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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
166/188

160 脱出

もっと上手に書きたいなー。

 エマが大砂虫と戦った日の夕方、ハウル村にやってきた灰色装束の男たちによってもたらされた知らせは、村を守るバルドンたちを戦慄させた。


「敵はドルーア川を溢れさせて、この村を押し流すつもりだと!?」


「今、私の仲間がそれを確認するために、再び上流へと向かっております。ハウル街道を封鎖している者たちがいなくなっているようですので、おそらく明日の朝には知らせが届くはずです。」


 カールが無事だったという知らせに皆は胸を撫でおろしたものの、淡々と話す覆面姿の男をその場にいる者たちは信じられない思いで見つめた。






 ドルーア川は川幅が広く流れが穏やかだ。南から吹く風によって平底帆船が上流へ遡上できるのもそのおかげ。春先の雪解け時期に多少水量が増えることはあるものの、これまで川が溢れたことなどほとんどない。


 大地母神の聖気を含み、流れの穏やかなドルーア川は王都領に恵みをもたらし、人々の暮らしを守ってきた。そのドルーア川を溢れさせるなど、神への冒涜にも等しい行為だ。


 それに水量が多く川幅の広いドルーア川の水を堰き止めるのは、容易いことではない。こんな状況でなければ一笑に付すようなことを現実の危機として突き付けられ、彼らは途方に暮れた。そして、村の渡し舟と川港の管理を任されているアクナスを見つめた。


 アクナスは「川の様子を見に行ってくる」と言って部屋を出ていき、またすぐに戻ってきた。






「流れにはさほど変化はないが、水量は少なくなってる! この人の言うことは本当かもしれない!」


 アクナスは青い顔で戻ってくるなりそう叫んだ。彼の渡し舟は今も川港に係留されたままだ。それがいつもよりもやや低くなっていたという。今にも泣きそうな彼を慰めつつ、村長のフランツが言った。


「バルドン様、何か対策はないんですかい?」


「私も水利のことは専門外だ。クルベ老師か、ミカエラ様がいらっしゃればよい方策が見つかるかもしれないが・・・。」


 彼は眉を寄せて考え込んだ。クルベとミカエラは二日前に魔力の衝撃波を受けて以来、まだ体調が戻っていない。今も酷い頭痛と吐き気に悩まされ、床に臥せっている状態だ。相談に乗ってもらうことくらいは出来るかもしれないが、実際の対策をとるのは難しいだろう。






 皆が途方に暮れ黙り込む中、その沈黙を破ってフランツが言った。


「バルドン様。南門側の包囲は薄くなってるんですよね。」


「ああ、敵の作った仮の防塁は残されているが包囲していた者たちの姿は見えなくなってる。どこかに潜んでいる可能性はあるがな。まさかお前・・・。」


「はい。今のうちに避難したい連中を集めて、南のサローマ領へ行かせようと思います。」


 皆は沈痛な面持ちでフランツを見た。避難のことは皆も考えていた。しかしここで避難すれば村を捨てることになる。


 彼の妻子、マリーとデリア、アルベールは現在行方不明なのだ。ここで村を捨ててしまうということは、家族のことを諦めるということに他ならない。皆の顔を見まわして、彼は言った。






「勘違いしないでほしい。俺は村を捨てるつもりはない。俺は最後までこの村を守る。ドーラもいるしな。だからガレスさん、あんたに村人の避難の護衛を依頼したい。依頼料はここにある。」


 彼はそう言って懐から取り出した皮袋をガレスに差し出した。


「これは俺が預かっていた村の金だ。これで村の連中を安全なところまで連れていってくれ。」


「フランツ、おめえ・・・。」


 ガレスは皮袋とフランツを何度も見た後、上を向いて目を瞬かせた。そして鼻をぐすっとすすってから、フランツの両手を取った。


「ああ、分かった。冒険者おれたちが村人を必ずサローマ領まで連れて行く。」


 フランツはガレスと目を合わせしっかりと握手をした後、寂しそうに笑った。そして「村の連中に話をしてきます」と言って部屋を出ていった。


 その後、残された者たちで村民の避難に必要なことや、誰が村に残るかなどを話し合った。






 翌朝、夜明けと共に村民の避難が行われることになった。避難民の代表を務めるのは大工の棟梁ペンターだ。彼は「この村の建物を作ったのは俺たちだ。それにドーラさんを置いて行けるかよ!!」と言ってその役を引き受けるのを渋った。


 しかしフランツに「おめえが死んじまったら、逃げた連中はどうやって家を建てればいいんだ。俺の代わりに皆を頼む」と説得され、引き受けることにしたのだった。


 避難民は村の女性や子供たちとペンターとフラミィ鍛冶工房の徒弟たち、カフマン商会や宿屋で働いていた者など合わせて、総勢500名ほど。それをガレスとマヴァール率いる冒険者たちが護衛として同行することになった。


 さらにけがを負ったり衰弱したりして動けない者たちを荷車に載せて運ぶために、村の男たちのおよそ半分が行くことになった。フランツは結婚したばかりで小さい子供のいる家庭の父親を選んで、その役を任せた。まだ体調の戻らない建築術師クルベも、彼らの引く荷車に寝かされていた。





 皆は南門に集まり、避難していく者たちとの別れを惜しんだ。見送りをする人々の中には、青白い顔をしながらも気丈に振る舞うミカエラの姿があった。


 バルドンやフランツは彼女に避難することを強く勧めたが、彼女はそれを頑強に拒んだ。


わたくしはバルシュ家当主として陛下からこの村のことを任されています。村を守る兵士を残して、責任者である私が逃げることなどあってはなりません。それにドーラさんもエマさんもいない今、土人形ゴーレムたちを動かせるのは私だけです。私は最後まで戦います。」


 病み上がりの彼女はきっぱりとそう言うと、侍女であるジビレに手を借りて村人の見送りに参加をしたのだった。






 冒険者たちが先行して街道の安全を確認しているものの、いつどこで敵の襲撃に遭うかもしれない。皆、それが分かっているから、緊張した面持ちで僅かな手荷物をしっかりと抱えている。


 大人の緊張が子供にも伝わったのか、子供たちも息を詰めて親にしがみついている。ほとんど混乱することなく、ハウル村の避難民たちは静かに村を出ていった。


 フランツはそれを見送りながら、本当にこの選択でよかったのかと自分に問いかけていた。


 敵は得体の知れない魔法を使う連中だ。もしかしたら包囲を解いたと見せかけ、村人を一網打尽にする策の可能性もある。だから十分にその危険を検討し対策もとった。それでもまだ万全というわけではない。


 やはり村から出さないほうがよかったかもしれない。このまま皆で村に残っていた方が生き残れるかも。何度そう思ったか分からない。


 しかし最終的に彼は村民の避難を決めた。決断の決め手になったのは川を溢れさせるという敵の企みが本当だった時の被害の大きさを考えたからだ。そしてそれ以上に現在、秋祭りの広場で破壊の力に封じられているドーラの存在が大きかった。






 ドーラを取り巻く破壊の力は今や刻一刻と広がりつつあった。はじめは大人が両手を広げたほどの大きさだった光の柱は、今では破壊された広場すべてを呑み込み、火災で廃墟となった建物をも侵食しつつある。


 ドーラ自身の姿も光に飲み込まれ、その存在を確認することはすでにできない。しかしドーラが必死に魔力の結界を維持し、広がり続ける破壊の力を抑え込もうとしているということはミカエラを始め、魔力を持つ人々が皆が断言していた。そしてそれがいつ崩壊してもおかしくないということも。


 だからと言ってドーラをここに置いたまま村を離れることなど、出来るわけがない。ドーラは村を守るため必死になっている。そんなドーラを村長である俺が守らずにどうするのか。きっとアルベルトの親父さんも俺と同じことをしたはずだ。


 フランツはそう自分に言い聞かせた。そして心を過るマリーや子供たちのことを心の底に封じ込め、ドーラの作ってくれた魔法の斧を握る手にぐっと力を込めた。






 村民の避難が完了して間もなく偵察に出ていた灰色覆面の仲間が、そしてそれに続くように姿の見えなかったリアとカールが村に戻ってきた。


 カールの服は酷い有様だったが傷の方はもうだいぶ癒えていて、リアの手を借りなくとも行動できるくらいに回復していた。もちろんこれはドーラの魔法剣のおかげなのだけれど、カール以外にはそのことは分からない。


 自分を心配するリアを宥め、カールは村を守る者たちとの話し合いに参加した。


「カール様の発見した通り、岩場がせり出し川岸の狭くなったところで奴らは川を堰き止めようとしているようです。川底に沈めた足場に船を座礁させて、仮堰を作る計画のようです。ノーザン村の川港を始め、王都からもそのための船を運んでいるようでした。」


 偵察に出ていた男が調べたことを彼らに話した。






 このための工事に駆り出されている周辺の村人たちはおよそ1000人。全員が何らかの力によって操られているらしく、一言も言葉を発することもなく、凍り付くような寒さの中で川の中に入って黙々と作業を続けているという。


 明らかに体調を崩しているように見えるにも拘らず、彼らは休む様子もなく動き続けているそうだ。


「最低限の食べ物は支給されているようですが調理をした様子もありません。周辺の村々からかき集めてきた冬の貯えを食べさせているのでしょう。」


「そんな状態で働かせ続けたのでは命に係わることは間違いない。敵は彼らを完全に死兵として扱っているようだ。」


 村人たちはすでに限界まで追い詰められている。一刻も早く彼らを解放しなくては多くの者が死んでしまうだろう。バルドンの言葉でミカエラが険しい表情をした。






「彼らは大切な王国の民です。どうにかして救う手段はないのですか?」


「彼らを指揮する白い覆面姿の者たちはおよそ100。ですが常に分散し、村人たちの間に紛れているため、悟られずに彼らを各個撃破していくのは難しいです。気付かれれば間違いなく数で押し込まれ、こちらの勝ち目はありません。」


 偵察役の男の言葉にバルドンも自分の考えを加えた。


「敵兵が人質でもあるということです。それに敵がどういう手段で村人たちを操っているか分からない以上、下手に手を出せばこちらの手勢が相手に取り込まれる危険もあります。」


「バルドン様のおっしゃる通りです。王都より大規模な増援を出せないのも、それを警戒しているからなのです。」


 偵察役の男も悔しそうに言う。重苦しい沈黙が室内に降りた。






「・・・どうすることもできないのですか。」


 ミカエラは噛みしめるように言葉を発した。彼女の緑の瞳には強い怒りと悔しさが満ちていた。その気持ちは彼らにも痛いほど分かる。


「せめて敵がどうやって民を操っているのか、それが分かりさえすれば手の打ちようもあるのですが・・・。」


 バルドンの言葉にカールも同意する。


「私は森の中で以前ウェスタ村を襲った半獣人の女と戦いました。あの女は人の脳に直接何かを送り込み、自由に操ることができます。私があの女を倒せていたら、状況が変わったかもしれなかったのに。本当にすみません。」


 彼はそう言って深々と頭を下げた。悔しさで奥歯がぎりりと音を立てる。かつてそうやって操られたガブリエラに彼は殺されかけている。ミカエラにとってもあの半獣人の女は家族の仇であるのだ。彼女はカールに頭を上げさせていった。


「カール様は貴重な情報をもたらしてくださったのですから十分です。あの魔力の衝撃波で、村を包囲していた人々の呪縛が解けたこと。そしてカール様の情報を元に、私は敵の魔法を打ち破る方法を考えてみます。」


 彼女がそう言った時、不意に部屋の扉が開いた。






「では、わたくしもそれに協力させていただきますわ!」


「!!? 何者だ!?」


 開いた扉の前に立っていたのは、白い革のブーツに、体にぴったりとしたデザインの白い革鎧、そして白いマントという全身白ずくめの姿をした銀髪の少女だった。彼女の髪には白い薔薇の髪飾りが付けられており、鎧の胸の部分には金色の縁取りをした白薔薇が描かれている。また衣装全体にも植物を意匠にした金の装飾が施されていた。


「イレーネ様ですわよね? どうやってここに? それにそのお姿は・・・?」


「・・・ミカエラ様のお知り合いですか?」


 戸惑うミカエラの問いには答えず、彼女の同級生であるイレーネ・カッテはつかつかと彼女に歩み寄った。バルドンとカールが警戒の体勢を取るが、それを意にも介さずイレーネはミカエラの前に立ち、言った。


「王国の安寧を揺るがし、人々の生活を踏みにじる悪を滅するため、私は参りました。私のことは正義の使者、白薔薇ヴァイスローゼとお呼びください。」






 イレーネはそう言ってミカエラに手を差し出した。しかしミカエラはその手を取ることなく、おびえた顔でイレーネを見返した。


「ヴァイス・・・? イレーネ様、一体何をおっしゃっていますの?」


「そのことに関しては僕が説明しますよ。」


 そう言って突然部屋の隅から現れたのは、さらりとした銀髪を短く切りそろえた青年。彼は目を糸のように細めて満面の笑みを浮かべていた。


「ニーマンド先生!!」


 カールが魔法剣を抜き払い、青年の前に立つ。青年は魔法剣を見て一瞬、目を見開いたがすぐに笑顔に戻って言った。






「ルッツ卿、そんなに警戒なさらないでください。彼女をここに連れてきたのは私です。私は皆さんの敵ではありませんよ。」


「王立学校の教師であるあなたが、なぜここにいるのです?」


「それは言えません。ですがあなた方の危機をお救いするために来たのは間違いありませんよ。」


 そう言って両手を上げ、敵意のないことを示す青年。それを聞いてミカエラが問いかけた。


「ではお二人は私たちの味方ということでよろしいのかしら?」







 イレーネは「もちろんですわ!」と声を上げたが、青年は一瞬黙った。カールは剣をすっと彼に差し向ける。


「味方か、と言われると難しいですね。ですが敵でないことは確かです。ほらよく言うでしょう? 『敵の敵は味方』っていうやつですよ。」


「そんな言い回し、聞いたこともない。」


「ありゃ、この国にはないんですね。これは失敗。まあとにかく私はあの野蛮な連中に目的を達成されると困るんです。でも事情があって直接、連中の邪魔をできないんですよね。だからあなた方に力をお貸ししようというわけです。」


「あなたは敵のことを知っているのか!?」


 バルドンの大きな叫び声に一瞬耳を塞ぎ、顔をしかめた後、青年は言った。






「詳しく知っているわけじゃありませんけどね。でも私の計画の邪魔になるのは間違いないんです。」


「あの連中の関係者じゃないのか?」


「あんな人を人とも思わないような野蛮な連中と一緒にしないでください。私はこれでも文明人ですからね。人権意識は高いんですよ?」


「文明? 人権? 何のことだ?」


「ああ、いえいえこっちの話です。あまりおしゃべりしてると困ったことになるので、これ以上の詮索はしないでください。」


 鋭い剣の切っ先が目の前にあるにも関わらず、彼は肩をすくめながらおどけた調子でそう言った。カールはイレーネとミカエラを背中に庇い、青年に向き合った。。






「あなたを信用することはできない。このまま投降しろ。抵抗すれば斬る。」


「止めてください! 先生は悪い方ではありません!!」


 カールの言葉を聞いたイレーネは彼を止めようとしたが、それをミカエラが押しとどめた。


「ああ、大丈夫だよイレーネ。・・・じゃなかったヴァイスローゼだっけ?」


 彼は落ち着いた調子でイレーネにそう言うと、にっこりと笑いかけた。そしてカールに「二人を部屋から出してもらえませんか」と言った。


 カールは青年の笑顔をじっと見つめた後、バルドンに頼んでミカエラとイレーネを部屋から連れ出した。その間も剣は青年にぴたりと向けられたままだ。イレーネは心配そうな顔をして部屋を出ていった。






 二人が部屋を出てバルドンが戻ってくると、青年は笑いながらカールに言った。


「子供に刃傷沙汰を見せるのは、教育上よくありませんからね。」


「殊勝な心掛けだな。それで投降するのか? それとも斬られる覚悟ができたのか?」


「もちろん投降します。最初から抵抗する気はありませんよ。でもその前に一つ、お見せしたいものがあります。お願いだからいきなり斬るのはやめてくださいね。」


 カールはしばらく青年を見つめていたが、黙って彼の首に魔法剣の刃を当てた。


「おかしな真似をすれば、すぐに首を落とす。」


「それで構いません。私は皆さんとお話したいだけですから。」






 青年は片手をスッと上げる。いつの間にかその手の中に小さな水晶球が握られていた。彼が「《投影》」と一言呟くと、水晶球の中が揺らめき中に何かの映像が映し出された。それを見たフランツが叫ぶ。


「マリー!? それにデリアと、アルベールも!!」


 映像を見たカールの顔が険しくなり、剣を握る手に力がこもる。彼は静かな声で青年に問いかけたが、その声には隠しきれない殺意が満ちていた。


「これは一体なんだ? 三人に何をした?」


 三人は白っぽい服を着て白い寝台の上に寝かされていた。三人とも意識を失くしているようでピクリとも動かない。一瞬死んでいるのかと思ったが、顔色は悪くなく呼吸もしているようだ。


 ただ三人とも体に奇妙な透明の紐のようなものを付けられている。特にマリーは口や鼻にも透明な紐のようなものが入れられていた。水棲魔獣の透明な触手のような感じのようにも見える。






「あれは血・・・? まさか生き血を抜いているのか?」


 バルドンが悍ましいものを見るように顔を青ざめさせた。彼の言う通り、三人の腕や足に付けられた紐には赤い液体が流れ、傍らにある容器の中にそれが貯められているようだった。


「アルベールくんと約束したんですよ。お母さんを助けてあげる代わりに、私に協力してほしいって。彼はちゃんと協力してくれました。子供たちは眠ってるだけです。マリーさんはまだ意識が戻っていませんけど、精密・・・。」


「人質というわけか! 卑怯だぞ!!」


 青年の言葉を遮ってバルドンが叫ぶ。今にも青年に斬りかからんばかりの表情だ。カールは冷たい目で青年を見つめた。青年はふうっと息を吐きだして言った。






「三人の無事な様子を見せて、敵意がないことを証明しようと思ったんですが逆効果だったようですね。でもまあそれでもいいです。私を殺せば、あの三人も死ぬことになりますよ。どうです、私に協力してもらえませんか?」


「別に貴様を殺してから三人を救い出してもいいんだぞ。素直に話したくなるまで、徐々に切り刻んでやってもいい。」


 カールの冷たい声に、青年は困ったような目を向けた。彼が何かを言おうとした時、フランツが自分の体を青年の足元に投げ出した。






「俺にできることなら何でもする。頼む。三人を殺さないでくれ!!」


「フランツ!!」


「すまねえカール様、バルドン様! 俺はあいつらを見捨てられねえ。たとえこいつがどんなに恐ろしい奴だとしても、あいつらを助けられるなら、俺は、俺は!!」


 村長として責任を果たそうと必死に耐えていたフランツだったが、妻子の姿を見せられたことでそれが限界に達したのだった。謝りながら男泣きするフランツの姿を見て、カールは剣を納めた。






「・・・話は聞いてやる。協力もしよう。だが貴様のことは絶対に許さない。」


 カールは青年を睨みつける。青年はそれを正面から受け止め、こくりと頷いた。


「それで構いません。私は自分の目的以外には興味がありませんから、どう思われてもいいのです。では契約成立ですね。」


 青年はいつの間にか水晶玉をしまい、カールに向って片手を差し出した。カールは奥歯をぎりりと噛みしめて彼の手を握った。






「ルッツ卿、剣士らしい手をしていらっしゃいますね。」


 カールに強く握られた手を痛そうに振りながら青年が言う。それにカールが答えた。


「貴様は剣を握ったことがないようだな。」


 青年はその言葉ににこりと笑って頷いた。


「ええ、私の本職はもっと小さい刃物を握ることなんです。そっちならきっと達人であるあなたにも負けないと思いますよ。」

読んでくださった方、ありがとうございました。

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