表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Missドラゴンの家計簿  作者: 青背表紙
12/188

11 土木作業員

感想をお寄せくださった方、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

 ハウル村を出て行ったカール徴税官さんを見送った後、私は村のみんなと一緒に村の集会場にやってきていた。


 この集会場は村の中心にあり、収穫した作物(主に麦と干し肉)をしまっておくための倉庫になっていたが、夕べ起こった地鳴りのために倒壊してしまっている。


「余計な仕事が増えちまったが、ドーラのおかげで賦役分の丸太の切り出しが早めに終わってるのが不幸中の幸いってやつだ。さあ、野郎どもさっさと片付けちまうぞ!」


 アルベルトさんの号令で村の男たちが一斉に動き出し、崩れた丸太を運び出していく。女たちは丸太の下から運び出した麦を集め、壊れてしまった箱に代わり、甕や桶などにそれをしまっていく。


 私はもちろん丸太を片付ける係だ。そのまま使えそうな丸太は近くに重ねて置き、割れたり折れたりしている板や丸太は、炭の材料や薪として使うために別の場所に集めておく。柱や梁として使われていた太い丸太以外はほどんどが壊れてしまっていた。


 元気に麦を拾い集めている子供たちとは対照的に、村の大人たちは一様に暗い顔をしていた。


「集会場を立て直すとなると、北の大きな集落から大工を呼ばなきゃならん。」


 私が訪ねるとフランツさんがそう説明してくれた。小さな建物の骨組みを組むのは村の男たちでもできるそうだが、集会場の屋根をかけたり細部の仕上げ加工をしたりするのは、『大工』の技術が必要なのだそうだ。


 大工というのは建物を建てるのが上手な人らしい。どうやら人間には他の人にはない特技を持っている人がいるみたいだ。皆のために自分の特技を生かせるってなんて素敵なのかしら!人間って本当にすごい!


 ただ大工を呼ぶにはかなりの『お金』が必要らしい。お金っていうのはなんだかよく分からないけれど、ハウル村にはあんまりお金がないそうだ。







 困っているフランツさんたちを見ているのは辛い。でも私は建物を作ったことがないから助けることができない。私に何かできることがあるといいんだけど。


 私がそう思いながら折り重なった大きな柱や梁を片手でひょいひょい片付けていたら、その下から壊れたテーブルと椅子が出てきた。大きなテーブルや丈夫な木のベンチなども大半が原型を留めていない。もしエマが逃げ遅れていたら、こんな風になっていたかもしれないと思うと、体の奥がゾッと冷たくなるような気がした。けが人が出なくて本当に良かった。


 壊れたテーブルを薪置き場に運ぼうとしてふと横を見ると、両手で抱えられるくらいの革袋が落ちているのに気が付いた。だが私の目を引いたのは革袋ではなく、その中から零れ落ちた銀色に鈍く光る小さな円盤だった。


 これ、森で出会った男の人がくれた(?)、あの小さなピカピカだ!!


 私は持っていたテーブルを放り出すと、その銀色の円盤を手に取った。きれいな円形をした円盤の表面には、何かの図案が刻印されていた。これは山と何かの容器だろうか?


 円盤の表面はくすんでいたので、指で軽くこすってみた。するとくすみが取れ、太陽の光を反射するきらきらとした光沢が現れた。私はその輝きにうっとりと見とれてしまった。






「おお、そんなところにあったのか。」


 私の後ろからやってきたアルベルトさんが、私の持っている円盤を見てそう言った。


「アルベルトさん!!これはアルベルトさんのものですか!?」


「いや、それは村のみんなのものだ。さあ俺に渡してくれ。」


「私にも、分けてもらえませんか?」


 私がそういうとアルベルトさんは怪訝そうな顔をして、私に尋ねた。


「ドーラにゃいろいろ世話になってるが、さすがにその銀貨はやれないな。・・・それとも何か欲しいものでもあるのか?」


「欲しいものは、この銀色に光るピカピカです!これ『銀貨』っていうんですか?」


 私の答えを聞いてアルベルトさんは頭をひねった。


「ああ、王国銀貨だ。それ一枚で40ドーラ。ところで、俺はその銀貨で何が欲しいのかって聞いたんだが・・・?」


 銀貨で何が欲しいって何のことだろう?あと40Dって?ドーラって私のことよね?






 互いに頭をひねる私とアルベルトさんのやり取りを聞いて、マリーさんとエマがくすくす笑いながら声をかけてきた。


「親父さん、ドーラは銀貨で買い物ができるってことも忘れちまってるみたいですよ。」


「ドーラおねえちゃん、その銀貨が欲しいのはどうして?」


 エマが私に尋ねたので「え、だってピカピカしてきれいでしょ?」と答えると、アルベルトさんは呆気にとられた顔で口をあんぐり開けた後、大声で笑い出した。


「はは、すまんドーラ。お前はかねのことも、忘れちまってるんだな?」


 私はどうやらまた失敗をしてしまったみたいだ。たちまち顔が熱くなってくる。エマはそんな私の側に来て、私の手を握ってくれた。私は恥ずかしさを紛らわすためにしゃがみ込んでエマをぎゅっと抱きしめた。







 その後、お昼休みにマリーさんとアルベルトさんが私にお金のことを教えてくれた。ちなみに今日のお昼ご飯は固く焼いた黒いパンとヤギのチーズだ。香ばしく歯ごたえがあって私の好物の一つです。


 『王国』には三種類の『硬貨』があるそうだ。茶色いピカピカが銅貨といって、一枚で1ドーラ。ドーラというのはこの国のお金の『単位』らしい。


 銅貨40枚分の値打ちがある銀色のピカピカが銀貨で、一枚40D。『金貨』っていうのもあるらしいけど、この村で見たことのある人はいないと、アルベルトさんは言っていた。銀貨よりもさらにすごいものがあると聞いて、すごくワクワクする。この日から金貨は私の憧れになった。






 人間たちはこのお金を色々なものと交換しているそうだ。確かにこんなにきれいなものなら、自分の持っているものと交換してみたくなるかも。人間てなんて素敵なものを作るのかしら!!


「自分のお金と、塩や布みたいな品物を交換することを『買う』っていうんだよ。」


「へー、そうなんですね!あ、でも、品物と交換するなら直接、品物同士を交換しちゃダメなんですか?」


 昔、私は仲間の竜と獲物を交換し合ったことがある。あの時食べた黒い六本足のトカゲ、美味しかったなあ。私の獲った大きな鳥もすごく喜んでくれた。あんな風に交換出来たら、この宝物ぎんかを渡さずに済むのでは?


「相手が俺たちの丸太を欲しがってりゃそれもいいと思うがな。だが丸太を持ち運ぶのはかさばるし、丸太を欲しがる相手を探すのも大変だろ?だけど金ならそんな手間を掛けなくてもいいんだよ。」


 なるほど、そう言われれば確かにその通りだ。宝物をやり取りすることで、交換できる相手を増やしてるのか。人間って本当に賢いなー!


 でも私なら宝物ぎんかは渡したくないなあ。


「銀貨をたくさんもらうにはどうしたらいいですか?」


「そりゃあ、仕事をたくさんすることだね。あとは自分で作ったものや手に入れたものを交換するって方法もある。これは『売る』っていうんだよ。」






 マリーさんがそう説明すると、それを後ろで聞いていたゲルラトさんがにやりと笑いながら付け加えた。


「『体を売る』って方法もあるぜ。あんたなら銀貨くらい、いくらでも稼げ・・・ぶげっ!!」


 せっかくゲルラトさんがいいやり方を説明してくれていたのに、周りにいたおかみさんたちがゲルラトさんを袋叩きにし始めて、最後まで聞けなかった。


「あのマリーさん、『体を売る』って一体・・・?」


「それは忘れていいから!!まったくこの野郎は、子供もいるところで何を言い出すんだか・・・!!」


 私とエマはきょとんとした顔でお互いに顔を見合わせた。でもどうやら『体を売る』っていうのは、あまり良いことではないようだ。私が困った顔をしていると、マリーさんは優しく微笑みながら教えてくれた。


「体を売るのがまったくダメってわけじゃないんだよ。それに誇りをもって商売してる人だっているんだからね。だけど、食うために仕方なくやってる人がいるのも確かなのさ。私はエマやあんたには、そんなことをさせたくはないね。」


 マリーさんの言っていることは難しくて分からなかったけれど、私を思いやって言ってくれているというのは伝わった。私はマリーさんにお礼を言った。






 空気を変えるように、アルベルトさんがハウル村のお金のことを教えてくれた。


「ドーラ、俺たちは木を切って王都に納めてる。木は王都の連中が買い取ってくれて、それが俺たちの『税』になるってわけだ。」


 王都に丸太を一本運ぶごとに6Dの『収入』になる。これは『税』を引かれた後のハウル村の『取り分』なのだそうだ。


「じゃあ、木をたくさん切れば切るほど、お金が手に入るってことですか?」


 私がそう尋ねると、アルベルトさんはちょっと笑って私に言った。


「まあ、理屈の上ではそうだがな。だがたくさん切ったところで一度に運べる数には限りがあるし、それに買い取ってくれる奴がいなけりゃ切った分が無駄になっちまう。」


 このあたりの森は『王都領』といって、王の持ち物なのだそうだ。森が持ち物というのはよく分からないけれど、私たち竜の縄張りみたいなものかな?この森は妖精たちの森だと思っていたけれど、いつの間にか王の縄張りになっていたらしい。それで妖精たちの姿が見えないのかしら。それとも王都で王と一緒に暮らしているのかな?






 話が逸れてしまったけれど森の木も王の持ち物なので、あまり勝手に切ってはいけない。材木として切っても良い木の数は『賦役』として決められていて、少なすぎても多すぎてもいけないのだそうだ。


 自由に切っていいのは『南側と西側に村を広げる』時と『北側に道を通す』時だけで、これは王から許しが出ているらしい。


「俺たちは『開拓民』として10年前にこの村を作ったんだ。その時は村人も少なく、使える土地もほとんどなくてな。少しずつ木を切っては、切り株を取り除いて畑を作り、ようやっと最近食えるようになってきたのさ。」


 アルベルトさんは遠い目をしてそう言った。その姿がとても寂しそうに見え、私は思わずアルベルトさんの手を取って、自分の胸に押し当てた。


「な、おい、ドーラ・・・!?」


 アルベルトさんは慌てて手を放そうとしたが見上げる私の目を見ると、泣きそうな顔で笑ってそっと手を引き抜き、私の頭をポンポンしてくれた。


「お前は優しいだな、ドーラ。なあに、あの時の苦労に比べりゃこの集会所を建て直すくらい、大したことねえさ。さあ、野郎ども、午後の仕事にかかるぞ!」


 アルベルトさんはさっと立ち上がると男たちに声をかけ、集会場の後片付けにかかり始めた。私はマリーさんに集会場を直す大工を呼ぶのに、どのくらいお金が必要なのかを聞いてみた。


「日当での支払いなら大工一人当たり銅貨20枚ってとこかね。」


 ふむふむ、つまりもし、4人大工を呼んで10日間作業をしたとすると銅貨800枚。銀貨にすると20枚だ。


「ドーラ、あんた金の勘定がうまいね!まあ、それは置いといて行きかえりの手間賃もかかるし、村にいる間の食事も用意しなくちゃならない。釘や鎹なんかを使うなら、その分の金もかかるだろうね。」


「ハウル村にはお金がないんですよね?」


「親父さんは貯えがあるから大丈夫って言ってるけどね。でもあれは秋にやってくる行商人から塩や布、ちょっとした道具を買うための金なんだよ。冬の雪があまり深くならなきゃいいんだけど・・・。」


 集会場の修理にお金を使ってしまったら、村の人たちは困ったことになる。私が何とかしなきゃ!私は丸太を片手で2本ずつ抱えて運びながら、一生懸命にその方法を考えた。






 その後4、5日間、私は頭を使いすぎてクラクラするくらい考え続けたが、よい方法が思いつかなかった。


 そこで私はいつものようにエマに相談してみることにした。エマはとても賢いから、きっと『いいこと』をいっぱい考えてくれるに違いない。


 お風呂場からの帰り道、私とエマは手を繋ぎながら考えを出し合った。


「うーんと、ドーラおねえちゃんの魔法でしゅうかいじょうを直したらどうかな?」


「土の魔法を使えばできそうだけど、私、建物を作ったことがないから、作り方が分からないの。ごめんね・・・。」


 斧みたいな単純な形のものなら割と簡単に作れるけれど、建物は仕組みが複雑すぎて作れそうにない。仕組みさえわかれば《大地形成》の魔法でできそうなんだけど・・・。


「そっかー、じゃあやっぱり大工さんに作ってもらわなきゃいけないんだね。うーん・・・あ、いいこと考えた!!」


 エマが嬉しそうに私の方を向く。


「大工さんが少しでも早く来られるようにしたらいいんじゃない?そうしたらかかるお金を減らせるかも!」


 おお、さすがはエマだ。確かに1日あたりでお金がかかるのだから、その分早く来られるようにしたらいい。私はエマの考えに感心してしまった。


「それにね、しゅうかいじょうの材料をドーラおねえちゃんの魔法で作るの。どうかな?」


 完璧だ!!やっぱりエマは可愛くて賢い。エマに相談してよかった!私はエマを抱き上げると、自分のほっぺをエマのほっぺにすりすりと合わせた。エマからは甘いミルクの香りがした。


「大工さんは『北の集落』に住んでるんでしょう?ハウル村まで舟でくるの?」


「ううん多分、川の横にある小さな道を歩いてくるよ。お父さんが『きたのしゅうらく』に行くときも、そこを歩いていくの。」


 エマによると、北の集落はフランツさんの足で歩いて2日くらいのところにあるみたい。フランツさんは森歩きに慣れてるけど、道具を抱えた人間が川沿いの小道を歩いてくるならもっと時間がかかりそうだ。


「もっと早く来る方法はないのかな?」


「うーん、あたしもわかんない。お父さんに聞いてみようか?」


 私たちはフランツさんに聞いてみることにした。






「歩くより早い方法?そりゃ馬に乗るに決まってる。」


 夕ご飯の時にフランツさんがそう教えてくれた。今日の夕ご飯は蜂蜜と干した果実の入った麦のお粥だ。甘くて美味しい。


 馬っていうと、森の泉に住んでる一本角の白い動物だ。いや岩場に住んでる羽の生えた方だったっけ?確かにどっちもすごく速く走る。あれを捕まえてくればいいのかな?


「だけどこの村じゃ馬は使えねえぞ。道がないからな。」


「道ってあの川の側にある木の生えてないところですよね?」


「いや、あの道は馬は通れねえ。途中岩場や段差が多いからな。馬の足を痛めちまう。通れるのは六足牛くらいだろ。」


 羽の生えた馬なら飛んで来られそうと思ったけど、フランツさんがそういうからにはきっとダメなのだろう。せっかくいい方法を考えたと思ったのに。私はエマと顔を見合わせる。


 私たちのあからさまガッカリした様子を見て、フランツさんは慌てたように付け加えた。


「一体、何をするつもりでそんなこと聞いたのかは知らねえけど、馬に乗りたいなら街道のあるところまで行けばいいんだ。エマがもう少し大きくなったら俺が連れてってやるから・・・。」


 娘大好きなフランツさんがエマにそう言うと、エマは「ありがと、おとーさん!!」とうれしそうに言った。デレデレするフランツさんを見て、マリーさんは「親馬鹿だねこの人は、エマが北まで歩けるようになるまでに何年かかると思ってるんだか・・・」と苦笑いしていた。






「フランツさん、街道ってどこにあるんですか?」


「ハウル村の北にあるノーザン村からなら、王都までの街道が伸びてるぜ。ただあの辺は道が悪くてな。」


「道が悪い?」


「ああ、一応馬車も通れるんだが、『舗装』してねえから雨の後なんかはよく車輪が嵌っちまって。」


 フランツさんはこれまでに品物の買い付けや斧の修理で何度かノーザン村やその他の村に行ったことがあり、そこで『乗合馬車』というのに乗ったことがあるらしい。馬車が泥にはまると抜け出すのにすごく時間がかかるそうだ。


「『舗装』って何ですか?」


「ああ、王都の近くの街道は馬車が通りやすいように『レンガ』や『石畳』が作られてるのさ。」


 ふむふむ、色々なことが分かってきた。大工さんたちを早く村に来させるためには『舗装された街道』というのが必要らしい。私はエマと顔を見合わせてにっこりと笑いあった。






 その日の真夜中、私は屋根裏の寝台で服を脱ぎ裸になると、フランツさんの家をこっそりと抜け出した。


 《人化の法》を一部解除して翼を背中に生やした私は、空を飛び王都を目指した。真っ暗なハウル村とは違い、王都は遠目にもきらきらと輝いて見える。


 でも王都に行くのが目的ではない。王都の側にあるという『舗装された街道』を見に来たのだ。きらきらした光が建物の明かりであるということが見分けられるくらい近づくと、王都の周りを取り囲む石で出来た高い壁が見えた。


 壁の周りには大きな道があり、その道は固いもので覆われている。私は人目を避けて街道に降り立つと、足の下の舗装を確かめた。どうやらこれは泥を焼き固めたもののようだ。これが『レンガ』だろうか?


 泥を焼いて甕や壺を作るのは、村のおかみさんたちがやっているから見たことがある。なるほど、こうやって使うこともできるのか。人間って自分たちの作ったものを、いろいろと工夫して使っているんだということが分かって、ますます人間のことが好きになった。


 私はその後、地面にぺったりと寝そべったり、しゃがみ込んだり、四つん這いになって歩き回ったりして、舗装の仕組みを確かめた。これなら私の魔法で作ることが出来そうだ。


 私は再びハウル村に戻った。






 青い月が私の頭のちょうど真上を照らしている。青い月と一緒に今日出ているのは緑の小さな月だ。青い月は満ち欠けしながら毎日昇ってくるが、緑の月と白い月は1日おきに交互に昇ってくる。


 私は上空からノーザン村までの方角を確かめた。ノーザン村はハウル村のほぼ真北にある。だからまっすぐ北に道を通せばいいのだ。


 そのためにはまず木をどかさないと。竜の姿に戻って上空から息で木を焼き払うのが一番早そうだけど、あんまり大きな音を出すと寝ているエマを起こしてしまいそうだから止めた。


 ちょっと面倒だけれど、人間の姿で魔法を使うことにする。私は上空から位置を確かめ、ハウル村の北側からノーザン村の南側までの森に、王都の近くで見た街道の思い出しながら空間魔法を使う。


 作ろうと思っている街道の大きさ分の空間を魔法で固定し封鎖した。この空間の固定と封鎖は斧を修理したときの応用だ。ちょっと範囲が広いから大変だったけど、上から何度も見て確かめて無事に範囲を指定することができた。


 次に封鎖した空間内にいる動物や生き物たちを空間から外に出す。これは割と簡単。空間内に私の魔力を満たしてやれば勝手に逃げて行ってくれる。


 ここまでくればあとは木をどけて道を作るだけだ。







「《大地形成》そして《収納》!」


 《大地形成》で木を根こそぎ地面から引っこ抜く。抜いた木は《収納》で作った倉庫にすべて放り込む。封鎖空間内だから音も全く響かない。これで街道を通す準備ができた。


 それにしてもこれだけたくさんの木を一気に抜いたのに、森の妖精たちが出てくる気配がない。妖精たちはどこに行っちゃったんだろう。一応、集めた木は、森の妖精たちが困らないよう後で別の場所に移しておいた方がいいかな。でもその前にまずは街道づくりだ。


「《大地形成》《乾燥》そして《焼成》!」


 大地を変化させ、高低差のある森の道をなだらか道へと均していく。大きな岩などはへこんだ部分に集め、石を下に泥を上になるように形を整えていく。


 次に表面を王都で見た『レンガ』の形に変える。あとはレンガを乾燥させて火の魔法で焼きしめる。これで『舗装された街道』の完成だ。


 今回は以前作った《金属形成》の魔法をちょっと弄って《焼成》という魔法を作ってみた。これには《炎陣》という特定の形の炎の結界を作り出す魔法を組み込んであるので、レンガの形を整えるのにちょうどよかったのだ。


 街道は出来たけれど、ここで急に封鎖空間を解除してはいけない。焼いた泥を急に冷やすとひび割れると、グレーテさんが教えてくれたからだ。私は徐々に封鎖空間内の熱を逃がしながら、レンガが冷えるのをゆっくりと待った。


 月がだんだんと沈んでいくのを見ていると、少し眠たくなってきた。慣れない魔法をたくさん使ったせいかもしれない。終わったら寝台でゆっくり眠ようっと。


 私は空間の封鎖を解除しフランツ家の屋根裏に戻ると、服を着て寝台に横になった。そしてそのまま夢も見ないで、眠りに落ちて行った。






種族:神竜

名前:ドーラ

職業:ハウル村のまじない師

   文字の先生(不定期)

   木こり見習い

   土木作業員(大規模)

所持金:83D(王国銅貨43枚と王国銀貨1枚)

読んでくださった方、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ