46 友人
もう一話書けたので投稿します。お休みの日はいいですねー。
行商人のカフマンさんはその日のうちに、おじいさんのいるウェスタ村へ向けて出発することになった。おじいさんの容体が心配だかららしい。
そんな彼に、カールさんが「私がウェスタまで一緒に行って護衛する」と言ってくれた。
「カール様が護衛を!?そりゃあ心強い!よかったな、カフマン。」
「あ、ありがとうございます。えっと、カールさんだっけ?ところであんたは何者ですか?冒険者か傭兵ですかい?」
「ば、馬鹿野郎!!カール様はこの街道の管理官をなさってる王国官吏様だぞ!!」
「え!!それじゃあ、貴族様ですか!?し、失礼しました!!」
アルベルトさんに叱られたカフマンさんはその場に平伏しようとして、カールさんに止められた。
「貴族といっても私は領地もない下級貴族の三男だ。そんなにかしこまる必要はないよ。」
「いや、だって、貴族様ですよね?かしこまるなって方が無理ですよ。それに街道の管理をする仕事がおありになるんでしょう?」
「君の言っていた野盗のことが気になってね。その調査がしたいんだ。街道の管理をする立場として王に報告しなくてはいけない。それにドーラさんの大事なお金を持っている君を危険な目に遭わせるわけにはいかないからね。なにしろ・・・。」
カールさんは本当に小さな声で呟くように言った。
「ドーラさんの仕事を引き受けた君に何かあれば、下手するとこの国が亡ぶかもしれないからな。」
「ん、今何かおっしゃいましたか、カール様?」
「いや、何でもない。とにかくこれは私にとっても大切な任務だということだ。どうか同道させてほしい。」
「そりゃあ俺、いや私にとっては願ったり叶ったりです。こちらこそよろしくお願いします。」
こうして二人は一緒に旅立つことになった。だけど私はカールさんが行ってしまうのがとても心配だった。
「カールさん、ウェスタ村までどのくらいかかるんですか?」
「そうですね。歩きでならノーザン村までおそらく1日。そこからそりで小さな村を経由しながら5~6日程だと思います。だから半月ほどで戻ってきます。大丈夫ですよ。心配しないでください。」
「半月・・・。」
竜の私にとっては瞬きするような日数。なのにそれがどうしようもなく長く感じられるのはなぜだろう。
「カール様、もしよかったら村の六足牛と丸太を運ぶそりを使ってくだせえ。どうせ冬の間は無駄飯食いですし、あいつがいれば少しは旅が楽になります。」
「それはありがたいです。ぜひそうさせていただきます。」
彼は旅の準備をするからと言って、自分の家に戻ってしまった。アルベルトさんたちも、そりに人が乗れるように座席と荷台を取り付ける作業をするために出ていく。
私は胸に手を当て、カールさんたちの出ていった扉を見つめた。だからその時、カフマンさんがそんな私をじっと見ていることに、全く気が付いていなかった。
カールさんたちのそりの準備ができた。取りつけられたそりの荷台には私の作った蜂蜜と蜜蝋の壺が積んであり、その上に六足牛の飼葉が乗せられている。
「ではドーラさん、行ってきます。この手紙を今夜にでも王に届けていただけないでしょうか。」
「はい、分かりました。気を付けて行って来てくださいね。」
私はカールさんとカフマンさんの乗ったそりに魔法をかけた。
「《雪除け:効果・範囲延伸》」
そりの周囲に降る雪が目に見えない魔力の膜で遮られた。驚く皆をよそに私は知っている保護の呪文をすべて使いまくった。
「多分これで半月くらいは持つはずです。無事に帰ってきてくださいね。」
「ありがとうございます。必ず無事に戻ります。」
ありったけの魔法を使いまくった私に苦笑しながら、彼はそりに乗り込んだ。私は六足牛に「二人を守ってね」と伝え、手に魔力を込めて体を一生懸命撫でた。長い冬毛に覆われた六足牛が嬉しそう嘶き、そりは走り出していった。
私とエマは街道の入口までそりを追って走った。そしてそりが雪に遮られて見えなくなるまで、ずっと立ち尽くして二人を見送った。
ハウル村を出て半日ほど経った。もうすでにハウル街道を半分以上来ている。おそらく日暮れまでにはノーザン村に着くはずだ。
ここまで私はカフマンが気詰まりな思いをしないようにと、彼にいろいろ話しかけていた。そのおかげで少し打ち解けてくれたような気がする。
カフマンは商人だけあって話がとてもうまい。私は年の近い友人と話すような気安ささえ覚えていた。
「ほう、カフマンは今度の春で16歳か。私の一つ下だな。」
「カール様は今16歳ですか。成人してすぐに街道の管理官を任されるなんて、すごいですね。」
「いや辺境の村の駐在員だから大したことはないさ。それよりもその年で行商人として働いている君の方がすごいよ。」
「貴族様にそんな風に言われると、なんか照れちゃいますね。」
彼は人のよさそうな顔を赤らめて笑った。ありふれた赤茶色の髪と焦げ茶色の瞳をしたやや幼さの残る風貌。だが時折見せる鋭い目つきからは、彼が商人として自分の仕事に誇りを持っていることが伺えた。
「それにしてもドーラさんの魔法はすごいですね。俺、あ、いや私は、すごくびっくりしてしまいました。」
焦った彼の変な言い回しがおかしくて、私は思わず吹き出してしまった。私は彼にすまないと謝った。
「『俺』で構わないよ。確かに彼女の魔法はすごい。私も驚かされてばかりだよ。」
私たちはそりの周りに降る雪を見た。目の前が遮られるほどの雪が降っているのに、そりの周りだけは全く雪が降っていない。しかもまるで暖炉のある部屋の中にいるような暖かさだ。ドーラの使った《保温》の魔法の効果だろう。
しかも暗い雪雲の下にもかかわらず、そりの周囲だけ薄明かりが灯ったように明るい。これは《灯火》の魔法だ。こんなに複数の魔法を一つの対象に同時に、しかも長時間にわたって発現させるなんて。本当に彼女の力は常識外れだ。
「カール様、ドーラさんて何者なんですか?」
「彼女はハウル村のまじない師だよ。私もそれ以上は知らないんだ。」
彼は私の返答に納得のいかない顔をしていた。だが本当のことだ。私は彼女についてほとんど何も知らない。誰にも言っていないが、彼女のことをもっと知りたいという気持ちは日ごとに強くなっている。
沈黙が流れた後、カフマンは思い詰めたような顔で私に尋ねてきた。
「あの、カール様!!大変失礼なことかもしれませんが聞かせてください!ドーラさんは・・・その・・・カール様の愛妾なんですか!?」
私は彼の言葉にあっけに取られてしまった。
「愛妾?いやいや、そんなことはない。私とドーラさんはそんな関係じゃないよ。」
「で、でもカール様は貴族で、ドーラさんは平民の、しかも下民のまじない師。ドーラさんのこと、いくらでも好きに出来ますよね?」
ドーラを好きに・・・。彼の言葉でかつて見た彼女の美しい裸身が脳裏によみがえる。体の芯が熱くなり、狂おしいほどの情熱が湧き上がるのを感じた。
何を考えているのだカール・ルッツ!お前はドーラを守護する騎士としての誓いを立てたではないか!その彼女を邪な目で見るとは、騎士の風上にも置けない!しっかりしろカール!!
「・・・そのような貴族が多いというのは私も知っている。だが私は彼女をそんな風にしようと思ってはいない。」
「じゃ、じゃあドーラさんを無理やり裸にしたり、口づけしたり、あの、閨に連れ込んだりしたことは・・・。」
「そんなことは!!・・・していない。」
裸にしたのは任務の上でのことだ。邪な気持ちからではない。断じてないのだ。私の歯切れの悪い返答に、怪訝な顔をしながらも、彼は一応納得してくれたようだ。
「そうなんですね。じゃあ、俺にもまだ望みがあるかな・・・。」
「?? なんて言ったんだ?小さくて聞き取れなかったんだが・・・?」
「いえ、ただの独り言です!カール様が紳士で本当によかったなーって、ははは!」
私たちは心から笑いあった。王立学校では常に蔑まれていたため、同年代の同性とこんな風に話をしたことは初めてだった。これが友人というものだろうか。
だが私の物思いは、突然降り注いだ矢によって遮られた。
「な、なんだ!?」
カフマンが驚いて声を上げる。街道の両端の茂みから飛んできた数本の矢が六足牛めがけて殺到する。だがその矢はすべて見えない壁に当たったかのように、牛の体の直前であらぬ方向へと逸れた。ドーラの使った《矢避け》の魔法の効果だ。
「ちっ、一本も命中しないたあ、どういうことだ!!ちゃんと狙ったのかよ!!」
矢と同時に茂みから飛び出してきた数人の男たちが、そりの前後を塞ぐ。全員が統一感のない防具を身に着け、手入れの悪い剣や槍を握っている。
「大人しく積み荷と有り金全部置いて行けば命だけは助けてや・・・。」
そりの前にいた、前歯の数本欠けた男がその言葉を言い終わるより早く、私は左の腰に下げた剣を振り抜き、その男の首を刎ねていた。何が起こったか分からないという表情のまま男の首が雪の上に落ちる前に、さらにもう一人の男の右手首を斬り飛ばして雪の中に蹴り倒す。
「身を守りながらそりを走らせろ!」
私は叫びながらさらにもう一人の男を槍ごと叩き斬った。そりの前を塞ぐ男はあと一人。粗末な盾を構えたその男が繰り出す短槍を躱して懐に飛び込む。驚きに目を見張る男の胸を剣で貫き、そのまま押し倒した。
目の前を塞ぐ敵がいなくなったことで六足牛が走り出す。カフマンは私の意図を理解してくれたようだ。そりは鮮血に染まった雪の上を走り、その場を離れていく。
私はそりの脇を通って素早く後ろに回り込むと、そりを追おうとする男たちの前に立ちふさがった。そりの前にいた男たちよりもさらに見すぼらしい装備の男たちに私は言った。
「投降するなら命は取らない。武器を捨てその場に伏せろ。」
雪まみれの男たちの目に恐怖と躊躇の色が浮かぶ。一人の男が武器を雪の中に落とそうとした瞬間、その男の胸を矢が貫いた。
「逃げたらどうなるか分かってんだろうな!!」
弓を構えた男たちが茂みから立ち上がり叫ぶと、その声に弾かれたように男たちが恐怖の叫びをあげて斬りかかってきた。
明らかに拙い動きの男たちの剣を躱し、剣の峰や柄で当身を当てていく。そこに幾本もの矢が再び放たれた。私は剣で矢を斬り払ったが、男たちは仲間の放った矢に撃たれて絶命した。
「ちっ、足止めにもならねえとは、役立たずどもが!!」
そう叫んだ男たちが再び矢を構える。私は男たちに向かって雪の斜面を駆け上がった。
俺が飛んできた矢に驚いて声を上げたときには、隣に座っていたはずのカール様があっという間にそりの前に飛び出し、瞬く間に二人の男たちを切り倒していた。
余りにも早すぎてその動きが全く見えなかったくらいだ。とんでもない剣の技量と身のこなし。俺には剣の心得はないけれど、彼が並外れた剣士であることだけは分かる。
「身を守りながらそりを走らせろ!」
彼の声を聴いてハッとした俺は、六足牛の手綱を操作して牛を走らせた。そりが走り始めた時、そりの前を塞いでいた男たちはみんなその場に倒れ、雪の上には真っ赤な血の花が咲いていた。俺も小さいころから行商人としてじいちゃんと一緒に旅をしてきたから、こんな風な修羅場は初めてではないが、やはり気持ちのいいものではない。恐ろしくなった俺は必死に手綱を掴んだ。
だがいくらも行かないうちに、目の前の街道が倒木で通れなくされていた。昨夜ここを通ったときには、こんなものはなかった。俺は慌てて手綱を引き、六足牛を止める。賢い牛はそっと速度を落とし、そりは倒木にぶつからずに済んだ。
「用心のための仕掛けまで使うことになるとはな。おい、お前ら。邪魔な牛から殺しちまえ!」
街道の両脇から剣や槍を持った男たちが現れた。その中でも一際大きい、毛皮を纏った男が他の仲間に指示を出した。俺は咄嗟に護身用の短剣を懐から出すと、六足牛の引き綱を切り放した。
「逃げろ!!」
俺が叫ぶと同時に、六足牛は倒木を乗り越え、全速力で駆け出した。牛を殺そうと接近していた男たちが角に弾き飛ばされ雪の中に倒れた。六足牛は草食でおとなしいとは言っても魔獣だ。その巨体の突進はかなりの力がある。六足牛はどれもみな賢いが、ドーラが面倒を見ていると言っていたあの牛は特に賢いようだ。俺の言葉をちゃんと聞き分けてくれた。
牛の突進に驚いている男たちの隙をついて俺も倒木を飛び越えると、牛の後を追って雪の上を走った。懐にはドーラから預かった大事な金がある。これだけは命に代えても守らないと。そしてじいちゃんを助けるんだ。
俺は短剣を握りしめたまま、後ろも見ずに全力で走った。装備も身に着けていない上、《雪除け》の魔法がかけられている分、奴らよりも俺の方が絶対に早い。このまま逃げ切ってノーザンに辿り着けば助かる。ノーザン村には巡察士に率いられた自警団があり、野盗たちは近づけないからだ。
だがそんな俺の思惑はあっという間に遮られてしまった。ブンという風を切る音に思わず振り返ると、俺めがけて飛んでくる槍が見えた。慌てて避けようとするが間に合わない。俺の背に槍が深々と突き刺さる。
そう思って目をつぶった瞬間、槍は何かに邪魔されたみたいに直前で逸れて地面に突き立った。俺はそのまま走り出そうとしたが、恐怖で足がもつれ、雪の上に派手に転んでしまった。
「ちっ、《矢避け》の魔法か。だが俺の槍まで防ぐとは、どうなってやがる。なんかの魔道具か?」
毛皮を来た大男が憎々しげに叫びながら、仲間たちと共に近づいてきた。俺は立ち上がったが、再び飛んできた槍が足元に刺さったことで行く手を阻まれてしまった。
「直接刺さらねえなら、こうすればいいのさ。」
俺は男たちに取り囲まれてしまった。毛皮を纏った男が俺に槍を突き付けながら言った。
「おい小僧!ずいぶん腕のいいまじない師を雇ったみたいだな!よほど懐が暖かいんだろう。有り金全部出しな。命だけは助けてやるよ。」
俺は短剣を構えて周囲の男たちを伺った。全部で6人。さっき見た男たちよりも良い装備を身に着けている。どうやらこいつらがこの野盗団の幹部とボスのようだ。男たちはにやにや笑いながら俺のことを見ていた。俺が返事をせず、ボスと思しき毛皮の大男を睨みつけると、奴は笑いながら言った。
「あの護衛が来るのを期待してるんなら、無駄だぜ小僧。あの茂みには20人以上の仲間が伏せてるんだ。《矢避け》の魔法があったって、多勢に無勢ってもんよ。今頃はもう、斬り殺されちまってるさ。」
他に仲間が20人!?こんな人気のない街道を狙うような規模の野盗団じゃない。一体何が目的なんだ?もしや・・・!!
「お前ら、ハウル村を襲撃するつもりか!!」
「・・・察しがいいな、小僧。あの村は最近ずいぶん羽振りがいいらしいじゃねえか。お前もそれであの村に向かったんだろう?」
やはりこいつらハウル村の噂を聞いて移動してきた連中らしい。何とかこの場を逃げ出して通報しないとドーラさんたちが危ない!
「どうだ、俺たちの襲撃の手引きをしねえか?お前はなかなか見所がありそうだ。分け前はたっぷりくれてやるぞ。」
毛皮の男はそう言って俺に近づいてきた。だが油断なく槍を構えていて全く隙が見えない。
「そうだな。なかなかいい話だ。確かに俺なら村を襲うときの手引きができる。もっとよく聞かせてくれないか?」
俺は短剣をすっと下ろして構えを解いた。それにつられるように俺の斜め後ろにいた男が剣を下げた。俺はその隙を逃さなかった。体を低くしてその男の脇をすり抜け、囲みを逃れた。
と思ったのもつかの間、俺は背中に強烈な一撃を浴びてその場に倒された。咄嗟に雪の上を転がり街道脇の斜面に逃れる。さっきまで俺がいたところに剣や槍が突き出されていた。一瞬、判断が遅れていたら串刺しになっていただろう。
「外套の下に何か入れてやがったか。用心深い小僧だ。」
大男が吐き捨てるように言った。護身用の革の軽盾を背負っていたおかげで助かったようだ。だが盾越しの一撃にも関わらず、背中と肩がズキズキ痛む。俺は斜面を背に短剣を構えた。
「おい、お前ら油断するな。だが出来れば生け捕りにしろ。抜け目のない小僧だ。奴隷として売ればいい値がつくかもしれねえ。」
大男たちに命じられた男たちがじわじわと俺に近づいてくる。さっきまでのにやにや笑いはすでにない。油断してくれていれば逃げられたかもしれないのに。俺は男たちの動きをじっと観察したが、隙は見つからなかった。
暗い冬の昼下がりの中、俺に迫りくる刃は鈍く不気味な光を放っている。投降して機会を待つか、それとも命がけで抜け出すか。俺は背中の痛みに苛まれつつ、自分に残された選択を冷静に検討していた。
種族:神竜
名前:ドーラ
職業:ハウル村のまじない師
文字の先生(不定期)
土木作業員(大規模)
鍛冶術師の師匠&弟子
木こりの徒弟
大工の徒弟
介護術師(王室御用達)
侍女見習い(元侯爵令嬢専属)
錬金術師見習い
薬師見習い
所持金:83D(王国銅貨43枚と王国銀貨1枚)→行商人カフマンへ5480D出資中
読んでくださった方、ありがとうございました。




