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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
18/188

17 鍛冶術師

カールの父親の名前を変えました。フランツと間違えやすいので。

前)ハインツ → 新)ハインリヒ

 ハウル村を目指して単身、屋敷を出たカール・ルッツ準男爵だったが、南門の手前であまり楽しくない相手と出会うことになってしまった。


「おい馬車を止めろ!」


 南門に続く大通りを歩いていると、後ろから走ってきた2頭立ての豪華な馬車から若い男の声がして、馬車が急に止まった。勢い余った馬が軽く暴れたため、カールは跳ね飛ばされそうになり、慌てて道の端に避けた。


「カール・・・?そこにいるのはカール・ルッツ殿ではないか?余りにみすぼらしい姿で分からなかったぞ。それもまた兄上殿のお下がりか?」


 紋章付きの豪華な馬車の小窓から話しかけてきたのは、カールの学友だったピエール・グラスプだった。王都の遥か西、エルフの森を抜けたところに広がる平原を領地に持つグラスプ伯爵家の次男だ。


 ピエールの言葉を聞いて、馬車に同乗していた貴族の子弟らしき男たちが失笑する。カールは丁寧な口調でピエールに話しかけた。


「グラスプ子爵様、お久しぶりでございます。どちらかにお出かけでございますか?」


「ああ父上の持つ別荘に移動するところだ。友人たちと過ごすためにね。ところでカール殿、身分差があるとはいえ、同学の徒なのだから、そんなにかしこまらなくともよいのだぞ?んん?」


「お心遣いありがとうございますグラスプ様。しかし学校を離れた以上、子爵であらせられるあなたに対して準男爵の私が軽はずみに話しかけるなど、恐れ多いことでございます。」


 カールが軽く頭を下げてそういうのを、窓の中から満足そうに眺めるピエール。その二人のやり取りを聞いて、ピエールの友人という若者たちが尋ねた。


「ピエール様、こちらの御仁は一体どなたですかな?とてもピエール様のご学友には思えないような身なりをしていらっしゃるようですが?」


「ああ、彼はルッツ男爵家の三男だよ。君たちも聞いたことがあるだろう?『平民判官』のルッツ卿のことは。」






 その途端、不愉快そうに顔をしかめる若者たち。『平民判官』というのはカールの父であるハインリヒの綽名だ。


 下級貴族でありながら王の信頼厚く、王立調停所の長官を任されているハインリヒは、平民にも貴族にも法に則った公正な裁きを下すことで広く知られていた。


 もともと『平民判官』というのは王都の庶民たちがハインリヒを讃えてつけた呼び名だが、貴族たちは侮蔑の意味合いを込めて彼をそう呼ぶ。


「その判官殿のご子息が、なぜこんなみすぼらしい姿で、こんなところにいらっしゃるのですか?」


「さあ、それは私も分からないが、どうやら彼は王の御不興を買ってしまったらしいのだよ。任官されたばかりの徴税官の仕事も解任されてしまったようだしねぇ。」


 ピエールは面白がるようにそう言った。相変わらず人の弱みに関する噂には耳の早いことだ。カールは在学中にピエールから口さがない噂を立てられ、苦しんでいた下級貴族たちのことを思い出す。当然、カールもその一人だった。


 カールが何も言い返せないのを良いことに、ピエールはさらに言い募った。







「彼はこう見えても剣の達人でね。だが惜しむらくは魔力量が低すぎて騎士団に入れなかったのだよ。最近耳にした噂では飛竜を一刀の下に切り伏せたという話だがねぇ。」


「ではこいつ・・・いえ、この方が噂の『飛竜殺し』ですか?」


「さあ、どうだろうね。私は彼の剣を見たことがあるが、飛竜の鱗を切り裂けるほどの魔力を持っているとは到底思えなかった。どうなんだいカール殿?」


「・・・子爵様のおっしゃる通りです。平民たちは皆、好きなように噂をしますので。」


 カールは俯いたまま、頭上のピエールに答えた。『飛竜殺し』の件は、王からも秘するようにと厳命されている。ピエールならば都合の良いように解釈し、『飛竜殺しの英雄』は根も葉もない噂として広めてくれることだろう。


「はっはっは、やはりそうか!いやいや全く平民というのは愚かで取るに足らない存在だよ。そのためにも私たち貴族が正しく導いてやらなくてはならん。いや、失礼。役を解かれた君はもう、そのような責務を負う必要がないのだったな。」


「ピエール様のおっしゃる通りでございます。私はもはや無官の身。いずれはルッツ家とも関りを絶つつもりでございます。」


 カールの言葉にピエールは一瞬鼻白んだが、すぐにいやらしい笑みを浮かべて言った。


「そうかそうか、王のご不興を買ったことで、父上殿に見限られたのだな。もし生活に困ったらグラスプ領に来てくれ給え。領地の森番くらいなら仕事があるだろうからね。」


 森番など平民の中でも一層身分の低い下民と呼ばれる人々がする仕事だ。仮にも貴族の子弟に対して勧めるような仕事ではない。思わず顔を上げ、ピエールを睨み返しそうになる。


 だがカールはぎゅっと奥歯を噛んで気持ちを鎮めようとした。すると脳裏にドーラの無邪気な笑顔が思い浮かび、自然と心の滓が溶けていく。







「子爵様のお心遣いに感謝いたします。道中お気をつけてお出かけください。」


 穏やかな声で返事をしたカールに、ピエールは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らし、小窓のカーテンを閉めた。苛立たしげな「行け!」という声とともに、馬車は走り出し、南門から出て行った。


 門衛たちや門から出入りしようとしていた大勢の平民たちが、急に飛び込んできた馬車に慌てて飛びのく。一人の老婆が人々の動きに押されて道に倒れた。周りの人々が慌てて老婆を助け起こすが、どうやら足を挫いてしまったようだ。


 カールも老婆に駆け寄って足の様子を見た。骨は折れていないようだが、右足首がひどく腫れてしまっている。カールが旅装を解いて、痛み止めの軟膏を取り出そうとしていると、後ろからスッと誰かが近寄ってきた。


「あまねく世界を照らす聖女の光よ。今、わが手に宿りて痛みを癒す恵みとなれ。《快癒の祈り》」


 老婆の足首に当てられた右手から暖かな白い光が溢れた。光が収まったとき、老婆の足首の腫れはきれいになくなっていた。見事な回復魔法だった。その様子を見ていた周りの人たちから拍手が起こる。


 老婆は助け起こしてくれたカールにお礼を言い、傷を癒してくれた人物、白い法服を着た少女に祈りを捧げてから銅貨一枚を差し出した。少女は「あなたに神の恵みが訪れますように」と聖句を唱えた後、銅貨を受け取った。


 肌を見せない白い法服とシスターベール。そして胸に下げた銀の聖印。彼女は聖女教会の修道女のようだ。


 この国では珍しい黒い髪をした少女は、老婆の荷物を拾っているカールに軽く頭を下げて微笑むと、大通りを北に向かって歩いて行った。






 騒動が収まり、人々はまたもとの様に門を出入りするための列に並び始めた。カールも老婆を見送ってから、門から出る人々の列に並ぶ。


「おい次!身分証を見せろ。身分証がないなら通行税は銅貨10枚だ。」


 カールは懐から身分証を取り出し、門衛に示した。胡散臭そうにカールの腰の二振りの剣を見ていた門衛の目が、身分証を見た途端大きく見開かれた。


「た、大変、しつれ・・・!?」


 慌てて居住まいを正しかけた門衛を、カールは手でそっと制した。黙っていてくれと言うように門衛の目を見て軽く頭を振ると、門衛は青ざめた顔で黙って頷き、身分証をカールに返した。


 こうなることは予想出来ていたので銅貨を払って出ることも考えたが、任務の経過を王に伝えるためにも、ここは身分証を見せたほうが良いと判断したのだ。あの門衛がまともなら、カールが王都を出たことが今日明日中にも、王の耳に届くだろう。


 カールはマントのフードを目深に被ると王都の街壁の外に出た。ここからは南に向かう乗合馬車を見つける。うまく馬車を乗り継げば、7日程でノーザンに着けるはずだ。


 そしてその後はハウル村を目指す。辺境のハウル村に向かう馬車が見つかるか自信はないが、とにかく行くしかない。


 門の側の馬車溜まりには、たくさんの荷を積み、空いた席に乗せる客を待っている乗合馬車がたくさん止まっている。カールは値段の交渉をするため、目的の村の名前を叫んでいる御者に向かって歩を進めた。











 カールが王都を旅立って三日後の、秋の初めの日。ハウル村のまじない師ドーラは、村の集会所でやってくる『お客さん』の相手をしていた。


「あのー、この鍬を直してほしいんだが・・・。」


 また一人、農夫が壊れた鍬を持ってやってきた。多分石にでも当ててしまったのだろう。刃が大きく欠けてしまっている。


「いいですよー。《金属形成》《素材強化》。はい、どうですか?」


「え、もう直ったのかい?!・・・本当だ、あっという間に直ってる!噂通りだな!」


「だいきんは、銀貨一枚です!!」


 エマが私の代わりに代金の銀貨を受け取ってくれる。


「本当に銀貨一枚でいいのかい?本当に?」


 私が笑顔で頷くと、男の人はエマに銀貨を手渡した。ああなんて素敵な銀貨の輝き・・・!思わずうっとりと見惚れてしまう。


「いやー助かったよ。本当に銀貨一枚で修理してもらえるなんて!噂を信じてこんな遠くまで来た甲斐があるってもんだ。それにあんたみたいな別嬪さんに会えたしな!!」


 男の人は大喜びで帰って行った。それと入れ替わるようにまた次の人が集会場にやってきた。今朝からずっとこんな感じだ。






 どうしてこんなことになったのかというと、原因はどうやらペンターさん達らしい。私が集会所修理のお礼代わりにペンターさんたちの道具を直したことで、その評判を聞きつけた人がハウル村を訪ねてくるようになったのだ。


 昨日から少しずつ人が増えてきたのだが、今朝は朝からひっきりなしだ。近隣の村々にいる農夫や職人さんたちが、壊れた道具を持ってやってきている。


 最初は村の仕事を手伝いながらお客さんに対応していたのだけれど、お客さんが来るたびに仕事を中断しなくてはならなかったので、グレーテさんが集会場を貸してくれたのだ。


 私一人ではお客さんの相手に不安があったので、エマが私のお手伝いをしてくれている。エマは本当に可愛くて、賢くて、頼りになる。






 それにしても魔法を使うだけで、あの素敵な銀貨が手に入るなんて夢みたいだ。私はエマが渡してくれた銀貨を指でこすり、その輝きと感触を楽しんだ。


 二枚の銀貨をそっと打ち合わせると、高く澄んだ音がする。その音を聞いているだけで、ゾクゾクとしてしまう。はー、楽しい!!


「ドーラおねえちゃん、本当に銀貨が大好きなんだね!」


 私がうっとりするのを見ていたエマが、くすくす笑いながらそう言った。そう、私は銀貨が大好きなのだ。これをもっともっといっぱい集めたいなあ。






 お昼を過ぎるとお客さんがいなくなったので、私はエマと一緒にグレーテさんの家に行った。


「グレーテさん、お金を持ってきましたよ!」


 私は布袋に入ったお金をグレーテさんに渡した。


「ねえドーラ。本当にいいのかい?これはあんたが稼いだお金なんだよ?」


「私、この村に居させてもらってすごく感謝してますから。だからそれは受け取ってください。」


 今ハウル村にはお金がない。集会場を修理するために、ペンターさんたちに払ってしまったからだ。アルベルトさんが言うには「払った額にしちゃあ豪華すぎる集会場」らしいから、随分『得をしている』みたいだけど、貯えのほとんどを使ってしまったことに変わりはない。


 もとはと言えば集会所も私が壊したようなものだし、私が魔法で稼いだお金を村のために使うのは当たり前のことだと思っている。


 最初は稼いだお金を全部渡すつもりだったのだけれど、アルベルトさんとグレーテさんに強く断られてしまったので、一日に付き銀貨一枚だけもらうことにした。


 だから昨日の分と合わせて、2枚の銀貨が新たに手に入ったことになる。これはもちろん《収納》の魔法で作った宝物入れの中に大切にしまってある。


 また夜中にこっそり眺めて楽しもうっと。あー、銀貨。なんてきれいなのかしら!!


 そんな私のにやけた顔を見て、またエマがくすくすと笑っていた。






 それからさらに二日後、私がハウル村の集会場で道具を直していたら、急に外が騒がしくなった。


 なんだろうと思ってエマと顔を見合わせたら扉が開いて、知らない人がすごい勢いで怒鳴り込んできた。


「ろくでもない鍛冶仕事をしてるっていう、インチキまじない師はどこだい!?」


 ものすごい剣幕で飛び込んできたのは、真っ赤な髪をした体格のいい女性だった。手には刃のかけた斧を持ち、ギラギラ輝く目で集会所の中を見回している。


 エマと私は女性の剣幕と怒鳴り声に驚いてしまい、固まって動けなくなってしまった。だけど女性がじろりとこちらを睨んだ瞬間、エマは「ふぇっ・・・」と顔を歪めた。エマのきれいな目から涙がこぼれる。






 私はエマの泣き顔を目にした途端、自分でも抑えきれないくらいの魔力と感情の高まりを覚え、頭が真っ白になった。


 この人、エマを泣かせた。私の大切なエマを。エマは何も悪いことしていないのに!!


 喉の奥から熱い塊がせり上がってくる。私の魔力が急速に高まったことで、周囲の空気がビリっと震えた。


 そうだ、消そう。消してしまおう。私のエマを傷つけるような人間はいらない。私が軽く息を吹きかけるだけで、この人間はこの世界から消える。エマの敵はすべて私が消し去ればいいんだ。


 目のくらむような怒りとともに、私は喉の奥にある高熱の火球を目の前の人間に叩きつけようと、鼻から大きく息を吸い込んだ。






 私が怒りに任せ、力を解放しようとしたとき、エマの小さな手が私の手をぎゅっと握った。


「ドーラおねえちゃんダメ!怒っちゃやだよ!」


 エマは目に涙をいっぱい貯め、青ざめた顔で私の顔を見上げていた。怯えるエマを見て、私の怒りは溶けるように消え、喉の奥にあった熱い魔力の炎がたちまち散り散りになった。


 エマの手は小さく震えていた。私はしゃがみこみ、エマをぎゅっと抱きしめた。エマの心臓の音がいつもよりもずっと速く聞こえた。


「エマ、ごめんね!!怖がらせてごめんね!!」


 私の目から涙が溢れ、虹色の粒になって地面に落ちた。エマも私にぎゅっと抱きついてきた。


 しばらくするとエマの心音が次第にゆっくりになっていく。やがてエマは私の頭をゆっくりと撫でてくれた。


 気持ちが穏やかになるにつれ、私はさっきの恐ろしい怒りを思い出しゾッとした。自分にあんな強い感情があるなんて今まで知らなかった。私、どうかしちゃったのかしら?







「あの・・・。」


 私が自分の怒りに恐れを感じていると、赤い髪の女の人が恐る恐る私たちに声をかけてきた。私は彼女をエマに近づけないように体の後ろに隠し、彼女の顔をキッと睨んだ。


「い、いや悪かったよ。まさかこんな小さい子が中にいるなんて思わなかったもんだから・・・。驚かせちまって、本当にすまねえ。」


 女の人はその場にしゃがみこむと、大きな体を小さくして私とエマに謝った。するとエマが私の腕からするりと抜け出し、涙を両手でぐしぐしと拭くと、女の人に笑いかけた。


「びっくりしちゃったけど、もう大丈夫。私のお父さんもすっごく声が大きいの。私はエマよ。こっちはドーラおねえちゃん。お姉さんはだあれ?」


 エマがそう尋ねたとき、騒ぎを聞きつけたグレーテさんとマリーさんが集会場に飛び込んできた。グレーテさんはエマと女の人から簡単に事情を聴いた。


 その後、グレーテさんの提案で、私たちは集会場のベンチに座って女の人の話を聞くことになった。






「あたしはノーザンの『鍛冶術師』でフラミィってもんだ。今はまだ親父の下で修業してる身だが、もうじき一人前の証をもらえることになってる。」


 ノーザン村はこの辺りでは一番大きな村で、鍛冶術師をはじめ、いろいろな職人が集まっている。そのため近隣の村々から多くの人が仕事の依頼に訪れるそうだ。


 フラミィさんのお父さんはノーザンで一番腕のいい『鍛冶師』で、村の鍛冶師たちの『親方』をしている。


「あたしは生まれたときからこの通り、火の魔力の加護が強くてね。女の身だが親父に弟子入りして、ずっと修業をしてたのさ。」


 彼女はきっちりとまとめた赤い髪を触りながらそう言った。普通の鍛冶師と違い、魔力を使って火の温度を上げたり素材の状態を見極めたりできる鍛冶術師はとても貴重な存在だ。そのためフラミィさんは次の親方候補として特に厳しく育てられた。


 もともとの鍛冶師としての才能に加え、火の魔力の加護のおかげで、フラミィさんはめきめきと力をつけていった。それは彼女の誇りでもあった。だが。


「この間のことさ。村に来た連中があたしら鍛冶師のことをインチキ呼ばわりしやがったのさ!!」


 ハウル村にいるまじない師はたった40ドーラで、どんな金物だってあっという間に直してしまう。それに比べ何日も時間をかけて、おまけに高い代金をとる鍛冶師の連中はインチキ野郎だ。競争相手がいないのをいいことに料金をふんだくってるに違いない。


 そんな噂が広がり、鍛冶師の工房の客足が目に見えて少なくなった。困惑する鍛冶師たちを、親方であるフラミィさんのお父さんは「下らねえ噂だ。俺たちは自分の仕事をきっちりやりゃあいい」と一喝した。






 だがフラミィさんは納得がいかなかった。まじない師は刃物の切れ味を良くしたり、長持ちするようにしたりする程度の魔法を使えるのが関の山。


 なのにハウル村のまじない師は炉も槌も金床も使わず、あっという間に欠けた刃を元通りにするという。確かに最初にまじない師のことを伝えた大工たちの道具は、新品同様になっていた。


 だが、そんなことができるなんて、魔法を使って鍛冶仕事をしているフラミィさんにはどうしても信じられなかった。だから、これにはきっと何かからくりがあるに決まっている。そう考えた。


 きっとまがい物の材料を使って、見かけだけよく見せているに違いない!インチキ野郎は、ハウル村のまじない師の方じゃないか!!


 そう思うと居ても立ってもいられなくなった。自分の誇りを傷つけられたと思ったフラミィさんは、周囲の制止も聞かず村を飛び出し、ここまでやってきたのだそうだ。






「あたしはそのインチキ野郎に用があってきたのさ。さあ、どいつがそのまじない師なんだい?さっさとここに連れてきておくれよ!!」


 話しているうちに怒りを思い出してしまったらしく、大きな声でフラミィさんはグレーテさんに詰め寄った。グレーテさんとマリーさんは困ったように顔を見合わせた。


「ねえフラミィお姉ちゃん、ドーラおねえちゃんなら、さっきから目の前にいるよ。ハウル村のまじない師はドーラおねえちゃんだけだもの。」


 エマがそう言うとフラミィさんは口をあんぐりと開けて私の方を見た。


「ど、どうも。私がハウル村のまじない師のドーラです。」


 私がぺこりと頭を下げると、フラミィさんは突然私の手を取った。


「あんたが?こんなすべすべのきれいな手で鍛冶仕事を?それにこんな細い腕じゃ槌も持ち上げられっこない!あたしをからかわないでおくれ!!」


「ドーラおねえちゃんはすごく力持ちだよ。ね、お母さん?」


 こくこくと頷くマリーさんとグレーテさん。フラミィさんが驚いたように私の方を見る。私はいたたまれなくなって、曖昧に微笑んだ。






 疑わしそうなフラミィさんを納得させるため、私たちは森に出かけた。


「おお、ちょうどよかった。すまんが丸太を持ち上げるのを手伝ってもらえないか?」


 アルベルトさんがそりから滑り落ちた丸太を指して言った。そりを引いているときに六足牛が急に暴れだして、そりがひっくり返ってしまったらしい。多分さっきの私の怒りを感じ取って、怯えたのだろう。


 私はまだ興奮している六足牛に「怖がらせてごめんね」と話しかけて、首のあたりを優しく撫でた。怯えていた六足牛が次第に落ち着いていき、私に顔を擦り付けてきた。


 私は丸太を両手でひょいっと持ち上げて脇に置くと、傾いたそりを並べられた円筒形の丸太の上に乗せ直した。そりに丸太を載せ、六足牛に「お願いね」と声をかけると、六足牛は嬉しそうに鼻を鳴らし川に向かって歩き出した。それを見たフラミィさんは目玉が落ちるかと思うくらい目を見開いていた。


「おお、ドーラが来てたのか!なあんだ、もう終わっちまってじゃないか。」


 森の方からフランツさんたちがやってきた。アルベルトさんが傾いたそりを起こすために応援を呼んでいたらしい。







「ああ、ちょうどドーラが来てくれてな。呼び戻してすまんかったな、フランツ。」


「いえ、いいんですよ。親父さん。」


「!! ちょ、ちょっと待った!!待っておくれ!!」


 また森に帰ろうとするフランツさんをフラミィさんがすごい声を上げて呼び止めた。


「なんだ、フラメールのところの娘じゃねえか。お前なんでこんなところに?」


「そんなこと、どうだっていいだろう!それよりその斧・・・!!!」


「ああ、これか。刃が欠けちまったんだがな。ドーラがまじないで直してくれたのさ。・・・売らねえぞ。」


 斧を守るように体の後ろに隠すフランツさん。でもフラミィさんの勢いは凄まじく、フランツさんはすぐに斧を持つ手を掴まれてしまった。フランツさんの斧をまじまじと覗き込むフラミィさん。


 次の瞬間、フラミィさんは私のところに猛然と走ってくると、私の足元にひれ伏した。


「ドーラさん!!」


「は、はい!」


「私を弟子にしてください!!」


 私は状況が全く理解できず、途方に暮れて辺りを見回した。だがその場にいるみんなも困惑した表情で立ち尽くすばかり。


「よく分からないけど、よかったね、ドーラおねえちゃん!!」


 困惑する大人たちの中で、ただエマだけはすごくいい笑顔で私にそう言ってくれたのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   木こり見習い

   土木作業員(大規模)

   大工見習い

所持金:203D(王国銅貨43枚と王国銀貨4枚)

読んでくださった方、ありがとうございました。

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