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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
49/188

47 死闘の果てに

眠いので推敲してません。しかも後半がほぼポエムに。後で書き直すかもです。


追記:ちょっとだけ直しました。ポエムはそのままですけど。

 カール様と共にハウル街道を北上していた俺は、ノーザン村まであと少しという所で野盗団に襲撃された。


 カール様は俺を逃がそうと、野盗団を足止めしてくれたが、俺は待ち伏せしていた野盗団のボスと幹部に追い詰められてしまった。まさに絶体絶命のピンチだ。


「小僧、あきらめて武器を捨てな!抵抗しないでいれば、奴隷思いの主人に買ってもらえるよう、奴隷商に口を聞いてやるぞ!」


 毛皮を着て槍を手にした大男、おそらくこの野盗団のボスが、俺に向かって吠えた。俺の周りには野盗団の幹部と思われる5人の男。全員が剣を手にして、油断なく俺を取り囲んでいる。俺は街道脇の斜面を背にしているため、逃げ場はない。


 俺を完全に追い詰めながらも、ボスは数歩下がった位置から俺のことを見ていた。見た目よりもずっと慎重な奴だ。






 奴らの言う通り投降して逃げる機会を伺うべきだろうか。だがそんなことをすれば俺の預かったアルベルト村長とドーラさんの大切な金はすべて奪われてしまう。


 金がなければじいちゃんを助けることも、俺の夢を叶えることもできない。ここは何とかして切り抜けるんだ。


 俺は短剣を構え、周りの男たちを睨み返した。


「・・・お前はもっと利口だと思ったがな。まあいい。殺すな。生け捕りにするんだ。やれ!!」


 ボスの号令で左右から同時に二人の男たちが斬りかかってきた。俺は左側にいる男に体を向けると、短剣を横に構えた。男は俺の構えた短剣を払いのけようとして、上から短剣めがけて思い切り剣を振り下ろした。


 俺は男の剣が触れる直前、自分から短剣を手放した。持ち手を失くした短剣は、男の全力の一撃で仲間の方に跳ね飛ばされた。


「うおっ!!あぶねえ!!」


 声を上げ、飛んできた短剣を慌てて避ける男たち。俺の短剣を弾き飛ばした男は、予想に反して打ち払った短剣が軽かったため、大きく姿勢を崩した。


 右から斬りかかってきた男は、振り下ろされた左の男の剣が邪魔になって俺に近づけない。俺は体を低くして左の男の剣を掻い潜ると、そいつの腹に思い切りぶち当たった。


「ぐはぁ!!」


 俺に突き飛ばされた男がもんどりうって雪の上に倒れる。俺は男と一緒に転がりながら、あらかじめ緩めて左手で掴んでおいた外套をバッと空中に広げた。


 男たちの視界が一瞬遮られた隙に俺は素早く起き上がり、街道を北に向かって走り出した。ボスは俺よりも5歩以上後ろにいる。このまま走れば逃げられる!






 そう思った瞬間、正面から俺の腹に凄まじい勢いで何かがぶち当たった。俺は痛みと衝撃で目の前が真っ白になり、受け身も取れず雪の上を何回も跳ねながら転がされた。


 ザクザクと雪を踏みしめ近づいてくるボス。やばいと思い立ち上がろうとしたが、手足に力が入らない。雪の上に横たわる俺の腹を、ボスは毛皮のブーツで思い切り蹴り上げた。


 それでやっとわかった。さっきの一撃はこいつの蹴りだったんだ。だがどうして?なぜ正面から蹴りが?奴とはかなり距離があったはずなのに・・・!


 朦朧とする意識の中でそう考えた俺の首を、ボスが片手で掴み上げた。やや痩せ気味とはいえ成人間近の俺の体を、片手で軽々と吊り上げる。信じられない膂力だ。


「ぐ、ばなぜ!!ごのやろう!!」


 万力のような手で締め上げられ、視界が赤く染まった。空気を求めて俺は喘ぎ、ボスの手を何とか振りほどこうと両手をかけるが、びくともしなかった。


 俺は手足をデタラメに動かしボスを思い切り蹴りつける。だがすべて鎧に防がれてしまった。俺の喉からゴボリと嫌な音がして、視界と音が急速に遠くなっていく。まるで水の中にいるような感じでボスの声が聞こえる。


「まったく油断ならねえガキだ。だが俺の敵じゃあなかったな。このまま締め落としてやる。」


 俺の意識がだんだんと闇に飲まれていく・・・。






 その時、獣の咆哮と風を切って近づいてくる大きな足音が聞こえた。霞む視界の端に映ったのは、地響きを立てながらこちらに突進してくる六足牛の姿だった。


「六足牛が突撃だと!?馬鹿な!!」


 ボスは俺の首から手を離すと、雪の上に俺を投げ出して、素早く姿を消した。六足牛は器用に俺を避けながら通り抜けたかと思うと、角を大きく振り立てて剣を持った男たちに突っ込んでいった。巨体に弾き飛ばされ、角になぎ倒されて男たちは全員、雪の上に転がった。立っているのはやや離れたところにいるボス一人だけだ。


 六足牛は踵を返すと、俺を守るかのようにボスと俺の間に割って入った。頭を低くして前足4本で地面を掻き、激しく雪を巻き上げながら、唸り声をあげてボスを威嚇する。


「ひゅう!!げほっ!!ごほっ!!・・・おばえ、おでをだずげにぎてぐれだのが!!」


 六足牛は魔獣だがとても大人しく臆病だ。自分の身や子供を守るために攻撃してくるとき以外は、人に襲い掛かるようなこともしない。


 だがこいつは、俺を助けるために戻ってきてくれたのだ。六足牛はボスから俺の体を隠すように、立ちふさがっている。


「獣風情が!不意を突かれて驚いたが、俺の敵じゃあ、ねえんだよ!!」


 ボスが六足牛に突進し槍を繰り出した。だが六足牛は俺の前から一歩も動こうとしなかった。


 牛の体が槍に貫かれると俺が思ったその時、一陣の風のようにその場に飛び込んできた影が、稲妻の如き鋭い斬撃を繰り出し、ボスの槍を下から上へ跳ね上げた。金属のぶつかり合う凄まじい衝撃音が響き、俺の耳を激しく打つ。


 ボスはまた信じられないような速さで後退し、距離を取った。






「カール様!!」


「てめえ、なぜ生きてやがる!?俺の部下は!?ジムザはどうした!?」


 緩やかに立った姿勢で、右下段に剣を構えたカール様が、ボスの足元に何かを投げ出した。雪の上に転がったのは、苦悶の表情を浮かべた、汚い金髪の男の生首だった。


「仲間を平気で犠牲にする卑怯者なら私が切り捨てた。次はお前の番だ。だが投降するなら命だけは助けよう。」


「ちくしょう!!よくも俺の部下を!!殺してやる!!」


 激昂した大男だが、すぐに飛びかかってはこなかった。油断なく槍を構え、じりじりと間合いを詰めてくる。カール様はその場から一歩も動かず、奴の動きをじっと見ていた。


 ある地点まで接近したところでボスが槍を繰り出した。カール様はその動きに合わせ、すっと前に飛び出そうとした。その時、俺の脳裏にこれまでの奴の動きがフラッシュバックした。俺は反射的に声を上げていた。


「カール危ない!!こいつの動きっ・・・!!」


 カールはハッとしたように身を翻した。次の瞬間、彼の右上腕からバッと血が吹き上がり、雪の上に飛び散った。彼は後退しボスとの間合いを取った。






魔槍まそう術か。」


「ちっ、本当に忌々しい小僧だぜ!このすかした野郎を串刺しにしてやるところだったのによ!!」


 魔力を持った騎士たちは自分の体を魔力で強化し戦うと聞いたことがある。戦い方は人によって様々だが、魔力が強ければ強いほどより素早く、力強く、強靭になるという。


 このボスは『魔槍術』と呼ばれる槍の技を使うようだ。痛みを堪えるような顔をしたカールに、ボスが吠えた。


「まあいい。利き腕に傷を付けられたからな。楽に死ねると思うなよ。俺の槍でじわじわと甚振って殺してやる!!」


 ボスは再び槍を繰り出してきた。よくは見えなかったけれど、さっきは繰り出した槍の穂先が急に不自然に角度を変えたように見えた。


 カールは今度はその場に立ったまま一歩も動かなかった。下段に構えた剣を外套に隠し、じっと攻撃を待ち受けていた。


 槍の穂先が彼の胸を貫くと思ったその時、一瞬カールの姿がぶれたように見えた。






「ごぼおっ!?な、なぜ・・・!?」


 いつの間にかカールの剣がボスの胸を貫いていた。一体何が起こったのか全く分からなかった。カールが右手首を軽く捻ると、剣の切っ先が飛び出したボスの背中から激しく血が吹き上がった。ボスはカールの足元に繰り出した槍を持ったまま、後ろ向きに倒れて動かなくなった。俺は彼に駆け寄った。


「カール、血が!!こっちで手当てをする。さあ早く!!」


 俺は彼を街道脇に座らせると、そりに置いたままになっている道具袋から血止めの軟膏を取り出した。俺が水袋の水で傷を洗おうとしたら、彼は自分で《洗浄》の魔法を使い、傷口を清めてくれた。


 洗ってみると彼の傷は思ったよりも深くなく、安心した。「ちょっと沁みるぞ」と言ってから、俺は彼の傷に軟膏を塗りこんでいった。彼は軽く顔をしかめながら、俺に礼を言った。


「ありがとうカフマン。お前の声が遅ければもっと深い傷を負うところだった。」


「いや、俺の方こそありがとうだぜ。それにしてのさっきのあれ何だ?魔剣術ってやつか?あっという間にボスの胸を刺してただろう?」


「ああ、あれはただ、槍を躱して突きを入れただけだ。私は魔力が低い。魔剣術なんて使えないからな。」


「ただの突きってお前、マジかよ!?」


「うん。だってこいつ自分で『急所は狙わない』って言ってただろう?手足を狙ってくるだろうって思ってたから、ぎりぎりまで待ってたんだ。それで後はスッとやってこう、ドンとね。」


 身振りで説明しようとするカールに「動くなバカ、傷が開くだろうが!!」と怒鳴ったところで、俺はその言葉の無礼さに気が付いた。一気にザーッと血の下がる音が聞こえた気がした。






「あ、あの、すみませんでした、カール様!!俺、イヤ私は、つい言葉がこんがらがってしまいました!!」


 俺の言葉を聞いて彼は堪りかねたように吹き出した。


「今更だよカフマン。もうそういうのいいから。二人だけのときは私、いや俺のことはカールって呼んでくれ。お前は俺の命の恩人だからな。」


 カールはそう言って俺に右手を差し出した。俺はちょっと躊躇ったが、カールの目を見て、思い切ってその手を強く握った。


「俺たち友達だ。これからよろしくな、カフマン。」


「ああ、こっちこそよろしくカールさ・・・カール!!」


 俺とカールはこうして死線を乗り越え、友達になった。定住先を持たない行商人として蔑まれていた俺に、初めてできた友達は、なんと貴族だった。なんて不思議なんだろう。


 雪の上に派手に飛び散った血の海の中で握手する俺とカール。そんな俺たちの様子を見て、六足牛は嬉しそうに鼻を鳴らした。






 俺が六足牛の引綱を修理し、牛をそりにつないでいる間に、カールは生き残っていた3人の男を革紐で縛り上げていた。目隠しをした上、男たちが声も上げられないように、念入りに縛っている。


「・・・お前、縛り方やけに上手いな。」


「ああ、すぐ上の兄貴が衛士隊の中隊長でね。捕縛術の練習台にされてたんだよ。だから捕縛と縄抜けは割と得意なんだ。」


 明るい笑顔でとんでもないことを言うカール。ちなみに他の野盗たちはどうしたのかって聞いたら何でもない調子で普通に「斬った」って言いやがった。どんな育ちしたらこんな貴族が出来上がるんだよ、まったく。


「そういえばお前の剣、2本あるのにそっちは使わないんだな。」


 縛り上げた男たちを二人でそりに載せているときに、俺はカールの右の腰に下がった剣を指して言った。


「これは人間相手には使えないんだ。『誓い』のせいでね。」


「ふーん、まあいいか。じゃあ行こうぜ。」


 街道を塞いでいた丸太と、転がっている死体を街道の脇に寄せてから、俺たちはノーザン村を目指して出発した。襲撃のせいで思わぬ時間を取られてしまったが、何とか日暮れまでには村に着けそうだ。


 俺とカールはその間ずっと、お互いの身の上を語り合った。思えばこの時、二人ともやけに饒舌だったのは、きっと人死にをたくさん見た反動だったのかもしれない。


 俺たちはまっすぐ前を向いて、雪の降る街道を見つめたまま、そうやっていつまでも話し続けたのだった。











 カールさんたちがハウル村を旅立った日の真夜中。私はカールさんから預かった手紙を届けるために、王様のところに行った。


「なるほど。事情は分かった。カールに依頼された街道の警備の手配はすぐに取り掛かるとしよう。ありがとうドーラさん。」


「はい。ありがとうございます。」


「ん、どうかしたかね?何だかいつもよりも元気がないように思えるが・・・。」


「私、自分の作ったものをみんなに使ってほしいと思って、カフマンさんにお願いしました。でもそのために、カールさんやカフマンさんが危ない目に遭うんじゃないかって思ったんです。」


 私は人間の世界の仕組みのことも知らないまま、自分の思いを口にしたことを後悔していた。


 ほんの軽い気持ちで言ったことが、こんなに大事おおごとになるなんて思いもしなかったのだ。私はその思いを王様に話してみた。






「ドーラさんの後悔の気持ちは分かる。その気持ちを忘れないでいることはとても大切だ。しかし君のしたことで救われる者がいることも、また忘れてはならない。ドーラさん、物事にはすべて二つの面があるのだから。」


「二つの面、ですか?」


「そうだ。ちょうどこの銀貨のようにな。この世には絶対に正しいことや間違っていることなど、無いのかもしれんと私はこの年になって思うようになった。」


「・・・よくわかりません。」


「誰かにとって良いことが他の人にとって良いこととは限らぬ、と言い換えてもよい。逆もまた然り。君の行為は誰かを危険に晒したかもしれない。だがそれはより多くの人を喜ばせるきっかけになるかもしれん。もちろんカールやカフマンを含めてね。」


 確かにカフマンさんはすごく喜んでくれた。それは私にとってもすごくうれしいことだった。でも。






「私はあまりにも無知でした。私は人を傷つけてしまうことが怖いのです。」


「ならば学びなさい。そしてまた選ぶといい。自分がしたいことは何なのかをね。」


「それでまた誰かを傷つけたら・・・?」


「次はそうならないように考えるといい。だが誰かを傷つけたとしても、選ぶことをやめてはいけないよドーラさん。」


「なぜですか?」


「それは生きることをやめることと同じだからだ。生きている限り私たちは間違う。そしてそこから学ぶ。そうやって少しずつ真理に近づいていく。たとえ途中で倒れたとしても、他の者がそれを引き継いでいってくれる。そう信じることを、人は未来への希望と呼ぶんだ。」


「未来への希望・・・。」


「君の誰かを思う気持ちが、カフマンを動かした。君の思いは彼に引き継がれ、彼にとっての希望となったということだ。希望があれば人はより強く生きていける。」






 私は悠久の時間を生きる竜だ。私にとって時間とはただそこに存在するもの。未来という言葉は、私にはあまりにも遠すぎる。


 人はあっという間に死んでしまう。やりたいことも、やるべきことも、何もできないまま死んでいく。だけど人は恐ろしく強く、たくましく生きている。


 それは未来への希望があるから。今より次が、今日よりも明日が、よくなると信じているから。


 もし永遠の時間を生きる私がみんなの希望を繋ぐことができたら、それはとても素敵なことだと思う。


 どうしたらそうなれるかなんて私にはまだ分からない。私はまだまだ人間のことを知らなすぎる。だから学ぼう。大切な人を、その人たちの希望を守れるように。


 私は王様に「また聞きに来てもいいですか?」と尋ねた。王様は「いつでも歓迎するよ」と言ってくれた。


 私は王様にお礼を言った。そしてその後、二人で紅茶を飲みながら、いろいろな話をたくさんたくさんしたのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   土木作業員(大規模)

   鍛冶術師の師匠&弟子

   木こりの徒弟

   大工の徒弟

   介護術師(王室御用達)

   侍女見習い(元侯爵令嬢専属)

   錬金術師見習い

   薬師見習い

所持金:83D(王国銅貨43枚と王国銀貨1枚)→行商人カフマンへ5480D出資中

読んでくださった方、ありがとうございました。

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