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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
47/188

45 行商人

昨日、投稿できなかったので、その分、ちょっと長めになりました。ご都合主義が過ぎる展開ですが、主人公補正ということでご容赦ください。

 蜜蝋づくりで村の皆が喜んでくれたのを見て、私はもっとみんなの役に立つものを作っていきたいと思うようになった。でも具体的にどうすればいいのか分からない。だからカールさんに相談してみることにした。


「ドーラさんの作ったものを多くの人に使ってもらうにはどうしたらいいか、ですか?」


「そうです!私、いろんな人に私の作ったものを使って喜んでもらいたいんです!」


 カールさんはあごに手を当てて、じっと考え込んでしまった。子供たちが帰った後の集会所で、私とエマは彼の考える様子を見つめた。


「・・・村の人にやったようにドーラさんが直接配るのは、やめた方がいいと思います。ドーラさんは目立ちますからね。ハウル村の皆はドーラさんのことを良く知っていますけど、他の村や王都の人たちはきっとドーラさんの姿や力に驚いてしまうでしょうから。」


「ドーラおねえちゃんはすごい力持ちだもんね!」


「うん、そうだねエマ。でもその力だけじゃないんだよ。ドーラさんは魔力も他の人に比べて桁外れに大きいんだ。」


「確かに、王様もカールさんと同じこと言ってました。『私の力は大きすぎる』って。」


「そうなんだー。ドーラおねえちゃんはすごいんだね!」






 カールさんは私の力はこの国や人間の世界に及ぼす影響が大きすぎるのだと教えてくれた。それは私も何となく分かる。


 でもだからこそ、私の力を皆のために役立てられないかな、と思ったんだけど。


「ドーラおねえちゃんの代わりに、他の人が配ってくれたらいいのにね。」


 エマの言葉にカールさんは首を振った。


「いや、配るのはやめた方がいいよ、エマ。どうしてもっていうなら、売ってお金を受け取った方がいい。」


「?? どうしてですか?村の皆には配っちゃいましたけど。」


「ハウル村の人みんなに配れるだけの量が十分にあれば問題ありません。でも配る量が足りなかったらどうなりますか?」


「えっとね、一人分が少なくなる!」


「そうだね。そうしたら他の人のものが欲しいっていう人が出るかもしれない。他の人と自分の分を比べて文句を言う人も出るかもしれない。エマはそうやって子供たちがけんかをするのを見たことはないかい?」


「ある!グスタフたちはいつも木の実や魚を取り合ってケンカしてるよ。グスタフは弱い子の分まで取り上げちゃうの。」


 彼は「よく分かったね」と言って、エマの頭を優しく撫でた。






「物を分け合うってすごく難しいんだ。子供だけじゃない。大人同士でもそれでよくケンカになっているんだよ。そうなれば今エマが言ったように、弱い人が辛い思いをすることになる。」


「わ、私、そんなつもりじゃ・・・。」


 皆がケンカになると聞いて、私は慌てて自分の言葉を取り消した。でもカールさんは「分かってます、大丈夫ですよ」と言ってくれた。


 私たち竜は基本的に獲物を分け合ったりしない。例外は大きな獲物を一緒に捕るときくらいだ。その時も早い者勝ちなので、ケンカになったりはしない。人間と竜の違いに改めて驚かされる。


「カールおにいちゃん、ケンカにならないようにするにはどうしたらいいの?」


「皆で決まりを作って、分ける人を決めればいいんだよ。例えば村のものを分けるときは、誰が決めてる?」


「アルベルトおじいちゃん!!」


「そうだね。村なら村長。国なら王が皆に決まりを守らせる役目をしてるんだ。」


 言われてみて初めて村長さんや王様の役割のことが分かった。だから王様はいつもあんなに疲れてたのか。これからは遊びに行く回数を増やして、どんどん疲れを取ってあげなくちゃ。






「決まりに沿ってみんなが物をやり取りしている中に、ドーラさんが作ったものをただで配れば、無用の争いを生むことになります。だからせめて適正な額のお金を取る方がいいのですよ。」


「カールおにいちゃん、それはどうして?」


「タダでもらえるなら必要ないものでも欲しくなるのが人間なんだ。ましてやドーラさんの作ったものはみんなが欲しがるものばかりだからね。」


「ケンカになっちゃうね!」


「そう、だからお金と引き換えにするんだ。それなら本当に欲しい人だけがお金と引き換えに買ってくれる。結果、必要な人のところに必要なだけ届くようになるんだ。」


 人間がお金を使うのは、便利さ以外にもそんな理由があったなんて。私は人間の知恵に改めて感心してしまった。でもそれじゃあ、お金のない人のところには、物が届かないのでは?






「そうですね。だからこそ王はみんなが豊かで飢えることのない国を目指していらっしゃるんだと思いますよ。ドーラさんの塩作りをガブリエラ殿に再現させたのも、その一環でしょう。」


 なるほど、ただデタラメに物を配るんじゃなくて、人間のルールに沿って、作ったものを使ってもらうことが大事なんだ。王様やガブリエラさんの苦労がやっと理解できた。


「それなら、私の作ったものを代わりに売ってくれる人がいればいいんですね。王様に頼んでみたらいいですか?」


「・・・陛下は今でもものすごくお忙しいですから、出来ればそれは避けていただきたいです。」


 カールさんは王様の仕事を増やさないでほしいと言った。確かに王様、頑張りすぎだよね。


「春になったら、私がアルベルト村長と相談して、ドーラさんの願いを叶えられるように考えてみます。だからもうしばらく待ってもらえませんか?」


「もちろんです!よろしくお願いします。」


 春までなんて私の感覚からすれば本当にあっという間だ。全然問題ない。私の力でたくさんの人たちに喜んでもらえるといいなあ。


 でも私のそんな願いは、私が思ったよりもずっと早く叶えられることになるのでした。






 冬の二番目の月が始まって間もない頃。夜明け前に、私がいつものように屋根裏部屋で魔術の練習をしていたら、村の北側にある街道で人の気配がするのに気が付いた。


 うっかりすると見落としてしまうくらい小さな気配で、しかもひどく弱っているようだ。私はすぐに屋根裏部屋を飛び出して、街道に向かった。


 腰くらいまで雪が積もっている街道の中、かすかな気配を頼りに探していると、雪の中に半ば埋もれかけた男の人を見つけた。粗末な衣服とすり切れた外套を着ている。荷物は何も持っていないようだ。


 男の人の体は冷え切っていて、いくら呼び掛けても返事がない。私はとりあえず《どこでもお風呂》で男の人を温めたまま、カールさんの家に《転移》した。街道でのことはカールさんに聞くのがいいだろうと思ったからだ。


「カールさん!!カールさん!!大変です!街道に知らない男の人が倒れてました!!」


 まだ暗い夜明け前に、私がドンドンと扉を叩くと、すぐにカールさんが出てきた。彼は竈の前に布を敷くと、男の人をそこに寝かせるよう言った。






「ドーラさん、すみませんがすぐに竈に火を入れてもらえませんか?私は彼の容体を見ます。」


 私は言われた通りに大急ぎで竈に薪をくべ、《点火》の魔法を使って火をつけた。ちょっと魔力を込めすぎたので一気に薪が燃え上がってしまったけれど、そのおかげで家の中がかなり暖かくなった。


 私が薪をくべ続ける後ろで、カールさんは寝かせた男の人の胸を両手で何回も押し、口から息を吹き込む動作を何回も繰り返した。


 その甲斐あってか、数度目で男の人が目を覚まし、激しく咳きこむように息を吹き返した。よかった!


 私はカールさんとともに、その男の人の顔を覗き込んだ。ぜえぜえと荒い息をしているものの、やっと呼吸が落ち着いた男の人は、ぼんやりと私たちの顔を眺めた。


「・・・女神がいる。俺は死んじまったのか。」


「おい、しっかりしろ。お前はまだ死んでない。ここはハウル村だ。お前は誰だ。名前を言えるか?」


「名前・・・俺はカフマンだ。俺は・・・助かったのか?」


「雪の街道で埋まってたのを、ドーラさんが見つけてくれたんだ。」


「そうか。女神様、ありがとうございます・・・。」


 男の人はそう言うとそのまま気絶してしまった。だが寝息は穏やかだ。私とカールさんは相談し、とりあえずこの男の人をアルベルトさんの家に連れていくことにした。


 私は《どこでもお風呂》で男の人を包んだまま持ち上げると、カールさんとともにアルベルトさんの家に向かった。











 俺は頬に温かい手の感触を感じて目覚めた。うっすらと目を開けると、目の前に白金色の光が見えた。


「あ、目が覚めましたか?よかった。」


 俺の頬に手を当てて顔を覗き込んでいたのは、光の女神だった。無造作に束ねられた白金色の美しい髪、神秘的な泉のような薄青色の瞳、そして愛らしい春の花の色をした唇。美の化身としか思えないような存在がすぐ目の前で、俺をにこやかに見つめている。


「あなたは・・・?」


「私はハウル村のまじない師ドーラです。今、みんなを呼んできますね。」


 彼女はそう言うとトトトと走ってどこかに行ってしまった。ドーラ、まさに俺たち商人が信奉する幸運と富の女神の名にふさわしい美しさだ。


 彼女はここがハウル村だと言った。俺は無事、目的地に辿り着いたらしい。街道が出来てからここに来るのは初めてだったから、たどり着けるかどうかの自信は正直なかった。俺は雪の夜道を通り抜けられたことに、女神ドーラへの感謝の祈りをささげる。


 他の村すべてで望みは絶たれた。ここが最後の頼みの綱なのだ。どうかうまくいきますように。俺は女神ドーラに強く願った。目をつぶり思い描いた女神は、なぜか先ほど見た美しい女性の顔になっていた。






 寝台から起きて部屋を出てみると、ちょうど朝食時だったようだ。ドーラに案内され、俺の方に向かってきていた村長のアルベルトと目が合った。


「おお、目が覚めたか。よかった。ドーラが見つけてくれなきゃ死んじまうところだったぞ。こんな雪の中をどうした?ホフマンの奴は元気か?」


 アルベルト村長はいつものように親し気に声をかけてきてくれた。今年はノーザン村の客の手伝いでハウル村に来られなかったが、子供のころから何回も顔を合わせているので、彼は親戚の子供に対するように俺に接してくれる。


 俺はその場に両手をついて、彼に頼んだ。


「アルベルトさん!!お願いです!!どうかじいちゃんを助けるために金を貸してください!!」


 彼は呆気にとられた顔をしていたが、すぐに俺の手を取って立ち上がらせた。


「こんな雪の中をやってくるくらいだから、余程の事情があるんだろうとは思っていたが。だがまずは体を温めろ。さあ、こっちに来て話を聞かせてくれ。」


 俺は自分の肩に置かれた大きな手のぬくもりで、思わず泣きそうになった。これまで何人もの人にこうやって頼んだが、話を聞いてもらえたのはこれが初めてだったからだ。


 村長一家は遠慮する俺を火に一番近い席に座らせ、温めたヤギのミルクと暖かいスープ、そして蜂蜜をたっぷり塗ったパンを出してくれた。この季節に蜂蜜なんて、ものすごい贅沢品だ。


 俺はじいちゃんのことを心配する気持ちと頼みごとをする手前、食べるのを躊躇った。だが数日前からほとんど何も食べていなかった俺の腹が、俺の気持ちに反してすごい音を立てた。


 村長一家は笑いながら、俺に食べるよう勧めてくれた。






「ちょうど今から飯を食うところだったんだ。心配事があるのは分かるが、まずは食ってから話を聞かせてくれ。」


「あんた、しばらくまともに食ってないんだろう。ひどい顔をしているよ。さあ、早くお食べ。冷めちまうといけないからね。」


「大丈夫ですよグレーテさん!冷めたら私がすぐに温めますから!」


「エマ、蜂蜜パン大好き!ありがとうドーラおねえちゃん!」


 彼らは俺が食べるのを待っていてくれている。俺が申し訳なく思いながら食べ始めると、村長一家もワイワイと言いながら食事を始めた。俺はヤギのミルクを口にしてから、蜂蜜の塗られたパンにかぶりついた。


 ふわっと口の中いっぱいに広がる甘さと花の香り。なんだこの蜂蜜は!!冬にこんなうまい蜂蜜が食えるなんて!


 焼きたての黒パンの香ばしさと濃厚な蜂蜜の甘みに夢中になって、俺はあっという間にパンを平らげてしまった。ヤギのミルクを飲み干したあと、スープに手を伸ばす。


 スープの具材は干した根菜とベーコンのかけら、そして芋。貧しい村でよく目にする、ごくありふれたスープだ。だがスプーンですくって一口食べた途端、俺は思わず声を出してしまった。






「うまっ!!美味い!!」


 絶妙な塩加減がすべての具材の味を引き出している。干した根菜の甘みとベーコンの脂の旨味がより一層強く感じられた。


 俺はスープに入った芋があまり好きではなかった。薄いスープは芋のぱさぱさとした舌触りを増すような気がして、飲み込むのに苦労するのだ。


 だがこのスープに入った芋はまるで別物だった。塩の味が芋の甘みを引き出し、他の具材の味をやんわりと受け止める役割を与えている。


 芋を味わった後に他の具材を食べると、それがさらに美味しく感じられる。そして更に芋を食べたくなる。芋と具材の織りなす無限の連鎖。それを繋いでいるのはすべての旨味が混然一体となって溶け込んでいるスープ。


 俺はスプーンを持つ手を止められなくなり、これまたすぐにスープを食べ終わってしまった。すべて食べ終えてしまってから、もう少しゆっくり味わえばよかったと後悔するほどの美味さだった。


 そんな俺の様子に気付いたアルベルトの息子フランツが俺に言った。






「ははは、腹が減ってたんだな!グレーテおばさんとマリーの飯は美味いからな!」


「あの、もしよかったらこれどうぞ。」


 身なりの良い若い男(多分俺と同じくらいの年だ)の隣に座った女神ドーラが俺にまだ手を付けていない彼女の蜂蜜パンを差し出してくれた。


「い、いや、それは・・・。」


「おにいちゃん、お腹がすいてるの?じゃあ、エマのも半分あげるね。」


 アルベルトの孫娘も俺にパンを分けてくれた。女神は水差しから俺の器にヤギのミルクを注ぐと、「《加熱》」と唱えた。たちまちヤギのミルクが湯気を立て始め、パンに塗られた蜂蜜が溶けて甘い香りを出した。俺の腹の虫がまた大きく鳴いた。


 その場の皆は笑いながら「遠慮はいらない、さあどんどん食べな!」と勧めてくれた。俺は彼らの温かさが胸に沁みた。


 俺はなんとか涙声で「ありがとう」と言い、鼻をすすり涙を拭ってから、分けてもらったパンをゆっくり味わって食べた。甘いはずのパンは、ほんのり塩の味がした。






「な、なんだって、ホフマンが野盗に!?それで奴は無事なのか?」


 朝食後、俺の話を聞いたアルベルト村長が大きな声を出した。他の皆も真剣な顔で一緒に聞いてくれている。


「はい。俺もじいちゃんも積み荷と金を捨ててすぐに逃げ出したので、命だけは何とか。でもじいちゃんは逃げるときに後ろから斬りつけられたせいで、今はまだ寝たきりなんです。このままじゃ長くは持たないって・・・。」


 俺はじいちゃんを診てくれたウェスタ村の薬師の婆さんの言葉を思い出し、目の奥が熱くなるのを感じた。だが今は泣いている場合じゃない。


 じいちゃんは今、薬師の婆さんが面倒を見てくれている。両親が死んでからたった一人で俺を育ててくれたじいちゃん。助けられるのは俺だけなのだ。俺は歯を食いしばって涙をこらえた。


「お願いですアルベルトさん。じいちゃんを助けるためにお金を貸してください。じいちゃんをノーザン村の神殿へ運ぶための馬車代と寄進料が100D必要なんです。どうかお願いします!」


 俺はアルベルトさんに深々と頭を下げた。彼は俺の言葉に迷うこともなく、すぐに応えてくれた。






「そりゃ、もちろんお安い御用だ。ホフマンとはこの村を作る前からの顔なじみだ。これまでも苦労して村に物を運んでくれた恩もあるからな。グレーテ、金を持ってきてくれ。」


 俺は自分の耳を疑った。100Dといえば普通の家族の2か月分以上の生活費に相当する大金だ。それをすんなり貸してくれるなんて。


「ここに128Dある。これを全部持ってお行き。さあ。」


「え、でもこんなに・・・。」


「遠慮はいらねえよ。これは村の金じゃなく、俺とグレーテのこれまでの貯えだ。冬の間は金を使う予定もないからな。ホフマンによろしく伝えてくれ。」


 アルベルト村長とグレーテさんの笑顔を見て、俺はついに涙をこらえられなくなった。これまで行った工面先では話を聞いてもらうことすらできず、門前払いばかりだったのだ。


 俺は金を受け取ると、涙声で何度も何度も礼を言った。






「カフマンさん。金を貸してくれと言ったが、返す当てはあるのかい?」


 俺たちの話をじっと聞いていた身なりの良い若い男が、俺にそう尋ねた。


「カール様、野暮なことは言いっこ無しですぜ。おやじさんは返してもらおうなんて、これっぽっちも思ってやしませんよ。」


「いや、それは私にも分かる。ただ積み荷も資金もすべて無くしたのだろう?今後の彼らの生活は大丈夫なのかと思ったんだ。」


「あ、そういえばそうですね。おいカフマン、大丈夫なのか?」


 俺は鼻をすすり、答えた。


「幸い六足牛は無事でした。ただ荷そりは壊されてしまって、動くには動くんですが修理が必要です。仕入れの金は・・・ありません。」


 俺は目を逸らしてきた辛い現実を突きつけられて、暗い気持ちになってしまった。たとえじいちゃんの命が助かったとしても、俺達は再び商売を始められるだけの元手がない。畑を持たない行商人の俺たちにとって、財産と言えるのは壊れた荷そりと牛、あとはいまは使えない荷車だけだ。


 六足牛を使って物を運ぶ仕事をすれば多少は稼げるかもしれないが、護衛を雇う金もない俺たちのような零細の行商人に大事な荷運びを依頼する客など、ほとんどいないだろう。牛を売って金に替えるほうがまだ現実的だ。年老いた牛を買い取ってくれる奇特な人間がいればの話だが。


 そんな俺の様子を見て、ずっと黙っていた女神ドーラが俺に話しかけてきた。






「お金が必要なんですか?私、持ってますよ。」


 彼女は自分の服の前にある大きなポケットをごそごそ探ると、どこに入っていたのかと思うような大きさの革袋を取り出した。


 どさりと置かれた革袋からは澄んだ金属のぶつかる音がする。彼女がそれを開くと中から大量の銀貨がこぼれ出てきた。


「こんなに大量の銀貨!?これは・・・!!」


「私の宝物です。でもまた集めればいいですから。どうぞ使ってください。」


「ドーラ、あんた随分貯めこんでたんだね!秋の間ずっと客がひっきりなしだったけど、ここまでとは思わなかったよ。」


 アルベルトの娘マリーが驚いて声を上げた。


「いや、こんなにたくさんの金、受け取れません。返せるかどうかも分からないのに・・・。」


 これだけの金があれば、商売の元手としては十分すぎる。それどころか護衛を雇って、これまで行けなかったような村にも行けるようになるだろう。


 俺の夢だった大きな商売をするチャンス。喉から手が出るほど欲しい。だが・・・。


 俺が躊躇っていたら、アルベルトの孫娘エマがドーラに言った。






「ドーラおねえちゃん、この間話してた品物を売るのを、カフマンおにいちゃんに頼んでみたら?」


「!! そうだねエマ。カフマンさん、お金を使ってもらう代わりに私のお願いを聞いてもらえませんか。」


 彼女は俺に自分の作ったものを売ってくれないかと頼んできた。


「この季節に蜂蜜がこんなに!それにこの蜜蝋!すごい品ばかりだ!」


「冬に手が荒れるおかみさんたちに使ってほしくて、私が魔法で作ったんです。どうでしょう、売れそうですか?」


「もちろんです!どこに持っていったって、すぐに買い手が付きますよ!」


 俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。艶々したきれいな唇を見ていると、不意に目を覚ます直前のことが思い出された。


 雪に埋もれて朦朧とする俺の上に覆いかぶさり、口づけをして息を吹き込んでくれた人がいたことを。はっきりとは覚えていないが、あれはもしや、ドーラでは・・・?


 俺が目を覚ました時、俺の側にいたのは彼女だった。俺の初めての相手。俺は思わず自分の唇を押さえてしまった。






「どうかしましたか、カフマンさん?お顔が真っ赤ですけど・・・。」


「い、いや、何でもありません。分かりましたドーラさん。俺にこの金を貸してください。絶対に2倍、いや10倍にしてお返ししますから!」


「おいおいカフマン、そんなこと言って大丈夫か?」


「ああフランツ。絶対に大丈夫だ。俺には幸運の女神の祝福がついてるんだからな!」


 俺は目の前にいる女神ドーラを見つめた。彼女はきょとんとした顔で俺を見たが、目が合うと「元気になってよかったですね」と笑ってくれた。






 じいちゃんはいつも「商売ってのは自分のためにするもんじゃねえ。皆に喜んでもらってこその商売なんだ」って言っている。


 俺は正直、儲けのほとんど出ない辺境の村を回るじいちゃんの気持ちが分からずにいた。だがドーラの笑顔を見た瞬間、じいちゃんの言葉が俺の心にすっと入り込んだ来た。


 俺はこの人に喜んでもらいたい。そしてこの気持ちを他の連中にも分けてやりたい。それが商人としての俺の役目なのだと、理屈抜きにそう思えた。


 じいちゃん、待っててくれ。すぐに帰るからな。俺は皆に礼を言うと、ドーラから預かった金を大事に懐にしまいこんだ。そしてすぐに旅装を整える準備を始めたのだった。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   土木作業員(大規模)

   鍛冶術師の師匠&弟子

   木こりの徒弟

   大工の徒弟

   介護術師(王室御用達)

   侍女見習い(元侯爵令嬢専属)

   錬金術師見習い

   薬師見習い

所持金:83D(王国銅貨43枚と王国銀貨1枚)

    → 行商人カフマンへ5480D出資中

読んでくださった方、ありがとうございました。

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