表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
52/188

50 対面

眠いです。年末は忙しいですね。


追記:朝になって読み返したら、いつも以上に内容が酷かったです。後半大幅に書き直しました。やっぱり無理して書いちゃダメですね。反省しています。時間を見つけて少しずつ書いていきます。

 冬の2番目の月が半ばを過ぎた頃、カールさんとカフマンさんがやっとハウル村に帰ってきてくれた。


 集会場で子供たちと一緒にいるとき、村に誰かが近づいてくる気配がして、私は子供たちを連れて、みんなで出迎えに街道の入り口に向かった。程なく街道の向こうから六足牛に曳かれた2台のそりがやってくるのが見えてきた。


 一台目のそりにはカフマンさんとカールさんが乗っている。私たちの姿に気が付いた二人はそりの上から大きく手を振った。私と子供たちも手を振りながら雪の中をそりに向って走っていった。


 二台目のそりを操っているのはカフマンさんのおじいさんのホフマンさんだ。ホフマンさんとは秋の終わりに何度か村であったことがある。大けがをしたと聞いてすごく心配していたので、元気な姿を見てホッとした。 


 ホフマンさんの隣には白い服を着た、浅黒い肌の女の人が座っている。彼女からはガブリエラさんと同じくらいの強い魔力を感じた。






「カールおにいちゃん、お帰りなさい!!」


「旅はどうだった?怖い目に遭わなかった?」


「なあなあ、あの白い服の人だれー?」


 子供たちがそりを取り囲んで、口々にカールさんに質問する。カールさんは子供たちに言った。


「いろんなことがあったけど、ここでは話せない。集会所に行くから、皆は村のおかみさんたちにそれを知らせてきてくれないか。おみやげもあるから、楽しみにしててくれ。」


 子供たちは「やったー!」と叫びながら、集会所やそれぞれの家にいる親たちのところに走っていった。私は、嬉しそうに鼻をこすりつけてくる牛を撫でながら、カールさんに言った。


「おかえりなさい、カールさん。私、カールさんが無事に帰ってきてくれて、とっても嬉しいです。」


「ただいま、ドーラさん。心配してくれてありがとうございます。」


 目線が合うと、彼は優しく微笑んでくれた。私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。






「ドーラさん!あなたの作ったもの、ノーザンの商店で販売してもらいましたよ。おかみさんたちからの評判は上々だそうです!」


 カールさんと話していたら、カフマンさんが急に大きな声で私に話しかけてきた。


「本当ですか!?カフマンさんのおかげですね。ありがとうございます!」


「いやいや、これくらいお安い御用ですよ。ドーラさんが資金を出してくれたおかげで、大きな商売を始める目途も付きました。お礼を言うのはこちらのほうです。本当にありがとうございました!」


 彼はそう言って立ち上がると、私の両手をしっかりと握って、顔をぐっと近づけてきた。私は彼が喜んでくれたのがうれしくて、にっこりした。


「ドーラさん、これからどんなものが作りたいですか?俺、一緒に考えますよ!できたものは俺がちゃんと販売しますから!」


 いろんな村や町を巡っているカフマンさんが協力してくれるのは、すごく心強い。私はカフマンさんにお礼を言った。






「ありがとうございます。よろしくお願いしますね!」


「はい、任せてください!」


 カフマンさんは大きく張った胸を右手でどんと叩いて見せた。それを見てエマとカールさんも話に加わってきた。


「エマも!エマも一緒に考えてあげる、ドーラおねえちゃん!」


「それなら私も協力させてもらおう。」


 協力を申し出たカールさんに、カフマンさんは正面から向き合うと、にこにこ笑いながら言った。


「いやいや、貴族であるカール様に、そんなお手間を取らせるわけにはいきませんよ。ここは私に任せてください。」


「お前こそ新しい商売の立ち上げで忙しいだろう。遠慮はいらないぞ、カフマン。」  


 二人ともすごくいい笑顔で顔を近づけあっている。今度の旅で、二人はすっかり仲良くなったみたいだ。私は二人の仲の良い様子を見て、嬉しくなってしまった。






「何、油売ってんだ。おめえはこっちだよ。さっさとそり動かせ。」


「ちょ、ちょっとじいちゃん、今、大事なとこなんだよ!」


 そこにホフマンさんが来て、カールさんと見つめあっていたカフマンさんを引っ張っていってしまった。それをカールさんが「がんばれカフマン!」と送り出す。カフマンさんは「ちくしょう、覚えてろよカール!!」と言いながら、そりを動かして村の集会場に向かった。


「さあ、私たちも行きましょう。ドーラさん、エマ。」


 カールさんがそう言って歩き出そうとした時、私たちの後ろでドサッという音がした。振り返ると、踏み固められた雪の上に、白い服を着た女の人が気を失って倒れていた。


「!! だ、大丈夫ですか!?」


「どうしたテレサ殿!?」


 彼女の顔は土気色になり、呼吸は浅く速かった。私は彼女を抱きかかえると、すぐにアルベルトさんの家に運んだ。その間にカールさんと彼女の様子について話す。







「どうしたんでしょう?朝から具合が悪かったんですか?」


「いいえ、少し顔が青ざめているかなとは思いましたが・・・。これは急性の魔力切れの症状によく似てます。」


 魔力切れなら私も何回か、フラミィさんがなっているのを見たことがある。彼女は魔力を使って、効率よく鍛冶仕事を進めるための修行をしている。そのときに、時々魔力切れを起こしていた。


 でもここまでひどいのは初めて見た。フラミィさんの魔力切れは顔がすこし青ざめたり、頭が痛いと蹲ったりするだけだったからだ。


「無理して大きな魔法を使うとこんな風になることがあるんですよ。でも今、特に魔法を使った様子もなかったと思うんですが・・・。」


 とりあえず私は彼女、テレサさんをガブリエラさんの部屋の寝台に寝かせた。他にすぐ使えそうな部屋がなかったからだ。


 私とエマが様子を見ることにして、カールさんには事情説明と荷物の整理のために集会所へ行ってもらった。意識のない彼女は、寒そうにガタガタと震えていた。私は彼女の体を温めるため、エマと一緒に家中のシーツや毛皮を集めて回った。











 私はハウル村に近づくにつれて強くなる魔力の蠢動を魔力感知の力で感じ取っていました。この先に悪神がいるのは、おそらく間違いありません。


 そのあまりに強力な魔力の奔流に耐えられなくなった私は、自分の魔力感知の力を一時的に封印しました。すると今まで虹色の光に覆われていた視界が、ありふれた雪景色に変わります。体にかかる魔力の圧力がなくなってホッとした反面、この魔力の主と対峙することを想像して、恐怖で肌が粟立ちました。聖女様、どうか私に勇気をお与えください!


 村に近づいてすぐに、こちらに駆け寄ってくる子供たちの集団に気が付きました。様々な年齢の子供たちの先頭に立っているのは、輝くような白金色の髪をした、信じられないほど美しい娘でした。


 魔力感知の力を封じていてさえなお、彼女からは神々しいほどの力を感じます。女神が顕現したかと見紛うほどです。一見しただけで、彼女がただの人間ではないことが分かりました。おそらく彼女が悪神ドーラでしょう。禍々しい力を感じないのは、彼女がまだ悪神として覚醒していないからかもしれません。


 彼女とカール様、カフマンさんは、にこやかに話をしているように見えます。ですが私は格闘術の経験から、カール様が常に彼女の動きに気を配り、周囲を警戒しているのに気が付きました。彼女が覚醒する兆候を探っているに違いありません。


 私は聖女様から託された使命を果たすため、彼女の正体を見極めなくてはならないと決心しました。魔力感知の封印を解いて、彼女の姿を正面から見つめます。


 凄まじい魔力の洪水が、虹色の強烈な光となって私を襲いました。それはまるで太陽の中に入ってしまったかと思うほどでした。


 私はあわてて魔力感知の力を封印しましたが、間に合いませんでした。次の瞬間、私は体内に残っていた自分の魔力をすべて消し飛ばされ、意識を失ったのです。






「あ、目が覚めたよ!おねえちゃんの魔法が効いたのかな?」 


「ほんとだねエマ!顔色もすごくよくなったし、《保温》で体を温めたのがよかったみたい。」


 薄暗い部屋の中、私がうっすらと目を開けると、そこにいたのは薄茶色の髪をした利発そうな幼女と、悪神ドーラでした。私は慌てて起き上がり、胸の聖印を掴もうと思いましたが、手足を動かすことができませんでした。まるで重しでも乗せられたみたいに、体が押さえつけられていたのです。


 ここは彼女の住処のようです。小さな部屋には所狭しと怪しげな薬品や道具類が並べられています。私は彼女の手に落ちてしまったのです。これからの自分の運命を想像して、背筋に冷たいものが走り、体がぶるっと震えました。


 私は恐怖でガチガチと歯を震わせながら、精一杯の威厳を込めて声を上げました。


「あ、あなたは・・・!!私をどうするつもりですか!?」


「えっと、あなたはテレサさんですよね?私はハウル村のまじない師でドーラって言います。この子はエマ。」


 私の名を知られていました。やはり修道院を襲撃しようとしたのも、私を狙ってのことだったのでしょう。どうやら彼女は私の素性を察していて、私から聖女様の情報を引き出すつもりのようです。まじない師というのは彼女の表向きの顔なのでしょう。


「まずは雪で汚れた体をきれいにさせてくださいね。《どこでもお風呂》!!」


 ドーラが私に聞いたこともない魔法を使いました。体の上の重しが取り払われ、私の体は横になったまま空中に持ち上げられました。私は慌てて手足を動かしましたが、目に見えない柔らかい膜のようなものに覆われていて、身動きができません。


 閉じこめられたと思った次の瞬間、私の体の周りに温かい水が出現しました。私は咄嗟に息を止めました。これはもしや水牢!?彼女は私を水責めにして拷問するつもりのようです。


 私はすぐ目の前にある拷問者の顔を見つめました。彼女は無邪気そうな笑顔を私に向けています。人を水の中に沈めておいて、そんなに嬉しそうに笑うなんて。私は彼女の残虐さに戦慄を覚えました。






 何とか脱出するため、神聖魔法を使おうとしましたが、一切の魔力を封じられているようで、初級魔法すら使うことができません。


 焦りを覚える私の体をさらなる責め苦が襲います。なんと水が生き物のように動いて、私の体を優しく撫で始めたのです。水は体の隅々、髪一本一本の生え際にまで入り込んで、私の体を刺激します。私はそれに耐えかねて、詰めていた息を一気に吐き出しました。


 水は私の口の中にも入り込んできて、体の内側も丁寧に撫でていきます。魂が蕩けるかと思うほどの心地よさです。激しい屈辱と快楽のために、思わず悔し涙がこぼれますが、それもたちまち水に洗い流されてしまいました。聖職者である私を幼い子どもの見ている前で、魔法を使って辱めるとは。なんと卑劣なのでしょう。


 なすがままにされている私を見て、ドーラは一緒にいるエマという幼女と共に愉悦の表情を浮かべていました。私は彼女の罠にはまった自分の迂闊さを呪いました。 


 今は私の自由を奪い弄ぶことで、力の差を見せつけているのでしょう。『その気になればどんなことでもできるのだぞ。』穏やかな光をたたえて私を見つめる彼女の眼が、そう私に語り掛けているように見えました。


 私はこれから、どれほどの責め苦を受けることになるのでしょうか。今後の自分の運命を思い、心に絶望の影が忍び寄ってくるのを感じました。






 ですが予想に反して、彼女はすぐに私を解放し元の寝台に戻しました。私はさっと起き上がり、寝台の上に座ったまま身構えました。


「どうでしたか私の魔法?」


 彼女は私にやさしく微笑みながら語りかけてきました。私が答えられずにいると、彼女は悲しそうに目を伏せて言いました。


「気に入らなかったですか?他の人は皆、すごく喜んでくれるんですけど。」


「・・・あなたは、ほかの人にもこんなことを?」


「はい。その人に合わせて中身をいろいろ変えられるんですよ。あ、ひょっとしてもっと熱いのが好きでしたか?」


 彼女は私の目を覗き込むようにして尋ねました。もっと熱い・・・まさか熱湯責め!?


 大陸南方半島のある国では罪人を生きたまま熱湯につけるという処刑が行われている地域があります。私は生きながらじわじわと茹でられる自分の姿を想像して、恐怖に慄きました。言葉を無くした私に彼女は言いました。






「私、テレサさんのこと、もっと知りたいです。これからもずっと仲良くしてくださいね。」


 彼女は愛らしい笑顔で私にそう言いました。私のことを知りたいというのは、もっと情報を引き出したいということでしょう。


 そしてそのために私を生かしておいて、今後もずっと苛み続ける。逃げられると思うな。彼女はそう宣言しているのです。なんということでしょう。私は彼女の悪辣さを軽く考えすぎていたことに、今更気が付きました。


 私などいつでも始末できるからこそ、今は余計なことをするなと脅しているのかもしれません。そして死にたくなければ私に協力しろと言っているのでしょう。


 村人たちに溶け込んで生活しているのも、きっと覚醒のための力を得るためです。村人たちにより深い絶望を味わわせるため、今は村人に尽くしている振りをしているに違いありません。


 自分はともかく、何とかして村人を救わなければ!


 完全に囚われてしまった私に何ができるかは分かりませんが、今は彼女の思惑通りに行動して、彼女のことを探り出そう。私はそう考えました。







 ドーラとエマはもうすぐ夕食の準備が始まるからと、部屋を出ていきました。私も慌てて寝台から起き上がり、部屋を出ます。


 ここは大家族が住めるよう作られている、大き目の丸木小屋のようです。家の中は竈の火で温められ、快適です。とても世界を滅ぼす悪神のアジトとは思えないような平穏さを感じます。それが逆に恐ろしいと私は思いました。


 炊事場では親子と思われる二人の女性が、夕食の準備に追われているようでした。


「ああ、あんたがテレサさんかい?さっきカール様から話を聞いたよ。まだ病み上がりなんだろう。もうじき、うちの人が帰ってくるから、それまで座って待っていておくれ。」


 年配の女性が私にそう言いました。彼女の名はグレーテ。この村の村長夫人だそうです。一緒にいるのは義理の娘のマリー。エマの母親でした。


 程なくこの家の家族が食卓にそろいました。カールさんとカフマン親子も加わり、にぎやかな夕食が始まります。


 私はカールさんの様子をそれとなく見ていました。彼はドーラに警戒しながらも、周囲の人と実によく打ち解け、自然体で過ごしているように見えました。


 ドーラの様子を見ると、勇者であるカールさんの正体にはまだ気が付いていないようです。ドーラに気づかれないよう監視するために、彼は周囲の人々に完璧に溶け込んでいます。


 やはり彼はかなり優秀な戦士のようです。彼の邪魔をしないためにも、私は慎重に行動しようと思いました。






 夕食後、自宅に戻ろうとするカールさんを私はそっと引き留めました。彼の家にはカフマン親子が逗留中です。彼らは「先に戻っとくぞ」と言って、カールさんの家に戻っていきました。


「私、先ほどドーラと話をしました。私、この村のことが放っておけないです。私も正式にこの村の住民にしてください。お願いします。」


「テレサ殿がこの村に?修行の旅はどうされるんですか。」


 彼は直接言葉に出しませんでしたが、言外に私の任務のことを心配してくれているようです。私も周囲の人に真意を悟られないよう、彼に応えました。


「私もここであなたの使命を助けながら、村の皆を守ろうと思います。人々と寄り添うことが私の修行の目的ですから。」


「それは心強い。あなたのお力添えに、深く感謝いたします。」


 カールさんはそう言って私の前に片膝を突き、謝意を述べました。やはりドーラに囚われている村人たちを、彼も心配していたようです。


 彼は今の私にとって、唯一の希望の光。私は彼の姿を見て、折れそうになっていた心に力が戻るのを感じました。






 ドーラはまだ覚醒を迎えていないようです。それにもかかわらず彼女の力は恐ろしく強大でした。このまま彼女が悪神として覚醒すれば確実に世界が滅されるでしょう。


 今はまだドーラは私のことを警戒しているはずです。今すぐに行動してカールさんの正体まで露見してしまっては本末転倒です。


 ドーラは私の心を完全に折ったつもりでいるようで、今のところは殺すつもりがないようです。このまま彼女の動きを探り、隙をついて聖女様にそのことを伝えなくては。


 そのためにも、まずは村の一員として溶け込んでいく必要があります。私は真意を悟られないよう気を付けながら、村長のアルベルトにこの村の住民となりたいと伝えました。


 彼は私の急な申し出に非常に戸惑っていましたが、私の話を聞いて、神聖魔法の使い手が村にいることをとても喜んでくれました。


 こうして私はハウル村の住民となり、住居が完成するまでの間、アルベルト村長の家に居候させてもらうことになったのでした。







種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   土木作業員(大規模)

   鍛冶術師の師匠&弟子

   木こりの徒弟

   大工の徒弟

   介護術師(王室御用達)

   侍女見習い(元侯爵令嬢専属)

   錬金術師見習い

   薬師見習い

所持金:1203D(王国銅貨43枚と王国銀貨1枚とドワーフ銀貨7枚)

    → 行商人カフマンへ5480D出資中

読んでくださった方、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ