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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
181/188

175 恋の始まり 恋の終わり

前回から一週間、間が空いてしまいました。なかなか投稿できないまま、少しずつ書き進めていたら、ものすごく長い上にまとまりがなくなってしまいました。すみません。でも書くのはやっぱり楽しいです。

 冬の二番目の月の中頃。本格的に降り始めた雪が王都を白く染めあげ、都市の喧騒を優しく包み込む。


 ドルアメデス国王ロタール4世はたった今、報告を終えたばかりのハインリヒ・ルッツ男爵に確認の質問をした。


「それでは、パウルの回復は順調なのだな。」


「はい。第二王子殿下は全身骨折で絶対安静でしたが、聖女教の乙女団の魔法によって無事回復なさいました。今は女性の見舞客が日替わりで別宅を訪れているそうです。今月の終わりには軍務に復帰するとのことでした。」


 国王は亡き妻そっくりの美しい容姿を持つ我が子を思い浮かべ軽く顔をしかめたが、そっと息を吐いて気持ちを切り替えた。


「他の者はどうなのだ?」


「聖女テレサ様が乙女団を率いて精力的に治療に当たっていらっしゃいます。ハウル村での戦いで瀕死の重傷を負った者もテレサ様の魔法によって一命を取り留めました。」


「そうであったな。其方の息子たちを含め、多くの者が非常に危険な状態だったと聞いている。聖女殿には感謝しかない。ただ聖都にいるはずの聖女殿がなぜ我が国に突然現れたのかは、いまだに謎だが・・・。」






 国王は手元にある密偵の報告書を読み返した。


 ハウル村での戦いで銀貨の雨に打たれたドーラは強い光を放ったと書いてある。その光が消えたときドーラの傍らには、聖女教の聖女テレサと謎の幼女が全裸でその場に倒れていたという。


 目を覚ましたテレサはすぐに、ハーレをはじめとする聖女教の乙女団を率いて瀕死の重傷を負った人々の救助活動を始めたそうだ。彼女の魔法はまさに凄まじいの一言で、あれだけ激しい戦いがあったにもかかわらず死者は一人も出なかった。


 その数日後、テレサは乙女団と共に王都を訪れ、今回の王都襲撃が聖女暗殺を目論んだ聖女教徒による犯行であったことを認め、謝罪した。世界に冠たる宗教の象徴である彼女が、居並ぶ臣下の前でロタール4世の足元に叩頭し、許しを乞うたのだ。


 国王はテレサの手を取り立たせると、彼女に国民を救ってくれたことの礼を述べた。そして最終的には、聖女教団が王国に多額の賠償金を支払うことで和解が成立したのである。ちなみに賠償金の原資の大半は、今回の事件の首謀者であった枢機卿らの蓄財した資産で賄うという。






 国王はテレサになぜ突然ハウル村に現れたのかを尋ねたが、彼女自身もそれは分からないと言った。そして「すべては神のお導きです」と言って穏やかに微笑んだ。


 現在テレサは王都に滞在し、襲撃事件で傷ついた人々の救済を積極的に行っている。当初、貴族たちの中にはテレサに疑いの目を向ける者もいたが、彼女の癒しの力を目の当たりにしてその声はすぐに聞かれなくなった。今では、春になって雪が溶けたら帰国してしまうテレサを惜しむ声が出ているほどだ。


 テレサの帰国後は、彼女の代わりに司祭ハーレがハウル村に拠点を置き、乙女団の一部と共に王国の復興に尽力してくれることになっている。






 国王は冬の初めに王国内で起こった一連の事件を公式に『聖女教叛徒による王都襲撃』と呼ぶと定めた。つまり敵の狙いはあくまで聖女テレサであり、王都に遊学中の聖女を暗殺するために王都の襲撃が行われた、と発表したのだ。


 ハウル村で起こった戦いについては緘口令を敷き、詳細は発表させなかった。公式の記録も、襲撃に失敗し王都から敗走した叛徒の首魁をパウル王子率いる王国第二軍が追撃。ハウル村に立て籠もった叛徒たちを、北上してきたサローマ領軍と挟撃して殲滅した、となっている。


 ハウル村での戦いは叛徒軍と王国軍、領軍の戦闘記録が残されたのみで、カールとドーラの戦いについてはまったく触れられていない。国王と王家はドーラの存在を秘匿することに全力を尽くしたのである。






 なお報告書によれば、テレサと共に現れた謎の幼女はルピナスと名乗ったそうだ。彼女はサローマ伯爵家と縁故のものらしい。


 なぜ彼女がテレサと共にハウル村に現れたのかも、まったく解明できなかった。王家の調査官が彼女に簡単な質問したらしいのだが、その答えは全く要領を得なかったという。おそらく戦いの後で混乱していたのではないかと、調査官は報告書に記載していた。


 最終的にサローマ伯爵家が彼女の身元を保証することになったため、彼女は現在、サローマ領都スーデンハーフで嫡子ニコルと共に暮らしている。


 定期的に届く密偵の報告からも特に怪しい動きなどはなく、いたって普通の幼女のようだとある。テレサの件も含めて不可解なことばかりだが、他にも解決しなくてはならない喫緊の課題が山積しているため、現在は記録を残しておくのが精一杯だ。


 王は頭の痛い課題を思い出し、目に掌を当てて天を仰いだ後、再びハインリヒに質問をした。






「王都の状況はどうなっている?」


「王都は爆発事件での被害が深刻です。特に軍船や民間船に被害が出たことで、食料を除く一部物流が滞り始めています。サローマ伯爵が一時的に領軍の船を貸与してくださっていますが、すべてを賄うことは難しいですね。」


「冬に備えて食料の備蓄があったのが幸いしたな。王城にある備蓄物資を解放し、餓死者や凍死者が出ないよう注力してくれ。王太子のウルクを陣頭指揮に当たらせよう。」


「かしこまりました。」


 保存の効く物資については、戦時に備えて王城にかなりの量が備蓄してある。住居が焼失するなどの被害が出た王都民の救済を優先しつつ、王都内の必需品の調達状況も把握しておかなくてはならない。王太子のウルクには通常の公務に加えて、さらに負担を強いることになるが、こればかりは仕方がない。


 本来は担当の文官たちに任せてしまってもよいのだろうが、襲撃事件で人心が混乱している今、王家の人間が積極的に復興に関わっている様子を見せる必要があるのだ。


 幸い、ウルクは将来王位を継ぐ者として着実に成長してくれている。きっと今回のこともうまくやってくれるだろう。王は我が子にかける労いの言葉を考えながら、ハインリヒに問いかけた。



 




「領内の村々の様子はどうなのだ?」


「『支配の呪言』によって操られていた人々がそれぞれの村に帰ったことで、もうほとんど混乱はなくなりました。ただ不眠不休で行軍させられた高齢者などの中には、回復しきれず死んでしまった者もおります。こちらが各村の死亡者のリストです。」


 王は各村の死亡者数と氏名、性別、年齢そして死因を一人一人見ていった。ほとんどの死者が襲撃や敵との戦闘で命を落としている。


 やはり村の規模に比例して死者数が増えている。衰弱死とあるのは高齢者たちだ。しかし事件全体の規模から考えると驚くほど死者が少ない。思った以上に被害が軽かったことにホッと胸を撫でおろしたものの、それでも少なくない数の領民が犠牲になったことに、王の胸は痛んだ。


 思いもかけない相手からの攻撃だったとはいえ、領民を守り切れなかったのは王としての責任を果たせなかったということだ。自らに託された領民の生活を守るという責任が、王の心に重くのしかかる。出来ることなら死んでしまった者たちの家族に、一人一人謝りたい気持ちだ。


 しかしそれは感傷であり、王自身の心を軽くするためであって、領民のためではないということを王自身が一番よく分かっていた。自分がいまするべきことは謝罪ではない。一刻も早く混乱を収め、領内の安寧を取り戻すことだ。






「大地母神殿に依頼を出し、出来るだけ多くの神官や巫女たちを被害の出た村へ派遣させてくれ。死者の弔いはもちろんだが、残された者たちの慰撫に当たらせるんだ。派遣に必要な費用はすべて王家が負担すると伝えてくれ。」


「承知いたしました。後程、概算を添えた計画書を文官より提出させましょう。」


 ハインリヒは王の指示を手元の用紙に記入しながら、ちらりと王の様子を窺った。彼の親友である王は胃の上に左手を当て、眉根を寄せて考え込んでいる。


「陛下、あまりお気になさいませぬように。今回の襲撃は一国の王が未然に防げるようなものではありません。むしろ陛下が『支配の呪言』の対抗魔法を発見したことで、多くの民が救われたのですから。」


 自分を慰める親友の言葉を聞いても王はしばらく無言でいたが、呟くように「ありがとう、ハインリヒ」と言い、執務机の引き出しから一冊の手記を取り出した。







「それがマルクト子爵の残した手記ですか。」


 革の装丁がされた表紙に赤黒い染みが残る小さな冊子を見て、ハインリヒが王に言った。


「そうだ。大地母神殿の実務管理を長年担当していた彼が、王国内に入り込んでいた敵の手先について調べた記録をまとめたものだ。」


 マルクトは王にとって信頼する直臣であったが、奴隷の子供を惨たらしい方法で殺していたということが発覚し、その直後に自ら命を絶った。この手記は彼の遺体の衣服から発見されたものだ。


「この手記によればマルクトは3年以上も前から王都の異変に気が付き、密かに内偵を進めていたようだ。しかし・・・。」


「確かな証拠を掴んだところで敵の手に落ちたのですね。」


 ハインリヒの言葉に、王は悲痛な表情で手記の表紙をそっと撫でた。手記には敵に操られ、彼の心が壊れていく様子が克明に記録されていた。王国を裏切るまいとする彼の良心を敵は徹底的に破壊し、自らの傀儡としようとしたのだ。


 手記の最後は乱れた文字で、自らの手で最愛の家族を殺してしまった後悔が綴られていた。おそらくこれを境に彼の心は完全に壊れ、敵の操り人形と化したのだろう。






「彼が奴隷を惨たらしいやり方で殺していたのも、呪詛で大地母神様の守りを汚し弱めるためだったのだ。私がもう少し早く彼の異変に気が付いてやれていれば・・・。」


 王はぐっと拳を握りしめた。ハインリヒは王の傍らに跪くと、彼の拳に自分の手を重ねた。


「それは俺も同じだ、ヨハン。王家を守護する者として力が足りなかった。」


「ハインリヒ・・・。」


 滅多なことでは感情を表に出さない親友ハインリヒが、王の手を取って涙を堪えている。王はハインリヒの手を取って立たせると、彼に言った。


「いいや、お前たちはよくやってくれている。現に王家の人間に敵の手が及ばなかったのも、お前と配下たちのおかげだ。」


 一度、言葉を切った後、王は彼に語り掛けた。


「マルクトといいお前といい、私は臣下に恵まれている。マルクトが自分の支配されていく様子をこれほど詳細に記録してくれなければ『支配の呪言』の存在に辿り着くことはできなかっただろう。そしてお前が居なければ、敵はもっともっと王都内に支配を広げていたに違いない。もう一度言う。お前たちは本当によくやってくれた。」


 ハインリヒは固く目を瞑った後、王に深々と頭を下げた。






「今回の一件は、異変に気付けなかった私の失敗だ。だが自分の愚かさも、過ちもすべて飲み込んで、それでも私は王たらなくてはならない。これからも私を支えてくれ、ハインリヒ。」


 王はハインリヒの肩に手を置いてそう言った。顔を上げたハインリヒと目を合わせ頷きあう。そして二人は午後からの諸侯との会議で検討すべき課題について、意見を交わし合ったのだった。















 王都から遥か南、サローマ伯爵領の領都スーデンハーフを一望できる領主館別邸の一室にエマはいた。


 目の前の寝台には安らかに寝息を立てるドーラが横たわっている。ハウル村での戦いからおよそ一か月。未だにドーラは目覚める気配がない。


 早く目覚めるようにとドーラの枕元には銀貨が並べられている。しかし音を聞いて時折幸せそうに笑うことはあるものの、目を覚ますことはなく、未だ眠り続けていた。


 エマはドーラの寝具の乱れを直しながら、この一月の間に起こった出来事を思い返してみた。







 あの戦いの後、エマはハウル村の村人たちと共にスーデンハーフの街に移動した。エマの家を始め、ハウル村の建物は激しい戦いと洪水の被害に遭ったため、住むことのできる状態ではなかったからだ。


 建物を直したくても、日に日に多くなっていく雪の中では満足に瓦礫を片付けることすらできない。ドーラがいれば魔法であっという間に進めることができる作業も、人の手では遅々として進まなかったのだ。


 エマはハウル村にとって、ドーラがいかに大きな存在であったかを思い知らされた。






 ハウル村の人々は現在、スーデンハーフの街のあちこちに散らばって生活している。サローマ領は冬でも雪が降ることがほとんどない。その上、主要産業である製塩業を始め、水路建設、大規模農地の開墾、水上運送などで常時人手不足の状態であるため、仕事には事欠かなかった。


 以前ハウル村でカールの補佐官として働いたことのあるサローマ家の文官が、村人たちに住み込みで働ける場所を紹介してくれたおかげで、住民全員が路頭に迷わずに済んだ。


 エマの父であるフランツも街の郊外に一家で暮らせる小さな家を借りることができ、今は家族みんなでそこに暮らしている。慣れない街での暮らしは大変だけれど、母親のマリーを含めて家族全員がそろって暮らせることは、エマにとって一番幸せなことだった。


 ただ寝たきりのドーラだけは放っておくことができないため、サローマ伯爵の家で預かってもらうことになった。だからこうやって一日に一度、ドーラの様子を見てから仕事に行くのが最近のエマの日課になっていた。






 エマが聖都に旅立った時には昏睡状態だった母マリーは、もうすっかり元気になった。あの戦いが終わって数日後、王立学校教師のジョン・ニーマンドがマリーと双子の弟妹を連れてスーデンハーフにやってきたのだ。


 弟たちに支えられてよろよろと歩くマリーを見た瞬間、フランツとエマは声にならない叫びを上げて三人に駆け寄り、家族みんなで抱き合った。声を上げて泣くエマとフランツを撫でながら、マリーは「ただいま、みんな。心配かけてごめんね」と言って笑ってくれた。


 マリーたちを連れてきたジョンはエマに「お母さんは10日以上寝たきりだったから、しばらくはリハビリが必要だよ」と言った。リハビリというのは弱った手足を少しずつ動かして、元に戻してあげることらしい。


 エマがジョンにお礼を言うと彼は言った。






「別にタダで助けたわけじゃないから、お礼はいらないよ。後でちゃんと借りを返してくれればいい。」


「分かりました。いくら払えばいいんでしょう? 一生かかってもちゃんと返します。」


 するとジョンは困ったように笑いながら言った。


「ううん、お金はいらないよ。ただ僕に少しだけ力を貸してほしいんだ。契約を結んだのは弟くんとだけど、実は君にどうしてもやってほしいことがあって・・・。」


 そこまで話したところで、彼は突然ハッと上空を見た。


「ち、ちょっと今、ヤバい奴に追われててね。これで失礼するよ!また、近いうちに会いに来るから!!」


 そう言うなり彼はすごい勢いでその場から走り去っていった。






 その後、10日以上経った今でもジョンからは何の音沙汰もない。その間、エマたちはマリーの様子を心配しながら生活した。最初の数日こそ、マリーの動きはぎこちなかったものの、今ではすっかり前のように動けるようになった。


 むしろちょっとおかしくなったのは双子の弟妹アルベールとデリアの方だった。二人はマリーと一緒にジョンの『隠れ家』に匿われていたらしい。


 彼の『隠れ家』は白いつるつるした壁で出来た小さな建物で、外を見るための窓はなく、外に出ることもできなかったそうだ。手を触れなくてもひとりでに開閉する魔法の扉など、随所に不思議なものが溢れていたと、二人は『隠れ家』の様子を興奮気味に語った。


 最初の数日こそ、マリーの治療のために手から血を抜かれたり、体に見知らぬ魔道具を付けられて、恐ろしい思いをしたそうだが、その後はとても楽しく過ごしていたらしい。


「あのね、壁に付いた小さな窓に住んでるマナ様っていう人がいてね。その人があたしたちのお世話をしてくれたの。」


「マナ様はすごいんだよ! すごい魔法使いで、全然壁から出てこないのに、見たこともない美味しいご飯をあっという間に出してくれるんだ!」


 マナは二人に『隠れ家』の使い方を教えてくれたらしい。隠れ家には手をかざすだけで水の湧きだす魔法の泉や、用を足したら自然に水が流れて勝手にきれいになるトイレなど不思議なものがたくさんあったらしい。






 中でも二人が目を奪われたのは、動く絵が見える不思議な窓だったそうだ。


「あのね、すごくきれいな色のついた絵がまるで生きてるみたいにお話に合わせて動くの!」


「絵が動くの? まじない師が使う幻術の魔法みたいな感じ?」


「違うよ、全然違う! もっとすごいんだ! ちゃんと絵が喋るし、楽師もいないのに音楽が流れてくるんだよ!」


「そうそう! 継母にいじめられていた女の子が魔法使いにカボチャの馬車をもらってお城の舞踏会に行くの! ガラスの靴を履いて王子様と踊るんだよ!」


「カボチャの馬車? カボチャって何?」


「それは分かんない。なんか芋みたいなやつ。魔法使いが杖を振ったら、ネズミとカボチャが馬と馬車にあっという間に変わったんだよ!」


「・・・それはすごいわね。錬金術かしら? それとも無属性魔法?」


 エマは二人の話す不思議な魔法に興味を持った。春になって学校に戻ったら、ベルント先生とマルーシャ先生に話してみようと心に決めた。きっと二人は新しい研究のテーマを得たと、大喜びするはずだ。






 二人は窓から出てこないマナに教わりながら、寝たきりで意識のないマリーの体をさすったり揉んだりしていたそうだ。それ以外の時間は、ほとんど動く絵の窓を眺めて過ごしていたらしい。


「あとね、マナ様はすごく物知りでいろんなことを教えてくれたよ。」


「そうなの? 例えばどんなこと?」


「えっとね、風はどうして吹くのかとか。お日様が動くのはなぜかとか。」


 そんなの神様がそうしてるからに決まっている。そう言うエマに二人は一生懸命、マナから教わったということを説明してくれた。


 だが、幼い二人の説明は要領を得ておらず、さっぱり訳が分からなかった。地面が動くからお日様が動く? 一体何のことだろう?


 二人はずっとこんな感じで皆に分からない話をし、帰ってきてから数日間は二人だけにしか分からないごっこ遊びに興じていた。エマは二人がこのままおかしなことを言い続けたらどうしようと心配した。


 でもマリーの体が元に戻った辺りで二人は、家の仕事や末妹のグレーテの世話、そして新しくできた近所の友達との遊びに夢中になり始めた。次第に二人はおかしなことを言わなくなり、そのうちに前の二人に戻ってくれた。エマはこっそりと胸を撫でおろしたのだった。






 村はめちゃめちゃになってしまい、大事な家もなくなってしまったけれど、家族みんなでまた一緒に暮らせることがエマは本当に嬉しかった。


 春になって雪が解けたら、皆で村に戻ることになる。その日が待ち遠しい。エマは眠るドーラの温かい頬に手を触れ「早く目を覚ましてね、おねえちゃん」と声を掛けた。ドーラはその声が聞こえたのか、眠ったまま嬉しそうににへへと笑った。枕元の銀貨がシャリンと涼しい音を立てた。











 ドーラの眠る客用の寝室を出たところで、向こうから歩いてくるニコルとルピナス、それにカフマンと彼の秘書ペトラに出会った。


 ニコルはカフマンたちをドーラのところに案内して来たようだ。カフマンはエマを見るなり、駆け寄って両腕に手を当て話しかけてきた。


「あの時以来だな、エマ。体の方は大丈夫か?」


「うん、もうすっかり良くなったよ。ありがとう、カフマンお兄ちゃん。」


「そうか、安心したぜ。お前が銀貨をどんどん消しながらゲエゲエ吐き出した時は、どうしていいか分かんなかったからな。」


「あの時はお店を汚しちゃって、本当にごめんなさい。」


 エマはその時のことを思い出し、恥ずかしさで赤くなった顔でカフマンに謝った。


 ドーラの目を覚まさせるために、彼女はカフマンから借りた大量の銀貨をありったけ自分の魔法の《収納》の中に飲み込んでいった。《収納》は中に仕舞ったものの大きさや重さが増えるほど、維持するための魔力が大きくなる。


 彼女は足りない魔力を回復薬で補いながら無理矢理、銀貨を収納し終えたのだ。途中、何度も嘔吐し意識を失いかけるエマを見て、カフマンはとても心配してくれていた。






「いやいや、店なんかいくらでも掃除すればいいんだから気にすんな。ドーラさんが助かったのも、エマが頑張ったからだってカールがすごく褒めてたぜ。」


「カフマンお兄ちゃんが銀貨集めに協力してくれたからだよ。本当にありがとう。」


 エマにそう言われ「あんなのお安い御用さ」と笑うカフマンを、ペトラがジト目で睨みつける。カフマンはドーラを助けるため、文字通り店の金をすべてエマに渡してしまったのだ。おかげでカフマン商会は危うく不渡りを出すところだった。


 あの日彼女はエマが魔法のホウキで飛び立ってからカフマンと二人、大慌てで金策に走り回る羽目になった。当座の資金を手に入れるためだ。


 たまたまその様子を聞きつけたカールの兄アーベルが、父親経由で国王に知らせてくれ、王家から緊急の融資を得られたおかげで助かったものの、そうでなければ今頃カフマン商会は人手に渡ってしまっているところだったのだ。


 本当に見栄っ張りのかっこつけなんだから!


 そんな気持ちで、調子よく笑うカフマンの横顔を睨んでいたペトラだったがやがて、はあっと小さく息を吐き、困った子供を見るように小さく笑った。本当にしょうのない人だと思うのだけれど、彼女は彼のそんなところが好きだったからだ。まったく惚れた弱みって奴は、本当に度し難いと彼女は自嘲したのだった。






 カフマンとペトラがドーラの部屋に入ったのを見届けると、ルピナスがエマに抱き着いてきた。青と黄色のドレスを着た彼女を抱き上げると、子供特有の温かさと共にふわりと南の島に咲く花の香りが伝わってきた。


「こんにちは、エマ!」


「こんにちは、ルピナスちゃん。」


 3,4歳くらいの見た目に見えるルピナスは、エマの胸に顔を埋めた。ルピナスはエマにこうやってくっつくのが大好きなのだ。彼女によるとエマからはドーラと同じ匂いがするのだという。


「相変わらずルピナスはエマが大好きだね。」


 そう言って穏やかに笑うニコルに、エマも笑って「こんにちは」と挨拶をした。二人の身分差を考えたら、これはあり得ないことだ。


 しかし最初の日にエマが平伏して「ニコル様に置かれましてはご機嫌麗しゅう」と挨拶したら、ニコルにすごく嫌がられてしまったのだ。その後、彼と彼の両親のたっての頼みで、今では学校にいるときと同じように振る舞うことになっている。


 エマはちょっと居心地が悪いと思いながらも、それを受け入れることにした。だって平民であるエマが伯爵の言葉に逆らうことなどできるはずもない。もちろん伯爵もニコルも、エマに高圧的に何かを命じたことは一度もないので、これは単にエマの感じ方の問題だ。






 ニコルはエマが屋敷を尋ねると、いつもこうやって彼女に会いにやって来る。そして他愛もないことを少し話してから別れるのだ。話題はドーラやエマの仕事のこと、村人たちの様子、それに新年から始まる王立学校の授業のことなどで、本当に取り留めのないことばかりだ。


 エマが尋ねてくる時間は大抵決まっているとはいえ、ニコルは一度も欠けることなく彼女のところにやってきている。


 まるで彼が自分を待ち構えているようだとエマは思った。まあ、それは気のせいなのだろうけど。他に友達がいる様子もないので、もしかしたら彼はよほど暇なのかもしれない。


「エマさんは今日も製塩場で魔道具への魔力供給の仕事をするのでしょう?」


「うん、そうだよ。ニコルくんはまた剣のお稽古?」


「はい。午後からは父の執務に同行することになっています。」


 ニコルは穏やかに笑いながら、そう答えた。






 貴族がどんな仕事をしているのかエマには想像もつかない。けれど、村でのガブリエラの仕事を思い返してみる限り、毎日とても忙しそうにしていた。ハウル村の何百倍も大きいサローマ領を治めるサローマ伯爵は、きっともっと忙しいに違いない。


 そして伯爵家の唯一の跡取りであるニコルは、既にいくつかの仕事を父から手伝うように命じられているそうだ。そう考えたら、とても暇そうには思えないのだけれど・・・。


 エマがルピナスの頭を撫でながらそう考えていたら、ルピナスが急に顔を上げて彼女に尋ねてきた。


「ねえ、エマはニコルのこと、好き?」


「ち、ちょっ、何、なに言ってんのルピナス!!」


 ルピナスの言葉を大慌てでニコルが止める。赤い顔をしてエマから彼女を引きはがそうとするが、彼女は「やだ!エマがいい!!」と言って離れようとしない。






「ねえねえエマ、ニコルのこと好き?」


「うん。もちろん好きだし、すごく感謝してるよ。」


「え、エマさん・・・!」


 再び問われたエマがルピナスにそう答えると、ニコルは耳まで真っ赤になって絶句した。エマは嬉しそうに甘えるルピナスを抱えたまま、ニコルに向き直った。


「ニコルくん、改めて本当にありがとう。私、お父さんからニコルくんが命懸けで村を守るために戦ってくれたって聞いて、本当に感謝してるの。」


 ニコルは茫然とエマを見つめていたが、やがて少しはにかみながら言った。


「僕はただ、エマさんの大事なものを守りたかっただけなんだ・・・君にはいつも笑っていてほしいから。」


「えっ・・・!?」


 エマはどきりとして思わず小さく声を上げた。それを聞いたニコルも自分の言葉に驚いたように横を向いて俯いてしまった。


 赤くなったニコルの横顔を見つめている内に、エマの胸が何だかドキドキし始めた。エマはドキドキを抑えるため、視線を逸らして俯いた。






「エマの胸、すっごくドキドキ言ってる!」


 エマの胸に耳を当てていたルピナスの言葉に彼女はハッとして顔を上げた。同じように顔を上げたニコルと視線がぶつかる。


 彼女は彼に何か言おうとしたけれど、さっきまでのようにうまく言葉が出てこない。彼もそれは同じのようで、エマを見つめて口を開いては、閉じてを繰り返していた。


 エマはそんな自分たちの様子が無性に可笑しくなり、思わずクスリと笑ってしまった。同じようにニコルも笑みを返す。二人は赤い顔をしながら、しばらくそうして笑い合った。


「じゃあ、私、もう行くね。」


「うん。また明日。」


 そうしてエマは、「まだ一緒に居たい!」と駄々をこねるルピナスをニコルに預けると、サローマ伯爵の別邸を出て、今日の仕事場に向かったのだった。
















 ドルアメデス王都貴族街の一角に立つルッツ男爵邸。官僚貴族としては一般的な大きさの屋敷の一室では、数人の男女が真剣な顔で議論を交わしていた。


「アーベル様、バルドン様。なんと言おうと掟は絶対です。仲間以外の者に自ら正体を明かした以上、戦う力を奪った上での追放か、死あるのみです。」


「コネリ。お前の言いたいことは分かる。だが、リアはカールの命を救うために戦ってくれたのだろう? そんな忠義者を処罰したとあっては、他の密偵たちの士気が下がりかねん。私は反対だ。」


「兄上の言う通りだ、コネリ。ルッツ家は代々、王家を陰から守る密偵の一族。そんなことで主従の絆にヒビが入るようなことになっては、本末転倒ではないか。」


「いいえ、だからこそ掟を守らなくてはならないのです。ここでリアを許してしまえば、これから先の者に示しがつきません。」


 メイド服姿で力説するコネリ。それに相対するのは官服姿の長兄アーベルと衛士隊の制服を着た次兄バルドン。彼らは小さなテーブルを挟んで、リアに対する処分のあり方を主張しあっていた。


 同じテーブルには当事者であるリアがメイド服姿で座らされている。彼女は先程から一言も話さぬまま、正面に座るカールをただじっと見つめていた。






 リアはあの複合獣キメラの女との戦いで、一度命を落とした。しかし突如ハウル村に現れた聖女テレサの蘇生魔法によって、辛うじて息を吹き返したのだ。


 ただ後頭部に酷いケガを負っていたため、ここ一月ひとつきばかりの間はずっと生死の境を彷徨っていた。その間、テレサによる治療が定期的に続けられ、歩けるまでに回復したのは、ほんの数日前のこと。


 カールを始め多くの者がそれを喜んだけれど彼女が回復したことで、彼女の処分を巡って言い争いが起きてしまったのである。






 リア自身はどのような処罰を下されようと、それを黙って受け入れるつもりだった。


 あの時はもとより死を覚悟でカールの下に駆けつけたのだし、それ以上に、カールと共に背中を合わせて戦うことができたことで彼女の望みはすべて果たされていたからだ。


 カールに対する未練の気持ちはもちろんあるけれど、今はそれよりも満足感や達成感の方が大きかった。だから彼女は穏やかな気持ちでカールを観察することができた。


 カールはずっと黙ったまま、彼女をじっと見つめている。その目にあるのはこれまでと変わらない思いやりと、ほんの少しの困惑。


 カールはリアが寝たきりの間に、父親からルッツ家の秘密を明かされたそうだ。きっと、突然このような状況に巻き込まれて混乱しているに違いない。彼女は自分が生き返ったことでカールに迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちになってしまった。






「コネリ、なぜそう意固地になるのだ。父上はリアの処分をコネリに一任すると言ったのだろう。」


「そうです。ですから私はリアを処罰すると申し上げているのです。」


 コネリの意思は固い。最初は死ぬつもりだったがリアだが、テレサが献身的に治療をしてくれたおかげで助かったのだ。せっかくだからもう少し生きてみようと、今では思っていた。


 あの戦いの前までは、カールを失って生きることなどとても耐えられないと思っていたけれど、望みを果たし生死の境を彷徨ったことで、かなり気持ちが穏やかになっている。今ならば、それほど辛い思いをせずにカールの下を離れられるだろう。


 追放となればおそらく舌と利き手の腱を切断され、戦う力を奪われることになる。戦うために生きてきた身としては辛いことだ。けれど、カールを守ることができない以上戦う意味はないので、別に構わない。


 王都を離れた後は、どこか遠い国に行くのもいいかもしれない。言葉を話せず十分に利き手の使えない女であっても、最低限の下働きくらいなら仕事はあるだろう。名も過去もすべて捨てて、新しい自分として生きていくのだ。


 リアは心の内でカールに別れを告げ、そっと目を伏せた。






 コネリの言葉にアーベル達二人がむっつりと黙り込んだことで、重苦しい沈黙が沈黙が部屋に降りた。


 リアが顔を上げ、主人である二人に処罰を受け入れますと告げようとしたその時、それまで黙って話を聞いてたカールが口を開いた。


「コネリ、私からも一ついいだろうか。」


「構いませんよ、坊ちゃん。しかし、いくら坊ちゃんの頼みでもリアの処罰は覆りません。」


 普段カールに、べた甘なコネリだがこの時ばかりは眦を吊り上げ、口を堅く引き結んでそう言った。


「いや、処罰そのものはコネリが決めてくれて構わない。私が確認しておきたいのはその前提だ。」


「前提、ですか?」


「ああ、そもそもリアはなぜ処罰を受けることになったんだ?」






 カールの言葉に他の4人は虚を突かれたように目を見開いた。


「坊ちゃま、これまでの話を聞いていらっしゃらなかったのですか。」


「いや、もちろん聞いていたとも。リアはルッツ家の秘密を知らない私に正体を明かした。だから掟に則り処罰される。これで間違いないか?」


「その通りだがカール、お前は一体何が言いたいんだ?」


 次兄バルドンは、真新しい義肢を軋ませながらカールの方へ向き直り、そう尋ねた。


「はい兄上。それならばそもそも前提が違うのです。私はその時すでにルッツ家の秘密を知っていましたから。」






 カールの言葉に声を失う4人。しかしすぐにコネリがカールに詰め寄った。


「坊ちゃま、いくらリアを助けたいからと言ってそんなデタラメは・・・。」


 カールは彼女の言葉を遮って言った。


「いや、デタラメではない。確かにちゃんと知ったのは先日父上に話していただいてからだが、それ以前にも知っていた。いや、薄々気が付いていたというべきだが。」


「まさかカール、お前がそんな・・・。」


「何がまさかなのですか、兄上。」


 驚いて絶句するバルドンに、やや不満そうな表情でカールは言った。






「私自身、男爵に昇爵してからは配下の者を使って仕事をするようになりました。また私の友人のカフマンは、王都でも有数の商会の会頭なのですよ。カフマン商会に所属する行商人は、今や王国中に散らばっています。カフマンは彼らから商売に関するだけでなく様々な情報を得ているのです。そうなれば自然と私の耳目も広がります。」


「坊ちゃま、いつの間にそんなことを・・・。」


 驚くコネリに、苦笑しながらカールは言った。


「コネリ、私ももう22歳だ。いつまでも兄様たちの後ろをついて歩くだけの子供ではないのだよ。もちろん、まだまだ未熟ではあるけれどね。それでも世の中のことを知れば、自分の家族がいかに特殊であるかなど、すぐに気が付くさ。」






「なるほど、そうであればこの議論自体、意味がないな。コネリ、リアは処罰されるようなことはしていない。掟を破ってはいないのだからな。」


 カールの言葉を聞いて、長兄のアーベルが手をぱちんと打ち鳴らしながらそう言った。しかしコネリはすぐにそれに反対する。


「アーベル様、それは詭弁というものではございませんか。カール坊ちゃんが気付いていたかどうかにかかわらす、リアは自ら正体を明かした。そのことは変わりません。」


「では、やはりリアを処罰すると? 誰にも秘密は漏れていないのだぞ。」


「うっ、そ、それはそうですが・・・。」


 アーベルにそう詰め寄られて、途端に言葉に窮するコネリ。カールは立ち上がり、リアに言った。






「私はリアに命を救ってもらったこと、本当に感謝している。私はこれからもリアに仕えて欲しい。」


「カール様・・・。」


 突然、名前を呼ばれたリアは茫然として何も答えることができなかった。だが固く握りしめた自分の手に、ぽたぽたと熱い雫が落ちているのに気が付いて、慌てて自分の顔を拭った。


 拭っても拭っても涙は後から後から溢れだし、やがてそれは嗚咽となった。カールは自分の席を離れ、泣いているリアの背中にそっと手を置いた。


「・・・コネリ、もういいだろう。」


 アーベルがそう言うと、コネリはこくりと頷いた。その目の端には薄く涙が光っていた。


 三人は無言のまま部屋を出ていき、あとにはカールとリアだけが残された。カールはリアが泣き止むまでずっと彼女の背中を優しく擦っていた。


 やがて泣き止んだリアに正面から向き合い、カールは言った。






「リア、お前が私に・・・個人的な愛情を向けてくれていること、私は嬉しく思っている。」


「カール様・・・。」


「だが私はそれに応えることができない。私にとってお前は大切な妹のような存在なんだ。許してくれリア。」


 それは彼女がもっとも聞きたくなかった言葉。自分の恋の終わりを告げる一言だ。


 以前の彼女であればおそらくそれを受け入れることは到底できなかっただろう。しかし今は違った。


 彼女は文字通り命を懸けて、自分の望みを果たしたのだ。リアの心には今、爽やかな切なさが満ちていた。






 リアはカールの目を見た。痛々しいほどの優しさと愛情の籠った瞳。ああ、私の大好きな目だ。


 リアの目から静かに涙があふれ、一筋頬を伝って落ちた。それを見てカールは途端に慌て始める。リアにはそんな彼を可愛らしいと思った。


 本当にこの方は不器用だ。自分の力で男爵の地位を勝ち取った貴族なのだから、たった一人の侍女の思いなど無視してしまえばいい。仮にリアを切り捨ててしまおうが、または愛妾として好きにしようが、誰も文句は言わないだろう。


 だけどこの方はそういうことができない人なのだ。本当に要領が悪いとしか言いようがない。もっともそんな人だからこそ、リアは彼のことを愛しているのだけれど。






「リア、私がとても卑怯なことをしているのは分かっている。お前の気持ちに応えることができないのに、お前にこれからも仕えて欲しいなどと、酷く都合のいい話だ。だが、それでも私は・・・!」


 あたふたと言葉を紡ぐ彼の口にそっと指を当て、リアはそれを遮った。


「カール様は私の気持ちにちゃんと応えてくださいましたよ。」


「リア・・・。」


「これからもリアは、カール様にお仕えいたします。王家と王国を守るため、この命、存分にお使いください。」


 リアは涙を拭うと、カールの目の前に跪いた。カールは彼女を立たせると「よろしく頼む」とだけ言った。それで十分だった。二人の心は二人だけの絆でしっかりと繋がっていたのだから。


 リアはカールの後ろについて部屋を出た。これまで見つめ続けた彼の背中。そしてこれからも自分が守るべき背中。リアはぐっと顔を上げ、まっすぐに一歩を踏み出した。もう涙は出なかった。

読んでくださった方、ありがとうございました。次回はジョンと天空城のお話です。

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