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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
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44 薬師見習い

ブックマークを20件いただきました。読んでくださる方がいらっしゃることが、とてもうれしいです。完結までまだかなりありますが、続きを読んでいただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。

 私はあれから何回かガブリエラさんのところに部品を作りに出かけた。行くたびに金属のガラクタが増えていてびっくりした。


 彼女によるとサローマ伯爵という人が、港や町にある金物を手当たり次第に買い集めてくれているかららしい。


 おかげで10台分くらいの部品がもうすでに出来上がっている。彼女たちは冬の終わりまで魔道具づくりを続けるそうなので、私もあと何回か行く予定だ。


 全部終わったらお礼として伯爵さんがお金をたくさんくれるそうだ。私も銀貨をもらえるみたい。今からとても楽しみです!


 ちなみに前回、急に訪ねて行って、かなりびっくりされちゃったので、ガブリエラさんのところに行くときには、《念話》の魔法で連絡をしてから行くようにしている。


 ただこの魔法、私の方から呼びかけることはできるけれど、お返事をもらうことはできない。だからかなり不便だ。使いやすくなるように工夫してみようっと。






 部品作りが終わったので、その報告も兼ねて、王様のところに遊びに出かけた。


 王様はガブリエラさんのことをすごく心配していた。だから私が彼女の様子を伝えると、とても安心してくれた。


 私は王様からたくさんの手紙を預かった。ガブリエラさん宛の王様の手紙と、サローマ伯爵さんへの家族からの手紙だった。


「サローマ伯爵さんの家族は、今、王都にいるんですか?」


「ああ、もうすぐ5歳になるご子息が厄介な病気にかかっていてね。今、私が容体を見ているんだが、なかなか改善しないんだよ。」


 もうすぐ5歳ってことは、エマと同じ年じゃない!そんな子が病気で苦しんでいるなんて。


「病気の原因は分かっているんですか?」


「体内の魔力が安定しないことで体にいろいろな悪影響が出ているのは分かっているんだがね。その原因が分からないんだ。ドーラさん、彼に会ってみてくれないかね?」


「私、病気のこととかよく分かりませんけど・・・?」


「体の機能に問題はないようだから、魔術的な何かが原因ではないかと思ってね。ドーラさんは以前、魔力を見ることができるって言っていたから、何か分かるんじゃないかと思うんだよ。」


 なるほど、それなら私でもお手伝いが出来そうだ。私は王様にやってみますと伝えた。






 次の日の真夜中、王様のところに行くと、小さな寝台に寝かされている男の子がいた。エマと同じくらいの背丈だけれど、エマよりもずっと痩せていて、顔色も悪かった。


「ドーラさん、この子が昨夜話したサローマ伯爵のご子息ニコルくんだ。今は薬で眠らせてある。何か分かりそうかね?」


 私は男の子の体に手を触れてみた。ん、なんか抵抗がある?


 体の表面を何か魔力の力場みたいなものが包んでいる。私は王様にそのことを伝えた。


「やはりそうか。《魔力感知》の魔法で調べると、魔力の反応があるんだが、詳しく調べようとすると弾かれてしまうんだよ。」


 王様は困り顔で私に言った。私は男の子の体を覆っている魔力に、自分の魔力を少し流してみた。すると途端に男の子の呼吸が荒くなり、苦しみだした。


「いかん!!発作だ!!」


 王様は準備してあった小さな陶器の瓶を彼の口に含ませた。次第に彼の呼吸が落ち着いてくる。王様は慎重にニコルくんの様子を観察した。






 今、魔力を流した時、体を覆っている何かから、懐かしい匂いを嗅いだ気がした。すごく昔に嗅いだことのある匂いだ。


 私はニコルくんの体に顔を近づけて、フンフンと匂いを嗅いだ。


「ドーラさん、いったい何を・・・?」


 王様は当惑気味に私に言った。でもそれどころではない。確かにどこかで嗅いだ匂いなのだ。


 甘い花とむせかえるような緑の香り。潮風を含んだ暖かい風の匂い。これは・・・!!






「王様、この子の体からは妖精の匂いがします。」


「妖精?本当かね?」


「はい、間違いありません。海辺の森に住んでいた妖精の匂いです。この国には妖精がいるんですか?」


「いや、聞いたことがない。古いおとぎ話の中に出てくるのは知っているが、実在しているとは思わなかった。妖精など空想上の存在だとばかり・・・。」


 妖精がいない?そんな馬鹿な。


 でも確かに私が長い眠りから目覚めてから今まで、一度も妖精の姿を見ていない。この国から妖精はいなくなってしまったのだろうか?


 私はとても悲しい気持ちになってしまった。






「信じがたいことだが、君がそう言うからには、本当のことかもしれないな。妖精が何かの手掛かりになるかもしれん。古い文献を調べてみることにするよ。ありがとうドーラさん。」


 王様は私に、ドワーフ銀貨とお菓子の入った小さな包みをくれた。これはまた、村の子供たちと分けて食べよう。子供たちの喜ぶ顔を思い浮かべたら、悲しい気持ちが少しだけ癒されたような気がした。


 その後、王様を《どこでもお風呂》で寝かせた私はハウル村に戻った。舞い落ちる雪を眺めながら私は、妖精のことが分かったら、また昔の友達に会えるだろうかと考えた。たった一人立ち尽くす私を包み込むように、雪は静かに降り続ける。私は夜が明けるまで、風に舞う雪を見つめ続けいた。






 翌朝、起きてきたマリーさんたちと一緒に朝食の準備をしていたら、マリーさんの手が真っ赤に腫れて、血が出ているのに気が付いた。


「マリーさん、その手、どうしたんですか?」


「ああ、ただのあかぎれさ。水仕事するとどうしてもね。あんたは大丈夫かい?」


 そう言って、マリーさんは私の手を握った。


「・・・生まれたての赤ん坊みたいにきれいな手だね。あたしら以上にいろいろ動き回ってるのに。」


 私の体は《人化の法》によって竜の体を変形させているだけなので、元の体の強さが反映されている。さすがに竜の体ほどの力は出せないし、強靭さもないけれど、普通の人間に比べるとかなり丈夫だ。


 私がなんと答えたらいいかと困っていたら、マリーさんは笑いながら言った。


「まあ、あんたがヘンテコなのは、今に始まったことじゃないか。」


 エマとグレーテさんも「そうだねぇ」って言って笑っている。私は頭に手を当てて、みんなと一緒になって笑った。






「マリー、軟膏を作っておいたから、あとで塗ってあげるよ。あんた、手が荒れやすいんだから気を付けないと。」


「ありがとうございます、おかみさん。」


「グレーテさん、『軟膏』って何ですか?以前まえにもガブリエラさんの傷に塗ってましたよね。」


「ああ、あれはあたしが作った傷薬さ。ちょっとした傷につけると、治りが早くなるんだよ。」


「おばあちゃんのおくすりは、すごく良く効くんだよ!」


 私は朝の仕事が一段落したところで、グレーテさんの軟膏を見せてもらった。彼女の許しを得てから私はこの軟膏を《分析》の魔法で調べてみた。


 最近は身の回りのものを何でも《分析》している。ガブリエラさんの杖の素材をすべて当てるという宿題を終わらせるためだ。ちなみに不明の素材は残り3つ。これが終わったら薬の作り方を教えてもらうことになっている。春までにガブリエラさんの宿題を終わらせるのが今の私の目標だ。






 小さい壺に半分くらい残った薄緑色の軟膏を《分析》した結果、森で採れるいくつかの薬草と香草、菜種油と亜麻仁油、そしてあと一つだけ分からない成分が入っていることが分かった。


「ああ、残りは『蜜蝋』だよ。夏にエマがたくさんハチの巣を見つけてきたろう?あのハチの巣から蜜を取った後の搾りかすを煮詰めると、蜜蝋ができるのさ。」


 ハチの巣って食べるだけじゃなくて、こんなふうに使うこともできるんだ!すごい!

 

「でももう、残りが少ないですね。」


「ああ、冬に備えてたくさん作っておいたんだけどね。ガブリエラの傷のために大半使っちまったのさ。まあ、こればっかりは仕方がないよねぇ。」


 グレーテさんはマリーさんの手に丁寧に薬を塗りながら、困ったように笑った。


「ハチの巣があればまた作れるんだけど、真冬にハチの巣は手に入らないからね。まあ、油に漬け込んだ薬草がまだ残ってるから、今年の冬はあれで乗り切るよ。」


 なるほどハチの巣。冬でも森の中を探したら一つくらい見つかるんじゃない?よし、仕事が終わったら、早速探しに行こう!






 と思ったのだけれど、まずはカールさんとエマに相談してみることにした。今まですぐに行動して、さんざん失敗してるからね!


 子供たちに読み書きを教えた後の集会所で、私は二人に話をしてみた。子供たちは皆帰ってしまったので、もうここにはいない。


 ついさっきまで王様からもらった蜂蜜の入った焼き菓子を食べて、子供たちは大はしゃぎしていた。その賑やかさが嘘のように静かだ。


「ハチの巣ですか。真冬に手に入れるのは大変でしょうね。一年中雪の降らない暖かい国では、人間が蜂を飼っていて、いつでもハチの巣を手に入れられるらしいですが・・・。」


「蜂さんを飼うの?ヤギやニワトリみたいに?すっごーい!!」


 エマが驚いて目を真ん丸にした。蜂蜜が大好きなエマにしてみたら、きっと夢のような話だろう。私もすごくびっくりした。


「私もよくは知らないけれど、王立学校にいるときに先生から聞いたことがあるんだ。その先生は世界中を旅してまわったっておっしゃっていたよ。」


 雪の降らない暖かい場所。それ、私、心当たりがあります!






 お昼ご飯の後、私はすぐにハチの巣を探すために村をでた。エマには夕ご飯までには戻るねと言っておいた。


 屋根裏部屋で《転移》の魔法を使い、「トイレ島」改め「花摘み島」へと移動する。この間ガブリエラさんが使っていた、トイレの隠語がかっこよかったから、真似してみたのだ。だってなんかその方が、人間ぽくっていい感じじゃない?


 花摘み島にもハチの巣はあるけれど、さすがにここの巣を集める気にはならない。だってトイレだし。


 私は花摘み島から抜け出し、周囲にある島々を回ってハチの巣を探した。この島々のある辺りは一年中暖かいし、花もいっぱいあるから、ハチの巣も多いと思う。


 飛んでいる蜜蜂を探して匂いを辿ると、すぐにハチの巣が見つかった。ハチの巣を空間魔法で包んで私の魔力で満たせば、蜂たちが勝手に逃げて行ってくれる。この調子で探していくと、思った通りたくさん集めることができた。


 そういえばカールさんが蜂を飼う人間がいるって言ってたっけ。でもこんなに飛び回ってる蜂たちをどうやって飼うんだろう?人間ってすごいなー。


 村に帰る前にハチの巣の周りにあった花畑に《植物生長》の魔法をかけて、花を生き生きとさせておく。魔力をたっぷり込めたのでこの花たちはきっとたくさん蜜を出すはずだ。巣を取らせてもらったから、蜂たちへのせめてものお礼の気持ちです。ありがとう蜂さん!


 こうして無事、ハチの巣をいっぱい手に入れた私は、私は再び《転移》でハウル村に戻ったのでした。






 私が屋根裏部屋から降りていくと、エマが一人で字の練習をしていた。マリーさんとグレーテさんはいなかった。そろそろ夕方だから、村のお風呂場の準備に行ったのだろう。


「ただいまエマ!ハチの巣、いっぱい集めてきたよ!」


「ドーラおねえちゃん、もう帰ってきたの?ハチの巣見せて!」


 私は《収納》からハチの巣を取り出してエマに見せた。甘い蜜の匂いが家中に立ち込め、蜂蜜大好きなエマが目を輝かせる。


 早速エマと二人で蜂蜜を絞ることにした。使うのは私が木の実から油を搾るために作った魔法だ。


 積み上がるほど集めたハチの巣を空間魔法で包み込み、中心に向かってゆっくり圧力をかけていく。最初にこの魔法を使った時は力加減を間違えて、家中油まみれにしてしまったけれど、今ではそんなことはない。私は日々成長しているのだ!


 たちまち金色の蜂蜜がたっぷりと穫れた。ただこの時点では蜜の中にゴミが入ってしまっているので《素材強化》の魔法をちょっと弄って作った《異物除去》の魔法で取り除く。これで完成だ。


 出来上がった蜜は壺にどんどん詰めていった。この壺は塩作りをした時に、私が魔法で作り出したものだ。中に入っていた塩は王様に全部上げちゃったので、壺が余っていてちょうどよかった。


 詰め方は簡単。《収納》内に蜂蜜をしまい、壺に詰めてから一緒に取り出せばいいのだ。全部で50個以上の蜂蜜壺ができた。


 半端に余った蜂蜜を、エマと二人で味見してみる。






「すごく甘いね!でもいつものとちょっと味が違うみたい?」


「そうだね。なんでかな?」


 私は蜜をクンクン嗅いでみた。あ、南の島の花の香りがする。味の違いは花が違うからかな?


「この蜜は南の森の花で出来てるんだね。いいなぁ。あたしも行ってみたいなぁ。」


 その話をするとエマがうっとりとした表情でそう言った。ああ、エマはなんて愛らしいのかしら。


 エマと一緒に島で遊ぶのは楽しいかもしれない。今度エマを連れて行っていいか、マリーさんに聞いてみようっと。


 出来上がった蜜は村の人たちに配ろうと思う。ハウル村には20件のお家があるから、二つずつは配れる。余った分は《収納》にしまっておけばいいや。






 さて肝心の蜜蝋を取り出したいけれど、私は作り方を知らない。どうしたらいいんだろう?


「あたし、おばあちゃんが作るところ見たことあるよ。ラードの作り方に似てた!」


 エマが私に作り方を教えてくれた。ラード作りなら私も夏から秋にかけて、何度か見たことがある。細かくした豚の脂をお湯で煮て、上澄みを集めて布を敷いたざるで越せばいいのだ。


 私が早速道具を準備しようとしていたら、エマが「ドーラおねえちゃんなら魔法で作れるんじゃない?」と言った。


 エマの言う通りだ。要は熱を加えて蜜蝋とそれ以外の部分に分ければいいんだから。蜜蝋の成分はグレーテさんの軟膏を《分析》したから分かっているし、魔法でやればすぐに出来そうな気がした。やっぱりエマは可愛くて、賢いね!


 ラードを作った時にマリーさんが「後片付けが大変なんだよねぇ」とぼやいていたし、ここは鍋を使わずにできるか試してみよう。






 私は空間魔法でハチの巣の搾りかすを包み込むと、《水生成》の魔法で作り出した水で空間内を満たし、《加熱》してみた。するとハチの巣がドロドロに溶けて、薄黄色い蜜蝋とそれ以外のごみに分離しだした。


「あっという間に溶けたね。やっぱりドーラおねえちゃんはすごいね!」


 空中に浮かんだ水の球体の中で、ハチの巣が溶ける様子を見ながら、エマが私を褒めてくれた。やったね!


 私はごみの入った水だけを球体から《収納》内に取り出し、残った蜜蝋に《異物除去》の魔法を使った。念のために《鑑定》の魔法で確かめてみたけれど、ちゃんと蜜蝋になっていた。


 蜂蜜と同じように壺に詰める。あんなにたくさんあった巣から、たった壺5つ分弱の蜜蝋しか採れなかった。


 壺に詰めてすぐの蜜蝋はドロドロしていたのに、部屋の床に置いた途端少しづつ固まりはじめ、しばらくすると白黄色っぽい塊になってしまった。


 触ってみるとぬるぬるしていて、独特の匂いがする。嫌いじゃないけど、ずっと嗅いでいたい匂いでもない。グレーテさんの軟膏はとてもいい匂いだった。香草が入っているせいだろうと思う。






 村のお風呂場の準備を終えたマリーさんが、夕ご飯の準備をするために戻ってきたので、蜂蜜と蜜蝋ができた話をしてみた。


 マリーさんがとても喜んでくれたので、ホッとした。勝手に作ったので怒られるんじゃないかって、実はちょっとヒヤヒヤしてたんだよねー。よかった!


「蜂蜜はもちろんだけど、村の女衆は皆あかぎれで困ってるからね。蜜蝋を分けてやれば、きっと大喜びすると思うよ。」


 マリーさんにそう言われた私とエマは、村の家を回っておかみさんたちに蜂蜜の入った壺を二つと、蜜蝋を一すくいずつ配って回った。それでも蜜蝋は壺二つ分くらい余ってしまった。これも《収納》にしまっておくことにする。無くなったころにまた配りに行けばいいや。


 翌日、早速グレーテさんが蜜蝋を使って軟膏を作ってくれた。私の作った蜜蝋が入った軟膏は効き目がすごく良くて、傷がすぐ治ると村の人たちに好評だった。


 私は村の皆が喜んでくれたのが、すごくうれしかった。この時から私は、自分の作ったものでもっと多くの人間たちを喜ばせてあげたいなと思うようになったのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   土木作業員(大規模)

   鍛冶術師の師匠&弟子

   木こりの徒弟

   大工の徒弟

   介護術師(王室御用達)

   侍女見習い(元侯爵令嬢専属)

   錬金術師見習い

   薬師見習い

所持金:4923D(王国銅貨43枚と王国銀貨78枚とドワーフ銀貨11枚)

読んでくださった方、ありがとうございました。

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