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Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
126/188

121 新しい生活

新章です。よろしくお願いいたします。

 王立学校の入学式が終わり、私とカールさんはエマとミカエラちゃんを迎えに下に降りたのだけど、新入生は食堂で昼食を摂ることになっているとかで会うことができなかった。


 案内役の職員の人に尋ねてみたところ、普通、保護者はこのまま帰宅するものらしい。でも私はエマの付き添いで入寮することになっているので、帰るわけにはいかない。


 そのことを案内役の人に話すと、その人は私を怪訝そうな目でじろじろ見た後「職員用の通用口を通って、使用人用の通路を使って寮に入れます」とぶっきらぼうに言い、さっさといなくなってしまった。


 私はカールさんに付き添われて混雑する玄関ホールを抜け、いくつもの廊下を通りぬけて、職員用の通用口へとなんとか辿り着くことができた。


 通用口にいる守衛さんに、王様から準備してもらった身分証を見せると私は通ることができたけれど、カールさんは「関係者以外はご遠慮願います」と断られてしまった。


 カールさんは守衛さんに一生懸命掛け合ったけれどダメだった。守衛さんは「防犯上の理由でどうしても無理なんです」と困った顔をしていた。


 これ以上守衛さんを困らせるのはよくないと思った私はカールさんに「私一人でも大丈夫ですよ!」と言った。彼は私の顔を心配そうにじっと見つめた。






「ドーラさん、王立学校の中はかなり複雑です。本当に大丈夫ですか?」


 彼は「リアに使いを出して迎えに来てもらいましょう」と言ってくれたけれど、私はそれを断った。リアさんは今、エマのために準備を頑張っているはずだ。私も頑張らないと!


「いいえ。私もこの学校に慣れないといけませんから。一人で頑張ってみます!」


 とても不安そうな目で私を見つめる彼を安心させようと、私は胸をとんと叩いた。渋る彼を何とか説得し、私は一人通用口をくぐって、エマのいる第六寮を目指して歩き始めた。






「あれ、行き止まり!?どうなってるの?」


 エマたちのいる第六寮を目指していた私は、カールさんの心配した通り、迷子になっていた。通用口を出て建物の中庭沿いの小道を辿って歩いていた筈なのに、いつの間にか中央講堂へ戻ってきてしまったのだ。


 道を間違えたことに気づいた私はもう一度玄関ホールまで戻り、さっきの守衛さんがいたところに戻ろうとした。でもなぜか辿り着けない。


 同じ道を歩いているはずなのに、さっきから行き止まりや階段に突き当たってしまうのだ。私はすっかり途方に暮れてしまった。


 なんてダメなんだろう。私、こんなことで人間の学校の中でやっていけるのかしら?


 弱気が顔を覗かせ、不安で目の奥が熱くなる。でも私は頭をぶんぶんと振って、その気持ちを追い払う。こんなことではダメだ!!頑張って、私!


 入学早々、カールさんやエマに心配をかけるわけにはいかない。頑張って一人で辿り着くんだ!


 私はとりあえず誰かに道を尋ねてみることにした。もと来た道を辿ろうと歩いたけれど、なんだかどんどん人気ひとけのないところへ入り込んでいく。


 誰かいないかな。そう思って辺りを探ると、こちらに歩いてくる人の気配がした。かなり大勢いるようだ。私はそちらに向かってみた。






 廊下の角を曲がると向こうの方から剣を持ち、きれいな外套マントを着た男の人たちの一団が歩いてくるのが見えた。


 あのマントは見たことがある。確か近衛騎士っていう王様の配下の人たちだ。王様の配下の人なら親切に教えてくれるに違いない。私は彼らに近づいていった。


 近づく私に気づいた人が二人、さっと前に出て道を塞いだ。


「止まりなさい。」


「この先は学長室です。あなたは職員ではありませんね?」


 私はその場に立ち止まった。彼らは私の姿をじろじろと眺める。あれ、よく見たら近衛騎士の人達とは外套の模様が違う。間違えた!


「す、すみませんでした!」


 私はお辞儀をしてそのまま来た道を引き返そうとした。でも二人に回り込まれてしまった。






「待ちなさい。身分証を確認させてもらいます。名前を・・・。」


「まあ、待て。」


 私を問い詰めようとしていた二人を、彼らの後ろにいた人が止めた。周りの人たちよりも一段と豪華な鎧と外套を着た背の高い男の人が、二人を押しのけて私の前に出てきた。どことなく王様に似てる?いや、よく見るとそうでもないかなー。


 王様と同じくらい魔力は強いと思うけど、この男の人からは王様よりも、なんていうか荒々しい感じのする魔力を感じる。


「殿下、危険です!」


 二人が男の人を止めたけれど、男の人は片手をさっと振って二人の動きを封じた。殿下って確か、王様の子供のことだよね?


 私はすぐにガブリエラさんに教わった『女性臣下の礼』という姿勢をとった。そう言えば道や廊下で身分の高い人に出会ったら、壁に寄って軽く礼をしなさいって言われてたのをすっかり忘れてた。


 そりゃ断りもなく『殿下』にいきなり近づいて行ったら怪しまれるよね。道に迷って混乱していたとはいえ、大失敗だ。


 私がおろおろと頭を下げていたら、その殿下さんはそっと私の手を取って立ち上がらせた。彼は優しい声で言った。






「お前たちの目は節穴か。こんな可愛らしいお嬢さんのどこが危険だと言うんだ。お嬢さん、お困りのようですが、もしよかったらお力になりましょう。お名前を聞かせていただけませんか。」


 私は「ハウル村の錬金術師でドーラと申します」と自分の名前を名乗った。すると、ほんの一瞬だけ彼の目つきが鋭くなったが、またすぐに笑顔に戻った。


 私は道に迷っていることを正直に話した。すると彼はきょとんとした顔をした後、プッと噴き出し、堪え切れないというように笑い出した。


 私は自分の失敗が恥ずかしくなり、赤くなって俯いた。ちなみにこのかん、ずっと彼は私の手を握ったままだ。


 ひとしきり笑った後、彼は笑ったことを謝ってくれた。そして「お詫びに私が第六寮までご案内します」と言って、私の手を引きさっさと歩きだす。


 彼に付き従っている騎士の人たちは、私たちを追いかけるために慌てて走り出した。






 私は殿下さんに導かれるまま、玄関ホールを抜け、中央講堂の周囲に巡らされた長い回廊を歩いて行った。


 殿下さんの姿に気が付いた貴族の人たちがぎょっとした顔で道を空け、端によって臣下の礼を取る。私たちが通し過ぎた後には静かな、しかし熱の籠ったざわめきが聞こえた。


 回廊を抜け中庭に出ると、同じ形の巨大な6つの建物群が見えてきた。建物の屋根はそれぞれ6つの色に塗り分けられている。


「あの一番端に見える緑の屋根の建物が第六寮ですよ。」


 彼はそう言って遠くに見える建物を指さした。立派な三階建ての建物がだんだんと近づいてくる。


「あ、あのここまで来れば、もう後は大丈夫ですから!」


 私はそう言ったけれど、彼は「いいえ、最後までご案内しますよ。私に恥をかかせないでくださいね」と笑って手を引き、私の体を自分の方へぐっと引き寄せた。






 中庭の石畳を通っていくと、やがて第六寮女子棟の正面入口が見えてきた。私たちの姿に気づいた守衛さんの一人が青い顔で中に飛び込んでいく。彼はすぐに髪をきちんとまとめた小柄な女の人を伴って戻ってきた。


 彼女たちは殿下さんの前に跪いて、話しかけてきた。


「パウル殿下。このような場所においでになるとは思いませんでした。何かございましたでしょうか?」


「いや、道に迷っていたこの方をお連れしただけだ。ではドーラさん、近いうちにまたお会いしましょう。」


 彼は私の前に軽く跪くと、握っていた私の手の甲に軽く口づけをした。それを見た周りの人が驚きに目を見張る。


 パウル殿下さんは小柄な女の人に「彼女を丁重に部屋までお連れするように」と言うと、苦々しい表情をした騎士さんたちを連れて帰っていった。私たちはそれを呆然と見送った。






「あの、ドーラ・・・様?」


 小柄な女の人が恐々と私に話しかけてくる。私はすぐに彼女にお辞儀をして名前を名乗った。


「ハウル村の錬金術師ドーラと申します。この度入学したエマの身の回りの世話をするために参りました。どうぞよろしくお願いいたします!」


 すると彼女は目を瞬いた後、ホッとしたように息を吐いて立ち上がった。


「やはりあなたが、あのドーラさんでしたか。陛下から伺った通りの方ですね。私は第六寮女子棟の寮母パトリシア・クランクです。さあ、お部屋へご案内します。こちらへ。」


 彼女は優しい笑顔で私にそう言うと、寮の中に私を連れて行ってくれた。窓の開け放たれた明るい廊下を通っていく。窓の反対側の壁には、一定の間隔で扉が並んでいる。


 エマたちのいる部屋は一階の長い廊下の突き当り、一番北側にある部屋だった。











 私は案内をしてくれた彼女に丁寧にお礼を言い、彼女を見送ってから、部屋の扉をノックした。


「ドーラ様、やっといらっしゃいましたね。エマ様が心配していらっしゃいましたよ。」


 私を出迎えてくれたのはリアさんだった。彼女は私をすぐに中に通してくれた。ここは細長い部屋の中に4つの寝台が並んで置いてあるだけのこじんまりとした部屋だった。


 並んだ寝台の向こうにも部屋があるようだが、薄暗くて見えない。ただ煤臭い匂いがするので、竈があるのかもしれないと思った。


「ここは使用人室ですよ。エマ様はお隣にいらっしゃいます。」


 彼女は向かって左側の壁にある扉をノックし「ドーラ様がいらっしゃいました」と声をかけた。するとすぐに扉が開き、エマが部屋の中に飛び込んできた。





「ドーラお姉ちゃん、大丈夫だった?」


「ごめんねエマ。道に迷っちゃって。」


 エマは私を自分たちの部屋に連れて行ってくれた。エマたちの部屋はさっきの使用人室の3倍くらいの広さがある、長方形の部屋だった。


 私の入ってきた扉とは別の左右の壁に、それぞれ一つずつ扉が付いている。多分左の扉はさっきの廊下に出るための出入口だろう。右の扉は奥の部屋に続く扉のようだ。


 広い部屋の四隅には寝台と書き物机、そして小さな収納棚クローゼットが置かれている。寝台の側に衝立があるので、どうやら部屋の一角を仕切れるようになっている様だ。今は仕切られていないけどね。


 部屋の真ん中に小さなテーブルがあり、そこでミカエラちゃんとあと二人の女の子がおしゃべりをしていた。入学式の時に見た背の高い赤髪の女の子と焦げ茶色の髪をした小柄な女の子だ。


 三人の後ろにはミカエラちゃんの侍女ジビレさんとあともう一人、侍女服を着た年配のふくよかな女性が立っている。家令のマルコさんはいないみたいだ。私が部屋に入ると、三人は一斉に私の方を見た。






「ドーラさん、エマちゃんがさっきからすごく心配してたんですよ。」


 ミカエラちゃんが私を椅子に座らせながらそう言った。私が迷子になっていた話をすると、彼女は「エマちゃんのいう通りだったね」とエマに笑いかけた。


「ドーラお姉ちゃん、どうやってここまで来られたの?道が分かりにくかったでしょう?」


「えっとね、パウル殿下って人に案内してもらったの。すごく親切な人だったよ。」


 私がそう言うと、エマ以外の三人はすごく驚いた顔をした。後ろで聞いていたジビレさんも目を丸くしている。リアさんは表情を変えなかったけど、ほんのちょっとだけ眉を寄せていた。


「いきなり殿下に案内させるなんて、さすがはドーラさんですね。」


 ミカエラちゃんがそう言って笑う。私も一緒に笑った。でもさすがってどういうことだろう?






 私は皆に聞かれるままに、殿下さんに案内してもらったときの様子を話した。殿下が私の手に口づけをした時の様子を話すと、小柄な女の子がほうっと大きなため息を吐き、目をキラキラさせながら言った。


「王族の、しかもあのパウル殿下とそんな出会いをなさるなんて素敵ですわ。殿下はすっかりドーラさんに魅了されてしまわれたのですね。」


「え、そうなんですか?」


「ええ、もちろんそうです。でもそれも分かります。だってドーラさん、すごくお美しいですもの。そのお召し物、ドゥービエ工房の最新作ですわよね。」


 彼女は私の着ているドレスをうっとりと眺めた。エマが私に彼女のことを紹介してくれた。






 彼女の名前はニーナ・クンツェル。下級官僚貴族の三女だそうだ。彼女は恋物語とお芝居、それにおしゃれが大好きで、私に会うのを楽しみにしていたと言った。


「ドゥービエ工房のチラシにあった絵は、ドーラさんでしょう?私、一目見ただけで分かりましたもの!」


 どうやらドゥービエさんは私が描いた絵をもとにして『チラシ』を作成し、お店に置いていたらしい。


わたくしの家は貧しいので、ドゥービエ工房のドレスを買うなんて、とても出来ません。だからいつもそのチラシを眺めては楽しんでいましたのよ。」


 チラシに描いてあったのとそっくりな私を入学式の会場で見かけ、ずっと会いたいと思っていたのだそうだ。私が仲良くしてくださいねと言うと、彼女は私の手を取って「もちろんです!」と言った。


 目の色が変わっていてちょっとだけ怖い。息も荒いし。なんだかドゥービエさんと同じ匂いを感じるよ?






「エマ様、私もドーラさんに紹介してもらえませんか?」


「ゼルマさん、名前に『様』はつけちゃいけませんって、クランク夫人がおっしゃってたじゃないですか。」


「いいえ、エマ様はその辺の有象無象とは違います。これだけは譲れません。」


 赤髪の女の子はそう、きっぱりと言い切った。エマが困った顔をしながら彼女を紹介してくれた。


 彼女はゼルマ・ヴァイカード。王国衛士隊の小隊長を務める下級貴族家の長女だそうだ。


「私の家は5人の子供がいるのですが、私以外は全員男なのです。」


 彼女は他の兄弟と同じように育った。行儀見習いよりも剣術の稽古が好きで、昔は騎士になりたいと本気で思っていたそうだ。


「でも私は魔力がそれほど多くありません。魔剣術を身につけるのは到底無理でしょう。それに騎士になれるのは男性だけなんです。」


 魔剣術というのは魔力を使って身体強化をする魔力格闘術の一種で、これは騎士になるための最低要件なのだそうだ。そう言えばカールさんもこれができなかったから、騎士をあきらめたって言ってた気がする。






 そういうわけで冒険者になるのが、今の彼女の夢なのだそうだ。


「エマ様は史上最年少、僅か9歳にして迷宮討伐を成し遂げ、平民でありながら国王の庇護を受けて王立学校入学を果たした英雄です!私はその話を聞いたときから、エマ様に会いたくて仕方がなかったんです!」


 拳を握りしめて力説する彼女をエマが困った顔で眺めている。私はその話を聞いて不思議に思ったことを聞いてみた。


「二人は貴族なんでしょう?将来は貴族のお嫁さんになるんじゃないんですか?」


「あー、それは無理ですね。」


わたくしもそうですわ。」


 二人はそろって私の言葉を否定した。貴族の家に生まれた女性は、家長の選んだ相手と結婚するのが普通だ。しかし貴族家に嫁ぐには一定以上の魔力があることが不可欠らしい。


 魔力はほとんどの場合、母親側の影響を強く受けるため、魔力の低い貴族女性は人気がないのだという。






「女性は原則、官吏などにもなれませんし、卒業した時点で結婚相手が決まっていなければ、平民になるのが確定してしまうんです。」


 ゼルマさんは肩を竦めながらそう言った。彼女たちの実家は貴族の中でも最底辺で、ほとんど平民と変わらない暮らしをしていたそうだ。彼女たちは貴族として生きるのではなく、最初から平民として生きる道を目指して学校に入学してきたらしい。


「私は魔力の使い方を学び、将来冒険者となったときに活躍できるようにしたいと思っています。」


わたくしは素敵な殿方に出会うために、生活魔法や算術などを学ぶつもりですの。」


 王立学校を卒業した貴族女性は教養があるため、富裕な商人や職人などの結婚相手として、とても人気があるという。彼女は理想の結婚相手を見つけるための『自分磨き』をするつもりなのだと言った。彼女の趣味はその一環らしい。






 ジビレさんの横に立って話を聞いている年配の女性は、二人の家が共同で雇った侍女さんだった。ニーナさんの遠い親戚にあたる人で、お父さんが貴族だったそうだ。ふくよかで優しそうな彼女の様子はリアさんのおばあさん、コネリさんに何となく似てるなと思った。


 エマ、ミカエラちゃん、ニーナさん、ゼルマさんの4人はすっかり打ち解けて仲良くなっているようだ。私は和やかな4人の様子を見て、とても安心した。


 その後、私はリアさんに手伝ってもらってドレスから侍女服に着替えた。ドレスやアクセサリー類は《収納》にしまっておく。髪もいつもの太い三つ編みに戻してもらった。


 私の着替えが終わるのと同時に、寮の全体に響く鐘の音が聞こえてきた。


「夕食の支度が出来たようですね。エマ様たちを連れて行きましょう。」


 リアさんを先頭に、私たちは食堂に向かった。食堂は物凄く広い大広間で、そこに何列もの長いテーブルが並んでいた。テーブルの上にはパンや様々な料理が大皿や壺、鍋に入れて並べてあった。


 制服を着た女子生徒たちが続々と集まってきて席に着く。すごくたくさん人がいるのに誰もしゃべらないからものすごく静かだった。


 席は入学式の時の並びと同じ、つまりエマたちは一番端っこだ。私はエマの後ろに立ち、他の侍女さんたちの真似をして大皿から料理を取り皿に取り分け、エマの前に並べた。


 私がちょっともたもたしていたら、リアさんがさっと手伝ってくれた。彼女は物凄く手際がいい。私も見習わないとね!






 みんなが席に着くと、寮母のパトリシアさんが皆に食べるように言った。女の子たちは皆行儀よく食べ始めた。エマもすごく上品に食べている。ガブリエラさんとの特訓の成果だね!


 そんなエマの様子を見て、何人かの女の子たちが面白くなさそうに眉を顰め、ひそひそ話をしていた。何だろう。エマの礼法マナーは完璧のはずだけど?


 私がその子たちをじっと見ていたら、それに気づいた子たちはさっと表情を変え、視線を逸らした。・・・まあ、いいか。エマも気にしてないみたいだし。


 エマたちの食事が終わると、今度は私たち侍女が食べる番だ。生徒たちが出ていった後の席に座り、それぞれ自分で大皿から食べ物を取り分けて食べる。


 私は本当は食べなくても平気なんだけど、味に興味があったので食べてみることにした。


 丸っこいパンはふわふわですごく柔らかい。これは小麦が混ざっているパンだ。美味しい。スープや他の料理もそれなりに美味しかった。でも野菜がちょっと萎れてる気がする。ひょっとして乾燥野菜を使っているのかな?






 手早く食事を終えるとまた部屋に戻り、今度はエマたちのお風呂そして着替えだ。エマたちの寝台があった部屋の奥には身支度を出来る場所があり、その奥におトイレと小さな浴槽のあるお風呂があった。


 お湯は使用人室の奥にある竈で沸かし、浴室とつながっている小さなドアを通って桶で運んでくる仕組みだ。


 だからお風呂と言ってもハウル村にあるようなお湯をたっぷり使えるものではなく、浴槽に入れたお湯を使って髪を洗い、体を拭く程度のものだ。


 石鹸なども準備されていなかったので、私は自分のエプロンドレスの前についている大きなポケットから(本当は《収納》から)村で普段使っている石鹸を取り出して、エマの体を洗った。


 エマとは普段からこうやって洗いっこしているので、これには自信がある。ただお湯がすぐなくなってしまう上に、冷めてしまうので魔法を使ってこっそり熱々のお湯を足しておいた。


 お湯をたっぷり使えたおかげで、エマたちも大満足したようだった。いざとなれば《どこでもお風呂》の呪文もあるんだけどね。






 お風呂の後、エマたちは寝巻に着替えて就寝。明日は『適性検査』というのがあるそうなので、皆は早めに休むことにしたようだ。慣れないことで緊張していたせいか、横になると4人ともすぐに寝てしまった。


 私は皆に《安眠》の魔法をかけた。その後は侍女の私たちも入浴する。最後に全員分の下着を洗濯して、浴室の掃除を終えたらお仕事終了。全部終わった時には、もうかなり遅い時間になっていた。


 私は最後に浴室を《洗浄》と《乾燥》の魔法でこっそり清め、リアさんたちと一緒に使用人室の寝台に潜り込んだ。


 いろんなことがあったけれど、何とか無事に一日を終えることができた。今日は式だけだったけど、明日からはエマたちの学校生活が本格的に始まる。私も精一杯サポート頑張ろう!


 あ、でも、エマたちが勉強している間、一度ハウル村の様子を見に戻ろうかな?


 今までは夜中にこっそり戻っていたけど、エマたちの様子をマリーさんたちに知らせた方がいいかもしれない。私は寝台の中で横になって暗闇を見つめ、明日のことを考えながら朝が来るのをじっと待ったのでした。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:上級錬金術師

   中級建築術師


所持金:2322220D(王国銀貨のみ)

 → ゲルラトへ出資中 10000D

 → エマへ貸し出し中 5000D

読んでくださった方、ありがとうございました。

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