修道院にあれだけの火球を撃ち込まれたら・・・。彼女は絶望に押しつぶされそうな心を叱咤し、雪をかき分けて走った。


 彼女の目に轟音と共に激しく炎を噴き上げる修道院が見えた。外壁が爆発の衝撃で崩れ去り、建物全体が燃え盛る松明のように炎で覆われている。彼女はがっくりと雪の上に膝を付いた。


 間に合わなかった。ぐっと雪を掴んだ彼女の目に、建物の側から立ち去ろうとする複数の人影が見えた。遠くてよく見えないが、全員、フードの付いた灰色の外套を身につけているのは分かった。


 その中の一人が、腕に何かを抱えている。小さな人影のようだ。子供を連れ去ろうとしているのか!?


 彼女は怒りに任せ、子供を連れ去ろうとしている一団に向かって全力で駆け寄りながら、声を上げた。


「お待ちなさい!その子は渡しません!!」


 彼女の叫びを聞いた一団が一斉に彼女を見た。フードの下に覆面をつけているので顔は分からないが、体格から見てやはり全員男のようだ。


 その中の二人が腰につけた短杖ワンドを取り出し構えた。呪文の詠唱を始めるようだ。彼女も走りながら聖印を掴み、聖句を唱える。






「世界を作り給う精霊よ!弱きものを守る聖女の祈りよ!わが身を襲う魔を遠ざけ、悪しき魔の手を封じる全き盾となり給え!《絶対魔法防御の祈りアンチマジックシェル》!」


 彼女の体の周囲が光り輝く球形の盾によって覆われた。二人の敵魔導士が放った光の矢が飛来して彼女を襲う。だが光の矢は彼女の体に届くことなく、球形の盾に触れると消滅した。


 魔導士たちが動揺が伝わってくる。だが彼らはすぐに次の呪文の詠唱に入った。それを守るように他の男たちは剣を抜き、魔導士たちの前に立ち塞がった。子供を抱えた男も、雪の上にぐったりとした子供を横たえ、黒い小太刀を抜いている。


 森の中で襲撃を受けた時に使われた、あの奇妙な短矢が飛んでこないことに彼女はホッとした。どうやらこの男たちは森の中の襲撃犯とは別の部隊のようだ。


 残り30歩余りまで近づいたとき、敵魔導士の詠唱が終了した。短杖の先に生じた人の頭ほどの火球が二つ高速で飛来し、彼女ではなくその両脇の雪の上に着弾した。






 この襲撃者たちは《絶対魔法防御の祈り》のことをよく知っているようだ。これは上級司祭以上の位階の聖職者だけが使うことのできる神聖魔法。


 自分の周囲に張り巡らせた結界によって、あらゆる魔法の効果を遮断することができる。魔法攻撃に対する絶対の盾だ。ただし他人に対して使うことはできないし、自分自身も自分以外を対象とした魔法の行使が出来なくなるという弱点を併せ持つ。


 そしてもう一つの弱点が、魔法の効果によって生じた物理現象は防ぐことができないという点だ。


 もし火球が彼女に向けて放たれていたら、魔法の効果が発動する前に消滅していただろう。だが敵魔導士たちは彼女ではなく、彼女の両脇を正確に狙ってきた。


 最初の魔法が効かないとみて、すぐに戦術を切り替える判断の速さと、魔法の弱点を的確について攻撃をしてくる知識。明らかに上級以上の魔導士だ。それもかなりの手練れに違いない。






 雪の上に着弾した火球は、その瞬間大きく膨れ上がり、轟音と共に爆発した。結界によって魔法の爆炎は防がれ、彼女の体に届くことはない。


 しかし爆発によって生じた衝撃と、地面を抉って飛散する土砂が彼女の体を激しく打ち付けた。爆風によって濛々と雪煙が上がる。男たちは雪煙の中を見通し、彼女の姿を見極めようとした。


「聖女流格闘術奥義!聖女ダブルラリアット!!」


 突然、男たちの頭上から声がしたかと思うと、手を大きく広げたテレサが雪煙の中から回転しながら飛び出し、剣を構えた男二人をなぎ倒した。


 神力を纏わせた腕で首を激しく打たれた男たちは瞬時に意識を刈り取られ、雪の上を転がっていった。


 テレサの纏っていた法服は飛散した土砂によってあちこちが破けてしまっているが、彼女の鍛え上げられた肉体には一筋の傷もついていない。全身に纏わせた神力によって体を守っていたためだ。


 火球着弾の瞬間、ジャンプして上空に飛び上がり、間合いを詰めることに成功した彼女は、雪の上に横たわる緑の髪の少女目掛けて、一気に駆け出した。


 少女の前に立ち塞がる黒い小太刀を構えた男が、暴風の様に接近してくる彼女を見て、目を見開いた。男は「や、殺れ!」と叫ぶ。だが男の動きは彼女には緩慢すぎる。彼女の攻撃を防ぐ手段はない。






 テレサは男の意識を刈り取るべく、前方に飛び込みながら男の首筋に手刀を放った。


 だがその刹那、右下から凄まじい殺気とともに何者かが接近する気配を察知し、強引に体を捻って攻撃を中断した。彼女の頬を、豪風とともに何かがかすめる。白い雪の上にばっと赤い血が飛び散った。


 そのまま後ろにとんぼ返りして間合いを取る彼女に、鋭い連続攻撃が繰り出される。彼女の目でも追い切れないほどの速度。何とか相手の攻撃を躱し続け、隙を突いて一か八か、神力を纏った拳を思い切り相手に叩き込んだ。


 確かな手ごたえがあり、相手がやっと彼女から離れた。雪の上に立つ黒い影を見て彼女は思わず声を上げた。


狼人ウルフマン族!?いや、人狼ワーウルフ!!」


 彼女の前に立っていたのは、金属の首輪と粗末な腰巻を身につけただけの獣人の男だった。狼と人が入り混じったようなその姿と、狂気に満ちた目。人と獣を行き来する呪われた存在。人狼ワーウルフだ。


 人狼は彼女の血に染まった鋭い爪を油断なく構え、耳まで裂けた口を歪めて牙をむきだしながら、威嚇の唸りを漏らしている。


 不意を突かれたとはいえ、神力に守られた彼女の体に傷を付けるとは、恐るべき力だ。彼女は油断なく人狼と向かい合った。よく見れば彼の胸には隷属の刻印が刻まれている。おそらく黒い小太刀の男に従えられているのだろう。






 男たちはその間に撤退の準備をはじめていた。気絶した仲間を抱え、意識のない娘を担ぎ上げて、戦場を離脱しようとしている。


「待ちなさい!」


 彼女が声を上げた途端、人狼が再び攻撃を仕掛けてきた。間合いを取って対処すれば後れを取ることはないとはいえ、簡単に倒せる相手でもない。


 彼女は人狼の攻撃を拳でいなしながら相手に一撃入れようとするが、人狼は寸でのところで回避し、なかなか決定打にならない。焦る彼女を尻目に男たちはその場を後にしていった。






 まずはこの相手を倒さなければならない。そう思って体内で神力を練ろうとした時、突然彼女の視界が歪んだ。これは毒!?最初の攻撃の時に!!


 彼女がそう思った時には、人狼の爪が彼女の腕を切り裂いていた。今まで紙一重で躱していた攻撃が躱せなくなってきている。詠唱の時間さえあれば神聖魔法で解毒できるが、そんなゆとりなどあるわけがない。


 人狼の爪が振るわれるたびに、彼女の鮮血が舞う。その度に人狼の狂気に満ちた目が、怪しい光を帯びていく。このままでは嬲り殺しになるだけだ。躱せないのなら!!


 彼女は振るわれる爪をあえて回避しようとせず、体を守っていた神力をすべて拳に集めた。人狼の繰り出された爪に合わせるようにして、必殺の拳を繰り出す。

 

「聖女ブローォォォォォオ!!」


 鋼鉄をも砕く彼女の拳が人狼の拳を爪ごと打ち砕き、人狼の胸に突き刺さった。隷属の刻印めがけて放たれた彼女の拳は、人狼の胸骨を粉砕し心臓に強烈な一撃を加えた。


 衝撃で人狼の体が吹き飛び、雪の上を転がっていく。常人なら間違いなく即死しているはずの打撃。だが人狼は胸を押さえたまま、ゆっくりと立ち上がった。


「まだ・・・立ちますか・・・!!」


 朦朧とする視界で人狼を睨むテレサ。反撃を予想し攻撃の構えを取る彼女の目の前で、みるみる人狼の変身が解け始めた。彼女よりも二回りほど大きかった体が急激に縮んでいく。






 今、彼女の目の前で胸を押さえて喘いでいるのは、まだ12歳前後だろうと思われる痩せぎすの少年だった。彼は伸び放題の灰色の髪を振り乱し、激しく咳き込んだ。


 牙の覗く口から鮮血を吐き出し、髪と同じ灰色の大きな目で、怯えたように彼女を見つめている。彼女が少年に話しかけようとした瞬間、彼は踵を返し一目散に彼女から逃げ出した。


「待って!!待ち・・・なさい・・・!!」


 彼を追おうと手を伸ばし、足を踏み出したところで彼女は前のめりに倒れてしまった。最後の力を振り絞って《解毒の祈り》を詠唱し終わると同時に、彼女は意識を失った。











「大丈夫ですか!?しっかりしてください。」


 耳元で呼びかけられ、彼女は目を覚ました。辺りはすっかり暗くなっている。だが、まだくすぶり続ける修道院の炎によって、何とか周囲を見ることができた。


 どうやらかなり長い間雪の中に倒れていたようだ。彼女は自分の体に降り積もった雪を払い落とし、体を起こした。


「よかった。気が付いたようですね。あなたは修道院の生き残りですか?」


 彼女に声をかけてきたのは灰白色の頭巾で顔を隠し、体にぴったりとした装束を着た小柄な人物だった。装束も頭巾と同じ色だ。雪の中で目立たないようにしているのだろう。薄い体の線と声から、おそらく少女か変声前の少年だろうと思われた。


「助けてくださってありがとうございます。私は聖女教会司祭のテレサと申します。修道院の院長様をお見舞いしようとしたところ、賊の襲撃を受けました。私が来た時にはもう・・・。」


「そうですか。間に合わず残念です。」


 燃える修道院を無念そうに見ながら、頭巾の人物は言った。







「あなたは修道院が襲撃されることを知っていたのですか?」


「・・・それはお答えできません。私は襲撃犯を追います。では失礼いたします。」


 立ち去ろうとした相手に、彼女は声をかけた。


「待ってください!彼らは子供を一人攫って行きました。私はあの子を救いたい。私も連れて行ってください!!」


 彼女の声に、相手は驚いたように聞き返してきた。


「子供を!?子供の姿を見ましたか?」


「はい。3、4歳くらいの緑の髪の少女でした。」


「緑の髪。やはりそうですか。ありがとうございます。」


 あごに手を当てて何事か考えた後、呟くように言った相手に、テレサは問いかけた。


「ちょっと待ってください。あの子の名前はミカエラというのではありませんか?」


「!! どうしてあなたがその名を?あなたは何を知っているのですか?」






 テレサは体を自らの神力で癒しながら、これまでのことを相手に話した。カールと出会った話をした時、相手が目を見開くのを彼女は見逃さなかった。


「あなたはカール様のお知り合いなのでしょうか?」


「・・・私は王家を陰から守る方にお仕えしております。カール様のこともよく存じ上げています。」


 先を促され、彼女はさらに話を続けた。すべての話を聞き終わると、相手は一つ小さく頷いた。


「とても貴重な情報をありがとうございます。あなたの証言でこの事件の黒幕を追い詰めることができるかもしれません。あなたの身は私がお守りします。」


 彼女は相手に正面から向き合うと、頭巾越しにその緑の瞳を覗き込みながら言った。


「守っていただく必要などありません。それよりもミカエラを救い出さなくては。お願いです。私に力を貸してください。」


 彼女の目をじっと見返した後、相手は彼女の前に素顔を晒した。頭巾の下から現れたのは赤茶色の髪をした普通の少女だった。だがその眼光は鋭い。


「分かりました。一刻の猶予もないようですね。すぐに奴らを追いましょう。」







 少女はテレサを先導するように立つと、再び頭巾をつけ、彼女に言った。


「私はリアと申します。司祭様、よろしくお願いいたします。」


「私のことはテレサと呼んでください。行きましょうリア。ミカエラを救いに。」


 二人は暗い夜道をひた走り王都を目指す。遠くに見える王城には春の祝う宴の明かりが灯っているのが見えた。


 あのきらびやかな輝きの中に、修道院を襲撃しミカエラを攫うよう指示した人物がいるかものしれない。絶対に思う通りにさせるものか。私が必ずその正体を暴き、ミカエラを救い出してみせる!


 テレサは真実を見極めようとするがごとく、王城の光を睨んだ。静かに薄い雪が降る中、彼女はリアの姿を見失わないよう、懸命に走り続けた。







種族:神竜

名前:ドーラ

職業:錬金術師

状態:仮死の眠り


所持金:6803D(王国銅貨43枚と王国銀貨21枚と王国金貨1枚とドワーフ銀貨27枚)

    → 行商人カフマンへ5480D出資中

読んでくださった方、ありがとうございました。

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