163 窮地
ほのぼの成分が足りない。早く戦いを終わらせたいです。
雪が舞い散る冬の森に美しい金色の光が広がり、木々に積もった白い雪をキラキラと輝かせた。
両手を繋いで向かい合ったまま、上空からゆっくりと下降しながら、ミカエラはイレーネに「うまくいきましたわね」と言った
イレーネはそれににっこりと微笑むことで応えた。今のこの気持ちを言葉で言い表すことができなかったからだ。
眼下に広がる神秘的な美しさ。命懸けの魔法を成功させたことによる安心。そして心を通わせた友と協力して困難を乗り越えた喜び。
そういう気持ちが大魔法を行使した後に特有の高揚感とない交ぜとなり、次々と沸き上がってくる。彼女はあふれる涙を拭うこともせず、風に身を任せた。
体から魔力が失われたことで急速に眠気がやってくる。この後、襲ってくる魔力枯渇による猛烈な吐き気と激しい頭痛を思えば、本当は今、気を失った方がよい。
でも彼女はそうするのが嫌だった。今この瞬間をしっかり心に焼き付けておきたい。この時が永遠に続けばいい。そう強く思った。
ミカエラの目を見ると、彼女もまったく同じ気持ちであることが分かった。彼女はミカエラの手を握る両手に、ぐっと力を込めた。
カールたちが敵陣に接近する寸前、二人は《不可視化》と《飛行》の魔法を使い、密かに上空へと舞い上がった。
もっとも《飛行》を使ったのはミカエラで、イレーネは彼女に抱きかかえられていたのだけれど。
ほとんどまともな使い手がいないはずの《飛行》の魔法をミカエラが上手に使いこないしていることに、彼女は驚きを隠せなかった。
ミカエラにそのことを尋ねると、ドーラやエマと一緒に練習したのだと教えてくれた。それを聞いたとき、彼女は胸の中がもやもやするような気持ちになった。その気持ちの正体はエマに対する嫉妬心だったのだけれど、交友経験の少ない彼女にはそれを自覚することができなかった。
恥ずかしいような嬉しいような気持ちでミカエラに抱きかかえられながら、私も《飛行》の魔法を練習しようと彼女は思った。
敵陣の中央付近まで進んだところでミカエラは二人に《落下速度軽減》の魔法を使い、《飛行》の魔法を解除した。
そして二人は互いに両手を掴んでゆっくりと降下しながら《退魔の螺旋》の呪文を詠唱したのだった。
全身に満ちた魔力が一気に放出されるときの恍惚とする感じを噛みしめるように味わいながら、彼女はミカエラの目を見た。透き通った碧玉の瞳が涙に濡れている。彼女の目も同じように濡れていることだろう。彼女はそれがたまらなく嬉しかった。
金色の光が薄れるにつれ戦場の様子が見え、地表がゆっくりと近づいてくるのが見える。雪の上には操られていた人々が折り重なるように倒れていた。
二人の魔力が一つに溶け合い生み出された光の中で、彼女は夢を見るような気持ちで意識を手放した。
カールは散発的に襲い掛かってくる白覆面たちを鎧袖一触で斬り捨てながら、横目でミカエラたちの様子を確認した。二人の落下地点には衛士たちが待ち構え、盾で小さな円陣を作っている。
衛士たちは二人の少女を守るため、真剣な表情で武器を構え盾を掲げていた。
もっともそちらへ攻撃を仕掛ける白覆面は、今のところいない。それどころか動揺し、まともに動けなくなっている者がほとんどだった。見たこともない魔法で民の支配を解かれた上に指揮官を失ったことで、彼らは酷い混乱状態になっていた。
最初に指揮官と思しき白覆面を討ち取ったことが功を奏しているようだ。麦を刈り取るように容易く、カールは白覆面たちの命を奪っていった。そして敵が最後の一人になった時、その男の足を後ろから素早く斬りつけた。
足の腱を断ち切られた白覆面の男がつんのめるようにその場に倒れる。その拍子に白い覆面が剥がれ落ちて、顔が露になった。テレサと同じ浅黒い肌と真っ黒い髪をし、ひげを蓄えた男の眼前に、カールは剣の切っ先を突き付けた。
「聞かれたことにだけ答えろ。他の仲間はどこにいる?」
「邪神を信奉する邪教徒などに話すものか! 地獄で呪われ・・・ぐぅっ!!」
男が罵り言葉の途中で呻き声を上げた。カールが剣の切っ先を無言で男の肩口に突き立てたのだ。
「聞かれたことにだけ答えろ。他の仲間はどこにいる?」
カールは顔色一つ変えることなく、再度男に問いかけた。男はそれでも答えず罵り声を上げた。カールは黙って血の滲む男の肩を、長靴の踵で踏みつけた。男がたまらず悲鳴を上げると、カールはまた同じ質問を繰り返した。
その後、男は全身を切り裂かれたが、しかしいっこうに話そうとはしなかった。カールへの呪いの言葉を吐いて、男は不敵に笑った。すでに虫の息となった男は、自分が神を裏切ることなく死ねることを嬉しく思った。
カールはふうっと息を吐きだし剣を収めた。ついに諦めたかと思った男の目の前で、カールは回復薬を懐から取り出した。振り掛けられた回復薬によって男の傷がたちまち癒えていく。
男の顔が恐怖に歪んだ。そんな男を何の感情もない目で見つめながら、カールは再び剣を男の眼前に突き付け、彼に問いかけた。
「聞かれたことにだけ答えろ。他の仲間はどこにいる?」
カールは哀れな男にとどめを刺し、衛士たちのところに向かった。
操られていた人々はすでに意識を取り戻していた。自分の状況に混乱し、ひどく衰弱して体調を崩している者がほとんどだったが、数人を除けば何とか歩いて移動できそうだという。
「ではお前たちは歩けない者を運びつつ、ハウル村へ帰還してくれ。どうやら北のノーザンに奴らの拠点があり、そこから増援がやってくるようだ。私は奴らが来る前に、この堰を破壊する。」
「カール様! お一人でこんな巨大な堰を破壊できるわけがありません。我々もお手伝いします。」
年長の衛士がそう申し出たが、カールは断った。
「ミカエラ様たちのこともある。お前たちはお二人を一刻も早く安全な場所に連れて行ってくれ。頼む。」
「カ、カール様・・・!!」
深々と頭を下げたカールを、衛士たちは驚きの目で見た。そしてすぐに「分かりました。すぐに移動を始めます」といってそれぞれの持ち場へと動き始めた。
しかしその時、上空から詠唱の声が響いた。
避難しようと動き出した人々の前に巨大な火球が出現し彼らの頭上を移動し、カールめがけてゆっくりと落下してきた。
「伏せろ!!」
叫びを聞いてさっと体を伏せる人々の間を走り抜け跳び上がると、カールはドーラの魔法剣で巨大な火球を二つに切り裂いた。その瞬間、火球は膨れ上がって爆炎を噴き上げながら消滅した。
カールは爆風に煽られ地面に叩きつけられたが、避難民たちは軽い火傷を負っただけで済んだ。
「カール様!!」
衛士たちが倒れたカールに駆け寄るが彼はすっくと立ちあがり「お前たちは早く行け!」と怒鳴った。
目を守ったため手足に火傷を負い、服の焼け焦げたカールの酷い様子を見て戸惑う衛士たちを、年長の衛士が叱りつけた。
「カール様の邪魔をするな! 民を守りながら、全速で離脱する! 急げ!!」
カールが衛士の方を見ると、彼ら泣きそうな顔で頷いて避難民を守りつつ後退を開始した。カールは上空に静止してこちらを見つめている黒い半仮面をつけた黒衣の女に向き直った。
「《業火球》の魔法を切り裂くなんて、本当に呆れた奴ね。やっぱりその剣がお前の力の秘密なのかしら?」
カールは黙って女の様子を観察した。不敵な笑みを浮かべてはいるが、その目はカールの持つ魔法剣を油断なく見つめている。今いる高さも、以前戦った時よりもずっと高かった。表情とは裏腹に、女は明らかにカールと魔法剣を恐れているようだ。
カールが無言のまま見つめていると、女はがらりと口調を変えて彼に言った。
「お前の力、悔しいが認めざるを得ない。お前は危険だ。だからここで確実に殺す。」
女の体から黒い炎が吹き上がり女を包み込んだ。炎が消え異形の姿が露になる。
以前、女はウェスタ村でカールが戦ったのと同じ複合獣の姿をしていた。長い銀髪の間から覗くねじくれた2本の角、猛禽の黒翼、黒い羽毛に覆われた胸と下腹部、そして鋭い針を持つ爬虫類の尾。
ただ一つ異なるのは、左の手足だった。以前は左右両方とも鋭い鉤爪を持つ猛禽のそれだったはずだが、今の女の左手足は黒と金の縞模様の短い毛が生えた蜘蛛のものに変わっていた。5本の手指もあるものの、節のある見た目からまるで脚を広げた蜘蛛のように見える。
「民を操っていたのは、やはりお前だったのだな。」
カールの問いかけに対し、複合獣の女は半仮面越しに彼を見た。爬虫類の虹彩を持つ瞳がぎゅっと小さくなる。
「操っていたのはあの覆面の人間どもだ。《支配の呪言》とかいう魔法を使ってな。私はただ人間たちの意思を奪うために力を貸しただけ。それをこうも容易く打ち破られるとは思わなかった。」
「・・・やけに素直に話すじゃないか。」
「さっきも言っただろう。お前の力を認めると。慢心はしない。」
カールはこの言葉を聞いて内心、舌打ちをした。これまでの戦いから、力量は相手の方が遥かに上であることが分かっている。攻撃を凌ぎ、相手を追い詰めることができたのも、相手がこちらを取るに足らないと油断してくれていたことが大きい。
しかし先程から敵は彼の間合いに絶対に入ってこようとしない。民を魔法で追撃しないのも、詠唱中の隙を突かれることを警戒しているからだ。
カールとしてみれば女を攻撃するより民を守る方が優先なのだが、人を人とも思わないこの女にはその発想がないのだろう。最初の業火球にしても不意打ちでカールを狙ったもので、避難民など眼中にもなかったに違いない。
咄嗟に魔法剣で斬ることで爆発を抑えることができたが、あれを上空から何度も民に向かって撃たれたらカールには手の出しようがない。服の下にドーラの作った魔法の下着を着けていたため、見た目ほどひどい傷を負ってはいないのが幸いだった。負った傷は今もドーラの魔法剣が少しずつ癒してくれている。
女はそんなカールの思いを知ることもなく、カールだけを見つめて憎々し気に言葉を口にした。
「人間は矮小で脆弱な生き物。そこに首なしで転がっている者たちのようにな。それなのに無駄に数ばかり増えて、私たちが支配すべきこの大地に広がっていく。実に不愉快だ。」
女は言葉を切ると、一転して愉快そうに唇の端を上げた。
「だが数が多いということが役に立つこともある。こんな風にな。」
女が蜘蛛の腕をさっと上げる。見えない糸の攻撃を警戒したカールだったが、何も起こらない。
しかし直後、背後からの気配を感じて彼はその場を飛び退き、剣を振るった。カールに後ろから襲い掛かろうとしていた首なしの死体が胸を切り裂かれて、その場に倒れる。
だが死体は大きく切り裂かれた胸から血を滴らせながら、再び立ち上がった。女がニヤリと笑った。
「思った通りだ! その剣は人間に対しては効果が薄いようだな!」
女の声に応じるかのように、カールに斬られた白覆面たちの死体が次々と起き上がる。彼は一瞬にして周囲をすっかり取り囲まれていた。
ドーラの魔法剣は《誓約》の魔法によってカールと強く結びついている。カールが剣を振るって死体の血に触れた瞬間、魔法剣が悲鳴を上げるのがカールにははっきりと分かった。
もともとこの魔法剣で人間を斬ることはできない。斬ろうとしても刃が寸前で止まってしまうのだ。だから人間と戦う時は愛用の片手剣を使っていた。
しかし首なしの死体は魔法剣で斬ることができた。おそらく命のない存在だからだろう。ただその血は魔法剣にとっては猛毒だったようだ。それはカール自身にも激しい痛みとなって伝わってきた。
首なし死体たちは手に鎚鉾や星球棍、連接棍などを手にし、カールに一斉に襲い掛かってきた。カールは咄嗟に魔法剣を地面に突き立てると武器を片手剣に持ち替え、それに応じた。
カールは死体たちの手足を切り落とし応戦するが、切り落とした部位にはすぐに黒い毛の生えた虫の手足のような物が再生してしまう。心臓を攻撃しても同様にすぐに傷が塞がってしまうので、まったく効果がなかった。
ただ再生するのには多少時間がかかるようで、それで何とか攻撃を凌ぎ続けることができている。といっても周囲にはおよそ100体の首なし死体。包囲を抜けることは不可能だった。
カールはじりじりと追い詰められ、首なし死体たちによって魔法剣から遠ざけられていった。
「封印されし深き闇よ。我が魔力によりて深淵より来たり、怨敵を滅する一撃を成せ。《不浄の毒矢》」
カールが魔法剣から離れるのを狙いすましていたかのように、上空から複合獣の女が魔法を放った。禍々しい黒色の瘴気を纏った矢が、カールに飛来する。
あの魔法はまずい! カールは直感的にそう判断するや否や、無我夢中で剣に呼び掛けていた。
「剣よ、我が手に戻れ!」
体に矢が刺さる直前、呼び掛けに応えて左手に収まった魔法剣で、彼は矢を防ぐことができた。右手の片手剣で首なし死体と戦い、左手の魔法剣で盾のように攻撃を防ぐ。彼は二本の剣を器用に使い分けることで、辛うじて致命傷を避けようと立ち回った。
「どこまでも忌々しい奴。しかしそんな付け焼刃がいつまで通用するか、見物だな!!」
吐き捨てるようにそう言った女は、また魔法を放ってきた。周囲を包囲された状態で女の魔法を防ぐのは至難の業。彼の体を首なし死体たちの攻撃がかすめる。
殴打武器の攻撃をまとも一撃でも喰らえば、人間の骨など容易く砕けてしまう。カールは紙一重で致命傷を避けているが、女の言う通り苦し紛れの二刀流ではこの状況を脱することは難しい。
せめて何か足場があれば上空の女に攻撃を仕掛けられるのだが、女は前回の敗北の経験から決して彼の間合いに入ってこようとはしなかった。
絶望が沸き上がってきそうになるのを、カールは左手の魔法剣を強く握ることで振り払う。魔法剣は少しずつだが、今もなお彼の体の傷を癒してくれているのだ。カールはそれにドーラの心を感じ取り、心を奮い立たせた。
しかしだからと言って状況が好転するわけではない。何か一つ。一つでもきっかけがあれば。
カールは逆転の糸口を必死に探す。だがそれは全く見えなかった。もうじき夕闇が森を閉ざすだろう。暗闇の中で今と同じように戦い続けることは難しい。更に、こうしている間にも川の堰には水が貯まっていっているのだ。
迫りくる時間と襲い掛かる敵。周囲の状況すべてに追い詰められた彼は、それでもあきらめずただ一人、剣を振るい続けたのだった。
「な、なんだこいつら! いったいどうなってやがる!!」
ハウル村冒険者ギルド長のガレスは、目の前の光景に思わず声を上げた。
ミカエラたちが《退魔の螺旋》の魔法を成功させたのとちょうど同じ頃、村の女子供を避難させるためハウル街道を南下中のペンターたち一行は、森の中で襲ってきた白覆面の集団と交戦した。白覆面たちは手強い相手だったが、森の中での戦いには一行を守る冒険者たちの方に一日の長がある。
ガレスたちは森の地の利を巧みに生かして白覆面たちのほとんどを撃退することに成功した。逃げ出そうとした者たちも、野伏たちの仕掛けた罠によってすべて捕らえることができたのである。
戦いで傷を負った者もいたが、幸い死者を出さずに戦いを終えることができた。こと生き残るということにかけては、冒険者の右に出る者などほとんどいないのだ。
傷を村から持ってきた回復薬で癒し、倒した敵を街道の脇に避けてから、捕らえた者たちをどうするか話し合っていた時に、それは起こった。
縛られていた浅黒い肌の僧兵たちが突然苦しみ始め、次々と悶絶死していったのだ。
その光景を目にした村の女性たちが悲鳴を上げ、子供たちを抱きしめてその目を塞いだ。しかし続いて起きたことには女たちだけでなく、ガレスをはじめとする冒険者たちも声を上げて驚くことになった。
なんと死んだはずの男たちが起き上がり、武器を構えて次々と襲い掛かってきたのだ。冒険者たちは応戦したが、敵は急所を攻撃してもすぐに傷が塞がり、起き上がってくる。
冒険者たちが必死の応戦を続けている間に、すでに体調の戻っていた建築術師クルベが土魔法で街道に土塁を築いたことで、辛うじて避難民たちを守ることは可能になった。それでも不死の怪物たちは倒しても倒しても襲い掛かってくる。
クルベの《石礫》の魔法と、冒険者たちの活躍により一進一退の攻防が続けられたが、疲れを知らない不死者との戦いに、冒険者たちはじりじりと追い詰められていった。
そんな折、また一人の不死者が防塁に取り付いた。それを撃退するため斧を持って向かった木こりの男たちに、突然鍛冶術師フラミィが叫んだ。
「体を伏せな!!」
その声が終わらないうちに、不死者の体が突然爆炎を噴き上げて爆発した。伏せるのが間に合わなかった男たちは、爆炎に吹き飛ばされ地面に倒れた。男の家族が悲鳴を上げる。
防塁があったことで男たちはかろうじて命を取り留めたものの、全身に酷い火傷を負っていた。すぐに魔法の回復薬による治療が行われる。
しかし爆発によって壊れた防塁から、次々と不死者が侵入してくる。冒険者たちは他の不死者と戦っているため、駆けつけられない。防塁を乗り越えた不死者たちは女子供に襲い掛かってきた。
「くそっ!! みんな下がれ! 子供を守るんだ!!」
大工の棟梁ペンターはそう叫ぶと、仕事道具である大鉈を担いで不死者たちの前に立ち塞がった。
「ここから先は一歩も行かせねえぞ! 来い、化け物ども!!」
ペンターが力任せに振り回した大鉈は、不死者の振るう鎚鉾を両腕ごと吹き飛ばした。しかしそれで大きく姿勢を崩してしまうペンター。そんな彼にめがけて、他の不死者たちは一斉に武器を振り下ろした。
「あんた!!」
フラミィの悲痛な叫びが森に響きわたった。ペンターの徒弟たちが「親方を守れ!!」と必死に駆けつけるが、とても間に合いそうにない。誰もがペンターの無残な死を覚悟した。
その時、突然、ペンターを取り囲んでいた不死の怪物たちの体が細切れになって弾け飛んだ。驚いて声を上げる村人たちが見たのは、白く輝く刀身の太刀を持った一人の男の姿だった。
彼は無造作に束ねた茶色い髪を払いながら太刀を構えると、防塁に押し入ってくる不死者たちに向かって名乗りを上げた。
「王国の民を害する不浄の怪物どもよ。このニコラス・サローマが引導を渡してやろう。覚悟するがいい。」
王都領南部を守護する伯爵にして無双の剣士であるニコラスの言葉に応じるかのように、彼の太刀が白く輝いた。
読んでくださった方、ありがとうございました。