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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
37/188

35 魔獣寄せ

喉痛いので、とりあえずみかん食べます。

 ガブリエラさんが初めてみんなと一緒に夕ご飯を食べた日の真夜中。私はまた家をこっそりと抜け出して、遠い南の海にある『トイレ島』に《転移》した。


 ここは小さな島とその周りの海ごと、私の魔力で作った空間の壁によって隠されている。他の竜や人間から見つかる恐れのない、私だけの空間だ。やっぱりトイレは安心できる場所がいいよね。


 私は島の砂浜で着ているものをすべて脱いで《収納》にしまい込むと、《人化の法》を解除して竜の姿に戻った。身体と羽根をうーんと伸ばす。


「あー、やっぱりすごい開放感があるなー!」


 私が砂浜にごろりと横になると、しっぽの先が海に浸かり、パシャっという大きな音ともに水しぶきがあがった。それに驚いて小さな魚たちが逃げていく。


 私はお腹の下の柔らかくて暖かい砂の感触を楽しんだ。この辺りは雪が全く降っていない。ポカポカ気持ちよくて、何だか眠くなってしまいそう・・・。






 私はハッとして、慌てて首を上げる。ダメダメ!ここに来たのは居眠りするためじゃないんだから!


 私がここに来た理由。それはガブリエラさんのために魔獣を集める方法を試してみるためだ。


 魔獣を集める方法を考えているうち、私は洞穴に閉じ込められていたときのことを思い出した。あの時は私のよだれの匂いに惹かれて、いろんな生き物が洞穴にやって来ていたのだ。


 だから私のよだれを使えば、魔獣を呼び寄せることができるかもしれない。それでよだれを集めるために、このトイレ島にやってきたというわけだ。人前でよだれを垂らすのはやっぱりちょっと恥ずかしいからね。






 私は再び首を下ろしてあごを砂浜につけた。そして今までに食べた美味しいもののことを思い出す。


 なんといっても一番美味しかったのは昔、仲間と一緒に捕まえた大きな海蛇だ。大きな水流を起こして空を飛んだり、凍えるほど冷たい息を吐いたりするものすごく手強い相手だった。


 素早い私が囮になって大海蛇を引き付けている間に、仲間の白い竜が冷気を防ぎ、たくさんの仲間たちが一斉に息を吹きかけて海蛇の硬いうろこを砕いていった。最後は黒い竜と赤い竜が首に噛みついてとどめを刺したのだ。


 あの大海蛇は私たち竜の大好物だけれど、いつもは深い海の底にいてめったに見つからない。仕留めたときはみんなで大喜びしたっけ。あれ、美味しかったなー。


 私は白と黒の竜と特に仲が良かった。二人は元気かな。あ、しまった。涙まで出てきた。今はよだれ、よだれ!






 私はその後も美味しいものを次々と思いだしていった。妖精たちが世界樹っていう大きな木の花から集めた蜜。あれはすごく甘くておいしかった。


 赤い竜がすんでいた砂漠の大きな鳥や六本足の蜥蜴。白い竜の縄張りにはクジラやイカがたくさん住んでいた。黒い竜が住んでいる暗い森では大きな狼も食べたっけ。美味しいものの味を思い出していくうちに、お腹が鳴り、よだれが口に溜まってきた。うん、いい感じ!


 あの頃はまだ地上に人間が居なくて、神々や精霊たちがたくさん暮らしていた。私もたくさんの仲間の竜と一緒に、世界を飛び回って遊んでいた。時にはケンカをすることもあったけれど、それなりに楽しく暮らしていた。あの光と闇の神の戦いが起こるまでは。


 あの戦いからすべては変わってしまった。神や精霊は姿を消してしまい、妖精たちは住処をなくして泣いていた。私の仲間もほとんどいなくなってしまった・・・。


 あ、また涙出てきた。最近、泣き虫だな私。楽しいこと考えなきゃ!






 私は人間の世界に来てからのことを思い出してみる。ハウル村での食事は私の体の栄養には殆どなっていない。でも食べると気持ちが温かくなって、元気が出てくる気がする。


 グレーテさんの作ってくれるスープは、みんなを笑顔にしてくれる。フランツさんはマリーさんの焼いたベーコンが大好きだ。


 エマは森でハチの巣や甘い木の実を見つけるのがすごくうまい。そしてみんなで囲む食卓は、私にとって何よりも大切な御馳走だ。


 私はうっとりと目をつぶった。顔が自然と緩み、口の端からよだれが砂浜に流れ出していく。私のよだれはものすごく熱いので、濡れた砂に当たって激しく湯気があがった。


 砂浜に落ちたよだれはすぐに冷えて、赤みを帯びたキラキラ輝く石に変わる。よし、もうこれくらいでいいかな?






 私は《人化の法》で人間の姿になると、よだれで出来た石を触ってみる。まだかなり熱い。洞穴にいるときは寒いところだったせいかすぐに冷えて固まったけれど、ここは暖かいからかなー。


 出てきたよだれは荷馬車で何台分かはありそうだ。私はそれをすべて《収納》にしまいこんだ。これを使って魔獣が呼び寄せられるか試してみよう。


 私はトイレ島から《転移》で領域外に出ると、塩を作った時に行った、少し大きめの島に移動した。《収納》からよだれ石を取り出して空間魔法で持ちやすい大きさに切り取る。だいたい手の平の半分くらい大きさだ。


 これを海辺に置き、少し離れたところに隠れて様子を見てみる。程なく波打ち際に小さな魚たちが集まってきた。


 でも大きな魚や魔獣たちが寄ってくる気配はない。小さいよだれ石じゃダメなのかな?


 でもあれ以上大きいと、カールさんやガブリエラさんが持ち運ぶときに困るだろうし・・・。うーん、どうしよう。






 しばらく悩んでいるうちに、ふとトイレ島が目に入った。そう言えば私の食べたものは今、私の体内で魔力によって超圧縮されている状態だ。あれと同じことがよだれ石でもできないかな。


 私は取り出したよだれ石を《領域創造》で包み込む。これを熱したらきっとまた液状になるはずだ。私は《加熱》の魔法で、作り出した領域内を熱くしていった。


 するとよだれ石が溶けて、思った通り液状に戻った。私は領域の中の熱を徐々に上昇させながら、次第に領域の壁を中心に寄せ、よだれ石を圧縮していった。


 赤熱化したよだれを圧縮するのはかなり魔力を必要とした。領域内に時折、稲光のような光が走り、小さな太陽が出現したかと思うほどの光を放つ。もし今、領域を解放したら、とんでもない威力の爆発が起こりそうな気がする。絶対に領域を緩めないよう、私はさらに気を付けながら魔力を込めていった。


 やがて荷馬車数台分の大きさだったよだれ石は、手のひらの半分くらいのサイズまで小さくなった。私は領域内の熱を少しづつ逃がし、圧縮したよだれ石を冷ましていった。


 完全に領域の外と同じくらいまで冷えたところで、領域を解除する。キラキラ輝く赤みを帯びていたよだれ石は、透き通った赤い石に変わっていた。領域で圧縮したせいで、形はきれいな四角形。元がよだれだって知らなければ、宝石みたいに見えるかもしれない。


 それにしても熱して、ぎゅっと押し固めただけなのに、どうして透き通った石になったんだろう?謎です。


 これきれいだけど、作るとき結構危なかったし、かなり疲れちゃう。もうあんまり作りたくないなと、私は掌の中の赤い石を見つめながら思った。






 早速魔獣が集まるかどうか試してみることにする。圧縮したよだれ石をまた波打ち際において、私はその場を離れた。圧縮したせいか、それとも熱したせいかは分からないけれど、よだれ石はかなり強い魔力を放っている。


 程なく小さい魚が近くの海にたくさん集まり始めた。あれまた失敗かな、と思っていたら今度は小さい魚を追うようにして、だんだん大きな魚が集まり始めた。おお、これはいけるかも?


 最終的にかなり大きな魚が島の周りに集まってグルグル回りだし、それを追って海底から巨大なタコが出現した。成功したみたいだ!やったね!


 私は圧縮したよだれ石をタコに盗られないよう、《収納》の中にしまい込むと、竜の姿に戻ってタコを狩った。


 私が竜に戻ったせいか、他の魚たちは海に逃げ帰ってしまった。私は仕留めたタコをくわえて浜辺に戻り食べた。採れたてのタコは甘みと歯ごたえが最高です!






 食べ進めているうちにタコの心臓の辺りから大きな水色の石が出てきた。これがガブリエラさんの言っていた『魔石』だろうな、きっと。


 魔獣を狩ると大概心臓の辺りからこの石が出てくる。狩る獲物によって色も形も様々だ。ただいつもはあまり意識したことがなくて、肉と一緒に食べていた。これを持っていけばガブリエラさんが喜んでくれるかも。


 そう思った私は魔石だけ肉から避けようと口にくわえた。その途端、魔石は溶けるように消えて、私の体に吸収されてしまった。ああ、そうだった。この石、私が触ると溶けるんだった。


 魔石を吸収した分、魔力は回復したけれど、魔石を手に入れることが出来なくてちょっとがっかりした。でも、できないものは仕方がない。


 とりあえず、圧縮したよだれ石には魔獣を引き寄せる効果があるということが分かったので、今回はこれでよしということにしようと思った。






 私は竜の姿のまま、雲の上まで飛びあがると、ハウル村を目指して飛んだ。途中、見つけた空飛ぶトカゲも何匹か狩って食べていく。


 タコに比べると小さいし物足りないのだけれど、魔力をたくさん使ったせいかお腹がすいているし、変わった味で美味しいのでまあ、おやつみたいなものだ。分厚い雪雲の上は、すごく明るく晴れている。今日は青い月がとても大きくてきれいだった。


 私はこの辺りかな思うあたりで、雪雲を突き抜けて下の様子を見た。


「あ、しまった。行きすぎちゃった。」


 雲の上に顔を出している私のねぐらの山を目印にしていたつもりだったけれど、目測を誤って、王都に近い辺りに出てしまった。


「そうだ!!せっかくだから、ついでにガブリエラさんの妹さんがいるっていうところを探してみよう。確か山腹の荒れ地にあるって言ってたよね?」


 私は《人化の法》で人の姿になると、《隠蔽》と《不可視化》の魔法を使って姿を隠した。空全体を覆う厚くて暗い雪雲からは絶え間なく雪が降りしきっているから、見つかるはずはないのだけれど。一応、念のためです。






 以前まえは全く意識していなかったからか気づかなかったけれど、よく見れば王都の北の、雪に埋もれた荒れ地の中に、ポツンと小さな明かりが見える。あれがその『修道院』という場所だろうか?


 妹さんが今どうしているか、知ることができれば、ガブリエラさんもきっと安心できるはずだ。こっそり様子を見てこよう。私は背中に羽を生やしたままの人の姿でその人里離れた建物に近づいて行った。


 建物の形がはっきり見える辺りまで近づくと、建物の周りに何だか薄い魔力の壁みたいなものがあるのが分かった。なんだろう、これ?


 空中に浮かんだまま、私が指でそっとその壁に触れると、バチンというすごい音がして指を弾かれてしまった。


「あ、痛っ!!」


 壁は砕けて消えたけれど、弾かれた指先が赤くなっている。勝手に入れないようにするための壁だったらしい。私は赤くなった人差し指をくわえてペロペロ舐め、痛みが薄れてからそっと雪の上に降り立った。






 こっそり建物に近づこうとした途端、建物から全身真っ白い服を来た女の人が飛び出してきて、私の方に強い光を投げかけてきた。


「何者ですか?姿を見せなさい!!」


 まずい!見つかっちゃった!!私は地面を蹴ると、大急ぎで雲の上まで飛び上がった。すごい勢いで飛び上がったせいで、ちょっと大きな雪煙があがったけど仕方がないよね。


 私は上空で《転移》を使うと、ハウル村の自分の部屋(アルベルトさんの家の屋根裏)に戻った。


 ふう、危なかった。まさかあんな壁があるなんて。人間の世界にはびっくりするような仕掛けがあるみたいだ。


 ガブリエラさんの妹さんの様子を見られなかったのは残念だけど、次からはあの修道院に《転移》で移動できる。また今度、時間を見つけて行ってみようっと。


 まだ夜明けまでは少し時間がある。冬の夜は長いのだ。私は《収納》から魔術書を取り出すと、寝台に腰かけてそれを読みながら、夜が明けるのをじっと待ち続けたのでした。










 滞在させてもらっていた荒野の修道院。その周りに張っておいた魔力の結界が、破られたことに気が付いた私は、すぐに寝台から跳び起き、法服を身に着けて外に飛び出した。腰ひもやボタンは止めていないので風が入ってちょっと寒いけれど、非常事態なので仕方がない。


 修道院の玄関から外の様子を伺うが誰の姿も見えない。だが私は生まれつき持っている魔力感知の力によって、建物のすぐ近くに隠し切れないほど強大な魔力を持つ存在がいることを感じ取っていた。


 私は胸に下げた聖印を掴むと、すぐに呪文を詠唱した。


「悪しきものを照らし出し看破せよ!《聖光》!」


 本来は中級の神聖魔法だが、私は修業により詠唱を初級魔法並みに短縮することができる。魔力を持つ存在に向けて放った私の魔法、悪しきものを退ける聖なる光が夜の帳を切り裂いた。


 次の瞬間、凄まじい衝撃音が響いたかと思うと、建物すべてを覆いつくすほどの巨大な雪煙が上がった。巨大な魔力を持つ存在は、あっという間に上空に消えていった。







「今の音は何事ですか!?」


 修道院の壁を揺るがすほどの轟音によって目を覚ました修道女たちが、騒ぎ出す。私は周囲を警戒したが、特に何も危険な気配は感知できなかった。


 頭からかぶってしまった雪を払い、法服のボタンを留め、腰ひもをしっかり結んだところで、修道院の院長である老女司祭が修道女たちを伴って現れた。


「ああ、ご無事でしたか!今の音はまさか飛竜ですか?あなた様が追い払ってくださったのですね。ありがとうございます。」


 孫といってもよい年齢の私に跪く院長をそっと立たせて、私は彼女とその後ろに控えていた修道女たちに話しかけた。


「私の結界が破られたので外に出てみたところ、強大な魔力を持つ者の存在を近くに感じました。《聖光》の魔法で正体を見破ろうと試みましたが、残念ながら逃げられてしまいました。申し訳ありません。」


「あなた様の結界を破るほどの魔獣が!?なんと恐ろしい!!」


 院長や修道女たちが震えあがる。私は彼女たちに優しく微笑みかけて、もう危険はないと安心させると、建物の中に入って休むよう促した。


 しかし言葉とは裏腹に、私は逃げて行って侵入者に対して、底知れぬ恐怖を感じていた。


 簡易結界とはいえ、並みの魔獣ならば触れただけで消滅するほどの神聖力を込めてあったはず。それを打ち破ったのだ。しかも完璧に姿を隠していた。あれはいったい何者なのだろう。


 一瞬、雪煙の中に背中に羽根を持つ人影を見たような気がした。あれが私が探し求めていた悪神なのだろうか?







「信妹テレサ、あなた様もお休みください。私たちが交代で周囲を警戒しますので・・・。」


「いえ、御心配には及びません。私がまた結界を張っておきますので、院長様こそお休みください。私は滞在させていただいている身ですので、昼の務めもさほど多くはないのですから。」


「しかし西方大聖堂の司祭、次期聖女候補であるテレサ様に、そのようなことをさせるわけには・・・。」


「いえ、良いのです。かつて古の聖女様も大陸を巡り、多くの弱き民を救い導いたと伝えられています。これこそが私の務めなのですよ。」


 恐縮する院長を半ば強引に寝所に向かわせ、テレサは一人空を見上げた。暗い空から冷たい雪が降る様子が彼女の黒い瞳に映る。瞳と同じ色の長く美しい髪に、白い雪が花のように散っては消えていく。雪の白さは西方人特有のやや浅黒い肌とエキゾチックな彼女の美しさをより一層際立たせる。


 さっきの自分の言葉は偽りではないが、すべてが真実というわけでもない。当代の聖女から受けた密命。復活を遂げたかもしれない悪神の捜索。そのために彼女は海を越え、この国にやってきたのだ。


 かつて世界を滅ぼさんとした暗黒竜。そしてそれを使役していた悪神たち。もし本当に悪神が復活していたのなら世界は再び滅びの危機を迎えることになる。


「弱き民を救うことこそ聖女の務め。何者かは分かりませんが、私が必ず、正体を見極めてみせます。」


 世界を守るというその信念を具現化するかのように、テレサは銀の聖印をしっかり掴むと、結界を構築するための呪文を詠唱し始めた。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   土木作業員(大規模)

   鍛冶術師の師匠&弟子

   木こりの徒弟

   大工の徒弟

   介護術師(王室御用達)

   侍女見習い(元侯爵令嬢専属)

所持金:4443D(王国銅貨43枚と王国銀貨78枚とドワーフ銀貨8枚)

読んでくださった方、ありがとうございました。

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